・王虎の月、27日
なにも言わずに全員休息日。コルネオリは昼になっても降りてこねえ。まあ、あれだけのペースで酒あおればそうなるわ。つうか、そのペースを同じように保っていたカチドキがピンピンしてるのが逆に不思議だ。あんなの飲んだうちに入らないっすよ旦那ーとか言ってるし。ちなみにイナーの姉さんは早々に酔いつぶれ、早々に寝たせいで逆に今日の寝覚めは最高だったそうな。ショロロ? ガキは酒なんて飲むもんじゃねえ。
で、ぼーっとしてたらすっっっげえ不機嫌そうな顔をしたアシタがやってきた。よくやってくれたわね、キミたちは街の英雄よ……って、棒読みで言うなよ怖いから。そんなに狙ってた相手を狩られたのが悔しいのか。と思わず言ってしまうと、アシタはめっちゃ怖い目でこっちを見た後、
「まあいいわ。これからキミたちは後輩じゃなくてライバル決定だから。
――ケケケ、ロックエッジを敵に回したこと、後悔するがいいわ」
とか不気味に笑って去っていった。
後でパベールがフォローに来たが、アレも苦労するタチだな。ったく。……お互い様か。うちの鉄砲玉は終始ザマアミロって顔してたし。
・王虎の月、28日
樹海探索に戻って1日目。
依頼を受けて石ころを探してたら珍しいことに金色の毛皮の野牛と遭遇。ちょっと警戒しつつ突撃してみたら防御陣形を指示しようとしたコルネオリが一撃でトバされて泣きそうになった。その後力を貯めて突撃してこられそうになって、またそのあたりの通路が突撃を避けられるような場所じゃなかったんで本気で死ぬかと思ったが、例の大氷嵐の術式→チェイスフリーズのコンボが思いの外効いたおかげでかろうじて勝てた。マジで死ぬかと思ったぜ……
で、帰ってマハにその話をしたら、
「え、それ凄いねー。たぶん23階くらいの獣だよ」
とか言われた。マジか。ていうか、裏を返せば23階ってあのレベルの獣がゴロゴロしてるんですか。行きたくねえ……と言ったら、
「まー、でも24階のアーマービーストよりは断然弱いんだけどねー。執政院の記録じゃ、危険は少ないとか寝言書いてあるんだけど、なにを勘違いしてんだろーね」
と返された。訂正。行けるかそんな魔窟。
・素兎の月、1日
13階に到達。
で、ザコ獣どもと戦っているとふと凶悪な気配を感じることが多いんだが、いったいナニが隠れてるんだよこの階層。勘弁してくれ……この階の主なんかと出会ったら、いまの俺たちには勝てる気がしないんだっつーの。
・素兎の月、2日
今日、同じように凶悪な気配を感じつつ戦闘を終え、ふと背後を見ると木の影にこそっと隠れようとした蟹の姿。
うわなんだあれ、と思った時には、ショロロがいつものように突撃していた。ええい迷惑な。後で説教な……って今はそれどころじゃねえ。攻撃開始!
で、弱かった。拍子抜けするほど。妙にカチドキばっか狙われていたのでカチドキだけ泣いていたが、後はまったく被害もなく勝利。こそこそ隠れたり女ばっか狙ったり、妙に人間的な蟹だ……まさか中に人が?
それで、調子に乗って主っぽいワニに突撃したらぞろぞろワニ共が集まってきて死ぬかと思った。あとで執政院の記録見たらあっさりそういう習性だと書いてあった。今度から調べて挑もう。
・素兎の月、3日
以前からカチドキが、3階に山賊王エドゥとやらの宝が眠っているという噂を仕入れてきていた。
いやまあ、ぶっちゃけガセだとしか思えないわけだが。酒の席でそう言ったら、奴はムキになっちまった。わたしのネタが信じられないのかテメエーとか言って。酔ってない顔してしっかり酔ってやがるなこいつ。
で、なだめるためにとりあえずテキトーに調査だけして帰ろうと思ってた。ぶっちゃけカマキリはトラウマになってるので、あんまり3階には寄りつきたくなかったんだが、まあそれはそれ。
そして、俺たちは迂闊にも、準備なしにソイツのねぐらに踏み込んじまった。
女王蟻のときにも感じた、あの死に至る戦慄が駆け抜ける。相手は――まさに、その規模の奴だった。
見た目は石の像。だが生き物のように動き、とんでもねー勢いで攻撃三連。バックガードと防御陣形を駆使しても、ショロロに飛んできた日には運次第でぶっ倒れる。火力はそのショロロの大氷嵐の術式と、俺の追撃のみ。単純な打撃はまったく効果なしときた。
まあ、相性はよかった。相手は自動再生機能の持ち主だったが、あいにくこっちにはその手の能力を封じることにかけてはプロがいる。因縁の3階、ボールアニマル相手にカチドキが習得した沈静なる奇想曲が、はっきりと明暗を分けた。
ま、カチドキ的には、山賊王の宝がガセだったせいで落ち込んじまったみたいだが。奴のおかげで生き延びることができたのも事実なんだし、そう悪いこともないんじゃねえのかな。たぶん。一応お尋ね者の怪獣だったらしく、賞金ももらえたし。
・素兎の月、4日
で、めげるという言葉を知らないのがカチドキというヤツである。ぶっちゃけちょっとはへこんでおけって感じだが、どうにかならんのかこいつ。
今度は儲け話だよと言って持ってきたのは、13階で伐採できるものをありったけ持ってこいというとんでもねーネタ。無茶言うなよ、そのあたりつい最近足を運ぶようになったばっかりじゃねーか……と思っていたら、イナーの姉さん曰く。
「その程度なら私一人でもできるけど。アイノテが嫌なら一人で行ってこようか?」
すげー。このひとも戦闘中以外はホント肝座ってるよな……いや戦闘中は泣きながらメディカ撃つひとになってるけど。どうやったらそこまで豹変できるんだか。
まあ、一人で行かせるわけにも行かないので、ちまちまみんなで繰り出すことに。幸い、13階で休憩ポイントを見つけておいたので、なんとかなるだろ、たぶん。
・素兎の月、5日
今日一日かかってようやく依頼達成。あー疲れた。
ちなみに、今日見つけたあの13階の水場の奥、あれは人が踏み込んだ形跡がなかった。カチドキはウハウハだー大もうけだーと騒いでいたが……そういう事態に遭遇するたびに、あーでもやっぱダメなんだろうなーと思ってしまう俺は、ひょっとしたら貧乏性なのか?
