一方、ダンテ達はケルベロスの協力でエウリュディケーとペルセポネーを見つけるが、錯乱状態のオルフェウスによって、エウリュディケーが連れ去られてしまう。
「本気で私から逃げられると思っていたのか?」
十二夜叉大将の長―骸は、己の下に組み敷かれている相手を眺めた。
悔し気に睨み付けているのは、超国家機関『クズノハ』最強と謳われている悪魔召喚術師(デビルサマナー)、17代目・葛葉ライドウだ。
何時ものカジュアルジャケットとビンテージジーンズの姿ではなく、皮の肩当と鎧。
クナイを収めている赤の腰帯に仕込みナイフの籠手を両腕に付けていた。
「畜生!父さんを離せぇ!!」
その少し離れた所では、宮毘羅大将 の配下である黒脛巾組(くろはばきぐみ)に捕えられている義理の息子―遠野明が噛みつかんばかりの勢いで吠えていた。
『クズノハ』が幾つか持っている収容施設の一つ。
そこから大事な巫女を連れ去ったのは、事もあろうに葛葉四家の一人、葛葉ライドウその人であった。
人柱候補の一人として選ばれてしまった我が子を救う為に行った実父の蛮行である。
しかし、優秀な内通者のお陰と17代目が組織に義理を感じたのか、GUMPと歴代ライドウの証である”草薙の剣”を携帯していなかった為、多少の犠牲は出たモノの、何とか捕縛する事には成功した。
「はぁ・・・はぁ・・・た、頼む・・・俺はどうなっても良いから、息子の明だけは許してやってくれ・・・。」
番が居ない状態で、無茶な魔法を発動したせいか、蒼い魔眼のある左眼から血を流している。
躰はすっかり衰弱し、ロクな抵抗も出来ない。
「ふん・・・どうやらお前は躾し直さないと駄目らしいな?ナナシ。」
組み伏せられる義理の父を見つめる幼い息子の姿に何かを感じ取ったのか、骸は冷酷な微笑を口元に刻む。
そして、病的に白い肌をしている人差し指をライドウの首筋に当てた。
「な・・・何を・・・・?」
途轍もなく嫌な予感がする。
怯えた黒曜石の瞳が、冷淡に光る深紅の双眸を見上げた。
「悪い子にはお仕置きをしないとな・・・。」
みるみるうちに変貌していく骸の指。
長い触覚に鋭い牙、幾つも蠢く節足動物特有の脚。
それは、蛇の如くのたうつムカデであった。
きめの細かいライドウの白い肌を這い回ると、右外耳道に何の躊躇いも無く入り込む。
「がぁあああああああ!!」
激痛と怖気に骸の下で激しく暴れる。
しかし、冷酷な主は、そんなライドウの姿を見るのが楽しくて堪らないと言った様子で、残忍な微笑みを浮かべながら難なく抑え込んでしまう。
「お父さん!!」
白目を向いて暴れる父親の姿に、明が悲痛な叫びを上げる。
得意の念動力で、身体の自由を奪っている黒脛巾組の連中を跳ね飛ばしたいが、背に呪符を貼られている為、能力(ちから)が使えない。
「明君と言ったか・・・・確か君は今年で12歳になるんだったな?」
右耳から血を流す悪魔使いを組み敷いている美貌の青年が、黒脛巾組に捕えられている少年に視線を向ける。
弧を描く紅い双眸。
残忍な意図を読み取り、明の背を怖気が走る。
「学校で性教育はまだ受けていないかな?何だったら、今此処で私が教えてあげようか?」
そう言って、微かに痙攣を繰り返すライドウの躰から皮の肩当と防具、それから黒い装飾を乱暴に剥ぎ取った。
「いっ、嫌だ!それだけは・・・・!!」
情夫の意図を読み取った悪魔使いが、懸命に暴れる。
しかし、植え付けられた巫蟲(ふこ)によって躰の自由を奪われている為、ロクな抵抗も出来なかった。
造魔・ナイトメアから切り離された5個の球体から、細いビームが何発も発射される。
光速で撃ち出される魔力の弾丸を紙一重で躱すライドウ。
隙を見てクナイを投擲するが、ウルツァイト製の強固な外装が難なく弾き返してしまう。
