マクロスM   作:廓然大公

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第3話

 

じりじりと電話の音がする。その音に目を覚ました。窓の外に日の具合から言って既に昼を回った頃合いだろう。海風と日差しを遮る小さな林のおかげで蒸し焼きになることは避けることができていてもやはり熱いものは暑く、まだ六月だというのに既に夏の日差しにげんなりする。

 まず電話のかかってくることの無い自宅の固定電話。携帯も持たず、増して携帯電話の通信範囲外のこの島では唯一の電話の音が響いてくる。

 いつもならばアンテナからの信号線を引っこ抜いているためにまず鳴ることの無いその電話、久しぶりに聞くしぶといトロイメライの音色に仕方なく受話器を取った。

「はい」

「今何時だと思ってんだよ、白木、寝起きみたいな声しやがって」

電話の主はデナンだった。学生時代からの友人で、今は統合軍で軍人をしている。そんな彼からのいつも通りの電話、この島に一人で住む自分の生存確認のためでもあるその電話、三回に一回ほどしか出ないのではあるが。半年に一回ほどはわざわざバカンスがてらこの島にも遊びに来る面倒見のいい友人であった。

「何って先週やっと帰って来たんだからちょっとくらい寝ててもいいだろ」

ガジールガレージのあるエルサレーナ本島からもよりの島であるマルーナまで船を乗り継ぎ二十時間、そしてこの島へ帰ってくるのに小型船で丸一日、乗り換えも合わせれば四日程度かかってようやく帰って来た自宅だった。

「ってことはもうガジールの旦那のとこの仕事は終わったんだな」

「まぁな、先週、納船日も済んだからな。いつも通りに終わったさ」

「そいつは結構」

その多くの住居地が島であること、そしてその島に多くの運河が流れているために、カナルグランデの主要な交通手段として用いられるゴンドラと呼ばれる小型船舶が一般的であった。そして慣例的に五月の末日にその船舶の登録更新と定期的な点検が行われる、そのためにどこの整備工場もそのころは猫の手も借りたい忙しさになる。ガジールの営む小さな整備工場も又例外ではなく、白木は期間工としてその時期だけ整備のアルバイトをして生計を立てていた。

「ってことはもうしばらく仕事は無いわけか」

「金もたまったんでな。適当に釣りするのに忙しいからな、じゃあな」

デナンの言葉に不穏な空気を感じ、さっさと電話を切ろうとした。

「ああ、待て待て。まだ切るなよ」

「お前のその言葉から始まったことで一度でもろくなことがあったかよ」

「今度、行った時にマキシ屋の栗羊羹買ってってやるから」

「ちっ」

多くのグルメ雑誌やテレビなどのランキングには大体入っているマキシ屋の栗羊羹。そういえばそこの三男が同じ部署に入って来たと言ってた、多分その伝手だろう。

「話を聞くだけだ」

「よしきた。白木お前、ついこの前までエルサレーナ本島にいたんだろ」

「それがどうした」

「それじゃあ、二週間後にマクロス・エクソダスが寄港することも知ってるだろ」

「船団修復のための一時的な寄港ってやつだろう」

地球発の超長距離移民船団がフォールト断層に引っかかって流れ付いてきただのなんだのと補給と修復のために急遽、このカナルガンデに寄港することになったと昼のニュースで言ってた。

「船団の被害自体はあまり大きくは無いんだが、時期的にちょうど入植祭とも被るからその間いろいろと忙しくてな」

七月の第二週と、第三週はこの惑星カナルグランデの入植がなされたことを記念する入植祭が行われる。その二週間では多くの催し物や人気歌手によるコンサート、統合軍によるバルキリーの演武飛行などイベントが開催され、祭り一色の二週間となる。確かにそんな時期に別の船団の世話まで要求されれば人の手も足りなくなるのだろう。しかし

「アイランド船の修理の事なんぞ俺は分からんぞ」

「いや、それはあっちの船団の方と軍部でも十分賄えるんだが」

「含みのある言い方するじゃねぇか」

言葉を濁したデナンに詰め寄る。

なんだか雲行きが怪しくなってきたような気がする。

「入植祭であっちの船団もバルキリーの模擬戦も含めて参加したいって言ってるんだ」

「勝手にすればいいだろうが」

「それでな、民間の部隊も参加するんだがな、そのための整備工がいなくてな」

「断る」

最期の言葉が聞こえる前に受話器を叩きつける。

すぐにまた着信が鳴り始めるものの電話線を引っこ抜けばその喚きも止んだ。

「ふぅ」

ただでさえ一年で最も面倒な五月が終わったのだ。誰がわざわざさらに面倒な他船団の飛行機の整備に行くだろうか。

再び静寂の戻った部屋の中、水を一杯飲むと、外につるしてあるカウチに飛び込む、ちょうどいい日陰と、心地よい海風が肌を撫でる、すぐに二度目の寝息が聞こえ始めてきた。

その日はゆっくりとした凪の海の日であった。

 

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