マクロスM   作:廓然大公

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第12話

 

 ロッソ島まで数十キロほどの雲の上、二機のVF14が飛んでいた。

亜音速で飛ぶ黒い翼、既に夜の星が頭上には広がっている。その大きな翼が夜空の中を飛び去ってゆく。二機の翼はゆっくりと雲の下へと雷鳴と共に降りてゆく。真横を流れていく雷鳴を潜り抜け暗い孤島を目指す。

飛行場を出発して三十分と少し、いつもと変わらない仕事に欠伸が出る。

「ヘクター2、気を抜くなよ」

「申し訳ありません」

「簡単な任務なのは分かるが、そう言って死んだ奴も履いて捨てるほどいる」

コクピット内に小さな電子音が響いた。

「こちらヘクター1、これより作戦空域に入る。」

「ヘクター2、了解」

数分の後、発射予定空域に達したことを知らせるアラームが鳴った。

「ヘクター1、これより爆撃を開始する」

握られた操縦桿。機体から切り離された二つの対地ミサイルが放たれ、夜の闇に落ちていく、そして数秒後、爆発を知らせる小さな火柱と、雨に消されてゆくきのこ雲が立ち上ってゆく。

「こちらヘクター2、施設の破壊を確認」

「こちらヘクター1、了解、これより残存兵力の掃討並びに遺留物の回収に当たる」

肉眼で見えた小島、辺りに広がっていた森の中にまるで隕石が落ちたように穴が開いている。森林に引火した様子ではあるもののこの雨ではそう長くは燃え広がらないであろう。周りへの影響は少ない。

「あれか」

爆心地から、数百メートル離れた森の中に降り立つ。やはりどこにも宿泊施設も無く、人影もない、熱源も見つからず、この雨では外に出ているものもいないだろう。すぐに遺留品の捜索が始まった。ミーティングで伝えられた物品、基地から持ち出されたという物品、機密に係るとして中身までは教えられなかった。しかし、それは丁度国語辞典程度の黒い箱であった。

 辺りを警戒するヘクター1、ちょうど爆心地のあたりに差し掛かる、主に市街地などに用いられ限範囲性対地ミサイルによって綺麗に丸く禿げあがっているのが見える。残されたVF11を損傷させないために使用された。本来であれば飛び散った破片が中心部に集められ小さな山を作る。爆炎ではなく、爆風を調整し、殲滅を行う爆弾。対人を目的に作られたこの兵装。使用後は爆心部には瓦礫と、犯人たちの死体がうずたかく積まれるのが常であった。

 しかし、見えた山は崩れたプレハブの瓦礫と、巻き込まれたヤシの木だけ。何処を精査してもそこに死骸の姿は無い。まるでこの襲撃を予想していたように。

「こちらヘクター2、遺留物を発見した。これより回収に入る」

嫌な予感がする。直観にも似たその感覚。

「待てヘクター2、それは」

全てを言い切る前に自分の耳に響いてきた爆音。それは確かにヘクター2のいる方角からだった。

「ヘクター2、応答せよ、ヘクター2」

「こ、こちらヘクター2、損傷状況大なり、エラーコードSR44.スラスタ系に損傷甚大。損傷甚大」

数秒遅れて帰って来た通信、コクピットにも大きな衝撃を受けたのか、ヘクター2の声は荒く、うめき声も聞こえてきた。

「合流する。警戒態勢を厳にして合流地点D3へと移動せよ」

「了解」

バトロイド状態であっても両足はほぼ使い物にはならない。這うように動くヘクター2の回収へと向かう。

「やってくれたな」

辺りを精査しながらヘクター2の下へと移動する。VF11を囮にした爆破、既にこちらの奇襲は読まれているだろう。

そして、こちらは動けないヘクター2を抱えている。

「袋の鼠ってことかよ」

突如ロックオンされたことを知らせるアラートが鳴った。

「ちくしょっ」

ガウォーク形態からファイター形態へと移行し無理に旋回して避けきる。

反射的な急な加速は体に負担がかかるのが分かる。

「今日も血尿だな」

歯を食いしばりながらゆっくりと急な加速を緩め、眼下に遠くなった島を向く。自分を狙撃してきた弾道からその発射元を計算する。しかし、既に眼下に機影は無く。荒れ狂う波が打ち寄せているだけ。視界に広がっている計器を確認してもその姿は写っていない。

「どこから狙ってる」

暗く、雨の降る視界では視認による敵の捕捉は期待できない。しかし、代わりの目となる計器たちにも敵機に反応は示さない。ヘクター2の回収をしようにも、少しでも近づけば死角から打ち込まれる弾丸にさらされる。

「一か八か」

複数回の狙撃、しかし、それでも狙撃元を特定することはできない。ならば狙撃される前に弾速よりも早く通り抜けてしまえばいい。この雨で拡散することを恐れているのか光学兵器を用いないならばまだやりようはある。バンパイアの速度ならば弾速より早く飛ぶことも不可能ではない。

「いけっ」

操縦桿を振れるか触れないかの小さな調整と共に再び島へと突っ込んでいく。海面付近からの突風に機体が煽られる。小さく腕の感覚だけを頼りに舵を取り立て直す。ヘクター2まで数百メートル。このまま接近し、その速度のままヘクター2を回収し、一度爆心地となった小屋跡へと退避する。森の中にトラップを仕掛けてる可能性も捨てきれない。一度爆心地へと降り立ち、体制を立て直す。それは必須事項でもある。

「抜けた」

地面にまであと二百メートル、その時、やはり見えない弾丸が降り注いだ。

「小回り効かねぇんだっつうのっ」

機体の大きなVF14、速度に優れているものの、機動性は劣る。ましてこの暴風と地表付近という悪条件、狙撃を避けるためには大きく回らなければならない。

「しまった」

無論大きく回ればその分ヘクター2とも距離が出来る。その隙を見逃してくれない。

「ヘクター2っ」

撃ち込まれた弾丸、爆発する機体。パイロットは間一髪脱出することはできたものの、風にあおられ、そのまま海へと落ちていった。

「んなろう」

救難信号があろうともこの天候ではすぐに回収しなければ命にかかわることは明白、すぐに軌道から発射位置を計測する。姿の見えない狙撃手、弾丸の軌道の先には無いもない水面があるだけ。

「まさか、」

突如レーダーに現れた機影。

海の中から飛び出してきたのは真っ赤な燕だった。

真下から垂直に突っ込んでくる燕、左右にロールするにはあまりに距離が近すぎる。赤い水上機の先端の機関銃が火を噴いた。少しだけそれたものの右翼に大きく損傷を受ける。損傷表示のアラートが鳴り響いた。右の駆動系の損傷を知らせる甲高い音、このまま戦闘を継続したとして、半身の利かないこの機体で勝つのは絶望的だった。

「紅燕の亡霊め」

 いつしか夜の嵐は過ぎ去っていき、東の空には朝の陽光が差し込んでくる。真っ赤な朝焼けの中、太陽よりも赤く染められた機体が空を飛んでいった。

 

 

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