マクロスM   作:廓然大公

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第13話

「行くぞ、じゃないわよ。あんた何やってんのよ。馬鹿じゃないの」

白木の突然の奇行にマリーダは驚きながらも、救急箱を探し出した。

「さっさと血を拭きなさい、いくら顔の傷は派手に見えるからって何もしなけりゃすぐショック死するわよ」

「目が覚めた」

「目が覚めたじゃないわよ」

手際よく包帯を巻き終えると、同時に部屋全体にアラームが鳴り響く。

「早いな」

「なによこのサイレン」

「もう近くに敵が来ているってことだ」

「敵って誰よ」

「お前をここまで飛ばした犯人だ」

「ここまで飛ばしたって、位置バグかAIの不良じゃないの」

数年前から導入が騒がれている戦術AIではあるものの少し前までは一部制御が聞かなくなりどことも知れない孤島への漂流は珍しいものでもなかった。

「第一に本来VF11に戦術AIなんて搭載されてない、そもそも戦術AIなんて標準配備されてるのは最新型も最新型、VF171くらいのものだ。それに操縦者の意識もなく勝手に知らない土地まで飛行するゴーストなんてものがあればそれこそ宇宙条約の規約違反、レッドカードで一発退場だ」

「そうなの」

いくつかの機材の電源を入れながら白木は答えた。

「確かに型落ち機のマップ更新が遅れて衛星とも通信できないとしたらむしろそっちの方がおかしい、この島は一応私有地だからな。マップ関係なく、この島のアドレス波で普通のAIならその島を避ける。民間の私有地に突っ込んだ日には世論の風当たりも強くなる。それがこの島まで入って来たんなら本来のAIが切ってあった。もしくは別のAIが起動していたかのどちらか」

「ちょっと待って、どういう事よ」

「簡単に言えば、誰かがお前の乗って来たバルキリーのAIを切って別の違法AI突っ込んで飛ばした馬鹿野郎がいるってことだ」

「それがいま来てる敵ってこと」

「多分な」

「なんでわざわざ」

「それはもちろん証拠を潰すためだろうな」

「もしかしたらそれって」

「もしかしなくてもお前と、そのお前が持っているVF11のブラックボックスだろうな」

「これブラックボックスなの」

「奴らの目的も手段もそれを見れば大体の証拠は掴める。いわば敵にとってのアキレス健だろうな」

「そんなもの持たせないでよ」

げんなりしたマリーダの表情。

「あまり驚かないんだな」

「パニックに頭が追い付いてないだけよ。ここ数日の出来事だけでもう三年くらい時が進んだ気がするわ」

「そいつは上等。それだけの度胸があるならちょっとくらいのドッグファイトも耐えられるな」

「え」

マリーダの視線をよそに白木は大きな機材の布を取り払った。小さな小部屋ほどもあるような大きな防水布の下から出てきたもの。

そこにあったのは真っ赤な水上機だった。

細長いプロペラ機の両翼から下に二つのフロートが付いている。全長八メートルほど、もはや博物館にでも置いてあるような古めかしいレシプロ機が鎮座していた。

「なにこれ」

「骨董品だが飛ぶくらいのことはできる」

白木に促され渡された荷物を運びこんでゆく。内部は一般的なバルキリーよりも圧倒的に狭く、手の先三十センチのあたりに内部機材が詰め込まれていた。

「所々木製じゃないの大丈夫なの」

「確約は出来ん」

「って言うかなんでドッグファイトしなきゃいけないのよ。もっとこう平和的に会談とかしないわけ」

「こんな嵐の夜に、何の連絡もなく、どこの所属かも分からないステルス機をわざわざ二機も派遣している奴らと話し合いができるのなら、牧師はいらない」

「だとしても、じゃあこの飛行機で逃げればいいじゃん」

「相手はVF14、最高スペックはマッハ三・八の化け物だぞ。こんなレシプロ機もどきで逃げ切れる訳ねぇだろうが」

「じゃあどうするのよ」

「こうするのさ」

白木が岩壁に取り付けられたボタンを操作する。すると鈍い鉄の擦れる音と共に赤い水上機が乗せられてた台座から少しずつ滑り落ちて、そして地面に掘られたレールをゆっくりと降りてゆく。まもなく、洞窟の端、そのまま海へとつながっている小さな湾へ少しの波を立てて滑り降りた。

「これで迎撃するの。正気なのあんた」

「ほれ」

怒鳴っていたマリーダに放られたのは小ぶりのフルフェイスヘルメット。それはまるでバルキリーのパイロットヘルメットの様であった。

「まさか、私に操縦しろって言わないわよね」

「まさか、お前は後ろで大人しく座っとけ、もうここには戻って来ねぇんだからな」

「撃退するんじゃないの」

「ここに襲撃が来た以上、ここに居続ければすぐに増援も来るだろう。そうしたらもう勝ち目もない。とりあえず別の場所までそのまま逃げる。」

「結局VF14対策は出来て無いじゃない。速度が違うんならどうしようもないじゃん」

白木がコクピットの中に潜り込み、エンジンを動かし始めていた。

「全部入れたか」

「まだ半分くらい」

突如、地鳴りのような大きな音が聞こえ、地面が震え始めた。

「なによっ、これっ」

マリーダは洞窟内を反響する音に耳をふさぐ。

「もう来たか、」

「雷でも落ちたってのよ」

「雷様じゃなく、範囲弾だな、VF11は傷つけられなかったんだろうよ」

「範囲弾って、爆撃ってこと。そこまでするのっ」

「相当な厄ネタ引っ張って来やがって。この疫病神」

「好き好んで引っ張ってきてないわよ」

「この分だと、多分小屋を吹っ飛ばしたな。雷雨の夜、外に出ている可能性は少ないと踏んだか。時間がない。乗り込めっ」

「まだ全部積み込んでないわよっ」

「いいからさっさと乗れ、もたもたしてたらすぐに死んじまうぞ」

白木の手を借りて乗り込むと強制的にヘルメットを着けられ、またその先にチューブを繋げられた。

「ここ複座じゃないじゃん、倉庫って言うかただのデッドスペースじゃん」

「ちったぁ我慢しろ。外に括り付けられるのとどっちがいいっ」

「あとでぶんなぐってやる」

「通信はつながっているみたいだな」

「でもこれどうやって出るわけ」

眼前には確かに少しだけ穴は開いているが到底飛行機が出る事が出来るほど大きくは無い。白木はもう一度キャノピーを確認するといくつかのバルブを開いては閉じる。すぐに船体が揺れ始め、フロートが段々と水に沈み始めていた。

「浸水してるけどっ、本体まで水に沈みかけてるんだけど」

「マスクはついてる、多少の水漏れごとき気にするな」

「まさか潜る気っ。正気かよ。どこの世界に水の中を潜る飛行機があるって言うのよ。エンジンに水入ったらどうなるか分かってんの」

「そんなもん宇宙空間と同じだ、プロペラントの加圧でしてりゃ水は入ってこない」

「それに電子機器も乗ってるんじゃないの、海水に着いたらおしゃかじゃないの、大体空気中を飛ぶ設計なのに水の中で飛ぶってどういう発想よ」

「水も空気も流体だ。似たようなもんだ。プロペラも付いてただろう」

「絶対に違うと思うんですけどぉ」

「ちょっと黙ってろ、口開けてたら舌噛み切るぞ」

船体が完全に沈み、ゆっくりと進み始めた。

 




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