偽典・女神転生~マレット島編~   作:tomoko86355

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3年振りの再会を果たすダンテとライドウ。
しかし、想いを伝える事が叶わず、二人は別行動を取ってしまう。



ミッション3 『灼熱の破壊者』

鋭く光る鋼の牙が、マリオネットの頭部を破砕した。

力無く倒れる操り人形。

床には同じような道化服を着た人形達の無残な亡骸が、無造作に転がっている。

「邪魔なゴミは始末しましたよ?」

深紅の魔槍―”ゲイ・ボルグ”を持った白銀の騎士が、カジュアルジャケットにビンテージジーンズ姿のマスターに振り替える。

人間大の大きさをした操り人形の悪魔―ブラッディ・マリーの群れを全滅させるのに僅か数秒。

あくびをするのと同じぐらいの時間帯だ。

「・・・・マベル、お前に頼みたい事があるんだけど・・・・。」

「なぁに?」

戦闘中、慌てて主人の胸元に飛び込んだ小さな妖精が、ぴょこんと顔を出す。

「あの馬鹿(ダンテ)の見張りをしてくれないか?」

人形の額に突き刺さっているクナイを引き抜くと手首のホルダーへと戻す。

悪魔使いの少年は、下級悪魔との戦闘中、ずっとあの魔狩人をどうするか考えていた。

下手に追い返しても逆効果、しかし、魔槍士が言う通り、放置しておくとロクな事をしない。

悪戯に事態を悪化させるかもしれないのだ。

ならば、誰かが監視して、逐一自分に報告して貰った方が、何かあった時に即座に対応が出来る。

「なっ、何で私があんな奴の見張りをしなきゃなんないのよぉ!」

「頼めるのがお前しかいないんだ。クーは俺の番だし、当然、御目付け役兼指南役のお袋さんに頼むのは筋違い・・・そうなると、精神感応力に優れたお前に頼るしかない。」

超感覚的知覚に優れるマベルは、例え地球の裏側に居ようと主と交信する事が出来る。

それに、この小さな妖精なら、ダンテに気づかれる事無く、監視する事が出来る筈だ。

「ううっ・・・そう言われると辛い・・・ごにょごにょ。」

主人の願い事を無下にする訳にもいかない。

マベルは、微かに顔を紅くすると、仕方なく頷いた。

 

シン・シザーズの大鋏を紙一重で躱すと、趣味の悪い仮面にハンドガンの銃口を捻じ込み引き金を引く。

弱点である仮面を破壊され、四散する漆黒の死神。

回転しながら自分の真上に落ちてくる大鋏の柄を華麗に回転して蹴り飛ばす。

すると、自分に襲い掛かって来たもう一体のシン・シザーズの仮面に突き刺さり、同胞と同じ様に粉々に砕けて行った。

「ち、根性がねぇ悪魔共だぜ。」

正直言って物足りない。

久し振りの悪魔との戯れは、実にあっけなく終わってしまった。

やはり、自分を燃え立たせてくれるのは、あの白銀の魔槍士以外考えられなかった。

不意に1階大広間で3年振りに再会した悪魔使いとその従者の魔槍士を思い出す。

もう少しで殺し合いを始めそうだった二人を必死に止めていた。

白銀の魔槍士の腕をそっと掴むビスクドールの如く美しい悪魔使いの少年。

その主を見る魔槍士の双眸は限りなく慈愛に満ちていた。

(馬鹿々々しい・・・俺は一体どうしちまったんだ?)