「ちっ、流石にそう簡単にはいかないか・・・。」
魔帝ご自慢の大量殺戮兵器だ。
例えロケットランチャーをぶっ放しても、あの外装を破壊する事は不可能だろう。
(どんな強力な兵器でも必ず弱点はある筈だ・・・。)
地面を這い進むレーザーを躱し、誘導弾を合体剣『七星村正』で撃ち落としながら、ナイトメアの行動パターンを辛抱強く観察する。
すると、ある事に気が付いた。
この造魔・ナイトメアは、強力な攻撃をした後、僅かな時間ではあるが、頭部と尾部の外装を外し、球体を露出させるのだ。
恐らく熱くなった可動部を冷却させる為の行為ではあるが、確実にその球体がこの悪魔の弱点である事は間違いなかった。
コアを露出させ、冷却している時間は、1秒弱。
それだけあれば、確実に破壊可能だ。
「糞蟲、てめぇの出番だぜ?」
ライドウの魔力に反応し、右の首筋にある蛇の様な痣がビクビクと脈打った。
ソレは幾つも枝分かれし、右頬まで伸びる。
骸によって植え込まれた巫蟲(ふこ)が、宿主に魔力を与えているのだ。
お陰で魔力が枯渇する心配だけは無くなったが、すぐに腹を減らす蟲の為に、悪魔の持つマグネタイトと血液を得なければならなくなった。
「これが・・・”クリフォトの種籾”。」
ライドウと共にヘルズゲートに飛び込んだイギリスの女諜報員・トリッシュ。
彼女は、巨大な”クリフォトルーツ”の前に立っていた。
恐らく、コイツがこの異空間を生み出している動力源なのだろう。
まるで大樹の根の様に張り出した触手は、立っている地面の殆どを占め、雄々しくその巨体を晒している。
トリッシュは、その根元に小さな突起物があるのを見つけた。
幼い子供の掌ぐらいの大きさがあるソレは、心臓の如く定期的なリズムで鼓動を刻んでいる。
周囲に敵が居ない事を確認し、クリフォトルーツの根元まで慎重に近づいた。
異空間を創り出す為に存在しているので、侵入者である女諜報員が近寄っても何の危害を加える様子は無い。
おまけに、17代目・葛葉ライドウの存在が良い弾避けになっているのか、周囲に悪魔の姿は見られなかった。
「さて、これからどうしたものかしら・・・・。」
クリフォトの根から種籾を無事回収出来たが、現世に帰る手段が無い。
これだけ巨大な異空間をこの”クリフォトルーツ”だけで創り出しているとは考えにくかった。
恐らく、コレは制御装置の一つで他にも幾つか同じモノが存在しているのかもしれない。
ならば、大本を叩けば異界化が解かれ、元の現世に戻れるのではないのか?
そう、思案している女諜報員の足元から無数の触手が飛び出した。
慌てて咄嗟に避けようとするが、時既に遅く、触手の数本が彼女の脚に絡み付き、肉の地面の底へと引きずり込んでしまった。
「ジオダイン!」
ライドウが放った電磁の槍が尾部から露出したコアを刺し貫く。
赤ん坊の泣き声とも猫の鳴き声とも判別出来ない蛮声を上げる人造の悪魔。
矢鱈目たらにレーザーを放射するが、悪魔使いの少年に当たる事は無かった。
「残るは頭の部分だけか・・・。」
蒼い炎を上げる魔眼で、再びゲル状に戻って移動するナイトメアを見つめる。
ゲル状になって悪魔使いから距離を取っては、攻撃を繰り返しているところをみると、余り接近戦は得意ではないらしい。
しかし、油断は禁物だ。
どんな隠し玉を持っているか分からない以上は、此方も慎重に行動した方が得策かもしれない。
「!!」
と、突然、ナイトメアの背後にある肉の壁が盛り上がった。
そこから、ネットで身体を拘束された女諜報員・トリッシュが現れる。
クリフォトルーツから、無事種籾を回収出来たが、ナイトメアに見つかり、あえなく捕まってしまったのだ。
