チクク・・・・・幼少期のペルセポネーに命を助けられて以降、彼女の世話係をしていました。しかし、彼女を愛してしまった為に、身分違いの想いで苦しみます。
ペルセポネー・・・・チククを心の底から愛していましたが、立場故にそれを表に出せませんでした。最後に、友達と言っていますが、彼の事は一人の男性として本当に愛しています。
冥府、アケロン川。
天空から冥府の底へと堕とされた一匹のゴブリン。
赤褐色の特徴的な肌を持つ下級悪魔は、頭からアケロン川へと堕ちた。
命からがら、必死の思いで岸へと這い上がる。
「ち・・・・・畜生・・・・・何で?何で、俺っちがこんな目に・・・・・?」
赤褐色のゴブリン・・・・チククは、叢に仰向けに倒れた。
ぜいぜいと息を切らせ、恨む様に決して晴れる事のない、厚い雲に覆われた空を睨みつける。
全てが、順調にいっていた。
エリシオンで、月の女神・ヘカテー達、オリュンポス神族に追い詰められた時はどうなるか判らなかった。
しかし、機転を利かせ、オルフェウスを取り込んだ事が良かった。
奴の膨大な魔力のお陰で、四大魔王にまで上り詰め、西の地ティフェレトを支配するまでになったのだから・・・・・。
「まさか自分から此処に帰って来るとは思いませんでした。 」
まるで氷の様に冷たい冷酷な女の声。
電撃でも浴びたかの様に痙攣したゴブリンは、慌てて起き上がる。
彼の視界の中に、燃える様に赤い髪をした美女が映った。
冥府の女王―ペルセポネーだ。
タルタロスにある審判の神殿を護る近衛兵達を背後に従え、何ら感情の籠もらぬ瞳で、チククを見下ろしていた。
「ぺ・・・・ペルセポネー様・・・・・。 」
「チクク・・・・・お前のせいで、私は大事な家族を失いました・・・・・。 」
怯えるゴブリンに向かって、冥府の女王は尚も糾弾する。
「己の欲望を満たす為に、馬鹿で真面目しか取り柄の無い純粋な男を利用しましたね? 」
「・・・・・オルフェウスの事ですか?アレはオイラのせいじゃない。 アイツが救い様の無い馬鹿だったんだ・・・・・。 」
そう、あの男は根が優しすぎて人を疑う事を知らない愚か者だった。
親切に声を掛けてやっただけなのに、簡単に見ず知らずの自分をあっさりと信じた。
半ば無理だろうと諦めてクリフォトの根を渡してみたが、まさか本当に果実を実らせるとは思わなかった。
デカラビアから高い金を払って、バジリスクの牙で出来た短刀を所持していたのは、あくまで護身用だ。
「そうですね・・・・・確かにオルフェウスは、愚かな男だったのかもしれません。 しかし、その愚かな程、純粋な心根を持っていたからこそ、多くの民を救う事が出来た。 」
本人に自覚はまるでないが、オルフェウスの偉業は、彼が宮廷魔術師を務めていた小国”ダヴェド”だけでは留まってはいない。
彼の優秀な建築技術と魔術を知った他国の魔導士達が、大勢、オルフェウスの教えを受けていたのだ。
そして、何よりも金銭的理由で、医者に行けない貧民窟の人々を無償で看てやり、多くの人々を救った。
そこに計算も打算も無い、 只、純粋な優しさがオルフェウスの長所であった。
「彼は、もっともっと多くの人々を救う事が出来た・・・・・救世主になる資質があったのです。 それを無駄にしたのは、貴方・・・・・・チクク、貴方の下らない野心でした。 」
「黙れ!オルフェウス、オルフェウスって煩いんだよ! そんなに毎日、毎日、びーびー泣き喚くみっともない男が好きなのか?アンタは!!? 」
今迄溜め込んでいた鬱憤が、等々爆発してしまった。
死んだ妻の事が忘れられず、毎日毎日、足繫くタルタロスの宮殿に足を運んでは、ペルセポネーに追い返される哀れな男であった。
去って行く小太りの男の背を哀しそうに見つめる冥府の女王。
あんな顔、決して自分には見せてはくれなかった。
何時も毅然として凛々しいペルセポネーに、唯一、弱さを見せた男。
その男が、チククにはどうしても我慢が出来なかった。