嫉妬のどす黒い炎がブスブスと自分の腹腔を焼く。

普段から色恋沙汰とは無縁な生活を送って来た。

その自分が、魔槍士と悪魔使いの関係に激しいジェラシーを感じている。

 

―アレニ触レルナ・・・アレハ、俺ノモノダ・・・。

無意識に胸元で輝くアミュレットを握り締める。

自分の中に眠っている悪魔の本能が、激しくライドウを求めていた。

 

地下闘技場を探索したが、ロクな成果は得られなかった。

あったのは、この島に調査に入ったと思われる研究員達の亡骸と操り人形の悪魔―ブラッディマリーの御一団だった。

悪魔の群れを駆除後、研究員達の遺体を調べたが、そこに依頼人の婚約者―ジュリー・フィンレイの姿は無かった。

仕方なく一度、武器庫に戻り、今度は別のエリアを探す事にする。

「きゃぁっ!助けてぇ!」

武器庫の扉を開け、大聖堂へと続く長い湾曲した廊下を歩いている時であった。

声高い少女の悲鳴が回廊内に響き渡る。

何事だと深紅のコートを翻して悲鳴が聞こえた場所へと向かうと、2体のシン・シザーズが淡く輝く小さな妖精を追い掛け回していた。

「お願いだからコッチに来ないでよぉ!」

真っ青な顔をした妖精が、振り下ろされる大鋏から逃げ惑う。

ダンテはその妖精に見覚えがあった。

確か、3年前に起こったテメンニグル事件で、悪魔使いの少年が連れていたハイピクシーだ。

無意識に両脇のガンホルスターから、双子の巨銃―エボニー&アイボリーを抜き放つ。

「おい!頭を下げてろよ!チビ!」

「え?????」

凶悪な二つの銃口から吐き出される鋼の牙。

咄嗟に頭を抱えたマベルの頭上を越え、すぐ背後まで迫ったシン・シザーズの仮面に見事命中する。

砕ける四肢と青銅の仮面。

続くもう1体を背から抜いたかつての父の愛刀『大剣フォース・エッジ』の刃が一刀の元に叩き伏せる。

真っ二つに割れる仮面。

断末魔の悲鳴とも取れるシン・シザーズの笑い声と共に跡形もなく消えていった。

「うへぇー・・・助かったよぉ・・・。」

へなへなと床に座り込む。

主人の命令で、魔狩人の放つ微かな魔力を頼りに、移動魔法―トラポートで此処に転送したのが間違いの始まりであった。

まさか、いきなり見た事もない場所にテレポートした挙句、2体のシン・シザーズに襲われるとは思わなかった。

「お前・・・確か、ライドウの使い魔だよな?」

銀髪の大男の声にビクンッと反応する。

しまった・・・自分は、この男に見つからない様に見張らなければならなかったのだ。

取り返しのつかない重大なミスを犯してしまい、妖精の身体中を滝の様な汗が流れ落ちる。

「そ、それが一体どうしたって言うのよ!!?わ、私はねぇ、アンタの監視をする為にライドウに命令されて態々来て上げたんだからね?有難く思いなさいよね!!?」

こうなりゃ最早やけだ。

今更どんな言い訳をした所で、この男に通用するとは思えない。

ならばとことん開き直ってやる。

「何だよ・・・そりゃ・・・。」

目の前でプンプン怒り出す妖精を銀髪の魔狩人は、呆れた様子で見つめた。

要は、何故この島に渡ったのか目的が分からないダンテを見張る為に、例の悪魔使いは、この妖精を使いに出したのであろう。

しかし、何かの手違いでこの城内を徘徊する悪魔に見つかり襲われた。

そこをダンテが見つけて助けたのである。

(成程な・・・・ライドウの野郎。)

自分の手の内は、決して明かさず、仲魔を使って人を嗅ぎまわるとは、随分と舐めた真似をしてくれる。

そんなに自分が邪魔なのか・・・・。

ダンテは舌打ちすると、改めて大聖堂へと続く廊下を歩き始めた。

その後を慌てて小さな妖精が追い掛ける。

どうせ足手纏いだからとか、仕事に支障をきたすから帰れとか言うんだろ。

冗談じゃない。

これは、俺が便利屋として請け負った仕事だ。

アンタにとやかく言われる筋合いはない。

 

