己の信念の違いから激しくぶつかり合うライドウとダンテ。
一方、魔帝に改造されたバージルの躰に異変が起こった。
隻腕の悪魔使いが双子の兄、バージルの喉元に刃を突き立てた時、彼の脳裏を掠めたのは不浄なる地獄の門での出来事であった。
袈裟懸けに切り裂かれる兄、バージル。
その兄の返り血を吸った父の愛刀・・・・魔剣・スパーダ。
抑えきれない程の怒りと悲しみの感情。
己の躰の中で暴風雨が如く荒れ狂い、理性が弾け飛ぶ。
気が付くと、片腕の少年が持つ合体剣の刃を魔剣・スパーダで受け止めていた。
「嘘でしょ・・・・?」
目の前で起きている信じられない出来事に、マベルは思わず言葉を失った。
当初、一体何が起こったのか全く理解出来なかった。
ダンテの背負う大剣『フォース・エッジ』が眩く光り輝き、銀髪の青年を包んだ。
変わり果てた姿のバージルに合体剣『七星村正』の刃を振り下ろそうとするライドウ。
其方へ向かい一直線に飛んでいく光の矢となったダンテ。
次の瞬間、魔剣士・スパーダの姿となったダンテが、ライドウの刃をその魔剣で受け止めていた。
「痛てててて・・・一体何がどーなってやがんだよぉ・・・。」
床に這いつくばる神父姿の浅黒い肌の青年。
魔具から元の人間形態へと戻った魔神・アラストルだ。
「うおっ、あれは俺様のハニー・・・じゃなかった、人修羅様じゃねぇの!?」
組み合っていた刃を強引に振り解く隻腕の悪魔使いの姿を見て、アラストルが素っ頓狂な声を上げる。
数歩の距離を置いて睨み合う二人。
「これが最後通告だ・・・10秒間待ってやるから大人しく失せろ。」
「嫌だね、何度も言うがソイツは俺の家族なんだよ。」
お互い、悪態を吐き合いながら慎重に出方を伺う。
実父、スパーダの力に覚醒したとはいえ、相手はその魔剣士の力を軽く一蹴する程の最強の悪魔召喚術師(デビルサマナー)なのだ。
いくら、スパーダの正統な血統であるからと言って、簡単に勝てる様な相手ではない。
「!!」
その時、己の身を貫かんとする殺気を感じたライドウは、咄嗟に空中転回する。
魔力によって超人的に強化された筋力を使い、大きくトンボを切るライドウ。
その下をスティンガーを放つバージルが通り過ぎて行く。
「ヴィシュヌ!!」
悪魔使いの魔力に反応して、右の首根に留まっていたどす黒い痣が右頬まで侵食。
全身を蒼い文様が覆い、背後から魔神・ヴィシュヌが姿を現す。
ヒンドゥー教の最高神は、己の真下にいる魔剣士を巨大な掌で押し潰してしまう。
「ぐはぁ!!」
口から大量の血を吐き出し、破壊された回廊の床ごと、階下へと落とされるバージル。
回廊内に轟く破壊音と瓦解音。
その衝撃によって、天井から漆喰が雨の様に降り注ぐ。
「ち、まだ死なないのか・・・意外としぶとい。」
魔神の容赦ない一撃を喰らい、階下に叩き付けられてもバージルに止めを刺すまでには至らなかった。
よろよろと立ち上がる魔剣士を見つめ、ライドウは、切断された義手に魔力を集中する。
すると、ヴィシュヌと同じ黒い装束に包まれた腕が実体化した。
「やめろって言ってんだろうが!」
怒りの怒号を上げて今度は、魔人化したダンテが襲い掛かる。
だが、その身体が突如吹き飛んだ。
魔具・イフリートを解放したライドウの番、クー・フーリンが高速移動でダンテの眼前に回り、強烈な回し蹴りを喰らわせたのだ。
