青春ブタ野郎は神様の夢を見ない。   作:リューイ

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4月の公園の怪人

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4月、まだ少し肌寒い夜風に吹くころ、遊具も街灯も疎らにしかない薄暗い公園を長い髪の女が少しふらつきながら歩いている。

 

 彼女は香芝玲奈、今年大学に入ったばかりの女子大生だ。彼女は友達作りと言う免罪符を掲げ、一緒に暮らす両親から夜間外出の許可を取り付け夜な夜な新入生歓迎会という名の飲み会を渡り歩いていた。

 

 今日もそうだ、いつもの帰り道の公園で少し酔いを覚ましている。

 

 しかし今日はいつもと違う事があった。誰かに見られている気がするのだ。

 

 いままでこういったことが無かった分けではない。小さい時から整った容姿をしていたので彼女は人気があった。ありていに言えばモテていた。そんな玲奈のつき合ってきた男の数は片手の指では足りない。別れた後スト―カーまがいの付きまといをされたこともある。

 

 だが今回はそう言うものではない。もっと背筋がヒリつく様な視線だった。恐怖に思わず玲奈は自らの身体を抱しめる。

 

 此処に居てはいけない。本能的にそう感じた玲奈は酔いは醒めていなかったが急いで家に帰ることにした。

 

 玲奈が家に向かって走り出そうとした、その瞬間、彼女の前に黒い塊が夜の闇の中からしみ出してきた。

 

 それは人の形はしていたが爪が鋭く長い、豹頭の怪人だった。

 

 「……!!」

 

 悲鳴を上げたいのにとっさに声が出なかった。だが生存本能だろうか身体は動いてくれていた。

 

 玲奈は怪人に背を向けふらつく足で駆けだし、スマホで110番をした。

 

 「たすけて!! たすけて!!」

 

 それしか言えなかったが今度は声が出た。そのことに玲奈は少し安堵したがすぐに絶望がやって来た。

 

 怪人はジャンプ1回でやすやすと玲奈の正面に回り込んだのだ。

 

 また反対方向に逃げようと玲奈は踵を返すが今度は足がもつれ盛大に転んでしまいスマホのどこかに飛んでいった。

 

 怪人は鋭い爪のついた手を大きく振り上げる。

 

 玲奈は己の死を覚悟した。

 

 怪人は玲奈の命を奪うべく爪を振り下ろす。

 

 だが玲奈の命が奪われることは無かった。寸前で怪人の動きが止まったのだ。

 

 怪人は何かに気づいたのかあたりを見回す。そして背後を振り返り、一点を凝視し始める。そこには二つの赤い光が闇の中に浮かんでいた。

 

 やがてその光が街灯の下にやって来る、玲奈の瞳がその全体像をつかむ。シルエットは人の様である。だが人間ではない、金色の胴体と頭には同じく金色に輝く2本の角、そして赤く光っていた物は金色の生命体の大きな昆虫の様な複眼だった。異形の姿には違いなかったが怪人の様な恐怖は感じなかった。

 

 「AGITΩ」

 

 アギト、怪人がそう呟いた。玲奈にはその呟きがどこか仇敵に向けている怨嗟の声に聞こえた。

 

 「たすけて!!」

 

 玲奈は叫んだ、豹頭の怪人の敵ならもしかして助けてもらえるかもしれない。そんな一縷の希望に掛けて。

 

 金色の生命体、アギトが頷いた……様に玲奈には見えた。

 

2

 

 アギトが駆け出す。

 

 それに呼応するかのように怪人も駆け出し、2人の中間地点で最初の交錯が起きた。

 

 豹怪人が鋭い両手の爪でアギトに切りかかる。

 

 しかしアギトはその爪の斬撃を止まることなく避け、怪人の背後を取った。

 

アギトは怪人が振り向くより先に、背に拳を叩きつけた。

 

 怪人はその衝撃に吹き飛ばされ倒れ込む。

 

 玲奈と怪人の間の距離が大きく開いた。

 

 アギトはこれを狙っていたのだろう。

 

 アギトの腰のベルトについたバックルの様な部分が光を放ち、頭部の角が展開し2本から6本に増える。それと同時に足下に金色の光が現れ、竜の様な紋章を形作った。

 

 光はやがてアギトの右足に吸い込まれ行く。

 

 アギトは空に跳び上がる。光を吸い込んだ右足がまるで闇夜を切り裂く様に軌跡を描く。

 

 次の瞬間、アギトは丁度起き上がって来た豹怪人に蹴りを放つ。

 

 まるで光の矢の様なその蹴りは豹怪人を容易く貫き、風穴を開ける。

 

 怪人の頭にエンジェルハイロゥの様な輪が現れ砕け散り、それと同時に怪人は爆発し跡形もなく消えた。

 

 静かに着地したアギトは立ち上がり、顔を玲奈の方に向けた。

 

3

 

 アギトと豹怪人との戦いは僅か十数秒ぐらいで終わった。

 

そんな短い間では勇気を絞り出すこともできず玲奈は恐怖に身をすくませ、公園の地面の上に座り込んで未だにその場を動けないでいた。

 