エウリュディケーはとても気立ての良い娘であった。

チルコ・マッシモの商人、メリクリウスの侍女を務めていただけはあり、細かい所まで気配りが行き届いている。

オルフェウスが彼女を愛するのにそれ程時間は掛からなかった。

彼女もその気持ちは同じで、知り合ってから僅か3カ月で、二人は婚礼の儀を行った。

ローマの大商人の息女を竪琴で誑(たら)し込んだ不心得者と陰口を叩く連中もいたが、大多数が二人を祝福してくれた。

何の不満も無い順風満帆な人生。

しかし、そんな二人に悲劇は突然訪れた。

 

最愛の妻、エウリュディケーが野イチゴを採っている時に、誤って毒蛇に噛まれてしまったのである。

医者が最善を尽くしたが、そのかいも無く、エウリュディケーは若くしてこの世を去ってしまった。

当然、オルフェウスの嘆き悲しみは筆舌し難く、仕事にも手が付かなくなり、等々、王宮魔術師の名を返上すると、別荘のある絶海の孤島―マレット島に引き籠ってしまった。

二人の弟子、ロバート・ウォルトンとアンブロシウス・メルリヌスがヒポグリフを駆って毎日の様に師の様子を伺いに来ていたが、決して二人の前に顔を出す事は無かった。

自室の書斎に閉じ籠り、一心不乱で何かを研究している。

それが、禁忌とされる人体蘇生である事を、二人は何となく予想しつつも、何も言えない状態が数か月続いた。

 

深紅のロングコートを纏う銀髪の青年―ダンテが屋敷の離れにある大聖堂に脚を踏み入れた。

ドーム状の天井に、豪奢な絵柄が施されたステンドグラス。

柱頭には、ガーゴイルと思われる悪魔の彫刻が彫り込まれており、大聖堂の入り口から内陣に至るまで、真っ赤な絨毯が敷かれている。

室内の奥まった部分には、祭壇が設えており、そこに蒼く光る石板が浮遊していた。

次の場所に移動する為のキーアイテム―”獅子の誇り”である。

「ううっ・・・・ダンテ、拙いよぉ・・・滅茶苦茶、ヤバい気配を感じるよぉ・・・。」

上級悪魔の漂う瘴気を敏感に感じ取った小さな妖精が、ブルブルと震えながらダンテの広い背中に縋りついた。

「おい、気安く触るんじゃねぇよ。」

そう悪態を吐きつつも、今にも泣き出してしまいそうなハイピクシーを邪険にする事はしなかった。

ヤバい気配?上等じゃないか。

久し振りの悪魔との殺し合いも不完全燃焼のまま・・・もっと強いヤツと戦いたい。

悪魔の本能が痺れる様にダンテの背筋を駆け巡る。

 

