雲に覆われた夜の空に真っ赤な一つ伸びていく。
時代遅れの水上機が雷雲の中へと突っ込んでいく。
VF14の右翼からは煙が上がっている。あり合わせの機体なのだろう。非正規のバルキリーの改造機であることは間違いない。整備工としても両の手では余るほどの整備をしてきた機体でもある。何処が最も弱いかも、どこを修理するかも、どこが劣化しているのかも、探ることは難しくは無い。特に高価なドップラーレーダーを搭載していない使い捨てのバルキリーならば真下から、さらに水中から狙うのならばそれは不可能なことではない。
煙を上げるバンパイアを眼下に眺める。途中海面で仲間を拾ったのだろう。一時ガウォーク形態となってそして帰投していった。
「膝くらいまで水入って来たんですけど」
「沈んでないだけましだと思え」
「急上昇するならそう言ってくれないと、こっちにも心の準備ってものがあるでしょう」
海面から急上昇と、一瞬のスキを突いた迎撃、幸運にもうまくいったが次はどうなるか分からない。博打のような、いいや自殺行為と行った方が正しい。しかし、残念ながら死神とやらはこんな辺境には来てくれないらしかった。
「とりあえず赤点だな」
「なんの話よ」
「こっちの話だ」
男は軽く操縦桿を握りながら右手で脹脛に入った水を出していく。久しぶりの潜水にも何とか機体は耐えてくれたらしい。大きくたわんだ翼、開いたバルブからフロートに入っていた海水たちが流れ出して小さなプリズムの様に光ってそして落ちていく。風防についていた水も既に外気に流されてしまっていた。
「水に潜る飛行機って何よ、聞いたことないわよ、潜水艦かっての」
「うるせぇな、ハチの巣になってお陀仏になってないだけましだと思え」
「それとこれとは話は別よ、助けてもらう方法で死にかけたら意味ないでしょうが」
「本当にうるせぇ女だ」
東の空から上って来た太陽と反対の東へと舵を切った。
その操作によろめいた女から非難の視線を感じる。けれど言葉にはしなかったらしい。
そしてゆっくりと見慣れた空を旋回し始めた。
「本当に爆弾落としていったのね」
眼下に広がる島、そこには確かに彼女がここ数日を過ごしていたはずの小さなあばら家があったはずであった。しかし、今はもうその跡形もなく、丸く禿げあがった黒い跡があるだけだった。
「毎年、台風が来れば吹っ飛ぶ程度の小屋だ。無くなるのがひと月ふた月早まっただけそれだけの事だ」
「迷惑かけっぱなしで、悪いわね」
マリーダの謝罪の声は少し小さく、どこか元気も無いように思えた。
「謝罪の言葉にしてはぞんざいではないか」
「なによ、せっかく人がしおらしくお礼言ってるのに」
「自分でしおらしく何て言っている内はまだまだってことだ」
「今ここが空の上じゃなったら蹴飛ばしてるところよ」
「耳元で喚くな、飴でも舐めてろ」
「なによ、もう」
飴をなめながら流れていく景色を横目に目の前に座っている白木の背中を眺めていた。
「ありがとう」
「何か言ったか」
「言ってないよ、バーカ」
とりあえず、嵐を抜けた空は洗濯し立てのように真っ青だった。
とりあえずこれで終了です
三部作で予定されていた九十分映画の第一作目というスタンスで書いていました
いろいろと設定も考えていましたがあまりうまく文章にもできず、人気もでなかったので続きを書くは分かりません
稚作ではございますがここまで読んでくださった方、お気に入り登録をしてくださった方、感想をくださった方など本当にありがとうございました
またどこかでお会いしましょう