五等分の花嫁 √中野三玖   作:おとぎの

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#15 冷蔵庫の中身はコーラと抹茶ソーダ

「ダイエット始めます!」

 

 休憩を終え俺と三玖がリビングに戻ると、一花と四葉と二乃は既に集まっていた。五月をつれて。

 

「おお! 引きずり出せたんだな」

「言い方。まあ、今回は自分も悪かったもの」

 

 自分の非を認める二乃。どうやら仲直りはできたようだ。しかし、あれほど興奮し、取り乱していた五月をどのようにして機嫌よくさせたのだろうか。

 気になった俺は二乃に聞いてみる。

 

「しかしまあ、よく一時間も引きこもってた五月をこの短時間で連れてこれたな」

 

 休憩していた時間は十五分だ。それだけの短時間でわかりあえるということは、やはり伊達に産まれてからずっといる訳ではないということだろうか。

 

「ああ……今度クッキー沢山作ってあげるって言ったらね……」

 

 俺の耳元で、五月に聞こえないくらいの大きさで言う二乃。長い髪が首をくすぐる。「ちょっと近くないか?」とか指摘したら、またキレられるオチだろうな……。

 

 しかし横目で二乃の顔を見たとき、あることに気づいてしまう。化粧では隠しきれず、僅かに見えた目元の隈に。

 

「いや全然学んでねえな」

 

 とりあえずそう言い返す俺。二乃には後で、夜更かしは肌に悪いんだ。知ってたか? と言っておこう。……いややっぱキレられそうだから止めておこう……。

 

 そして俺は五月を正面から見据える。

 

「五月、本当にダイエットする気はあるのか?」

「はい!」

「じゃあ明日から俺と一緒に焼き肉定食(焼き肉抜き)だな!」

「焼き肉定食ですか!? やった!」

 喜ぶ五月に、三玖がこほん、と一つ咳払い。

「フータローの焼肉定食には、お肉が入ってない」

「……え?」

「フータローの焼肉定食には、お肉が入ってない。……多分、五月にとって凄く重要なことな気がしたから二回言った」

「お肉なし!? そんなのあんまりじゃないですか!」

「俺はここ二年、焼肉が入った焼肉定食を食べていない」

 

 焼肉定食(焼肉抜き)の存在を高一の六月に知ってから今まで、弁当以外の日は全部これだ。まさに俺の高校生活のパートナー。卒業文集の題名は多分、『焼肉定食』になるだろう。後悔はない。

 

「なんで自慢気にいってるの……? フータローには、今度焼肉食べさせてあげるから……」

「マジで!? 三玖最高だぜ!」

「さ、さいこう……う、うんうん!」

 

 ブンブンと縦に首を振る三玖。かなりの勢いなので、首が痛めないか心配だ。

 

「その時は私も連れてってくださいねー」

「あはは。五月はダイエットするんじゃないの?」

 

 と一花。

 

「上杉さんと焼肉、私も行きたいです!」

「なんでアンタが来るのよ……まあでも? ()()()()()()()()()()()()()()()()()? 行ってあげなくもないわ」

 

 なんだかみんなノリノリだな。でもさ、やっぱアレか? お金持ちはみんなあの高級焼肉店に……なんだっけな……。

 

「JOJO苑ですね!?」

 

 五月が俺の言葉を代弁してくれる。そうそうそれそれ。

 

「みんな連れてく余裕なんてないない! 行きたいなら、お父さんの財布に相談して」

 

 さらっとえげつないことを言いやがる……。だがまあ、もし俺が連れて行ってもらったところで全然食えないだろうな。主に緊張と申し訳なさで。

 

「そうですか……でも」

 

 五月は少し残念そうにしながらも、ぱっと顔を上げる。

 

「いつも美味しい料理食べてるので、大丈夫です」

 

 いつもの料理、とは二乃の作る料理のことだろう。俺自身、昨日すき焼きをご馳走になっているので、その美味しさは体験済みだ。

 

「そ、そう。……アンタ達がだらしないから、仕方なくだけどね」

 

 そっぽを向きながら長い髪を指先でくるくるといじる二乃。照れ隠しだと言うことが分かっているのか、三玖たちは暖かな目でそれを見ている。なんともほほえましい……。

 

 

 