分厚い大理石の壁を破壊し、瓦礫の山に埋もれるダンテ。
その衝撃で魔人化が解けてしまう。
「て、てめぇ・・・・。」
不意を突かれ、大ダメージを負う魔狩人。
そんな便利屋を魔人化したクー・フーリンが侮蔑が多分に宿った瞳で見下ろす。
「申が・・・・大人しく引き下がれば良いものを・・・。」
愛する主は、この不敬の輩に対し寛大なる慈悲を与えた。
にも拘わらず、この男は己の未熟さを少しも自覚せず、愚かにも主の邪魔をしようとしている。
壮絶な怒りが腹腔を焼き、隠し様もない殺意が全身に漲る(みなぎる)。
「志郎、そのままソイツを抑えとけよ?」
階下へと落下したバージルに止めを刺すべく、大穴から下に降りるライドウ。
魔狼は無言で頷くと、魔剣・スパーダを杖代わりに立ち上がるダンテを燃える深紅の瞳で睨み据える。
「ふざけんな!バージルはてめぇ等には殺させねぇ!!」
再びスパーダの姿へと魔人化するダンテ。
大剣を振り上げ、眼前に立ちはだかる魔槍士へと猛然と突進した。
ムンドゥスの居城・・・王の間。
その玉座に座る巨大な像・・・魔帝ムンドゥス。
「いくらスパーダの血族とはいえ、あの化け物には敵わぬか・・・。」
透視能力を使い、居館(パラス)と礼拝堂(カペレ)を繋ぐ回廊で行われている激闘を眺めていた魔帝は、苛々と舌打ちした。
今から3年前、魔界の淵で気を失っていたバージルを発見し、拾ったのが誰であろう魔帝・ムンドゥス自身であった。
何かに使えるかもしれぬと、己の中に宿る”クリフォトの結晶体”を分け与え、忠実な下僕へと魔改造した。
ネロ・アンジェロへと生まれ変わったバージルは、鬼神の如き働きをしてくれたが、やはり、四大魔王の一人”反逆皇・ユリゼン”を倒した人修羅には、足元すらも及ばない。
遥か昔にオリュンポス神族によって負った胸の古傷がズキリと疼く。
人修羅・・・・17代目・葛葉ライドウの力は、オリュンポス十二柱最強と謳われる戦女神・パラスアテナに匹敵するかもしれない。
悪魔と人間の間に生まれた雑種如きでは、敵わぬのは当たり前だ。
「矢無負えんな・・・こうなったら余自らが出向くより他はあるまい。」
ムンドゥスは、バージルの心臓に寄生しているクリフォトの果実へと意識を飛ばした。
相当なダメージを受けているのであろうか?
魔帝の改造により、頑強な肉体を得ている筈のバージルは、最早立ち上がるだけでもやっとの状態であった。
大剣を振り上げる気力すら無い。
しかし、未だに闘志の炎は消える様子は無く、眼前に降り立つ悪魔使いを黄金の双眸で睨み付けていた。
「御免な・・・お前は何も悪くない・・・本当は被害者なんだけどな・・・生憎、俺は人間側でしか立ってモノが見えないんだよ。」
ブルブルと痙攣を繰り返す両脚を叱咤し、何とか立ち上がるバージルを憐憫の情で見つめる。
そして、視線を魔剣士の後ろにいる血塗れの少女へと向けた。
「悪いな・・・これ以外に君の大事な人を助ける方法が無いんだ。」
鈍器で頭蓋を割られ、血を流す高校生ぐらいの少女。
怒りと悲しみで満ちた視線で、蒼い炎を左目に宿す悪魔使いを見つめている。
「ぐぉおおおおおお!!」
計8本の魔力で作り上げられた剣・・・”幻影剣”を自分の周りに展開させ、大剣を手に悪魔使いへと突進する魔剣士。
ライドウも魔力で造り出した義手を構え迎え撃つ。
悪魔使いに向かって次々と発射される幻影の剣。
