五月が部屋に引きこもってから一時間がたった。もちろんその間は勉強である。
案の定二乃が抜け出そうとしたが、五月のことに負い目でもあるのだろう。ドヤ顔張ってたのは五月がいなくなってから数分ほどだけで、だんだんとテンションが下がっていった。
いつもいる五月がいないので、心なしか二乃以外の三人も元気が無いように見える。
もうかれこれ20分ほど無言で、リビングに聞こえるのはシャーペンを走らせる音のみだった。
まあ、二乃も言い方は悪かったとはいえ、五月を心配してのことだ。そこまでなら冗談で済んだ気がするんだが·····
何が動脈硬化性疾患だよ。絶対に女子高生に話すことじゃない。一度ビシッと言ってやりたいものだったが·····。
現状そんなことはできない。俺にとって中野父は雇い主であるのもそうだが·····その要求を達成できそうにないというのもある。
テストは三週間後。普通なら直前の追い込みでも赤点回避くらいは余裕のはずだが、こいつらは今までろくな勉強もしてこなかった。積み重ね、というものが無い。
あと三週間で集中して出来るのは一週間程度だろう。
勉強してこなかった、または普段からしてないやつは大体二週間の時間をボーッとして過ごす。
よくあるやつだ。机に向き合ったはいいが、ペンを取れず、ノートを開けず、結局娯楽物に時間をさいてしまう。ソースは小六の俺。
つまり、赤点回避出来るか出来ないかは俺次第。ということだ。·····どれだけやる気を出してくれるか、もあるから五つ子次第でもあるが·····。
とにかく一人でも赤点とったらアウトなのだから、五月を戻さなきゃダメだ。勉強の効率も悪い。
「ねぇ!」
「うおっ! なんだ?」
「なんだ? じゃないわよ。終わったら持ってこいって言ったのあんたでしょ」
「ああそうか·····すまん」
俺は二乃から課題のプリントをもらい、採点を始める。あーあー、こりゃ酷い。先が思いやられるぜ·····。
「ねぇ」
「ん? 全然あってないぞ」
「そうじゃなくて! パパとなに話してたのよ」
スッスッと流れるようにバツをつけていく。二乃の顔が微妙なのを見るに、自信のあった問題さえも間違っていたのだろう。
「だから、ただの世間話だって。昼間の井戸端会議並のな」
「(井戸端会議って何かしら)まぁいいけど。別にあんたのことなんて興味無いし」
「先に聞いてきたのお前だろ」
採点が終わる。
俺は二乃に課題プリントを差し出した。
「ほれ。英語50問中6問正解だ。最初よりはマシだな」
「うう·····」
ちなみに三玖は既に終わっていて、二乃と同じ英語のテストを50問中10問正解。三玖が一番苦手なこの教科でこの点数なら、もしかするといけるかもしれない。
一花と四葉も終わったようで、採点すると、一花は4問正解。四葉は2問正解。正直言うと全員カスみたいな点数だ。
英語の伸びは他教科に比べてかなり遅い傾向にある。五人全員が赤点突破となると……なかなか難しいものだ。
それはそうとして、だ。
「一度休憩にしよう。その間に、なんとか五月を引きずり出してくれ」
「わかったわよ……ずっとこのままじゃ行けないし……五月だけ花火大会行けないのも困るもの」
やはり二乃は元気がないように見える。いつもなら、「はぁ? なんでアタシなわけ?」だ。……いやそれはないか?
おそらく五月の立場にあるのが俺だったらそう言っただろう。
ニ乃はそれほど妹のことが好きということ。なんとも分かりやすい。
かなりの不器用だが、きっと大丈夫だろう。
さて、俺もやるべきことがある。
試験対策、考えなきゃな。
一度頭をクリアにするために、俺は一度外に出た。
◇◇◇
タワーマンション三十階からの景色は圧巻だった。
思わず自分が落下してしまう想像をし、身震いする。助かる余地のない確実な死が待っている。
試験もそうだが、もう一つ考えなければならないことがあるのだが……優先順位は……いや、どっちだろうな。
「フータロー」
考えがまとまらない内に三玖に声をかけられる。
「ん? 三玖はどっから来たんだ?」
俺がベランダに出たのはキッチン横にある扉からだが、それは俺のすぐ後ろにある。三玖が入ってきたら気付くはずだ。
「このベランダ、みんなの部屋とも繋がってるから……私は自分の部屋から」
「ああ、そういうことか」
そう言われ納得する。奥の角を曲がると五つ子の部屋があるということか……いや、直前の大窓は既に一花の部屋か。
視線を戻すと、なにやら三玖は真剣な顔をしていた。
「フータロー、お父さんになんて言われたの?」
「だから他愛のない世間話だと……」
「それは、嘘」
三玖の俺を見る目はいつもと違い、真剣そのものだった。
これ以上の誤魔化しは、俺にはできなかった。
「本当のこと、言って」
「……赤点一つでもあったら、俺はクビだとよ」
俺の言葉を聞いた瞬間、三玖は驚いたように目を見開き、口を手で覆った。
再び俺が口を開く。
「全く、お前らには失礼かもしれないが、迷惑な親だぜ。五月の勉強の邪魔しやがって……なぁ?」
冗談めいた口調で言うと、三玖は固まった表情を崩す。
「ふふ……。五月はきっと大丈夫だよ。拗ねるのはよくあることだから」
「そうなのか?」
「うん、それと……」
「?」
「私は絶対に赤点取らないから、安心して」
自信に満ちた顔で、胸の前で拳を握りしめて言う。
思わず笑みがこぼれた。
「そうか……なら、楽しみにしてる」
そう言い三玖から目を逸らし、再び眼下の町に目を向ける。もう少しで休憩も終わりだ。果たして二乃はうまくやっただろうか。
「この景色、凄いよね」
「ああ。骨まで粉々だろうな」
「えっ……そうじゃなくて!」
ほら、と三玖がおもむろに空を指差す。
「よく見るんだけど……あっち……東に太陽が沈んでくでしょ? その夕焼けが綺麗で、そのあとに見えてくる星も凄くきれいなんだよ」
「そっか……じゃあいつか見てみたいな」
「……っ! うん!」
とても良い笑顔で三玖は頷いた。
普段の三玖からは全く想像がつかない表情。
……だが俺にはそんなことはどうでもよかった。
「小学生からの常識だ」
「?」
「太陽は東から昇って、西に沈むんだよ」
「えっ……」
三玖が固まる。
やる気と実力が伴わないのはよくあることだから、な。
……だが。
やっぱり先が思いやられるな……。
「とりあえず休憩終わりにして、理科から始めような? 科学とか物理じゃなくて、まずは理科」
「はい……」
私は、早死にしてしまうんでしょうか……。し、し、心臓病って死んじゃうやつですよね!?
どうも、フィヨルドです。
今ゴミ端末で書いたので、言いたいことは次回で!
ガクガクでやばい……。
評価、感想、ありがとう!