アイノテ世界樹日記   作:すたりむ

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第四階層(2):試練、試練、そして試練

・素兎の月、18日

 マハが、16階の樹海磁軸使っていいよ、と言ってきた。

 ……すっっげえ複雑な顔してたので聞いてみると、ねえ、なんかレンさん怒らせるようなことした? と聞いてくる。あいつが手を回したのか……で、怒らせること? 俺が知るか。相手に聞いてくれ。

 で、21階で相手が待っていることを告げると「嘘!?」と驚かれた。なんでも、現在は24階あたりまで第六階層の敵がちらほら出没していて、なにかあると21階でも十分危ないんじゃないか、という。

 さらに続けてマハは、

「アイノテ達がいまレンさんたちと戦ったら、まず勝てないと思うよ」

 と言う。そりゃそうだ。なにしろ手も足も出なかった。

 一応なんでそう思うか聞いてみたら、

「だってわたしたち戦ったことあるもん。あのふたりと。21階で。

 わたしたちだけじゃなくて、たぶんロックエッジもね」

 ……参った。やっぱりグレイロッジはすげえ強いんだな。そう言うと、マハは複雑な表情で首を横に振った。

「わたしたちは勝ったけど、レンさんは満足してくれなかった。

 たぶん、いまでも彼女はわたしたちに負けたと思っていないんじゃないかな。たぶんね」

 

 ショロロは部屋から出てこねえ。そりゃそうか……なんだかんだ言って、人間と戦ったのなんて初めてだしな。誰だって怖いさ。俺もな。

 ――それでも。

 あいつがいつか出てきたら、絶対に潜るって言い出すと信じている。

 だから、できる限りの準備はしておかないと。

 

 

・素兎の月、19日

 グレイロッジの道場で体当たり的にレン&ツスクルの攻略法を聞いてみたら、どうも奴らは4人がかりでツスクルを抑えている間にワテナがレンと一騎打ちで倒したらしい。……それはもうぶっちゃけ人間の所行じゃねえな。

 一応、当のワテナに攻略法を聞いてみると、

「え、踏み袈裟連打しただけだけど。

 だってあのひと刀を鞘に収めようとするんだもん。それって居合使いで首討ち屋で即死させマッシャーっつーことじゃん? じゃあ構えなんて使う前に手数で押すしかないじゃん」

 参った。こりゃ参考にならん。

 で。なんとか俺たちがレン&ツスクルと戦える方法はないかとみんなで知恵を絞った結果、なぜかその場にいたナリアンテスが

「あら、じゃあワテナちゃん並にアナタが強くなればいいのよ。手始めに例の試練とかどう?」

 とか抜かしやがった。無理言うなっつーの……て、例の試練? え、13階の出歯亀蟹を一人で倒せって? 誰ができるんだそんなの――えーと現在成功者3名、レンとワテナとアシタですか。全部超人じゃねえかよ! と言ったらロッドテイルにぶん殴られた。根性が足りん! だいたいその3人が試練挑戦当時から超人だったとでも思っているのか! と抜かしやがる。横でマハがぼそっと、でもアシタさんはあのころから無敵だったよね……とつぶやいていたがロッドテイルは無視。さらに試練を受けることが確定しちまった。ガッテム。生きて帰れるのか俺。

 

 

・素兎の月、20日

 せめて攻略法をと思ってマハに聞いたらロッドテイルから口止めされてました。

 さらに執政院が急に樹海データを出し渋るようになりました。すげえ。政治パワー全開で俺の卑怯活動を封じる気かよ。カチドキに頼む、という手も考えたが、考え直した。なんとなく、奴も面白がってロッドテイル側に回りそうな気がしたからだ。

 とはいえ、あの蟹はたしかものすごく殻が固かった記憶がある。ショロロとのコンビネーションに頼れないっつーのは痛い。俺の戦法、全部あいつとのコンビで考えてるからな。

 ……そういう意味では。あの戦闘は負けて当然だった。ショロロが戦おうとしないときの俺は、ぶっちゃけ第二階層から進歩していない。身に付いたのはコンビネーションのやり方だけだ。

 つまり俺は一人で戦うタイプのソードマンじゃないわけで――オイ、心底意味なくないかこの訓練。

 気を取り直して考える。まだ超人じゃなかった頃のレン、あいつはいったい、どうやってこの訓練を乗り越え――抜刀氷雪。考えるまでもねえ。

 では超人……なりたてだった頃のアシタ。あいつはいったい、どうやってこの訓練を――医術防御棍棒棍棒棍棒棍棒死ねやオラ。はい簡単ですね。ハハハ。

 最後に、ワテナを考える。超人じゃなかった頃のワテナは――あれ?

