マクロスM   作:廓然大公

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第2話

 「まじか」

 携帯に届いたのは事務所からの連絡のメールだった。

画面に映った『中止』の二文字だけが大きく強調されて見える。他のフォントよりも大きいわけでもないその二文字、しかし、その言葉よりも大きく映った。

「はぁ」

終業後のロッカールーム、コスチュームを脱ぎ、私服のシャツ姿に着替えた。やはり予想してはいたもののこうして言葉にされるとまざまざと現実を突きつけられたように感じる。各事務所に自分の歌のテープをばらまき、やっとオーディションをしてもいいと言ってくれた事務所からのオーディション中止のメール。間が悪いにも程がある。

「やっぱり駄目だった」

薄暗いロッカールームに入ってきた同僚であり友人のジェーンが声をかけてきた。

「社長も専務も皆被害にあって今オーディションがどうとかそんな事態じゃないんだって」

「それはなんともひどいな」

「まぁ、命あっての物種ってことではあるんだけどね」

一か月前、この新マクロス級超長距離移民船団マクロス・エクソダスは中距離ワープを行った際にその一部がフォールド断層接触してしまった。接触したアイランド4は居住者の少ない農業船であったために人的被害は少なかったものの、食料供給に大きな問題を抱えることとなってしまった。特に作物の生育状況など地球と近い環境を構築しなければならないために大規模な修繕が必要となり、そのために予定航路を一時変更し、最近の惑星カナルグランデへの一時的な寄港を余儀なくされていた。そのほかにも今回の事故によってマクロス・エクソダス船団は修繕のための備品や様々なリソースの流出のために多くの物資が配給制になるなど統制モードが出され、多くの経済活動も停止していた。そのために芸能活動も一時的に完全にストップしてしまったのだ。

船団すべてが消失していたかもしれない事故であったために、最小限の被害であったことは喜ぶべきことではあるもののやはりオーディションのすべてが白紙に戻ってしまったことを考えるとダメージは大きい。今年だけでオーディションに落ちる事十五度。生活費のために始めたコンパニオンのアルバイトの方が本業になり始めている。

「これからどうするの」

ジェーンの何気ない言葉が心に刺さる。

「どうしたものか。とりあえず、統制モードが解かれるまではどうしようも無いでしょう」

「まぁ、確かに」

「それでこの極貧生活は結局いつまで続くわけ」

「確かあと二週間くらいでカナルガンデに着くって言ってたけど」

「あと二週間この生活はきついな、ただでさえ素寒貧なのに」

忌々しいメールを映していた携帯を鞄の中に突っ込み、思わず愚痴を漏らす。

「あんたは何時でもそうじゃない、むしろ配給の時の方がましな飯でも食べれてるんじゃない」

「人が凹んでいる時になんであんたはそうも人を背中から刺すような言葉が言えるのかね」

「他人事だからじゃない」

「なんて人の心が分からない奴め、鬼、悪魔」

「あ、ダーリンからメールだ」

喜々として携帯に向かうジェーンには既に自分の言葉は届いていないらしい。

「友達ならこういう時にもっと慰めの言葉を掛けたりするもんじゃないの」

「あんたに掛けるくらいならご飯にかけた方がいくらかましよ。どんなに凹んでも大体一晩寝れば回復してるじゃない。かけるだけ無駄よ」

「慰めようとする姿勢が大事なのではないのかね、ジェーン女史よ」

「この前落ちた時せっかく開いてやった慰め会を映画見に行っててすっぽかした奴に言われたくないわね」

「小白竜のリバイバル上映があるって聞いてつい」

ジェーンは大きなため息をつく。

「ほんとにもうこの小娘は。ストレス発散ならあと少しすればカナルグランデに着くし、そしたら統制モードも解ける。歓迎パレードとかそれに乗じたセールもあるみたいだし、それまで我慢しな」

「うへぇ」

「聞いてるんだか」

ジェーンはもう一つ深いため息をついて、携帯を触る。

「とりあえず今日はもう帰ってふて寝するわ」

溶けそうな体を何とか持ちこたえながら椅子から立ち上がった。

「じゃあもう帰るわ、お疲れ」

「はいはいお疲れさん」

ジェーンの気のない返答に見送られ、事務所を出た。

 

「あれマリーダもう帰った」

ジェーンのみが残っていたロッカールームにちょうどマリーダと入れ違いに入って来たのは彼女たちの先輩にあたるレイチェルだった。

「ええ、ちょうど今しがた」

「しまったなぁ、次のステージの相談しようと思ってたんだけど」

「ステージって、まだ統制モード中ですよ。いまエアショーなんてやったらそれこそ顰蹙買いますよ」

「そりゃもちろん、ステージはカナルガンデに着いてからの公演の事よ」

「歓迎パレードでは統合軍が飛ぶんでしょう。うちに依頼ありましたっけ」

統制モードであり、民間である自分たちにももちろんその影響は大きく、エアショーのための訓練も限られる状況であった。その状態の中でエアショーを行うのは事故の可能性も大きくなり危険でもある。

「歓迎パレードじゃ無いの。エクソダスの修理期間中がちょうどむこうの入植祭の時期と被ってるらしくてね。丁度いいし、この前の事故のフラストレーションもたまってだろうってことで、こっちもいろいろと出し物をしないかってことになって」

「それでうちのエアショーってことですか」

「そう、まぁ当分先のことにはなるからまだ時間はあるみたいだからいいけど。その時はコンパニオンの皆にも頑張ってもらうからよろしくね。」

「はーい」

そう言ってレイチェルはまたすぐ部屋を出て行った。

「入植祭、ね」

 そのひとりごとに答えるように、窓の外には見慣れた鉄の翼が轟音と共に飛び去って行った。

 




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