供物を捧げる檀上へと登ると、宙に浮遊する『獅子の誇り』に手を伸ばす。

刹那、背負っていた大剣『フォース・エッジ』が主に危機をしらせた。

咄嗟に背後を振り返るダンテ、同時に天井に設置されたステンドグラスをぶち破って、巨大な何かが降って来る。

節足動物特有の8本の脚、同じく8個の複眼。

岩の如く硬い甲殻の継ぎ目には、マグマの如く灼熱の皮膚が露出している。

魔界に生息する上級悪魔―ファントムだ。

蜘蛛型の巨大悪魔、ファントムは大地を揺るがす程の咆哮を一声上げると、ズシン、ズシンと壇上に居るダンテの傍に近づいた。

「何だぁ・・・・?このチビはぁ・・・・・?」

8個の蒼い複眼が、目の前の侵入者を睨み付ける。

「大きな闘気とちんけな魔力の匂いがしたから来てみれば・・・只の人間とピクシーじゃねぇかぁ・・・。」

「なんだぁ?化け物・・・その空っぽの中身は筋肉以外にもちゃぁんと詰まっているのかよ?」

今にも気絶してしまいそうな妖精を遠くに行ってろと手で追い払い、ダンテは、眼前で蒸気の如き熱い吐息を吐く化け物の頭を拳でこずいてやる。

「お・・・俺を馬鹿にしやがったなぁ・・・ふ、踏み潰してやるわぁ!」

下等な人間にからかわれたのが逆鱗に触れたのか、蜘蛛の化け物は、その強靭な前足でダンテを串刺しにしようと振り上げる。

咄嗟に真横に飛んで死の顎から逃れる銀髪の魔狩人。

祭壇が粉々に砕け散り、魔力を宿した石板―『獅子の誇り』が床に転がり落ちる。

「ふぁ・・・ファントム?ヤバイ、アイツはヤバすぎるよぉ・・・!!」

灼熱の妖獣、ファントムの恐ろしさは良く知っている。

躰を覆う甲殻は、余りにも硬く、並みの武器では傷一つ付けるのは不可能である。

おまけに火炎系の上位魔法を操り、驚異的な再生力を誇る。

いくらダンテがスパーダの血族とはいえ、所詮人間(ヒト)は人間(ヒト)。

どう逆立ちしたって勝てる相手ではない。

「逃げて!ダンテ!私が今すぐライドウに連絡するから!」

柱の陰に隠れた妖精が叫ぶ。

主に念話でこの事態を説明すれば、転移魔法(トラポート)ですぐに駆け付けてくれる筈だ。

「余計な事はするんじゃねぇ!チビ!コイツは、俺の獲物なんだよ!」

背中に背負った大剣『フォース・エッジ』を抜き放つ。

武器庫と回廊で戦った下級悪魔じゃ物足りないんだ。

漸く巡り会えた上位悪魔。

あの悪魔使いの少年に盗られてたまるものか。

そんな二人のやり取りを他所に、ファントムが凶悪な顎を開ける。

瞬時に炎の魔法陣が顎を中心に展開、火炎系中位魔法『マハラギオン』が放たれた。

銀髪の魔狩人を焼き尽くさんと襲い来る高熱の槍。

ダンテは、左側面に大きく回避する。

焦熱の光線が大聖堂に置かれている椅子を薙ぎ払うのを尻目に、銀髪の魔狩人は灼熱の妖獣、ファントムに接近、『フォース・エッジ』の刃を振り下ろす。

ガキィイイイイン!

ダンテ渾身の一撃。

しかし、あっさりと鎧の如く硬い甲殻に阻まれ、弾かれてしまう。

大きく後ろにたたらを踏む銀髪の大男。

その隙を狙って鋭い刃が付いた長い尾が、生意気な侵入者を串刺しにせんと、襲い掛かる。

「ジオ!!」

「ぐわぁ!!」

マベルの放った電撃系下位魔法―『ジオ』が、ファントムの複眼に命中した。

ダンテを貫かんとした巨大な尾が大きく反れ、石畳を穿つ。

「もー!何やってんのよぉ!ソイツの甲殻はアンタが手に持ってる剣と同じウルツァイトで出来てるのよ!おまけに魔力で強化されてるんだから、傷一つ付けられる訳がないでしょ!」

「・・・・チビ?」

予想外の助っ人にダンテが思わず面食らう。

流石は、17代目・葛葉ライドウの仲魔だ。

それなりに、戦う術と知識は兼ね備えている。

「このぉ!ピクシーの分際で生意気なぁ!!」

隙を突かれたファントムが怒りの咆哮を上げた。

妖精の隠れている柱に向かって突進する。

その八つの複眼に深紅のロングコートの残像が過った。

噴き出る血飛沫。

ダンテの操る大剣『フォース・エッジ』がファントムの複眼を切り裂いたのだ。

「ぎゃぁあああああああ!!」

緑色の体液を撒き散らしつつ、巨大な化け物蜘蛛が2.3歩後退する。

華麗に着地するダンテ。

口元には何時もの皮肉な笑みが浮かんでいる。

「成程な、つまり甲羅以外を狙えば良いって事かい。」

大剣『フォース・エッジ』を構える。

銀色の美しい光沢を持つ刀身が、目の前で激痛に悶え苦しむ化け物蜘蛛を捉えていた。

 

