マクロスM   作:廓然大公

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第9話

 

 ネルーシロ空軍基地はニューヴェネツィア本島に建設された新統合軍カナルグランデ支部の中でも最も巨大な航空基地である。陸地面積が少なく、住人の生活圏が分散しているためにカナルグランデ支部に陸軍は無く、代わりに発達した統合空軍が陸軍の任務も兼任していた。そのために最も大きな空軍基地であるネルーシロ基地は国防の要であった。大きな市程もある広大な空軍基地の中、私室から出て行くとすぐに廊下から走ってきた青年に呼び止められた。

「大佐、聞きましたか。」

「いつも通りのつまらない話をしているほど暇ではないのだが」

廊下を歩き始めると青年も又付き従うように歩き始めた。

「入植祭に今年はテセレ・バーグマンが来るって本当ですか」

テセレ・バーグマンは三年ほど前からよく名前を聞くようになり、じわじわと人気を上げてきた歌手であった。女優業やタレントとしてもマルチに活動し、昨年、ギャラクシーネットワーク内のユニバーサルボードでも八週連続一位という記録を打ち立てたばかり人気歌手であり、つい先日発表になった新作映画の主題歌も彼女の曲に決まりその人気は銀河中心宙域から遠く離れたこのカナルグランデでも十二分に高いものであった。

「誰から聞いた」

「ブレーメン隊のミーシャが言ってましたよ」

「あの野郎は鯖折りだ」

「ってことは本当ってことですね、やった、最高だね」

げんなりした大佐の姿とは対照的に青年の方は興奮気味についてゆく。

「そんなに人気なのか、そのテレセ何某というのは」

「テセレ・バーグマンですよ。知らないんですか。新たなリンミンメイ、シャロンアップルを超えた女、ファイヤーボンバーと肩を並べる銀河の花って」

「名前は聞いたことがある」

「流行に流されない硬派なのもいいとは思いますけど、そんなんじゃすぐにミランちゃんに『洗濯物一緒にしないで』とか言われますよ」

「サラグン伍長」

「はいっ」

突然の大声に驚いた青年は反射的に棒立ちになり、啓礼の決まりポーズへと固まった。

「守秘義務違反並びに上司への不適切な発言による名誉棄損によって減給三日を言い渡す」

「横暴だ、権力の暴走だ、今度、ミランちゃんに会ったらある事ない事吹き込んでやる」

「減給五日」

「大佐万歳、ミランちゃん万歳」

「よし」

適当な雑談の間に着いた目的地には既にいつもの部隊員たちが揃っていた。

「揃っているな」

「アイテール小隊総員八名集合八名欠員無し」

しれっと隊列に加わったサラグンを含めた八人が部屋の中に整列している。

「よろしい、早速だがブリーフィングに入る。」

カーテンが閉められ、同時に部屋の明かり落とされ部屋正面の壁に地図が映し出された。

「既に資料は確認済みだと思うが今回も又反政府ゲリラの根城を掃討する。場所はデレル北東、ニーシャ島西岸。二週間前の爆破テロ未遂の犯人マデライ・ポルテソが所属していたテログループ、ラ・カレオーンの一派が潜んでいると考えられる。ラ・カレオーンは先月逮捕された反政府ゲリラの支援者ナインテ・カンを失ったことにより現在弱体化が進んでいる。他組織に合流される前に殲滅しておきたい」

部屋のプロジェクターには細かな行動予定が映し出され、綿密な行動計画が組まれてゆく。

「敵はバンパイア十二機とケーニッヒ三機を所有していることが確認されている。またこれまでの戦闘行動の傾向からまだ隠し玉があるとみて間違いない。相手は鼠だが、窮地に陥れば何をするか分からん。心して作戦に挑むように」