 マジでどうやって対応したんだアイツ。ぶっちゃけ踏み袈裟至上主義の奴にとって卸し焔なんて遠い存在だったと思うんだが……と考えて、気づく。オイル。

 速攻シリカ商店に走った――が、時すでに遅し。ごめんねーさっきロッドテイルさんが大量買い付けしていっちゃったんで売り切れなんだーやーグレイロッジって金持ちなんだねーでもアレすぐ使うのかな倉庫に入れてたら劣化しちゃうんだけど。ガッテム遅かった。こうなりゃ、いちかばちかのトルネード連打で押すしかないか……いやそれともスタンスマッシュをチ・フルルーに教えてもらうか……でもそんなに時間ないし……あーもう、あの親父は俺を生かして帰す気があるのか!?

 

 

・素兎の月、21日

 ぶっつけ本番と腹くくってギルドを出た直後、思いっきり後ろから引っ張られてひっくりこけた。

 引っ張った張本人は案の定、ずっと部屋から出てこなかった馬鹿者だった。テメエなにしやがんだショロロ、と言ったら、忘れ物だよ、と言って小さな瓶を渡してきた。――オイル。どこで買ったんだと聞いたら得意げに、ボクの職業を言ってごらんアイノテと……手作りかよ。やべ、初めてこいつに心底感謝した。

 いやもう、そうなったらぶっちゃけ負ける気がしねえ。即座に挑戦し、回復アイテムが尽きるギリギリ手前で勝利。いっぺんやばいとこに攻撃が当たってヒヤヒヤしたが先読みが功を奏して死なずに済んだ。ラッキー!

 

 

・素兎の月、22日

 よし次はうごめく毒樹だ、とか言われました。いい加減にしてくれ……

 要は、神速で相手をたたきのめす攻撃力を身につけろ、ということらしい。俺がそんな早い成長速度を保てるかってーの。

 で、相変わらず買い占め&嫌がらせモード全開のロッドテイルの目の前でショロロに、じゃ、ファイアオイル作ってくれな、と言ったらすごい罵倒された。ふふんなんとでも言え。試練の条件にオイル禁止とか書いておかなかったテメエが悪い。

 で、その日のうちに作ってもらったファイアオイルを使って速攻撃破。ぶっちゃけ、ダブルアタック使ったらオーバーキルだったな……蟹よりずっと弱いじゃねえか。

 

 

・素兎の月、23日

 試練その3ー。

 なんか白き姫とか自称しちゃう貴族の困ったちゃんがいつものようにデムパを受信して眠れないーとかいうことなんで助けてやれ。ってそれメディックが睡眠薬調合すれば終わりじゃね? と思ったが、そういえばグレイロッジってメディックいないんだな……ていうか、明らかに自分のトコに来たはずの依頼を横流ししているんだがいいのかこれ? あと試練の意味はどこに。ぶっちゃけロッドテイル迷走してねえか? と聞いたら目を逸らしやがった。図星かよ。

 で、アシタはあのざまだしどうしたものかなーと思ったら、折った腕を包帯で吊ってぶらぶらしているカチノヘ発見。雑談の中でその話をしてみると

「昏睡の呪言……なら……効くかもね? ふふ……」

 だから怖いっておまえ。まあ善意で協力してくれるっつーから連れて行ってみたら、あんまり効かなかったんだがなぜか超感謝された。ぶっちゃけ眠れないことそっちのけでカチノヘにまとわりついてたが……デムパな上に少年愛嗜好かー。いい根性してるなお嬢ちゃん。

 まあ報酬というか追い出し料みたいな感じでもらったキタラはずいぶんいい物だったらしくカチドキはめちゃくちゃ喜んでたけどさ……あれ、ほっといてよかったのかねえ?

