マクロスM   作:廓然大公

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第6話

 深夜一時、マクロス・エクソダス、アイランド3にあるエアサーカス・トライスターオーケストラの基地事務所通称ベースオリオン。契約社員であるコンパニオン、マリーダによるVF11を奪取した亡命疑惑事件。一時的にマクロス・エクソダスとカナルグランデ統括政府との関係悪化、あわや開戦となりかけていた窮地も本人の所在が確認されたこととカナルグランデ上層部との交渉の結果、ひとまず落ち着いていた。捜索隊は解体され、多くの社員たちも既に帰宅した。

 そんな事務所の中、一つだけまだ明かりがともっていた。広報そしてコンパニオンたちの上司でもあるレイチェルの机にはまだ明かりが灯っている。

「変な表示が出たねぇ」

 デスク画面には衛星写真が映し出されていた。半月状の小さな島、地図上では『ロッソ島』と名付けられたその島が、マリーダが墜落したという有人島であった。

「変な表示が出て、なぜこの島に墜落したの」

何かしらのバグが発生したのか、

それとも燃料的にここに墜落したのか。

誰かが作為的にこの島に墜落させたのか。

現時点では何も分からない。何の証拠もなく、なんの手がかりもない。少なくとも彼女一人に長距離のフライトの技術がないことは周知の事実であり、故意であそこまで逃げたのであれば誰かの補助がいる。しかし、故意であるならば何が目的なのか、何のためにあんな辺鄙な島まで逃げたのか、なぜわざわざ連絡をよこしてきたのか。何も分からない。

考えれば考えるほど沸騰しそうになる頭、熱を冷ます様に息を吐きながら伸びる。

「んんっー」

自分以外に残っている職員もおらず、既にフロア全体の明かりは消されている。壁際に置かれたデスク、しかし、伸ばした手が付くほど近くは無い。しかし、伸ばした手が何かに当たる。そして額に感じる冷たく硬い感触。

「ん」

咄嗟に振り返ればやはり見覚えのあるカイゼル髭が見える。

「ご苦労さん、こんな時間まで大変だな。三十代はお肌の曲がり角、早く寝ないと危ないぞぉ」

「余計なお世話です。セクハラで訴えますよ」

額に乗せられていたのはいつも通りの缶のカフェオレ。そして、いつものように音もなく部屋に入りこんでいたのはバルキリーソーレ部隊のカデラだった。

「マリーダちゃん、見つかったらしいな」

「ええ、何とか。バルキリー部隊の方々にもご迷惑おかけしました」

「いいってことよ。けどなんでわざわざマリーダ嬢ちゃんがバトロイドで倉庫整理なんてしてたんだよ」

「軍からの出向命令もありましてとにかく人手が足りてないんです。技術者もそうだし一般の事務方も、それに入植祭のあれこれあって猫の手も借りたい状況だったのでコンパニオンの子たちにもいつもより多めにしてもらってたんです。」

「なるほど、確かにバトロイドの操縦くらいだったらパフオーマンスのためって教えてたっけな」

「ええ」

窓の外、小さなテラスデッキに出るとまだ明かりの灯った繁華街が見える。ここからは随分遠いその夜景を見ながら缶を煽る。いつもならばあまり匂いのしない夜の空気も、カナルグランデの大気が入り込み、少し温い潮の香りが漂ってくる。

「バルキリー乗りとしてはどう思います。変な表示が出たっていう報告は聞いたんでしょう。」

「変な表示と言われてもな。どんな表示が出たかによって変わるところではあるんだけどな。とりあえず整備は万全にしてあったはずだし、特に異常が見つかったとは聞いていないんだが」

「それじゃあなんで搭乗者の操縦も無しに飛び立っていったっていうんですか」

「分からん。カナルグランデに着て何か特異的なバグが発生したか、強力なゴーストでも取りついたか。それか」

「それか」

「誰かがわざわざそうなるよう仕組んだか」

やはりその答えにたどり着くのか、レイチェルはまた一つため息をつく。

 逃走がマリーダによるものでなく、機体の故障によるものでなければ、なにか、誰かがそうなるように仕組んだとしか考えられない。そうなれば基地内に誰かそうなるように仕組んだものがいるということになる。

しかし、そこでも疑問が出てくる。何のために仕組んだのか。

「今そこまで考えても仕方ねぇだろ。とりあえず今はさっさとお嬢ちゃんと機体を回収することを考える。そうだろう」

「ええ」

「そんなに考え込んでたら駆け足で老け込んじまうぜ」

「レディに対して言い方ってものがあるんじゃありませんか、隊長」

「まぁ、俺としては乳臭い小娘より酸いも甘いも噛分けた女性の方が魅力的に映るぜ」

右手をピストルの様に構え口で軽く発砲音をまねる。それが冗談の下手な彼の気遣いであることは簡単に想像がついた。

「はいはい、それじゃまだ隊長のストライクゾーンに入らない様に程々に頑張りますよ」

自分の表情から何かを感じ取ったのか、カデラは手を叩きながら言った、

「んで、これがそのお嬢ちゃんが落っこちたって言う無人島か」

「一応、人は住んでいるらしいです。管理人のような男が一人いるだけだと。一応、保護してもらっているみたいですけど、電話にも出てもらえませんでしたし、万が一もないとも言い切れませんし」

画面をのぞき込んだカデラは少し眉を顰めるまたすぐに笑った。

「島の名前は」

「ロッソ島って書いてありますけど」

「ロッソ島」

カデラは苦笑すると少し困ったように眉をひそめて、そして笑いながら首を振った。

「じゃあ、大丈夫だろう。そこにいるのはただのモグラだよ」

「知り合いなんですか、その男の人と」

缶コーヒーを傾けカデラは少し笑う。

「仕方ない、久しぶりにモグラ釣りにでも出かけるとするかな」

レイチェルの疑問には答えないまま、カデラは部屋を出て行ってしまった。

首を傾げたまま画面に映った島を見る。

外周五キロもない小さな島、インフラ整備からも外れた小さな島、随分前に書かれた紙の登記簿は全体的に白く、必要最低限の記載のみ。そして、一カ所だけ、悪筆な署名があるだけ。

土地所有者 白木コウジ

それだけが書いてあった。

 




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