偽典・女神転生~マレット島編~   作:tomoko86355

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大分期間が空いてしまった。
一応、裏設定では、クーフーリンが使っていた魔槍、ゲイボルグはライドウが魔界を放浪中に使用していた魔具です。
成人したのを記念して、ライドウが彼に渡しました。



ミッション27 『幻神 メサイア 』

死後の楽園、エーリュシオン。

神々に愛された英雄達の魂が平穏に暮らすその花園に、赤褐色の肌をした一匹のゴブリンと燃える様な紅い髪をした少女が居た。

 

切株に腰掛けた少女が、白く繊細な指先で竪琴の弦を奏でる。

御世辞にも余り上手いとは言えない拙い演奏ではあった。

しかし、ゴブリンはニコニコと、それはとても楽しそうな表情をして、少女の奏でる竪琴を聞いている。

 

「あ、間違えちゃった。 」

 

弾く弦を間違え、演奏が途中で止まる。

 

「もー、叔母様の誕生日まで余り日数が無いのに・・・・・。 」

「焦っちゃ駄目っす。 頑張って努力すれば必ず報われますよ? 」

 

悔しそうに唇を尖らせる少女から、竪琴を受け取り、ゴブリンは器用に弾き始めた。

少女の演奏とは違い、まるで熟練の奏者の様な、見事な弾奏だ。

 

「凄いね?チクク。 一度聞いただけで弾いた事も無い楽器を使いこなせる何て天才だわ。 」

「えへへ・・・大したことはないっすよ。 こんな特技があっても、食い物一つ手に入れる事も出来ない非力な悪魔っすから。 」

 

しきりに感心する少女に、ゴブリンは照れた様な満面の笑顔を浮かべる。

枯れる事が無い永遠の花園。

そこで、一時、演奏の練習をするのが、二人の何時もの日課であった。

 

 

 

魔界の中層―炎獄・ゲヘナ。

 

煌びやかな馬具を纏う軍馬に跨った白銀の騎士が、最早、人の形が保てず、どろどろの醜悪な肉の塊に変貌した魔帝・ムンドゥスと対峙していた。

 

「い・・・・一体何が起きやがった? 」

 

唐突過ぎる出来事に思考がついて行けない。

力無く片膝を付くダンテ。

その背後に白銀の魔獣―ケルベロスが近づく。

 

「どうやら、オルフェウスが自らの力でムンドゥスの呪縛を解いたらしいな。 」

「オルフェウス・・・・・マレット島にある城の持ち主か。 」

「そうだ・・・・奴は、大神・ゼウスの孫だからな・・・・オリュンポス神族の中でも、最もゼウスに近い魔力を持つ人間なのだ。 ムンドゥス如きで御する事等出来よう筈もない。 」

 

本人に自覚はまるで無いが、オルフェウスの潜在能力は、大神ゼウスと同等の力を持つ。

いくら”クリフォトの果実”を吸収しているとはいえ、下級悪魔のゴブリン程度で抑えきれる筈がないのだ。

 

 

 

「・・・・・オルフェウス公・・・・それともう一人は一体誰だ? 」

 

魔槍”ゲイ・ボルグ”の力で、再び魔鎧化したライドウ。

ムンドゥスから受けたダメージが、忽ち癒え、枯渇した魔力も満ちていくのが判る。

しかし、これが全て魔帝に取り込まれていたオルフェウスの力だけではない。

彼の他に、別の強大な魔力を感じる。

 

『我が名は、幻神・メサイア、 死者の魂を救済する者成りや。 』

 

白金の軍馬に跨る白銀の騎士の背後に、巨大な影が現れた。

ロケットを連想させる金色の翼に、銀の髪。

左手には、数珠つなぎになった六つの棺桶を持っている。

オルフェウスとその妻、エウリュディケーが一つとなった姿―幻神・メサイアだ。

 

『召喚士(サマナー)よ・・・・共に悪鬼滅ぼさん。 』

「承知!! 」

 

心の奥底から湧き上がる高揚感。

真紅の魔槍”ゲイボルグ”を構え、軍馬の腹を蹴る。

嘶き(いななき)突進する白金の軍馬。

目指すは醜悪な肉の塊と成り果てた、魔帝・ムンドゥス。

 

「ぢくじょぉおおおおお!!オデを馬鹿にしやがってぇええええええ!! 」

 

頼みの綱であるオルフェウスを失い、怒りの咆哮を上げる魔帝。

何時もの冷静さを完全に失い、矢鱈目たらに白銀の騎士に向かって、肉の槍を撃ち捲る。

 

雨の様に降り注ぐ肉の槍を華麗に躱し、時には魔槍を操って斬り落とす白銀の騎兵。

マグマの上に浮遊する岩場を駆け上がり、等々、魔帝へと肉迫する。

 

「うわぁあああああああああ!!死ねぇ!死ねぇえええええええ!! 」

 