書庫で襲い掛かった操り人形の悪魔―ブラッディ・マリーの群れを蹴散らし、城の中庭と思われる場所に辿り着いた悪魔使いとその従者の白銀の魔槍士。

中央に大きな噴水が設置されたその場所には、魔力で封印された獅子の像があった。

かなり強力な結界で封じられているらしく、流石のライドウもキーアイテム無しでは解けそうに無かった。

「仕方ない、先に進むには、コイツを解く鍵を探さないとな。」

それか、若しくは別のルートを見つけるしかない。

ライドウ達が諦めて庭園から去ろうとしたその時であった。

青白い雷の刃が、悪魔使いの目の前に突き立つ。

敬愛する主を護ろうと白銀の魔槍士が、槍を構えて主人の前に出た。

「ヒヒッ、ちょっとびっくりさせちまったかな?」

頭上からからかう様な笑い声が聞こえた。

見ると2階へと続くバルコニーの手摺の部分に漆黒のアルバと白いストラを首に掛けた浅黒い肌をした青年が自分達を見下ろしていた。

「俺っちは、この城を守護する上級・・・・・って、うぉおおおおい(# ゚Д゚)!!一体何処に行くんだよぉ!!!」

青年の弁舌を完全に無視し、次の探索エリアに向かおうとしているライドウ達を慌てて引き留める。

「悪いが俺はお前みたいな中級悪魔と遊んでいる暇はないんだ・・・遊んで欲しいんなら違う相手を探してくれ。」

呆れた様子で溜息を吐くライドウ。

見たところ、それなりに強そうだが、正直こういう輩とはまともに相手はしたくない。

「中・・・!!ひでぇ!俺っちは、こう見えても上級悪魔なんだぜぇ!魔界で超有名だからって調子こいてると痛い目見るぜ?人修羅さんよぉ!!」

「俺の事を知っているのか?」

浅黒い肌の青年から、人修羅というワードが出て来た瞬間、悪魔使いの表情が変わった。

鋭い視線で射抜かれ、神父姿の青年が一瞬たじろぐ。

「ほ、他の低級悪魔と違って、俺っちは生まれも育ちも魔界だからな?アンタの事はよおおっく知ってる。」

漸く自分に興味を持ってくれた事で、気を良くしたのか、ペラペラと調子よく喋り出した。

「アンタ、四大魔王(カウントフォー)の一人、ユリゼンとつるんで色々酷い事してたんだろ?村を焼いたり、街を滅ぼしたり・・・挙句の果てには、飼い主のユリゼンをぶっ殺しちまったて言うじゃねぇかよ。」

どうやら、異界(あちらの世界)では、悪名だけが独り歩きしているらしい。

「20年以上昔の話だ・・・もう、とっくに忘れちまったよ。」

当時の自分は、本当に糞野郎だった。

今でも思い出すだけで、反吐が出そうになる。

「だからよぉ、アンタがどれだけ強いか俺っちに教えてくんねぇかなぁ?」

バルコニーの手摺から、悪魔使いがいる中庭に降りてくる神父姿の青年。

口元には冷酷な笑みが刻まれている。

「良いよ・・・丁度良い肩慣らしにもなりそうだしな?」

今にも敵の喉笛に喰らいつかんとしている忠実な騎士を下がらせ、ライドウは指をポキポキと鳴らした。

 