 

 

・素兎の月、24日

 昨日日記書いたあとで酒場でネイホウとちびちびやってたら、デムパ姫がすっげえ勢いで駆け込んできた。なんでも、滅茶苦茶怖い夢を見たのであれぜったい正夢だからなんとかしろって……なんとかしなきゃいけないのはおまえじゃね? とか失礼なことを思ったが、もしや昏睡の呪言がへんな作用をもたらしたんじゃないかと思ったのでカチノヘに聞いてみたら

「どっちかっていうと……縛りが効き過ぎた? ふふ……昨日はすごかったから……」

 ……聞かなきゃよかった。なんて嫌なガキだ。

 で、帰ろうと思ったところをカチノヘに呼び止められて、

「僕も……正夢、だと思うよ?」

 なんでだ、と聞くと、

「だって今日、……来るよね? 1階に。すごいのが」

 来るよね、じゃねえよ。そういうことは早く言え!

 でグレイロッジに報告しようとしたが、探索中っていう話だったので無理。俺たちが迎撃するしかないのかよ……勘弁してくれ。

 そして撃退。す、すっげえ強かった……なんだあのバケモノ、と思ってあとでカチノヘに聞いたら、たぶん下の異変で追い出された第四、第五階層の獣たち、だそうだ。どうりで強すぎると思った。

 ちなみに執政院からアウロスが報酬として出た。カチドキ大喜びだが、ぶっちゃけこの試練ってヤツだけが得してないか。まあ、結果的にはいい訓練になった、とも言えるのかもしれないけど。まさかロッドテイルはこれを予測してこの話を……ないな。間違いなく。

 

 

・素兎の月、25日

 試練その4。7階あたりで女の子の声が聞こえる。定期的に聞こえるから迷子って可能性はあまり多くないが、放置しておくわけにもいかないから調査よろしく。……最近、本格的にグレイロッジの下請け機関化してないか俺たち。

 で、カチドキにちと情報収集を頼んだ。だって7階なんて未熟な頃に調べまくった階層なのに、俺たち一度もそんな経験してねーんだもん。つーかみんなホントにそんな不思議現象にぶち当たってるのか? マジで?

 

 

・素兎の月、26日

 どうも11階から7階へ上がる階段があるらしい。

 執政院には報告されてないらしく、どーも一部のギルドが見つけたものの、自分の漁る場所を確保するために黙っていたらしい。なんだよ非協力的な奴らだなーとか憤慨してるカチドキは、たぶんもう13階で起こったことを忘れてる。テメエもやろうとしたことあるだろが、独占。

 で、早速調査、早速挫折。なんだよあのイバラだけで覆い尽くされた場所は……と言いつつも、イナー姉さんの発案でいくつか木を切り倒して普段の7階からそちらへと出るショートカットを作っておいた。やっぱ頭いいな、あのひと。

 

 

・素兎の月、27日

 華の女王、アルルーナ。

 結論から言えば、俺たちが追っていた声の主は、そんな名前のブツだった。

 イバラの道の奥の奥。声に誘い出されそうになった俺たちは、イナー姉さんがぽん、と手を打ったことで我に返った。あのまま誘われてたら間違いなく死んでたな。

 で、ちと搦め手ではあるが、カチドキひとりがおびき出された振りをしてふらふらと行き、そちらに敵の注目を集めておいて、俺たちが背後から急襲した。よくもだまくらかしやがったなこのバケモノめ、くたばれ――そんなことを、戦闘前には思っていた。思っていたさ。

 ははは、マジでシャレになってねえ。一応植物だけに熱には弱いみたいだが、相手も熱、氷、雷を普通に操ってきやがる。どれをガードしたらいいのかわからないコルネオリはもうどうしようもないとばかりにバックガード連打、イナー姉さんがアザーズステップでカチドキにソーマ連打させ、危ないときにはショロロJrまで回復に参加させる。事前に山ほど用意したソーマはみるみるうちに減っていき、雷撃が邪魔でうまく術を使えないショロロに頼るわけにもいかず、俺はずっとトルネード連打していた。やがてハマオが尽きソーマが尽きアムリタも尽きて、俺とイナー姉さんの体力が限界を迎えて技が使えなくなって、もうダメ元で本気を出したイナー姉さんの矢が相手の額を直撃して、――それで、決着が着いた。

