一方、ライドウ達は、この城の守護者と名乗る悪魔―魔神アラストルと対峙していた。
ハイピクシーのマベルに教えられた通り、大剣『フォース・エッジ』にありったけの魔力を注ぎ込んだ筈だ。
なのに、大剣『フォース・エッジ』は大聖堂の時みたいに姿を変えないどころか、全くの無反応。
振り下ろした剣は、あっさりと灼熱の妖獣―ファントムの長い尾に阻まれ、中庭に面する壁へと叩き付けられてしまう。
「ぐはっ!!」
苦痛と衝撃が身体中を駆け巡る。
肋骨が何本か折れて肺に突き刺さったのか、口から大量の血が溢れ出た。
「ダンテぇ!!!」
壁を破壊し、中庭へと吹き飛んでいく魔狩人。
小さな妖精が悲痛な叫び声を上げる。
銀髪の青年を叩き伏せた巨大な妖獣は、そんな妖精を無視し、獲物を捕食せんと巨躯を器用に反転させて、大きく崩れた壁から中庭へと入って行った。
凄まじい破壊音と瓦解音。
三人の視界に口から血を流した銀髪の魔狩人が転がり込んで来る。
濛々と砂煙が立ち上る中、ファントムの巨体が現れた。
「志郎!」
「御意!!」
状況から全てを悟った悪魔使いが、忠実な下僕に指示を飛ばす。
主の意を汲み取り、深紅の魔槍―ゲイ・ボルグを構え疾走する白銀の魔槍士。
騎士の魔力を吸った槍の切っ先が、サンストーンの如き輝きを放った。
「ぐぎゃぁあああああああ!!」
咆哮の如きファントムの悲鳴。
クー・フーリンから放たれた斬撃が、ファントムの八本ある脚の一本を意図も容易く斬り飛ばしたのだ。
「ぎ、貴様ぁああああああああ!!」
驚異的な再生能力で肉片が泡の様に膨れ上がり、筋肉の組織を複製していく。
みるみる斬り落とされた前足と同じ脚が生えてくる。
しかし、そんな事等お構いなしに、白銀の魔槍士は、無数の斬撃をファントムに放った。
騎士の猛攻に堪らず後退する巨大な化け物蜘蛛。
仲魔の姿を認めた妖精がすぐに敵の弱点である心臓の位置を教える。
「志郎!コイツの心臓は腹部だよ!尻尾の付け根辺りにあるからね!」
「分かった。」
マベルの助言を聞いたクー・フーリンが、魔槍”ゲイ・ボルグ”を化け物蜘蛛の尻尾辺りに狙いを定める。
怒りの唸り声を上げた巨大蜘蛛が、白銀の魔槍士を貫かんと鋭い刃が付いた長い尾で襲い掛かった。
それをあっさりと躱す白銀の魔槍士。
お返しとばかりに、深紅の魔槍―”ゲイ・ボルグ”を投擲する。
クー・フーリンの魔力を得た魔槍が、一直線に化け物蜘蛛の腹部―尻尾の付け根辺りに突き刺さる。
一ミリの誤差も無く、化け物蜘蛛の心臓を貫く魔槍”ゲイ・ボルグ”。
刹那、槍が眩く光り輝き、妖獣ファントムの心臓を焼き尽くす。
断末魔の悲鳴を上げる化け物蜘蛛。
銀の旋風―クー・フーリンが心臓に突き立った魔槍―”ゲイ・ボルグ”の柄を握る。
幾度も閃く銀の閃光。
柔らかい関節部が全て切り裂かれ、妖獣ファントムの巨体をバラバラに解体してしまう。
轟音と共に崩れ落ちる巨大蜘蛛。
その少し離れた位置に、白銀の騎士が華麗に着地する。
「流石、17代目・葛葉ライドウの番・・・・あのファントムをこうもあっさりと倒してしまうなんて・・・。」
オルフェウス城、4階にある寝室。
そのバルコニーから中庭の様子を見下ろす影があった。
SISの諜報員、トリッシュだ。
彼女は手摺に寄り掛かり、優雅にインドネシア産のリトルシガーをくゆらせていた。
『”クランの猛犬”聞きしに勝る強さだな?』
トリッシュの耳に付けられているインカムから、30代半ばと思われる男性の声が聞こえた。
『出来る事なら、17代目が持つ”帝王の瞳”がどれ程のモノか知りたいのだが・・・?』
「贅沢言わないで、私達の目的を忘れたの?」
『そうだったな・・・・ファントムが死んで残る柱は後二つ。彼等に気取られない様、くれぐれも行動は慎重に頼む。』
「了解。」
無線の相手と短く会話を終え、美貌の諜報員は携帯灰皿で煙草の火を消すと、4階のバルコニーを後にした。
クー・フーリンにあっけなく倒され、塵へと還る化け物蜘蛛の亡骸を口惜しそうに眺めるダンテ。
破壊された城の壁から、小さな妖精を肩に乗せた白銀の魔槍士が現れる。