悔し気に唸り声を上げると、妖獣―ファントムは、地面に己の発する熱気で大穴を開け、そこへと逃げ込んだ。

獲物を逃がすまいと追い掛けるダンテ。

しかし、それを小さな妖精―マベルが引き留める。

「深追いは禁物だってば!それに、ファントムを倒すより、アンタの仕事が優先でしょうが!」

「ちっ・・・。」

折角、敵の弱点が分かったのに口惜しい。

しかし、妖精の言う言葉にも一理あった。

銀髪の魔狩人は、大剣『フォース・エッジ』を背に納めると床に転がっている”獅子の誇り”を拾い上げる。

「・・・・因みに聞いておきたいんだけど・・・アンタどうして魔力を使って戦わないの?」

「あぁ?魔力だってぇ・・・?」

何の物怖じもせず、許しも得ずに自分の肩に座る妖精を胡乱気に見つめる。

「確か魔具って、使用者の魔力と併用しないと本来の力が引き出せない筈でしょ?さっきのアンタの戦い方見てると腕力だけで、無理矢理戦ってるって感じがしたし・・・。」

ファントムの背に乗り、柔らかい肉の部分を切り刻んでいるダンテの姿を思い出す。

魔力を使用し、大剣の持つ力を遣えば、もっと有利に戦闘は運べた筈だ。

「へぇ・・・そういうモンなのかぁ?コレ。」

魔具、本来の使い方何て知らない。

3年前のテメンニグルの時も、魔具と呼ばれる武器で悪魔と戦ったが、適当に振り回していただけである。

「・・・・(-_-;)アンタ、まさか魔力の使い方とか知らないって言わないわよね?」

疑いの眼差しで、深紅のロングコートを纏う銀髪の青年を見上げる。

コイツに魔道の教養があるかは甚だ疑問だ。

「知る訳がねぇだろ?こちとら何時も、チンピラかマフィア相手にドンパチしてるだけなんだぜ?」

悪魔相手の便利屋をしてはいるが、本命の仕事が事務所に舞い込んで来るのは、殆どない。

来るのは、浮気の素行調査か、迷子のペット探し、又は、昔馴染みの情報屋が持って来てくれる荒事師の仕事だけだ。

「呆れた・・・よくそれで悪魔に殺されずに済んだわよねぇ?」

ただ単に魔具を振り回して化け物相手に戦っていたのだ。

呆れを通り越して、称賛に値する行為である。

「仕方ないわね、このマベル先生が特別にアンタに魔具の使い方を教えてあげるわ。」

マベルは、ダンテの肩から離れると今度は、頭の上にちょこんと立った。

「おい、ドチビ。何、人様の頭に脚を乗っけてんだ?」

「はいはい、文句は良いから魔具を抜いて、さっさと構える。」

ダンテの文句を軽く受け流し、妖精は背中に背負った大剣『フォース・エッジ』を構える様に命令した。

渋々、それに従う銀髪の青年。

別に素直に言う事を聞くつもりはないが、先程のファントムとの戦いで、この妖精には借りがある。

それに、魔具に秘められた力、という言葉にも興味があった。

「眼を閉じて、意識を刃の切っ先に集中するの・・・・。」

大剣『フォース・エッジ』を構え、妖精の言われるがままに瞼を閉じる。

「そう、上手よ・・・頭の中に握っている剣をイメージするの・・・そして、心の中で強く念じる・・・。」

「心の中で強く念じる・・・・?」

身体中が熱い。

へその下辺り、丹田と呼ばれる場所から熱が全身を駆け巡り、大剣を持つ両腕に集中する。

『我に力を・・・・!!!』

マベルの精神波が、ダンテの中に眠る膨大な魔力を導く。

眩く光る大剣『フォース・エッジ』。

銀髪の青年が閉じていた双眸を開くと、そこに彼の魔力と呼応して変形した大剣の姿があった。

3年前のあの日、魔獣”ケルベロス”が咥えていた禍々しい刀身を持つ魔剣『スパーダ』の忌まわしい姿へと・・・。

刹那、袈裟懸けに切り裂かれ、滝壺へと消えていく双子の兄―バージルの非業の最期がフラッシュバックとなって蘇る。

「!!」

何か見えない力で弾き飛ばされる魔剣。

宙を虚しく回転する『スパーダ』は、何の力も無い『フォース・エッジ』へと変わり、大聖堂の床に突き刺さる。

「あーあ、残念だけどその魔具は今のアンタじゃ扱いきれないみたいね?」

床に突き立つ大剣『フォース・エッジ』をはがゆい思いで眺めるマベル。

魔力のコントロールが安定すれば、『スパーダ』の強力無比な力を思いのままに操れると考えたのだが、どうやら甘かったらしい。

一方、ダンテは舌打ちすると、床に突き刺さった『フォース・エッジ』を引き抜き、背中に収めた。

 




雷神剣『アラストル』君登場。
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