「トリッシュ?何故、君が此処に・・・?」
予想もしていなかった第三者の登場に、ライドウが驚きで目を見開く。
「ご、御免なさい・・・貴方の仕事を邪魔するつもりじゃなかったのよ。」
己の不甲斐なさに苦笑を浮かべる。
得意の電撃魔法で逃れ様にも、四肢を雁字搦めにされては遺憾し難い。
「後で幾らでも謝るから、何とか助けてくれないかしら?」
「やれやれ・・・・。」
全く悪びれた様子も無い女諜報員に、ライドウは盛大な溜息を吐く。
これで優劣はあっという間に逆転してしまった。
これ見よがしに人質を盾にする人造の悪魔に、どうしたものかと思案する。
「仕方ねぇ・・・魔力を大分喰うが、最上級悪魔(アレ)を使うか・・・。」
腰に下げてあるホルスターから、愛用のGUMPを取り出す。
蝶の羽の如くパネルを展開。
それと同じくしてライドウの躰を蒼白い文様が包む。
「”契約の天使”よ!我に力を貸せ!」
天に浮かび上がる巨大な法陣。
そこから、白く美しい羽根を持った巨人が舞い降りる。
長い首に折れ曲がった関節。
細く小さな胴体に反して、その両腕は大きく、一見歪な人形にも見える。
しかし、半透明の外装とそこから見える七色に光る内部骨格。
王冠の如く雄々しい兜と純白の羽根が見る者の心を簡単に奪った。
「あれが・・・・17代目が持つ3体の最上級悪魔(グレーター・デーモン)の一つなの・・・・?」
ヒンドゥー教の最高神、ヴィシュヌも神々しい程美しいが、此方も負けず劣らず美しい。
(何て綺麗な天使なの・・・・まるで純白の乙女みたい。)
此方に向けて黄金の炎が灯る長弓(ロングボウ)を構える機械の天使に息を呑む。
「頼むから動かないでくれよ?」
金色に光るメタトロンと同じ弓を握るライドウが、最後のコアである頭部へと狙いを定める。
矢じりの先端へと集光する黄金の光。
魔導兵器・ナイトメアがコアレーザーを放つのと機械仕掛けの天使が金色の炎が宿った弓矢を射るのはほぼ同時であった。
破壊光線を薙ぎ払いながら、寸分違わぬ正確さで頭部のコアが収納されている強固な装甲を貫く。
刹那、魔を焼き払う神火が、魔導兵器とネットに囚われている女諜報員を包んだ。
「!!熱くない!!?」
魔導兵器ごと神の炎に焼かれている筈なのに、トリッシュは無傷であった。
暖かい光を放つ金色の炎は、彼女を全く傷つけず、捕えているネットだけを焼き払ってしまう。
宙に投げ出される金髪の女諜報員。
その身体を優しく受け止めた悪魔使いは地面に着地する。
「・・・一体何をしたの?」
数千万度の炎に焼かれ、解け崩れる魔導兵器を眺めながら、トリッシュは自分を抱き上げている男を見上げた。
「メタトロンの持つ”シナイの神火”は、強力な魔素を持つ悪魔だけを浄化させる。人間には全く無害な代物なのさ。」
例え強固な外装を持つナイトメアであっても、魔素によって生み出されている為、魔を討ち祓う神火には、無力なのである。
「・・・・!!?貴方、その顔!!?」
右の首筋から頬に走る不気味な黒い痣を見つめ、トリッシュが目を見張った。
脈動するどす黒い痣は、血管の如く幾つも枝分かれし、ライドウの頬を覆っている。
「気にすんな・・・それより、こんな胸糞悪い所から、とっとと退散するぞ。」
メタトロンは右腕に装着されているブレードを展開させると、魔導兵器によって生み出された異界の空間を切り開く。
ライドウはトリッシュを抱えると、その穴の中へと跳躍した。
砕け散る漆黒の兜。
甲板の縁に禍々しい甲冑を纏った魔剣士が叩き付けられる。
「マスターの言った通りだったな・・・。」
割れた兜から覗く素顔を認め、魔狼が溜息を一つ吐く。
死者の様に蒼白い顔と血管を浮き立たせているが、その顔は間違いなく3年前に対峙したダンテの双子の兄、バージルであった。