悠然と主の元に向かう魔槍士。
途中で無様に片膝を付き、此方を睨んでいる銀髪の魔狩人の姿を認め、鼻で軽く笑う。
「マベル、ダンテの傷を治してやってくれ。」
「はぁーい。」
主人である悪魔使いの命令に小さな妖精が素直に従う。
肋骨が数本折れ、激痛で動けないダンテにハイピクシーは、回復系中位魔法『ディアラマ』を唱えた。
仲魔が銀髪の青年を治療している間に、悪魔使いの少年は、組み敷いていた悪魔―雷神剣・アラストルを解放すると、先程の戦闘でダンテの手から離れてしまった大剣『フォース・エッジ』に歩み寄る。
ポンメルと呼ばれる柄頭の部分には髑髏の彫刻が施されており、鍔の部分にはスパーダ一族を表す紋章が彫り込まれていた。
「”フォース・エッジ”か・・・何故こんなモノを持ち出したんだ?」
虚しく地面に突き刺さる大剣を引き抜き、マベルから治療を受けているダンテの所に持って来る。
「お前には忌まわしい記憶しか無いだろ?お前の剣(リベリオン)はどうした?」
黄金色の大剣をダンテに渡す。
確か彼には、愛用の武器―大剣『リベリオン』があった筈だ。
「同業者の女に借金のカタで獲られちまった。」
マベルの魔法のお陰で、ファントムから受けた傷は全て完治した。
ライドウから大剣『フォース・エッジ』を受け取り立ち上がる。
「借金?俺が渡した金はどうした?まさか、貯蓄もしないで全部使い切ったというんじゃねぇよなぁ?」
確か結構な大金をこの男に謝礼金として払った筈である。
贅沢をせず、真面目に仕事をしていれば、それなりの生活が送れていると思ったのだが・・・。
「ああ?あんなモンあっという間に使い切っちまったよ。まさか返せとか言わないよな?」
不機嫌そうに唇を尖らせる銀髪の青年を口から魂を吐き出し、真っ白になった悪魔使いが恨めし気に見上げた。
馬鹿だ・・・・否、本物の馬鹿者だ。
コイツは、貯金して真面目にコツコツ働くという、社会人としての当たり前な考えが無いのか?
「・・・お前ぐらいの実力なら、仕事を選ばなければ荒事師として金に困る事は無いだろ?まさか、性懲りも無く悪魔退治の仕事をしていたのか?」
「・・・・。」
ライドウの鋭い視線に見つめられ、何も応えられなくなる。
そんな銀髪の青年に何かを悟ったのか、悪魔使いは盛大に溜息を吐いた。
「3年前、あれだけ酷い目に会って何も学習しなかったとはな・・・・・俺が一体何の為にお前に『フォースエッジ』と大金を渡したのか全く意味がなくなっちまったみたいだぜ。」
「ライドウ・・・・。」
ライドウがスパーダの愛刀、大剣『フォース・エッジ』を返したのは、3年前の悲劇を思い起こさせ、同じ過ちを繰り返さない様に戒める為である。
たった一人の肉親であるバージルを殺した剣。
それを見れば、もう悪魔絡みの事件に拘わろうとはしないだろうと考えた。
謝礼金も彼が人間としての人生を再出発する為の軍資金になればと思って渡したモノである。
だが、どうやらその悪魔使いの想いはこの唐変木(とうへんぼく)には伝わらなかったらしい。
「こんな時にも説教か・・・いい加減にしてくれよ。」
「貴様・・・。」
憎まれ口を叩くダンテに白銀の魔槍士が、殺気の籠もった双眸で睨み付ける。
ライドウが手で制しなければ、深紅の魔槍で貫いているところだ。
「・・・・アラストル。」
「ふぁい!?」
面白くも無さそうに、二人のやり取りを眺めていた神父姿の悪魔は、突然、声を掛けられ、気の抜けた返事を返す。
「お前に命令だ、この馬鹿のお守りをしろ。」
「はい??????」
余りにも予想外の指示に、銀髪の青年と浅黒い肌をした青年が同時に素っ頓狂な声を発した。
「あ、あのさぁ・・・俺っちに力を示したのはアンタで、俺っちの主人はこの城の主で・・・・。」
「お前に掛けられた契約の効力は、行動範囲をこの城内に制限するってモノだ。別に誰に力を貸そうが関係ない。」
何とか言い訳をして嫌な命令から逃れたいアラストルだったが、悪魔使いに正論で切って捨てられ、それ以上何も言えなくなってしまった。
「おい、勝手な事するなよ。アンタが俺をアレコレ指図する謂(いわ)れは・・・。」
