五等分の花嫁 √中野三玖   作:おとぎの

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#16 成長した金髪が見たいの

 

 

 

 暑い……。

 

 学んでなかったというかなんというか。

 なんでだろうな、またここに来てしまった。

 他に二人で話す場所がないのだから仕方がないといえばそうなのだが。この暑さのおかげで、屋上には俺と三玖以外誰もいなかった。

 

 高く登った太陽が肌をじりじりと焼き、セミの喧騒が暑さを助長させる。

 ただ、屋上にいる俺と三玖の手には、既に抹茶ソーダが握られているのは前回と異なる。それでも暑いのは変わらないが。

 

「三玖に聞きたいことが二つあるんだよ」

「私は、数学だけで十個はあるよ」

「多いな!」

 

 まあ、それだけ分からないことがあるってことは、その分勉強してるってことなんだが。よくこの短時間で勉強の習慣がついてきたもんだ。

 

「それで、聞きたいことって?」

「ああ、そうだな……」

 

 今日は五つ子全員+俺で昼食をとり、その後三玖を屋上に連れ出したのだ。場所を変えた理由は、なんとなくという他無いが、強いていうならば他の五つ子に聞かれたくなかったというのもある。

 

 ちなみに五月の焼肉定食(焼き肉抜き)は、何故かさ様々なトッピングが付いていた。勝手にトッピングを注文していたのだ。しかもデザートにプリンまで。

 五月は「朝フラペーチーノ我慢しましたし、走りました!」とか言っていたが、俺が即座に五月の頭をチョップしたのは言うまでもない。

 なんにせよ、五月のダイエットは道のりは長くなりそうだ。

 

「最近、二乃の様子がおかしかったりしないか?」

「二乃? ないと思うけど……なんで?」

「いやさ、昨日気づいたんだけど、二乃の目元に隈ができてるんだよ」

 

 朝のが見間違えじゃなければ、今日も。

 

「俺は三玖たちと違って、まだ二乃と会ってからたった数日だからな。だから、ずっと一緒にいた三玖なら変化とか……おかしいところとか分かるんじゃないかって思ったんだ」

「うーん……」

 

 三玖は三玖は少しの間考えていたが、

 

「特にない、と思うよ……」

 

 思いつく節は無いようだった。

 

「そうか……単純な寝不足ってこともあるしな。なんにもないならいいんだ」

 

 そう言って俺は屋上を囲む落下防止用のフェンスに寄りかかった。あっ、これ結構怖いわ。もし急に外れたと思うとゾッとするな。

 

「そう……でも」

 

 一人でビビっている俺を他所に、昼休みの喧騒に包まれる校庭に目を向けたまま、三玖は言葉を続ける。

 

「私のとっておきで、二乃も元気になるから大丈夫」

「ああ……それだよ」

「?」

「二つ聞きたいことがあるって言っただろ」

「英語は十四個聞きたいことがあるの」

「多いな!」

 

 いやマジで多いな! ……ってそうじゃなくて。

 

「とっておきだよ。昨日結局教えてくれなかっただろ」

 

 自分で言うのもアレだが、こんな俺が男避けになるとっておきとは一体……。しかも二乃が元気になる? 訳がわからん。

 

「えっとね……まあいいか」

 

 カバンの中身をごそごそと漁りだす三玖。

 しばらくすると、なにかを取り出してこちらに見せた。

 ……箱? いや待てこれは……! 

 

「本当だったらお祭りの日まで内緒にしようと思ってたんだけど……仕方なし」

「……おい」

「どうしたのフータロー」

「どうしたのじゃねぇ。これを俺に差し出してどうする気だ」

「え? ()()()()()だよ。フータロー知らないの?」

「知ってるわ! なんでとっておきがヘアカラーなんだよ! 男避けにならねぇし、二乃も元気にならねぇだろ!」

 

 俺は三玖の手からヘアカラーを奪いとった。

 

「フータローは、図書室でなんでもするってゆった」

 しかし急に光を失い始めた三玖の目と、放たれた言葉に俺はどうすることもできない。

 

「はぁ。……分かったよ」

 

 しかし、なんでよりによって金髪なんだよ……。

 俺は過去の自分を思い出し、再び溜め息をついた。

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 三玖はずっと思っていた。

 金髪のフータローが見たい! と。

 

 子供の頃金髪だったフータローが、今ならどうなるのかとても気になっていた。

 五つ子の男避け、二乃が元気になるから。そんなものは全て建前。まあ面食い二乃は元気になるかも知れないが。

 

 全ては金髪のレアフータローを見るため。

 図書室の不機嫌な態度から計算された、三玖の大胆な策略。

 三玖が昔の写真から金髪が似合うと確信していることなど、フータローは知るよしもない。

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

「私はお祭りに行かない方がいいんでしょうか……」

 

 お祭りの屋台は魅力的だ。

 デカいタコが入ったたこ焼き、シロップかけ放題のかき氷、ソース香る焼きそば。一足踏み入れれば、暴力的なまでの匂いが空腹を刺激してくる。

 

「なんでそれを俺に聞くんだよ」

 

 祭りが明後日に控えた金曜日。徒歩で学校へ向かっていた俺は、スタバ前で立ち止まっていた五月に出会ったのだ。

 