・素兎の月、6日
甘い。ダメとかそういうレベルじゃなかった。
意気揚々と探索に出かけた俺たちを待っていたのは、すっげえ勝ち誇った顔をしたアシタと愉快な仲間たちだった。
「なにキミたち、いまごろこんなところに来たのー? こんなとこあたしたちが昨日の夜に探索し尽くしちゃったよープププ。
あーお宝いっぱいで気持ちいいなー気分いいからコイツ恵んでやるので以後あたしに足向けて寝るの禁止ね。じゃあバイバーイ。ケケケのケ」
とか言って、ぽーいとひとつだけ宝物をショロロに放り投げて去っていった。
即座に水面に投げ捨てようとしたショロロを一応制止して宝物を吟味。お、これ、昔手に入れた水晶と似た形してやがる。これなら、いままで開いてなかったいろんな扉も開くんじゃないか……?
ふと横を見ると、ショロロが涙ぐんでいた。いやおまえ、泣くほど悔しいか? と聞いたらぶん殴られた。なんでだよ……まーしかし、じつを言うと俺はあんまり悔しくないんだよなー。いっつも疲れた顔してるロックエッジのレンジャーに妙な親近感を覚えてるからかなー。そんなことを言ったらまたぶん殴られた。自覚はあるんだな……
そしてカチドキはもうこれ以上ないくらい落ち込んでいる。まあ、こんなんでもどうせ、明日には誰より血圧高い状態で迷宮行こうと言ってくるんだろう。懲りないやつである。
・素兎の月、7日
もうこうなりゃ下の階層を目指すしかないってんで、15階への階段を探そうとカチドキは言う。そりゃおまえ、見つかってたら苦労はしねえよ。まあ、探しているんだがな。
マハあたりに聞けば一発で教えてくれるんだろうが、あいにくグレイロッジはここしばらくぶりに本格活動を再開したらしく、捕まらない。まあ、それ以前に困ったときにすぐ人脈に頼るのも冒険者らしくねえしな。
ちなみにコルネオリは、アシタさんに聞いてくるっ、と無邪気に言ってショロロに殴られた。まだ機嫌悪いのかよ……
・素兎の月、8日
迷宮、15階到達。
……した途端、すごいものを見た。
グレイロッジが苦戦している。とんでもねえ大きさの竜――後で聞いたところ、氷嵐の支配者とか言うらしいそいつが、一軍フルメンバーのグレイロッジと格闘していた。
ロッドテイルが防御陣形を、マハがフリーズガードを宣言する。ムズピギーが沈静なる奇想曲で相手のガードを打ち消しまくり、そしてその隙をついてオコナーとワテナが炎をたたき込む。
理想的に近い連携を見せながら、しかし竜には一向に効いていないように見えた。ぶっちゃけ、あれは人間に倒せるレベルの竜なのか? とか、そんな呑気なことを考えている余裕は、どうやらそのときの俺たちにはなさそうだった。騒動を聞きつけて、このあたり一帯の主、空飛ぶエイことコロトラングルが攻めてきたのだ!
マハに言われるまでもなく、背後の守りは俺たちがやるしかねえ。圧倒的な死の気配にももう慣れた。やるしかねえなら、やっちまえ!
強大な力に何度も屈しそうになったが、かろうじてメディカが底を突く前に相手の体力が底を突いた。都合14撃。大爆炎+チェイスファイアをただひたすら連打し、相手のガードを、ここはグレイロッジと同様に、カチドキが打ち崩す。コルネオリは防御に専念。イナー姉さんは回復に専念。だんだん、戦い方が決まってきた気がする。
まあ、よく保った。一度ショロロが前に出すぎてトバされたが、そのくらいは立て直せる程度の力もついてきた。なんとか相手を下して後ろを見ると、ちょうど傷ついた氷竜が湖の奥へと逃げていくところだった。助かった……
帰るつもりだったのだが、グレイロッジが16階の樹海磁軸まで案内してくれると言うので甘えることにした。ホント、こいつらは人格者だよなぁ……もうひとつのエースギルドとは大違いだ。