つまり令和一発目!
「三週間後の日本史のテスト範囲は、室町後期……応仁の乱の後から徳川綱吉の政治までだな」
「あ……この前のテストも……」
「そう。期末試験の範囲だったわけだ。それが分かるってことは、ちゃんと復習したんだな。偉いぞ」
「あ……うん」
なぜか顔を赤くさせる三玖。ここはもう涼しいはずだが……まださっきの熱が引いてないのか?
屋上から移動し、予定通り図書室に来た。炎天下からクーラーがきいた図書室に入るとものすごく気持ちがいい。俺の家のクーラーは滅多に使わないから、暖房設備完備の快適空間であるこの図書室で勉強することは多々ある。
「じゃあ勉強に入りやすいように、日本史からやってくか」
「日本史は好きだけど·····他の苦手な科目からじゃなくていいの?」
「ああ。苦手な勉強から入っても集中力が続かないし、まずは好きな日本史から初めて、勉強をする癖をつけなきゃだめだ」
「癖?」
「勉強をする習慣をつければ、苦手な他教科の勉強にも自然と手が出るようになる」
「なるほど」
と、三玖が納得したのか頷く。
これは俺の経験談でもあったりする。小六の時から勉強を始めた俺だが·····初めはなかなか勉強に手がつかなかったものだ。
俺の場合は家に娯楽物がほとんど無かったから、勉強の習慣がつくようになるまでさほど時間がかからなかったが、三玖はどうなのだろうか。金持ちだし·····勉強を阻害するものが部屋にたくさんありそうだ。
「なあ三玖·····あ、勉強しながらでいい」
「うん。なに?」
俺のノートを写しながら、教科書の重要箇所に線を引きながら三玖が返す。もう既にかなり集中している。やはり日本史は本当に好きなようだ。
「三玖の部屋、今度見てもいいか?」
「えっ? ええっ!?」
急にバッ と俺を振り向き、驚く三玖。
三玖の声に反応した数人が俺たちに視線を向ける。
「お、おい·····ここ図書室だから·····」
「あ·····ごめん」
声を萎ませる三玖。
「別にいいんだけどな·····どうしたんだ?」
「ど、どうしたって·····じゃあ、なんで私の部屋見たいの?」
「部屋に勉強を阻害するものがあったら邪魔になるし·····少なくとも机の上からはそういうものを除いた方がいい·····って三玖? 」
話してる途中に三玖がそっぽを向いてしまった。
どうやら変なことを言ってしまったらしい。おいおい勘弁してくれ。まだ三玖と出会って三日でよく分からないし、そもそも俺は他人とほとんど関わらずに過ごしたんだ。一体どうすれば……。
そして俺は脳みそをフル回転させ、一つの解にたどり着いた。
これだ。これしかない。
他人と関わらずに過ごしてた? 何言ってるんだ俺は。その代償に得られたものがあるじゃないか。
すなわち―――頭脳。
人間関係を犠牲にして得たその成績は……偏差値七十オーバー。
高校に入ってからの学校の試験では常に満点。全国模試ランキング常連の俺、上杉風太郎が導き出した解は――。
事象と概念が繋がる。
その思考に費やした時間は――なんと二秒に満たない。
思考が限界まで加速し、ゆったりと流れているかのように錯覚する時間の中、それを切り裂くかのように俺は三玖に告げる。
「ほら、抹茶ソーダあげるぞ! な?」
ゆっくりと振り向く三玖。
そう。なんだかんだ言って三玖に飲まされたら美味かったため、買ってしまったのだ。食堂で使うはずだった金がらいはの弁当で浮いたので、これは俺の久しぶりの贅沢だったりする。
しかし。
俺は今夜振り返ることになるだろう。一つ俺が間違ってたとするなら、それは自己把握の不足だろう。と。
すなわちそれは、
「女の子がものでつられると思わないで……フータローのばか」
振り向いた三玖の光のない目が悠然と物語っていて。
俺は、おそらく偏差値三十程の三玖に悪あがき一つ許されずに撃沈したのだった。
二次元紙面上の物語文での感情把握は満点なんだが……。どうやら三次元上の感情把握は赤点らしい。