「質問をよろしいでしょうか」

「アーケン軍曹、質問を許可しよう」

「入植祭のステージ警護はわれらネルーシロ航空部隊が担当すると聞いたのですがそれは本当でしょうか」

「それは今回の作戦に必要なことかね」

「必要ですとも、主に我々のやる気のために」

鼻息の粗い小隊委員に頭を抱える。決してやさしくは無い試験や訓練を受けバルキリーのパイロットとなった彼等ではあるもののどうにもこのお気楽さは抜けないのだ。

「確定情報では無い事柄を言う事は出来ん。しかし、この作戦の結果次第では記念すべき入植祭を飾る花たちを守る栄誉を預かることはできるかもしれんな」

「「「「「「おおっーーーーーー」」」」」」

言い終わる前に雄たけびを上げる男たち、野太い男たちの怒号に耳をふさいで耐える。

「マジかよ、俺この前のライブ全部外れていけなかったんだよ」

「ファーストシングルの曲もやってくれんのかな」

「でも時期的に『きみたね』のマイフェアダーリンはやってくれるだろうな」

「どうしよう、全くこっちのことは見てくれないけど舞台裏をのぞける可能性のある警護部隊に入るか、ほとんど観客としてライブを百二十パーセント楽しめる警備部隊に入るか。苦渋の選択だ」

「警護部隊に決まってんだろ、もしかしたらこっちを見てくれるかもしれないんだぞ、それも肌の触れ合う様な距離で」

「でもよく考えてみろ、いくら俺たちが軍からの警護部隊だからって多分事務所のボディーガードとかも付いてるんだろ。まったく触れ合いが無いくらいなら観客としてではあるものの確実にこっちを見てくれる警備部隊の方が得なんじゃないか。実際にライブに来れる奴なんてほとんどいないだろうし」

「でも逆に考えればテセレに触れられる確率が万が一にもいいや億が一はあるってことだろ。そこに掛けなきゃ男じゃないぜ」

「テセレに触ったら事務所に撃ち殺されるんじゃねぇの、むしろ俺が撃ち殺す」

「みんな元気でほほえましいな」

それぞれが銀河の歌姫の来訪に胸をときめかせる。その時、

パァァンッと部屋の中に破裂音が響いた。

微笑みながら頷くサラグンの横っ面を持っていたバインダー叩いたための破裂音。破材チップの薄い合板が半分で折れてしまっている。芋虫のようにのたうち回るサラグン。

「なんで僕だけ」

「連帯責任だ」

「そんなんだから靴下臭いっていわれ、ぐふ」

頭を踏みつけられながらも反骨の意思を放つサラグンは少し涙目であった。

「お前ら、仕事、しろ」

ひまわりの咲くような微笑み、しかし軍服の上からも分かるほど大きく膨れた鋼の体、その右手は血管が浮き出るほどに握りしめられ、握られたバインダーが割れる音がした。

「マルキュウサンイチ、アイテール小隊、第八―二―五作戦に着任いたします」

その声と共に隊員たちは蜘蛛の子を散らす様に散ってゆく。足の下にいたはずのサラグンもいつの間にか抜け出し何処かへと消えていった。

「さて」

ここ数か月、増えてきたのは反政府ゲリラの拠点襲撃任務。入植祭でのテロを警戒して、この時期には例年取り締まりが強化される。しかし、今年はその量も段違いに多い。

「エクソダスか」

マクロス・エクソダスという新たな一団の登場。統括政府としても友好的に受け入れた彼らに万が一に事態があれば国際問題にも発展することは明確。そうなった場合もこの星に未来は無いだろう。

「その上にテセレ・バーグマンか」

近隣の星から訪れる無数の観光客。安全のために政府が神経質になるのも無理はないだろう。しかし、強硬な弾圧はどこかにしわ寄せがくる。そのエネルギーが高まり、膨れ上がったときには、どうなるか見当もつかない。

一つ息を入れる。閉まっているカーテンの隙間からは窓の外が見えた。

「雨が降るな」

西の空には大きく厚い雲が見え始めていた。

 

 

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