軍馬を駆る白銀の騎士が、己の肉体に深手を負わせた軍神と重なる。

あの時の恐怖と苦痛は、魔帝の心の奥底に深く刻まれていた。

最早、冷静な判断力など微塵も無い。

醜く泣き叫び、白銀の騎兵を撃ち落とさんと肉の槍を繰り出す。

しかし届かない。

軍馬を巧みに操り、迫りくる肉の槍を蹴り上げ、遥か高くへと騎兵が舞い上がる。

 

『我が聖なる一撃を受けよ!悪鬼!! 』

 

幻神・メサイアが聖なる光で造り出した槍を、肉の塊へと投擲する。

寸分違わぬ正確さで、肉の塊の中央に位置する巨大な眼球に突き刺さる光の槍。

刹那、突き刺さった箇所から無数の亀裂が肉の塊に走る。

メサイアによって造り出された浄化の槍が、ムンドゥスの魔素を全て消し去っているのだ。

眩い光が、ゲヘナ全体を包む。

事の成り行きを呆然と見つめていたダンテの視界が真っ白に染まった。

 

 

 

絶海の孤島―マレット島。

 

魔獣・ドアマースの案内で、ライドウ達が乗っていたフィッシングボートまで辿り着いた女諜報員・トリッシュ。

島全体を突然襲った地震に、危うく倒れそうになる。

 

「一体、何が起こったの? 」

 

咄嗟に身を屈め、何とか倒れる事だけは免れたトリッシュ。

フィッシングボートが停泊している場所まで案内していた魔獣が、電撃に打たれたかの様に痙攣すると、瞬く間に実体化していた肉体がデジタル化し消えていく。

その様子をすぐ傍らで見ていた女諜報員。

恐らく、あの悪魔使いの身に何かが起こったに違いない。

 

(全く・・・・・目的は既に果たしているっていうのに、何を余計な事まで考えているのかしらね?私は・・・・。 )

 

こんな甘っちょろい感情がまだ残っていたなんて、いい加減呆れて笑いがこみ上げてくる。

トリッシュは、一つ溜息を零すと、再び来た道を引き返した。

 

 

現世と幽界を繋ぐ姿見の前。

この空間を支配していた四大魔王の一人、魔帝・ムンドゥスが討たれた為、維持が出来ず、空間の至る所に亀裂が入っている。

崩壊はすぐそこまで迫っていた。

 

「叔母様!!早くして下さい!! 」

 

一匹の黒猫が、自分より数歩遅れて走る白銀の魔獣を振り返る。

白銀の魔獣の背には、満身創痍の悪魔使いを抱える深紅の魔狩人、ダンテを背に乗せていた。

 

 

時は数分前に遡る(さかのぼる)。

幻神・メサイアが放った聖なる槍―モータルジハードが、魔帝の心臓である巨大な眼球を貫き、肉の塊を無へと浄化させた。

己の役目を終えたオルフェウスとエウリュディケーの二人は、魔力を使い果たし、憑依していたライドウの躰から離れたのだ。

それまで二人の力を借りていたライドウは、当然、魔鎧化が解け、人間体へと戻ってしまう。

意識を失い倒れそうになった所を寸でで、ダンテが支えたという訳だ。

 

 

崩壊する異空間を背に、扉である姿見へと飛び込む一匹の黒猫と白銀の魔獣。

漸く、現世にあるマレット島へと戻って来れた事に、ほっと安堵の吐息を洩らした。

 

「ギリギリセーフってところか? 」

「否・・・・・そうとも言えんな。 」

 

重傷を負って気を失う悪魔使いを抱え、魔獣の背から降りる魔狩人。

気が付くと、周囲を無数の悪魔達が取り囲んでいた。

ムンドゥスの残党共だ。

 

「叔母様、此処は私一人で十分です。 」

「何を言っている、ティフェレトでは、お前もかなり魔力を行使しただろう。 」

「遠慮すんなよ?冥府の女王様、俺も喜んで手伝うぜ? 」

 

左眼から血を流し、気を失う悪魔使いを姿見の傍に寝かせると、背負っている二本の大剣のうちの一本、雷神剣『アラストル』を抜き放つ。

脱出する最中(さなか)、ムンドゥスの居城付近にいたアラストルと妖精のマベルを回収したのだ。

因みに、マベルは、ライドウが気を失った為に実体化が保てずデジタル化し、彼のGUMPに戻っている。

 

「俺っちの大事なハニーには、指一本だって触らせないぜ! 」

 

ダンテにマベルを押し付けられたせいで、ムンドゥス戦に参加出来なかった事が余程、ストレスだったらしい。

魔具へと戻った魔神・アラストルの鼻息が何時になく荒かった。

 

 

緊迫する周囲の空気。

それを突如として破ったのは、巨大な雷であった。

大理石を突き破って現れた金色の雷は、周囲にいる下級悪魔の群れを薙ぎ払う。

 