抹茶ソーダをみて、一瞬目が揺らいだのは気のせいだった……か。
◆◆◆
「·····」
「·····」
三玖が黙々とノートにペンを走らせる。
先程の弁明をしたい俺だが、勉強に集中している人を邪魔する訳にもいかない。
無言の間が続く中、五時限目の予鈴がもうすぐなるかと言う時、三玖が勉強道具をしまい始める。
そして、使っていた俺のノートを差し出してきた。
「一つ、お願い聞いてくれるなら許してあげる」
「え?」
「·····」
『お願い』が何なのか分からないのが怖いが·····三玖との関係性に亀裂を入れる訳にもいかない。
差し出してきたノートを受け取る。
「ああわかった·····ごめんな、三玖(なんで怒られたかは分かってないが)。あと金銭面は勘弁して欲しい·····」
「ん、わかった」
席を立ち、少し弾んだ声で答える。
「じゃあ、約束ね」
続いて俺も席を立ち、勉強道具をリュックにしまったところで、五時限目の予鈴が鳴った。
教室へ向かう道、前を歩く三玖はなんだかとても嬉しそうにしてて、
いや、やっぱ全然分からん·····。
今後増えていくであろう苦労に、静かにため息をついたのだった。
◆◆◆
「デラックス肉まん!」
下校中。
俺は今日も五つ子たちのマンションへと向かっている。
隣には三玖が歩いており、俺たちの前には一花、二乃、四葉、五月の四人が何やら騒いでいた。
「太るわよ! 肉まんおばけになっちゃうんだから」
両手にデラックス肉まんとやらを持っている五月。あの量を一人で食べるつもりなのだろうか。
五月が片方の肉まんを頬張っているうちに、もう片方を四葉が勝手に食べていく。そしてそれに気づいた五月が四葉の頬を引っ張って·····。
ふと一花を見ると、視線をこちらに向けていた。しかもなんとも含みのあるかのような笑顔で。
俺と目が合うと、一花が軽く手を振ってくる。
こういうのは気にしたもん負けだろう。一花の怪しい視線を無理矢理無視して、隣の三玖に話題をふる。
「ところで、俺は一体何をすればいいんだ」
「·····? なんのこと?」
「ほら、図書室で·····」
「·····ああ」
思い出したかのように返す三玖。
その手には抹茶ソーダがあり――結局奪われた――、一口飲み、うん、と頷く。
「花火大会、あるでしょ? 私たちと一緒に来て」
「花火大会? 日曜日だよな。俺その日勉強しな·····」
「来るの」
三玖を見ると頬が膨らんでいる。
「別に二人きりで勉強でもいいんだけど、どうせならフータローと花火見たいし·····」
「ん? なんか言ったか?」
「う、ううん! なんにも、大丈夫!」
「なんか少し変になってるぞ」
すー、はーと息を吸い、三玖が切り出す。
「あのね、花火は私たちとお母さんの思い出で·····お母さんがいなくなっても毎年五人全員で見てるの」
「·····そうなのか。でもそれなら尚更俺はいない方がいいんじゃないか?」
別に大丈夫だよ。と言い、首をふる三玖。
「結構、男の人とか寄ってきたりするから·····」
「ああ、なるほどな·····」
確かに五つ子達の容姿なら、よからぬことを考えた輩が絡んで来ることもあるのだろう。だが·····。
「でもよ、自分で言うのもアレだが·····俺じゃあ頼りなさすぎねぇか? 別に行きたくないとかじゃなくてだな·····」
「大丈夫だよ」
三玖が口角を上げ、微笑する。
その横顔は、何かを企む策士のようで·····。
「とっておきの作戦、あるから」
三玖が何をするのか不安で仕方がなく、しかし断ることのできない俺は、無言で顔を引き攣らせるしかなかった。
『肉まんおばけ』なんて·····いくら二乃でも酷すぎです!
今度お父さんに言いつけてやるんだから·····。
どうも、フィヨルドです(´・ω・`)
三玖のとっておき、果たしてなんなのでしょうか。
そして五月の体重は増加する一方。
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