「て言うか五月。お前百万円の車はどうしたんだ」

「だからそんな安っぽい車じゃないですよ……いえ、徒歩でも通える範囲なので、少しでも運動をと……」

 

 百万を安っぽいはどうかと思うが……。

 

「ちゃんとダイエットしてるんだな」

「そりゃあいつかはと思っていたので……て、そうじゃなくて、……お祭りの屋台で食べ歩きしたいんですよ」

「でもダイエット中だと」

「そういうことです」

 

 それは難しいんじゃないか、と俺は思う。……が、そう五月に返したところで「じ、じゃあお祭りの日だけ特別です!」とか言いかねない。ソースは昨日の五月の焼肉定食(焼肉抜き)。ならばどうするか……。

 それならいっそのこと、食欲自体を無くすなんてどうだろうか。

 

「なぁ五月知ってるか」

「何をですか?」

「祭りの屋台は衛生面がまるでなってないんだよ……今年祭りに行ったら見てみろ」

「どういうことです?」

 

 イマイチピンときてないみたいだな。

 

「つまりだ、かき氷のシロップの容器にはハエが浮かんでたり、たこ焼きにハエが入ってたり、あとは……綿菓子にハエが入ってたりするかもしれないってことだ」

 別にハエが好きなわけではない。最初の例え意外上手く言い表せなかっただけだ。

 だがこれは割と事実であったりする。蛇口式のシロップ入れ(上はシロップを継ぎ足すために開きっぱなし)の隣に蚊取り線香置くなよ。そりゃハエの死骸位入るわ。

 

「成る程、アレですね。最近鳥の唐揚げを床に擦り付ける映像をSNSにアップして捕まったカラオケ店員がいるっていう……」

「ん? ……いや、違う気が……」

「でも、正直私には関係ないですよ」

 

 だって。と続ける五月。

 

「去年まで食べてて美味しかったのは事実ですし、床に擦り付けた唐揚げ食べた人だってそのことに気付かなかったはずです」

「まあな……」

 

 その例え続けるのな。と心の中で突っ込みつつ、相づちを打つ。

 

「でも気分的に嫌じゃないか? ほら、例えば二乃が唐揚げ床に擦り付けてたら、嫌だろ?」

「例えが極端過ぎませんかね……」

「そうよ、……失礼しちゃうわ」

 

 五月には言われたくないぞ。と言い返そうとした時、後ろから五月に同意する声が聞こえた。

 

「私がそんなことするわけないでしょ!」

 

 振り返ると、そこには息を切らしながら俺を睨み付ける二乃がいた。どうやら後から追ってきていたみたいだ。

 

「え!? なんで二乃がここに……? 車で皆と行ったんじゃなかったんですか?」

「アンタが一人で行くって言うんだから、ついてきてあげたんでしょ! ……ほら、とっとと歩くわよ」

 

 五月が心配で追いかけて来たってことか。なんだかんだ言って優しいんだな。

 

「ありがとうございます。それで、今私がどうしたらお祭りで食欲を封印できるのかを上杉さんと、考えてたんですよ」

 

 先程までのことを二乃に話しながら五月は歩いていく。

 

「んじゃ結局、無理なんじゃねぇのか? 祭りの日は俺と勉強しながらお留守番で……」

「それは絶対嫌です。もう、上杉君はすぐ勉強勉強……。二乃ーどうすればいいですかねー?」

 

 割とガチで拒絶されるとこっちも辛いんだが……。

 いいじゃねえか勉強。三玖に脅されてなければ俺は勉強の予定だったんだぞ。

 

「ん? 二乃ー?」

 

 返事がなかったのか、五月が二乃がいる後ろを振り向く。つられて俺も振り向くと……少し離れたところで、電柱に片手をついている二乃がいた。

 

「おい二乃、大丈夫か?」

 

 俺と五月は二乃に近づく。呼吸は荒く、額には汗が浮かんでおり、辛そうだ。

 

「大丈夫よ……少し走っただけだから平気よ平気……アンタに心配されるなんて……」

 

 目元には……やはり隈がある。昨日のは見間違いなんかじゃなかったということだ。

 

「いやどう見ても平気じゃないだろ。無理して学校行かなくても──」

 

 

 

 俺が言い終えるのを待たず。

 

 二乃は張っていた糸が切れてしまったかのように、地面に倒れた。

 

 

 

「っ! 二乃! 五月、救急車!」

「い、今呼んでます!」

 

 もっと他にやれることはあったのではないか。

 二乃が何をしていたのか、出会って数日の俺には全く分からない。だが。

 ずっと分からなかった疑問の、最後の一ピースがはまったような気がした。

 

 

 

 俺は三玖に電話をかけながら、頭を落ち着かせる。

 マンションのベランダ、そして帰り道に考えていた疑問の答えが、今ようやく導き出せた。

 

 

「アレは、二乃の物だったんだな」

 

 

 もっと早く気がついていれば。

 

 

 後悔しても、時は戻らない。

 

 

 

 

 




·····。


どうもフィヨルドです(´・ω・`)
遅れてすみません。

お気に入り600、誤字報告ありがとうございます。感想は時間ある時に必ず返すので!
ではまた。
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