しかし、そのどれもが不可視の壁によって阻まれ届かない。
ライドウが強固な防御シールドを張り巡らせているのだ。
「無駄だ。」
魔力で編まれた義手を槍の様に変形させる。
右手に持つ合体剣・『七星村正』と魔力の槍を巧みに操り、魔力で生み出された剣を硝子細工の如くあっさりと破壊。
機動力を削ぐ為、独楽の如く低く旋回し、バージルの右脚を斬り落とす。
バランスを失い前のめりに倒れる魔剣士。
悪魔使いの情け容赦の無い連撃は、バージルの左腕を付け根事奪い取ってしまう。
声にならない絶叫を上げるバージル。
動く脚と戦う腕をもがれ、無様に地面へと這いつくばるその姿は、かつての誇り高い男と同じ人物とは到底思えない。
「お前の無念は俺が必ず晴らしてやるから、安心して眠ってくれ。」
倒れ伏すバージルの側へと歩み寄る。
逆手に持った『七星村正』の切っ先を心臓がある位置へと狙いを定めた。
一分でも否、一秒でもこの苦しみから解放してやりたい。
銀色に光る合体剣の刃。
それが振り下ろされる刹那、バージルの肉体に変化が起こった。
「うぉおおおおおおおお!!」
「ぬぉおおおおおおおおお!!」
二つの怒号が回廊内に響き渡る。
交錯する鈍色の刃と紅蓮の炎。
振り下ろされる大剣の刃を魔具の籠手が受け止め、襲い来る火球を魔剣・スパーダが叩き落す。
スパーダの力に覚醒したダンテ。
漆黒の鎧に身を包み、魔狼へと魔人化したクー・フーリン。
互角の戦いを繰り広げる二人。
その衝撃は、回廊の壁や床を破砕し、闘いにより発生する振動が居城内を揺るがす。
「志郎・・・・・。」
最強の悪魔使い、17代目・葛葉ライドウの番であり、『クランの猛犬』の通り名で、悪魔達から恐れられている魔槍士。
その魔槍士相手に、拮抗した戦いをしているのは、つい先程まで、魔力を使用した戦い方すらも知らなかったずぶの素人だと、誰が判るだろうか?
「す、凄ぇ・・・これが伝説の魔剣士・スパーダの力かよ・・・。」
人型へと戻った魔具・・・・魔神アラストルもこの想像を絶する怪物達の死闘を見つめていた。
魔剣スパーダと炎の籠手・イフリートとの鍔迫り合い。
橙色の火花が、暗闇に沈む回廊を明るく照らし出す。
「お前の兄はもう死んだのだ・・・いい加減現実を受け止めろ。」
「うるせぇ!そんなのてめぇに言われなくても分かっているんだよぉ!」
お互いの得物越しに激しく睨み合う。
刹那、彼等の立っている回廊の床が激しく揺れ始めた。
驚嘆する一同。
その間にも振動は、回廊全体を揺り動かす程大きくなる。
「何かヤバそうな雰囲気だぜ・・・。」
立ち上がった浅黒い肌をした神父姿の青年が二、三歩後ずさる。
その傍らにいる小さな妖精は、回廊の床・・・・そのある一点を見つめていた。
「・・・ペルーダ・・・・・?」
ハイピクシーのマベルがそう呟くのと床を破壊して巨大な何かが現れたのは、ほぼ同時であった。
鎧の如き強固な緑の鱗とその背に並ぶ槍の如く突出した角。
蛇の尾を持ち、鋭い牙が並ぶ顎から毒の息吹を吐き出している。
その姿は一言で現すならば、龍(ドラゴン)。
北欧神話等で登場する邪悪な龍が、階下を突き破ってその禍々しき姿を露わにした。
「ちぃ!ペルーダまでいるのか!?」
かつて旧約聖書に語られる『大洪水』を生き抜いた恐るべき生命力を誇る龍(ドラゴン)。
魔帝は、こんな化け物まで配下にしているというのか?
