五等分の花嫁 √中野三玖   作:おとぎの

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#1 コップ一杯の水では午後の授業を乗り切れない

「焼肉定食、焼肉抜きで」

 

 昼休み。

 全校生徒の約半分が食堂に集まるこの時間。

 俺はいつものメニューを食堂のおじさんに伝える。

 数十秒後、出てきたのはライス、味噌汁、たくあんの乗ったトレイ。焼肉定食焼肉抜き(200円)。大多数の生徒が知らないが、これがこの学校においての最安値の注文の仕方だ。

 

 ライスのみの注文より味噌汁とたくあんが付く分遥かにお得。しかも設置されてるウォーターサーバーから出る水は無料。全く、食堂最高だぜ!

 

 自分のトレイを持って、俺はウォーターサーバーへと足を運ぶ。

 以前、この食堂の最安値は焼肉定食焼肉抜きではなく、このウォーターサーバーからでる水(0円)なのでは? と思ったことがあったがダメだった。腹は一瞬膨れるが、一瞬だ。5,6時限など腹が減って授業どころじゃない。

 何よりも勉強を優先する俺にとってそれは致命的だ。しっかり栄養を補給しないと頭も働かないしな。

 

 ウォーターサーバーに辿り着く。近くのテーブルに積んである紙コップを手に取り、蛇口に紙コップを近付けていく―――その時。

 

 

 ―――コツン、と。

 

 

 反対側から、俺と同じように水を求めて出された紙コップと俺の紙コップが当たった音だった。

 反射的に紙コップの持ち主を見る。そこには、ヘッドホンを首にかけ、少し驚いた様な顔をした少女がいた。

 

「あっ…お、お先にどうぞ…」

 

 なるほど。同志か。人口甘味料に侵されたそこら辺の生徒とは違う、この水の美味さが分かる者。初めての邂逅に若干の感動を覚えるが、しかしいくら同士とはいえ関わりすぎは危険。ここはお言葉に甘えて早々に立ち去った方がいい。

 

 水を注ぎ、俺は控えめに会釈を返しその場を立ち去ろうとする。しかし。

 

「おい、早く行こうぜ!」

 

 肩に、ドンッ と衝撃が走る。

 目の前に見えるのは紙コップから放たれ、俺へと向かってくる水。視界の端に、あっ と口を開くヘッドホンの少女の姿をとらえる。

 昼時の食堂内。こんなに混雑してる場所でくらい落ち着いたらどうだろうか猿どもめ。今の奴らは人工甘味料に侵されているに違いない。

 

 そして水は俺の顔面を捉え、盛大に水を被った。

 

 ああ。もう何だか焼肉抜きだとかウォーターサーバーだとかどうでもよくなってきた。

 

 とにかく。

 

 

 ―――食堂最悪。

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 俺はウォーターサーバーからさほど離れていない、いつも自分が食事をしている席に着く。·····濡れたまま。

 紙コップに入れていた水はかなりの量だったので、顔だけではなく衣類の一部まで濡れてしまった。

 

 胸ポケットの裏側に入ってるスマホは·····セーフ。しかし表に入れていた生徒手帳は濡れていた。

 お前がスマホを庇ってくれたんだな。偉いぞ。

 

「あの·····」

 

 しかしもうダメだな。食堂は。明日は妹のらいはにおにぎりでも作ってもらおう。

 ·····いや待てよ。らいはのおにぎりは·····実質無料!しかも渡される時に「お兄ちゃん、頑張ってね!」らいはスマイルも貰えるわけだ。

 これだ。これだよ。

 

「えっと·····」

 

 灯台下暗し。最適解は自分の一番傍にあったのだ。今まで気付いていなかった自分はどうにかしているな。

 帰ったら、らいはにお願いしてみよう。

 そう考えながらカバンから勉強道具を出そうとした時。

 

「なんで無視するの·····」

 

 目の前に頬を膨らました少女が座っていることに初めて気が付いた。ヘッドホンをかけている、さっきの少女。制服がこの学校の物では無いことに初めて気付く。

 なんか·····怒ってる?

 

「ど、どうしたんだ?ここは俺の席なんだが·····」

 

 怒ってると理解しながら出た言葉がそれだった。

 少女はため息をつき、ハンカチを差し出してきた。

 

「ん?なんだ?くれるのか?」

 

「違う·····さっきので、濡れてるでしょ·····」

 

 世の中人工甘味料に侵された猿ばかりでは無かったのだ。

 関わりすぎは良くないと思っていたが、さすがに濡れたまでは授業に支障が出るだろう。ノートも濡れてしまうかもしれない。なので俺は素直ににそのハンカチを受け取った。

 

「助かる·····洗って返すから·····あ」

 

 他校の制服。もしかしたら彼女にはもう会えないかもしれないのだ。だが時既に遅し。流石に女子のハンカチを肌に使うのは躊躇ったが、制服の水気を取るために使ってしまった。だが、彼女は俺の言いたいことを察したようで、

 

「私、今日の午後からこの学校に転入するから。あと、洗って返さなくて大丈夫だよ?」

「いや、でも·····すまん、いつかきっと埋め合わせするわ」

 

 少しの葛藤の末、彼女の言葉にまたしても甘えてしまった。

 

「大丈夫だって·····でも、そこまで言うなら·····」

 

 その時。

 

 グ〜、 と。

 

 可愛らしい音が彼女の言葉の続きを遮った。

 

「えっと·····そ、そうだ。昼休みの時間も限られてるんだし、メシ食っちゃおうぜ·····」

 

 顔お赤く染める少女。これは無反応に限る。俺は慌てて話題を変えた。

 しかし、自分のテーブルの対岸·····彼女の目の前には、何故か紙コップ一杯の水しかないことに気付いた。

 

 

 

 

 ·····。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




どうも初めまして。フィヨルドです。

もし五つ子の転校初日に風太郎が出会っていたのが三玖だったらという話です。

やっぱり、最初のルート分岐はここかなぁと。

少しづつ文字数を増やしていきます。
これからよろしくお願いします(´・ω・`

Twitterやってます。よかったらどうぞどうぞ。
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