「確かにオイラは非力な悪魔だ!アンタ等、オリュンポス神族みたいに凄い神通力は無い!だから、馬鹿で醜い男を利用したんじゃないか! それの何処が悪いんだ! そこまでしなきゃ、オイラ達、下級悪魔は、虐げられ殺されるだけだ! 」
絶対的な弱肉強食な世界。
何者にも曲げる事が叶わぬ不文律。
その過酷な世界を生き抜くには、誰かを利用し、踏み台にするしかない。
「・・・・・それが、私の大事な家族を利用した理由ですか。 」
「・・・・・ペ・・・・・ペルセポネー様。 」
一筋の涙を流す冥府の女王を見て、赤褐色のゴブリンは一瞬、怯んだ。
「私にとって、貴方は大事な・・・・本当に掛け替えの無い大事な友達でした・・・・残念です。 」
押し殺した声でそれだけ告げると、後の事は従者のアイアコスに任せて、赤褐色のゴブリンから背を向ける。
後を任された銀縁眼鏡の痩躯の男は、近衛兵達に目配せを送った。
「待ってくれ!ペルセポネー様!オイラは・・・・オイラもアンタを愛しているんだ! 嘘じゃない!本当なんだよぉおおおおお!! 」
下級悪魔の自分を愛してくれていた冥府の女王。
そんな彼女の気持ちに初めて気づくが、全ては遅すぎた。
手荒く近衛兵達に組み敷かれるゴブリン。
彼の悲痛な叫びが冥府の女王に届く事は、決してなかった。
夕刻に沈む絶海の孤島・・・・・マレット島。
白亜の城、『オルフェウス城』を見下ろせる小高い丘の上に、時代遅れの白いスーツを着た壮年の男が立っていた。
既にJTから生産が廃止されている幻の銘柄―『しんせい』の箱から、煙草を一本取り出す。
使い古したジッポライターで火を点けると、上手そうに一口吸った。
朱の空に向かって煙を吐き出す男の頭上に、一匹の大きな体躯をした鷲が円を描く様に旋回している。
鷲とライオンの合成生物―造魔・グリフォンだ。
一頻り周囲の様子を偵察していた人造の悪魔は、翼をはためかせ、白いスーツの男の直ぐ傍に降りて来た。
「大丈夫だぜ?おやっさん、 17代目達は、島からいなくなってる。 魔界に潜るには今がチャンスってところだな? 」
「ご苦労、グリちゃん。 そんで、ヘルズゲートの正しい位置は判るか? 」
「当然、 んでも、そこには結構スキルの高い悪魔共がわんさかいるぜ? 排除するのはちと面倒かもなぁ。 」
優秀な探知能力を使って、もう一つのヘルズゲートの位置を割り出したグリフォンが、困った様子で溜息を吐いた。
オルフェウスが魔術で造り出したヘルズゲートは、二つある。
一つは寝室の隠し部屋。
もう一つは、地下の闘技場だ。
寝室の扉は、ムンドゥスとの戦いで潰れてしまったから、魔界へ渡るには城の地下・・・・闘技場の入り口を使うしかない。
「仕様がねぇよ・・・・申し訳ねぇが、クロちゃんにも手伝って貰うしかないね。 」
男は、胸のガンホルスターから愛用のGUMPを取り出すと、パネルを展開して何桁がキーボードを打ち込む。
すると、召喚の法陣が浮かび上がり、中から一体のクロヒョウが現れた。
「止めても無駄だとは思うけど、 これって組織にバレたらかなりヤバイんじゃねぇのぉ? 」
グリフォンの言う通り、組織の許可なく勝手に魔界に渡るのは、立派な規律違反だ。
バレれば、当然、四家の一人とはいえ、それなりに重い処分が下される。
「・・・・・・悪いな?二人共、 三年前に力づくでも良いから、馬鹿息子を止めていれば、こんな面倒事にはならなかったのになぁ・・・・。 」
男・・・・・・13代目、葛葉キョウジは苦笑を浮かべ、仲魔であるシャドウとグリフォンの二体を交互に見つめる。
「何言ってんだ、 俺達はおやっさんに心底惚れちまってんだぜ? 地獄だろうがアマラ深界だろうが、何処へだってついて行くぜ。 」
そう言ってグリフォンが、隣にいる相棒に視線を向ける。
すると、シャドウも応える様に一声吠えた。
continuing to Devil May Cry 5。
最後に、キョウジパパ登場。
魔界へと渡りますが、バージルを発見出来ず。
7年以上も息子探しの為に魔界を放浪します。