鍔迫り合いを一旦解き、大きく跳躍して離れる魔槍士と魔剣士。
両者が見上げる視界の中で、破片に紛れて小さな人影が落ちて来るのが見えた。
その人影は、宙で華麗にトンボを切ると、マベルとアラストルのすぐ近くに着地する。
魔帝・ムンドゥスの下僕と成り下がったバージルと死闘を繰り広げていた17代目・葛葉ライドウだ。
「ライドウ!!」
敬愛する主の姿を認め、マベルがその傍らへと近づく。
しかし、顎から右頬までビクビクと脈動する不気味な痣を見つけると、気味が悪そうに眉根を寄せた。
「ライドウ?まさかそれって・・・。」
「悪いな・・今は説明している暇がねぇんだ。」
バツが悪そうに、右頬まで侵食している巫蟲を右手の甲で隠す。
「人修羅様ぁ!無事だったんですねぇ!!」
そんな二人のやり取りを他所に、神父姿の青年が頓狂な声を上げて近づいた。
「ねぇ、あの龍ってもしかしてバージルなの・・・?」
「ああ、俺の考えが甘すぎた・・・まさかバージルの躰に果実の一部を植え付けているとは思わなかった。」
舌打ちし、変わり果てた姿のバージルを見上げる。
獲物(ライドウ)を見失った緑の龍は、狙いを魔人化したクー・フーリンとダンテに定め、毒の吐息を吐き出している。
「コイツを倒さない限り、ムンドゥスの野郎の所までは行けないな・・・。」
新たな襲撃者に戸惑いつつも、毒の吐息を躱しつつ、何とか反撃をしている二人。
しかし、魔具と同じウルツァイトで出来ている鱗は、余りにも硬く、二人の苛烈な攻撃を難なく凌いでいた。
「せめて人間として死なせてやりたかったが仕方がねぇ・・・マベル、バージルの心臓の位置は判るか?」
「う、うん!あの真ん中の棘の真下にあるよ!」
主の命令に、素早く索敵した妖精が的確に応える。
「よし、悪いがアラストル、お前の力を借りるぞ。」
「ふぁい??」
突然、隻腕の悪魔使いが自分の胸に右掌を押し付けて来た事に顔を真っ赤にさせる神父姿の青年。
何事?と疑問に思う暇もなく、再び魔具の姿へと変えられてしまう。
「ひ、ひでぇ!人型でも十分役に立てるのにぃ!!」
「ぴーぴー喚くな、俺の得物はそこに置いてきちまったんだよ。」
ライドウが、ペルーダの眉間に突き刺さっている七星村正を指差す。
魔帝・ムンドゥスの介入で、人型から龍形態へと変身した時、ライドウをその顎で呑み込まんと襲い掛かってきたのだ。
咄嗟に眉間に合体剣『七星村正』を突き立てたのだが、思いのほか深くまで刺さってしまい、抜けなくなってしまった。
「と、言う訳だから、最後まで付き合って貰うぞ。」
「うーん、まぁ人修羅様が使ってくれるなら良いか・・・。」
グリップから伝わるライドウの体温に鼻の下をだらしなく伸ばす。
あの銀髪の大男より、この美しい悪魔使いに使われた方が本望である。
心底惚れ抜いた相手なら、例え火の中水の中、魔界の最下層と呼ばれる『アマラ深界』にだって喜んで付き合ってあげちゃう。
そんな邪な桃色思考全開の雷神剣に、小さな妖精は心底軽蔑した瞳で見つめた。
城全体を揺るがす程の咆哮。
硬い鱗を持つ四足の龍は、二人の獲物に向かって炎の吐息を吐き出す。
それを左右に分かれて躱すダンテとクー・フーリン。
魔具イフリートを駆り、クー・フーリンが巨大な火球を放つ。
狙い通り頭部に命中し、大爆発を起こすが、大してダメージを受けている様子は無かった。
「やはり、火属性の攻撃は無意味か・・・。」
どうやらこの緑紫龍は、火属性らしい。
魔具イフリートでは不利だと判断した魔槍士は、すぐさま武器を愛槍”ゲイ・ボルグ”へと変える。
「バージル・・・お前なのか・・・・・?」
踏み潰そうと頭上から降り下された巨大な前脚を大きく後方に跳んで回避したダンテが、緑紫龍を見上げる。
殺意に濡れる深紅の双眸。
全てを噛み砕く鋭い牙が並んだ顎。
魔帝の手によって双子の兄、バージルは醜悪な怪物へと改造されてしまったのだ。
「ぐぎゃおおおおおおおおお!!」
突如、緑紫龍へと降り注がれる蒼紫の稲妻。