「……って、ちがーう!」

「上杉さんが怒った!」

「焼肉定食の話だろ……?」

 俺は五月の両肩をガシッとつかんだ。

「JOJO苑ってことでまとまりませんでしたっけ……? あはは」

「あはは、じゃねぇ。いいか五月」

 

 それから五分かけて焼肉定食(焼肉抜き)、さらに食堂のウォーターサーバーについて、どれだけ素晴らしいかを語った。

 最後は五月も三玖がよくやるように、ブンブンと勢いよく縦に首を振っていたから大丈夫だろう。これで俺にも仲間が増えたわけだ。焼肉定食、ウォーターサーバー、最高。

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 それから一時間ほど勉強をし、俺は帰宅した。

 玄関を出るときにはやはり、二乃に「もうこないで」と言われてしまう。

 何故ここまでしつこく言ってくるのだろうか。もう三回目くらいになるんだが。

 

 帰り道、ベランダで考えていたことをもう一度考えるが、結局答えは出ず。

 五つ子のテスト対策ではない、もう一つの考え事。

 

 もう六時半になるが、夏至に近づいていることもありまだ外は仄かに明るい。

 夜と昼の境界、オレンジに染まる夕焼けを目に、俺は未だに考えがまとまらないその疑問をふと口にした。

 

「あれ、誰のなんだろうな……」

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 次の日、木曜日の朝。

 いつものように単語帳をめくりながら歩き、校門をくぐろうとすると、目の前に黒塗りのリムジンが止まった。この学校の偏差値は上中下で言えば上と中の間、松竹梅で言えば松……いや何を考えてるんだ俺は。

 

 ともかく別段特別と言うわけではないこの学校に庶民でも目に見えて分かる高級車が来たこともあり、周りの生徒の視線を集める。

 かく言う俺も、縁の全くない高級車に目を引かれていた。

 

「おお……百万くらいしそうな車だな」

「バカじゃないの?」

 

 ドアを開けて出てきた車の持ち主に罵倒された。

 

「挨拶がわりに罵倒かよ。そうだな……()()ができる二乃には、とても敵わないかも知れないな……」

「ば、馬鹿にしてんじゃないわよ! あと、この車は百万なんてちゃちなもんじゃないから。千九百万だから!」

「マジで!? すげーな……」

 

 本気で感心してしまう。

 あ、じゃあこれさわったりしたらマズイやつか。気を付けよう。下手なことして罰金なんて食らったら洒落にならないしな。

 

 パッと車から離れ手を振り、二乃に触ってないよアピールをする。……って、ん? 

 

「な、なによ……」

「いや、なんでもない」

 

 少し気になったことがあり二乃の顔を見るが、すぐにそっぽを向かれてしまう。まあ気のせいか……あとに三玖にでも聞いてみよう。

 

「上杉さん上杉さん!」

 

 四葉が小走りでやって来て、俺の前で急ブレーキ。腹にタックルでも決められるのかって勢いだったぞ今。

 

「五月がすごいんですよ!」

「どうしたんだそんなあわてて」

「なんと五月が……」

 

 なんと、なんと……とためを作る四葉。

 

「車備え付けのコーラを我慢して、スタバのフラペーチーノで我慢したんです!」

 

 ……。

 と、そこで五月が車から降りてきた。右手にスタバ、空いた左手で髪をかき上げ、そして俺を見つけると、ふっと目を細めた。

 高級車が校門を去っていくのを背に、五月は口を開く。

 

「もう、私は今までの五月ではありませんよ……例えるならそう! まさに殻を割ったゆでたま……」

「アウトだ! アウト!」

「ええーなんですか!? コーヒーはカロリー凄く低いんですよ! すごく!」

「あのなぁ、確かにコーヒーはカロリー低い……だがお前が飲んでるのはコーヒー()()()()()()()だろ! しかも……なんかトッピングしてるな?」

 

 知ってるぞ。らいはが大好きだからな……めったに買ってやれないが。家庭教師分の給料出たら今度買ってやろう。

 

「え、エクストラホイップ、キャラメルソース、チョコチップ……だけです」

「じゃあ教えてやるよ。俺の妹が言ってたぜ『一番大きいサイズのフラペーチーノは、600キロカロリー以上いくんだよ!』ってな!」

「んなっ!」

 

 ガーンという効果音を体現したのごとく反応する五月。

 

「プラストッピング……俺はその飲み物、750キロカロリーと見た!」

「あ、ああぁ……」

 

 がっくりと項垂れる五月。

 