 教訓:イナー姉さんは神。

 つうかどこのバケモノだよ……と思っていたら、いきなり後ろからモリコに声をかけられてマジでびびった。モリコ曰く、こいつはずいぶん前に禁戒を犯してモリビトの集落を放逐された大犯罪者のなれの果てらしい。そういうのは頼むから自前で処理してくれと言ったら、処理しに来たら先を越されたんだっ、とすっげえ不機嫌そうに言われた。どうでもいいけど、こいつの機嫌がいいところを見たことがないな。

 

 

・素兎の月、28日

 試練その5。

 最近16階、もしくは17階で異様な環境の場所が発見された。それ自体は俺たちも知っていたし、相手が強くていい鍛錬場になるとマハに言われて何度か活用していたんだが、ぶっちゃけその場の主を狩ってこいと。しょ……正気ですか?

 で、久々に街でパベールに会ったのでその話をしたら、えらく驚かれた上に止められた。アレは状態異常攻撃が激しいからアシタというかメディックなしじゃ無理。つーかアルケミストの術にも強いので悪いこと言わんからショロロを外してどっかその辺のメディック連れていけ。ハハハ、アンタそれ当のショロロの前で言いますか。案の定ぶち切れたヤツは、即座にシリカ商店とケフト施薬院を回って自分専用の防具と大量のテリアカβを買い込んできやがった。さー行こうかアイノテ、まさか嫌とは言わないよね? ……またこのパターンかよ。

 で、突撃したが大量の熊やらワニやらに阻まれて撃退される。どこにいるんだよソイツは。

 

 

・虹竜の月、1日

 昨日とおなじことをやり、やっぱり大量の竜に阻まれて撤退。くそ、勘弁してくれ。

 

 

・虹竜の月、2日

 17階の魔物の名は、マンティコアと言うらしい。長い通路の奥の奥で待っていた奴は、俺たちを見ると尻尾で地面を叩いて挑発してみせた。――上等。

 で、ショロロの新装備、ディノブレストが大活躍。ぶっちゃけアレなしじゃアイツは尻尾+毒で一撃で気絶しちまう。耐えさえすればアルルーナのときと同様にアザーズステップ+ソーマで先制回復可能なので、あとはショロロがテリアカβを連打。アルルーナよりずっと楽でした。あいつ足が遅いから、後攻アイテマーとしても使えるんだな……そりゃそうか。第一、第二階層のショロロはアイテマー以外の何者でもなかったしな。

 

 

・虹竜の月、3日

 試練その6。チ・フルルーがなくした斧の代わりを求めているので、材料となる3階のゴーレムの腕をまるごと一本取ってこいって出来るかああ!

 無理だと抗議したいところだが、ロッドテイル曰くもう引き受けて料金も受け取ったから、と言う。ははは、テメエその料金俺にもよこせ。と言ったら授業料だと返された。……だんだんムカついてきたぞ。

 で、キャンセルだキャンセルと思ってハラヘルスの見舞いに来ていたチ・フルルーを捕まえて説明すると、ハラヘルスのほうが苦しそうに起きあがった。私が手伝う、っていやそれ無理だから! と言ったのだが、ハラヘルスは

「現状、私はどうしても即戦力になれる体調ではないから、チ・フルルーとパベールにがんばってもらうしかないの。

 ね、だから私が行くよ」

 と言って、気丈に笑って見せた。

 

 チ・フルルー曰く、ゴーレムの腕はまともに打ち倒したのでは壊れてしまう。だから、そうする前に一撃で相手を絶命させる技術が必要で、その技術をハラヘルスは誰よりもうまく使えると言う。

 さらに、ゴーレムには実は二列に分かれた敵がいると後衛を無条件に狙う習性があるらしい。だから後列にコルネオリとカチドキを配置してコルネオリにガードさせておけば実はハラヘルスには危険はない。後は、ゴーレムまで無事にハラヘルスを連れていけるかどうかだけが勝負。

 1回カマキリに捕まってヒヤヒヤしたが、なんとか無事にたどり着いて勝利。以前会ったときとは比べモノにならないくらい弱体化していたハラヘルスだが、それでもまだ腕は健在だ。

 そしてシリカ商店で星砕きの戦斧が完成。チ・フルルーもまだ本調子ではないけれど、復活の日は遠くなさそうだ。

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