「あら?お楽しみを邪魔しちゃったかしら? 」

 

消し炭となって消えていく悪魔の群れから現れたのは、右手に電気の蛇を纏いつかせているイギリスの女諜報員、トリッシュであった。

 

 

 

 

夢を見る・・・・・。

かつての懐かしい夢を・・・・・。

土の匂い、地平線まで続く麦畑。

四季折々の野菜や果物を収穫し、笑い合う人族や魔族達。

 

種族の垣根を超え、誰もが平等に暮らせる世界を造りたい。

 

彼等は、そんな自分の奇異な思想に協力してくれる大事な民人だ。

修繕した水車小屋の上で、彼は、農作業に勤しむ彼等を見下ろす。

皆、何の見返りも求めず、国造りに助勢してくれる。

最初は、自分一人だけだった。

水源を探し求め、掘り起こし、井戸を造り、荒れ地を耕して、何とか作物を実らせる土地を作る事が出来た。

勿論、たった一人だけでそこまでは出来ない。

色々な人々に声を掛けた。

国津神、各地に居る人族の集落、そして下級の魔族から、上位種まで。

 

荒唐無稽と揶揄される夢を語り、必死に説得した。

当初は、渋い顔をしていた国津神の一人が手助けしてくれた。

それが、一人、二人、三人と・・・・気が付けば、農耕に詳しい国津神だけではなく、人族、そして魔族までが手を貸してくれる様になった。

 

「見違えたぜ・・・・結構、立派な街になったじゃねぇか。 」

 

水車小屋から降りた彼に、見事な銀の髪をした青年が声を掛けた。

セラフの天使長、ルシフェルだ。

九階級ある天使の中でも一番階級が上な、原初神の称号を持ち、数万もいる天使達を束ねる長を務めている。

本来ならば、こんなところで油を売っている暇など無い筈なのだが・・・。

 

「どうだ?凄いだろ? 花一つ咲かせる事等、出来もしない荒れ地を耕してどうする?って馬鹿にされた場所に、今じゃ数百人の人々が集まって、生活してるんだぜ? 」

 

ふんっと自慢気に胸を張る。

馬鹿にした奴を見返す事がこんなにも気持ち良いとは、初めて知った。

 

「ああ、降参、 俺の負けだ。 」

 

おどけた様子で両手を上げる銀髪の天使は、自分より一回り以上も小さい少年の傍に近づいた。

そして、泥と埃で汚れる頬に何の躊躇いも見せず触れる。

海を連想させる綺麗なブルーの瞳。

触れる手も暖かく、何時までもこうしていたいという誘惑に負けそうになる。

 

 

 

「ルーシー・・・・・・。 」

 

ぼんやりと映る視界。

自分を見下ろす優しい銀髪の天使と、心配そうに見つめる銀髪の魔狩人の容姿が重なる。

 

「気が付いたのか? ライドウ。 」

 

男の声に漸く、此処が自分がマレット島に上陸する為に使用したフィッシングボートの上で、ダンテの腕の中に居る事が判った。

 

夕焼けに染まる景色と潮の香り。

あれから幾時間経過したのか皆目見当もつかない。

魔帝との戦闘はどうなった?

自分に助力してくれたオルフェウスとエウリュディケーの夫婦は一体どうなった?

幾つもの疑問が、次々と浮かんで来る。

 

 

「今はもう少しだけ眠っていて頂戴。今の貴方は、この中で一番重症なのよ。 」

 

ボートを巧みに操作している金髪―M16の女性諜報員、トリッシュが言った。

良く見ると、ダンテのすぐ傍らには、黒猫が座っていて、自分を見上げている。

冥府の女王、ペルセポネーの憑依体だ。

 

「ペルセポネー・・・・俺は・・・・何も出来ませんでした・・・・・。 」

 

そう、何も出来なかった。

曖昧な記憶の中、唯一覚えているのが、オルフェウス公とエウリュディケーの深い愛情だけだった。

彼等の助力無くして、魔帝との闘いを続ける事は不可能であった。

 

「いいえ・・・・貴方がいなければ魔帝に勝つ事は出来ませんでした。 ありがとう心優しき召喚術士(サマナー)、後は、私の仕事です。 」

 

黒猫は首を振ると、悪魔使いに深い感謝の言葉を述べ、憑依している黒猫から離れた。

冥府の女王が離れたところで、黒猫は正気に戻り、当然、自分がどうしてボートの上にいるのか理解出来ず、不安そうに首を傾げている。

 

「どうやら、冥府の女王様は、あの世に帰っちまったみたいだな。 」

 

周囲をウロウロする黒猫の様子に、ダンテは苦笑を浮かべる。

そして、もう一度、腕の中にいる想い人に視線を移す。

すると、ライドウは、規則正しい寝息を立てて眠りに落ちていた。

 




長かったマレット島編も次回で終わりです。
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