「だって! 車の中の冷蔵庫に、コーラと抹茶ソーダっていう変な飲み物しかないんですもん……あ!」

 

 突然なにかをひらめいたかのように声を出す五月。あと抹茶ソーダは変な飲み物じゃない。

 

「抹茶ソーダは、美味しい」

 

 横からぬっと出てきた三玖が俺と同じ意見を言う。そうだよな。夏はやっぱ抹茶ソーダだよな。

 

「そうじゃなくて……これ、あげます!」

 

 そう言って手に持っていたフラペーチーノを俺に押し付ける五月。まだ半分以上入ってる。

 

「おい、どういう……」

「まだ100キロカロリー分くらいしか飲んでません! 今から走って教室に行けばきっと挽回できます……!」

 

 そのまま走り去ってしまった。それを追って四葉も走っていく。競争かなにかと勘違いしていのだろう。

 思っていたより、五月は真面目にダイエットするようだった。馬鹿だなぁとは思ったが。

 

「元気だねぇ二人は。……ふあぁ……お姉さんはまだ眠いよ……」

 

 片手にスタバのコーヒーを持った一花が俺に声をかけてくる。一花が持つそれは俺が五月に押し付けられたものではなく、普通のアイスコーヒーのようだ。

 

「先いくねー……」

「五月と一緒なら今度から止めてやれよ」

「はーい」

 

 背を向けたまま手を振り、そのままのんびりと校門をくぐっていった。

 残ったのは俺と二乃と三玖。

 

「じゃあ、俺らも行くか」

「なんであんたと一緒に行かなきゃいけないのよ」

「じゃあ一花と一緒に行っとけ。こっちは同じクラスなんだからよ」

「……仕方ないわね」

 

 しぶしぶ俺と三玖についてくる二乃。

 その、「あっ」と三玖が声を出した。

 

「どうした? 忘れ物でもしたか?」

「えっとね……」

 

 何故か申し訳なさそうにうつむく三玖。

 

「抹茶ソーダ、フータローのしか持ってきてないや」

「どういうことよ」

「ああ、なるほどな·····俺今日これあるから大丈夫だ」

 

 俺は右手に持つ五月のフラペーチーノを掲げる。

 

「そっか、じゃあこれは二乃にあげるね」

 

 二乃に抹茶ソーダを差し出す三玖。つまり三玖は俺の他に、二乃がいるとは思わず、仲間外れになってしまうのを危惧したのだろう。

 

 缶に水滴が滴っているのを見るに、キンキンに冷えてそうだ。

 しかし二乃はすぐに受け取らず、抹茶ソーダの缶を見つめていた。何故かプルプルと震え、拳を握りしめている。

 

「よかったな、二乃」

「こんな変な飲み物、いらないわよ!」

「「抹茶ソーダは、変な飲み物じゃない」」

 

 俺と三玖は、同時に同じことを言う。

 まあ一回飲んでみろって。分かるから。

 

「て言うか! 五月の飲みかけのやつを飲むつもり!? か、間接キスよ!」

「か、かんせつ……キス……」

 

 興奮して声が大きくなる二乃の隣で三玖がフリーズしていた。が、すぐに持ち直し、

 

「これは、私が飲むから。フータローはこっち飲んで」

 

 何故かふてくされている三玖にフラペーチーノを取り上げられ、代わりに抹茶ソーダを押し付けられる。

 仕方がないか。確かに五月はあのとき慌ててたみたいだし、そういうことを気にするタイプかも知れないしな。二乃や三玖の妹なのだから、同じ反応をしてもおかしくはない。

 

 まあ俺は正直どっちでもいいんだが。むしろ今日の気温は朝の時点で二十五度。ワイシャツが汗で湿ってきた時に飲む抹茶ソーダは格別だろう。

 

 プシュっという気持ちいい音と共にプルタブを開け、中身を一口。

 

 ああ、やっぱり抹茶ソーダは最高だぜ。

 

 二乃が変な目で俺を見ているが、気にしない気にしない。

 

 

 

 




焼肉定食焼肉抜き·····あっ、トッピングはかしわ天と、えび天·····プリンもお願いします!


どうも、フィヨルドです(´・ω・`)
なかなか三玖と絡ませられなくてすみません。

三玖のとっておき、そして、フータローの考えているもう一つのこととはなんでしょう。

次回もよろしくお願いします。
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