 アギトは確かに彼女を助けたが、単に自分の敵を先に倒しただけなのかもしれないのだ。

 

アギトはいまだ玲奈にとって正体不明の存在でしかない。

 

 豹怪人を倒したアギトがゆっくり振り返り玲奈と視線が合う。

 

 アギトは玲奈に向かい歩き出す。その顔には何の感情もない、少なくとも玲奈には感じ取れなかった。

 

 死の恐怖、未知のモノへの恐怖、様々な恐怖だけが玲奈の心を埋め尽くす。

 

 玲奈は逃げようとするがいまだに力がうまく入らない。

 

 アギトはもうすぐそこだ。

 

 殺される!玲奈はそう思った。しかしアギトは玲奈のすぐそばまで来ると、その鋼の様な拳を叩きつけるわけでなく、怪人を殺した蹴りを放つでもなく、ただ手を差し出した。

 

 (たすけてくれるの? えっなんで。)

 

 混乱するなか、恐る恐る玲奈がアギトの手を取ろうとした時、サイレンの音が響いてきた、パトカーのサイレンだ。

 

 玲奈がした110番は届いていたのだ。

 

 アギトもそのサイレンに気づいたのか伸ばした手を引っ込め、踵を返し玲奈に背を向け夜の闇に静かに消えて行った。

 

 すると遠くにバイクのエンジン音がした。いつもはうるさいとしか思わぬその音も今の玲奈にとっては生きていることを、そして日常に戻ってきたことを実感させてくれる福音の様であった。

 

4

 

 サイレンの音が大きくなり公園の入口あたりでパトカーのブレーキの音がした。勢い良くドアが開けられる音がした後二人分の足音が玲奈に近づいてくる。

 

 「大丈夫ですか?」

 

 2人の警察官の内若い方が玲奈に声をかけ、年嵩の方が辺りを警戒している。

 

 「何があったんですか?」

 

 震える玲奈に優しく若い警官が声をかける。

 

 「怪人が、豹の頭の怪人に襲われて……それでもう一体、怪人が現れて助けてくれたんです。」

 

 自分で言っていてばかばかしくなる、こんな話、信じてもらえるはずがない。玲奈は当惑しているだろう警官の顔を見上げる。

 

 そこには真剣に話を聞き、本気で玲奈を心配している人がいた。

 

 「信じてくれますか?」

 

 「もちろん信じます。ここは危ないかもしれないので警察本部で一時保護させていただきます。」

 

 玲奈の問いに若い警官は直ぐに信じると答えたばかりか保護すると言う。話がトントン拍子に進んでいく。

 

 「行くぞ、国見。」

 

 もう一人の警官が若い警官を急かす。

 

 「はい。」そう返事をすると若い警官、国見巡査は玲奈の脇に回り両肩を支え「立てますか?」と訊いた。

 

 玲奈は足に力を込める。動いた、何とか歩けそうである。

 

 「大丈夫です。」

 

 玲奈がそう答えると国見は「まずパトカーまで移動しましょう。」と言って玲奈を支え歩き出した。

 

 少し余裕の出てきた玲奈は国見の顔を改めてみる。先ほどから何か名前に聞き覚えがあったのだがようやく気づいた。高校の時の先輩だ。彼は高校当時から背が高くカッコイイと評判で、高3の時はバスケ部のキャプテンとして見事に部を県大会3位まで導いた人物だ。そのうえ恋人や友人に対しても誠実で、容姿や能力だけでなく性格も良かったため、恋人にしたい男No.1と言われていた。

 

 「あの、お巡りさんの名前ってもしかして国見佑真さんですか?」

 

 「そうだけど、どこかで会ったことありましたっけ?」

 

 「あっいえ、私が一方的に知ってるだけです。私、香芝玲奈って言います先輩の一個下で峰ヶ原高校に通ってたんですけど、バスケ部の試合の応援に行ったときに先輩が部長だって教えてもらったんです。」

 

 「なるほど、そう言う事か。 あっ頭気をつけてね。」

 

 パトカーに着いた国見は後部ドアを開け玲奈を後部座席に乗せる。

 

 その後すぐに国見ともう一人の警官もパトカーに乗り込む。

 

 国見が運転席に座り発進する準備をし、もう一人が本部に連絡を入れる。

 

 「あの怪人は未確認生命体なんですか? あれって二年前に根絶されたんじゃなかったんですか?」

 

 玲奈は2年前に報道されていた事件を思い出して改めて問う。

 

 「それは……」

 

 「我々もまだ何にもわかってないんですよ。 ただお嬢さんみたいに怪人に襲われたって人がここ数日で数人確認されてましてね。 それにありえない死に方をした遺体も何件か見つかってるんですよ。」

 

 国見が言いよどんでいるともう一人の警官が代わりに答えた。

 

 「河野さん、いいんですか?」

 

 「どうせ、本部に着いたら聞かされる話だ、問題ないさ。」

 

 先輩警官である河野の言い分に国見も納得したのか「まぁ、そう言う事なんだよ。だから本部に着いたら色々聞かれると思うけど協力してほしい。」と言ってパトカーを発進させた。

 

 

 





 読んでいただきありがとうございました。

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