魔槍士の主、17代目・葛葉ライドウが雷神剣『アラストル』を巧みに操り、雷の刃で角の様に突出した毒の棘を一本切り落とす。
「ちぃ、攻撃が浅い!」
番の傍らに着地したライドウは、舌打ちし背後で苦痛の雄叫びを上げる緑紫龍を振り返る。
マベルの指摘通り、真ん中の棘の真下にある心臓を狙ったつもりではあるが、刃の軌道が若干ズレてしまったらしい。
「奴の血液は猛毒っすよ!下手に触ると溶かされちまう!」
「だな・・・おまけに鱗の隙間から絶えず毒の煙を吐き出しやがる・・・厄介極まりないぜ。」
流石に全てを腐らせるペルーダの血液でも、魔界の鉱物ウルツァイトを溶かす事は不可能らしい。
傷一つ無い刀身に付着した紫色の体液を振り払うと、城の床が異臭を放って溶けて行った。
「まずは奴の機動力を削ぐ・・・・志郎、手伝ってくれよ?」
「イエスマスター。」
レッグポーチからペンタグラムを取り出すと、それを番に投げ渡す。
それを受け取るクー・フーリン。
五芒星の描かれた護符が手の中で眩く輝き、魔槍士を周辺を魔を祓う聖なる光で包み込む。
「ちっ、ライドウの野郎。」
手痛い一撃を与えた悪魔使いを次の獲物に選んだらしい。
緑紫龍は、魔人化したダンテを完全に無視し、漆黒の鎧を纏う魔狼と蒼い文様を全身に浮かび上がらせている悪魔使いへと向き直った。
忌々しそうに舌打ちしたダンテは、魔剣・スパーダを構え、巨大な四足の邪龍、ペルーダへと斬り掛かろうとする。
その眼前に光る何かが現れた。
ライドウの仲魔・ハイピクシーのマベルだ。
「お願いだからこれ以上、ライドウと志郎の邪魔はしないで!」
主と仲魔の邪魔はさせまいと両手を広げ、ダンテの行く手を遮る。
「退け!チビ!ぶった斬っちまうぞ!!」
魔剣・スパーダを構え脅すが、小さな妖精は一向に怯まない。
意思の強い双眸で、三つの眼を持つ魔剣士を睨み付けている。
「もう、アレはアンタの兄さんじゃない!バージルは死んだの!3年前に奥方様に倒されたの!いい加減に現実を受け入れなさい!」
「うるせぇ!あの糞野郎と同じ事言ってんじゃねぇよ!」
クー・フーリンと全く同じ言葉。
お前達が言いたい事は良く判っている。
自分のたった一人の家族であるバージルは、3年前の事件で既に死亡している。
あそこにいるのは、魔帝・ムンドゥスによって化け物へと造り変えられた亡骸だ。
あの誇り高い男は、既にこの世から去っている。
判ってはいる。
判ってはいるのだが、決して納得は出来ない。
「どんな姿に変わっちまってもアレは俺の大事な家族なんだよ!家族がしでかした事は、同じ血が流れた兄弟である俺が始末をつけなきゃならねぇ!だから、赤の他人であるお前等に尻を拭わせる訳にはいかねぇんだよ!」
ダンテの魂が激しく訴えている。
血を分けた双子の兄、バージルを滅するのは己が役目であると。
異形の怪物へと改造されたバージルに同じ血が流れたダンテを関わらせたくは無いという、ライドウの気持ちは良く判る。
それが、あの悪魔使いの優しさであるという事も。
しかし、だからと言ってこれだけは譲る訳にはいかない。
「ダンテ・・・・。」
血を吐く様な魔剣士の言葉に、マベルはそれ以上何も言えなくなってしまう。
本心を言えば、双子の兄を救いたい。
しかし、彼を人間に戻す術が無い。
ならば、これ以上、彼が苦しまない様に楽にしてやれるのは、同じスパーダの血を引く自分の役目だ。
そんなダンテの心の叫びが、否が応でも伝わって来る。
「・・・バージルの心臓は、さっきライドウが斬り落とした棘の真下にあるよ・・・。」
拳をぎゅっと強く握り、俯いた妖精が魔剣士に緑紫龍の弱点を教える。
これは、主に対する裏切り行為だ。
でも・・・・この男の嘘偽りの無い、叫びを聞いた今、自分に唯一出来る最善の方法は、彼の望みを叶えてやる事だけだ。
「恩に着るぜ・・・マベル。」
四枚の羽根を広げ、魔剣士が妖精の傍らを通り過ぎる様に飛び立つ。
向かうは、激闘が繰り広げられている戦場へ。
その魔剣士の後ろ姿を零れ落ちる程の涙を浮かべた小さな妖精が見送った。
次回、ネロアンジェロことバージル戦終了予定。