怒りと屈辱の色を滲ませた黄金の瞳で、漆黒の甲冑を身に付ける魔狼―クー・フーリンを睨み付ける。
「哀れな奴め・・・今楽にしてやる。」
一体、どういった経緯でバージルが魔帝・ムンドゥスの軍門に下ったのかは知らない。
寧ろ、彼にとってバージルの存在など、敬愛する主の命を脅かす敵にしか映っていなかったのだ。
今もそれは全く変わらないのだが、同じ武人として変わり果てたバージルをこのままにしておくのは忍びなかった。
真紅の魔槍”ゲイ・ボルグ”を構える。
形勢は一気に逆転。
此方が戦いの流れを完全に掌握している。
大剣を杖代わりによろよろと立ち上がるバージル。
魔帝によって洗脳され、父・スパーダの誇りも人間としての最低限の理性すらも奪われたが、その心の淵に眠る闘争心だけは決して失われない。
否が応にも高まる緊張感。
それを打ち消したのは、空間を突き破って現れた純白の巨大な機械仕掛けの天使であった。
「!アレは、大天使・メタトロン!?」
マスターである17代目・葛葉ライドウが所持する最上級悪魔(グレーターデーモン)の一体。
金髪の女諜報員を腕に抱いた己の主が、甲板へと降り立つ。
それと同時に、機械仕掛けの天使もその姿を霧散させた。
「うっ・・・・・。」
「ライドウ!」
まるで百足の如く右頬を這い回るどす黒い痣。
それを押さえて蹲る悪魔使いを女諜報員が心配そうに覗き込む。
「だ・・・大丈夫だ・・・少し魔力を使い過ぎただけ・・・。」
そう言いかけたライドウは、背後から迫る殺気を感じ取り、咄嗟にトリッシュを突き飛ばす。
二人の間に穿たれる大剣。
斬り落とされた特殊チタニウム製の義手が宙を舞う。
「貴様ぁあああああああ!!」
愛する主人を傷つけられ、怒りの咆哮を上げる魔狼。
繰り出された音速の斬撃が、魔剣士の躰を吹き飛ばす。
左肩から他方の脇へと切り裂かれ、真っ赤な鮮血を噴き出しながらバージルは、海上へと投げ出された。
「こりゃ駄目だ!装甲が硬すぎて全然ダメージが通らねぇ!」
ナイトメアの渾身の一撃。
しかし、オルフェウスと融合したチククの躰に傷一つ付ける事は敵わなかった。
誇らしく翼を広げ、月の女神・ヘカテーとその従者である二体の造魔を見下ろす。
「ふん、一丁前に障壁何て創れるんだ・・・本当、下種の癖に生意気。」
何時の間に出現したのか、巨人の周りには五つの球体が浮遊していた。
恐らくあの黒い球体によって生み出されたバリアーが、ナイトメアのレーザー砲を防いだのだろう。
魔女が忌々し気に舌打ちする。
と、その足元にエウリュディケーを安全なエリアまで避難させていた造魔・シャドウが戻って来た。
「お?やっとこさ猫ちゃんが帰ってきたぜぇ?」
「よし!それじゃ早速、魔装化するわよ。」
右の拳を左の掌で打ち鳴らし、ヘカテーが2体の造魔に合図を送る。
こんな下賤な輩にエリュシオンの神聖な空気を一秒も吸わせていたくはない。
「ヒャッハー!久しぶりに大暴れ出来るぜぇ!」
はしゃぎ捲るグリフォンとヘカテーの傍らにいるシャドウの躰に変化が起こった。
2体の造魔が眩い球体の光へと変化したのだ。
幾つもの光の球体へと別れるシャドウ。
それは鎧の形へと変わり、月の女神の華奢な肢体を覆って行く。
グリフォンは、巨大な鎌・・・・アダマスの鎌へと変貌。
獅子の鎧を纏ったヘカテーの右腕に収まる。
黒を基調にした禍々しい鎧に走る黄金のライン。
胸の中央には髑髏の装飾が施され、獅子を模った(かたどった)兜には、鋭い牙が並んでいる。
逞しい巨躯を誇る魔剣士の姿へと変わった月の女神は、眼前にいる巨人を睨み据えた。
最新ガンダムの主題歌『Vigilante』でテンション上げながら書きました。