「お前じゃ”フォースエッジ”は使えない。死にたく無かったら言う通りにしろ。」
鋭い眼光。
長年荒事師として数々の修羅場を潜って来たダンテを黙らせるのに十分な迫力をその隻眼は持っていた。
「本来の姿に戻れ・・・アラストル。」
「へいへい。」
コッチが本当の姿なのになぁっとボヤきながら、浅黒い肌の悪魔は、魔具形態へと姿を変える。
天から降り注ぐ一条の雷撃。
それは浅黒い肌をした青年を包み、辺りを青白い光で満たす。
暫くして光が晴れるとそこには、一本の大剣が宙に鎮座していた。
蝙蝠の羽根とドラゴンを思わせる彫刻が施された鍔。
柄頭には、『フォース・エッジ』と同じ髑髏の装飾が付いており、刀身には蒼白い電気の蛇が絡み付いている。
悪魔使いの少年は、宙に浮かぶ魔具―雷神剣・アラストルを手に取ると、それを眼前で憮然とした表情で立っているダンテに差し出した。
「アラストルはこの城の構造を熟知している。分からない事があったら必ず聞くんだぞ?」
それだけ言うと、再びマベルに銀髪の青年の監視を指示し、少年は番の騎士を連れて、中庭から出て行った。
「ちっ、勝手な事言いやがって。」
崩れた壁から回廊内に入るライドウの後ろ姿を忌々し気に見送る。
こんなモノ渡されなくても、『フォース・エッジ』は必ず使いこなせてみせる自信はあった。
あの時は、偶々、魔具の扱い方を間違えたか、調子が悪かっただけだ。
銀髪の魔狩人は舌打ちすると、渡された大剣『アストラル』をフォースエッジとクロスさせる形で背に収めた。
冥界の河、ステュクスの支流にあるアケローン川。
死者の渡し守を任されている死神―カロンは、困った様子で桟橋に蹲ったまますすり泣く小太りの男を眺めていた。
「オルフェウス、いい加減諦めたらどうだ・・・。」
この情けない男が、魔術師として秀でた才能を持ち、二人の優秀な弟子がいるとはとても思えない。
「もうすぐ夜が明けてしまうぞ?現世の扉が閉じる前に船に乗るんだ。」
生者を冥府に取り残したとペルセポネーに知られたら、彼女からどんな仕置きを受けるか分からない。
「す、すまないカロン。夜明けまでまだ間がある。申し訳ないが、少しだけ風に当たらせてくれ・・・。」
そんな渡し守の気持ちを知ってか知らずか、オルフェウスはハンカチーフで涙を拭うと、立ち上がり桟橋から離れてしまう。
「良いか、夜明けまでには必ず戻るんだぞ?」
フラフラと覚束ない足取りで去っていく後ろ姿に声を掛ける。
軽く手を振るオルフェウス。
その姿が悲しい程情けなく映り、冥府の渡し守は一抹の不安を禁じ得なかった。
「うう・・・エウリュディケー・・・僕は、何て無力何だ・・・。」
川に映る自分の姿。
母、カリオペーの父親・・・つまりオルフェウスの祖父、大神ゼウスの血が色濃く出たのか、全体的にずんぐりむっくりとしており、美しい母にも逞しい肉体美を誇る実父、アポロンとも似ても似つかない体型をしていた。
容姿も似たようなもので、団子鼻に気弱そうな小さな眼。
母からは、若い頃の祖父、ゼウスに瓜二つだと褒められたが、全然嬉しくも何ともなかった。
性格も卑屈を絵に描いた様なモノで、幼い頃は同年代の子供達に馬鹿にされ、虐められていた。
友達らしい友達もいないオルフェウスの孤独を癒したのが、竪琴である。
養父と実母から精神的虐待、周りからは謂れの無い誹謗中傷を受けているオルフェウスを不憫に思った祖母のムネーモシュネーが、心の拠り所になればと教えてくれたのである。
魔術の才だけでなく、音楽の才能にも秀でたオルフェウスは、たちまち祖母、ムネーモシュネーよりも上手く竪琴を弾ける様になった。
一時は、養父のオイアグロスのせいで音楽を諦めた時期もあったが、宮廷魔術師の資格を得たその後は、再び仕事の合間などに竪琴を弾く様になった。
しかし、相変わらず卑屈で内気な性格はそのままで、周りが結婚し家庭を作る中、彼は決まった相手が見つからず、30代半ばまで独り身のままであった。
そんな時である・・・・運命の相手、エウリュディケーと回り逢ったのは・・・。
「こんな醜い僕でも・・・彼女は愛していると言ってくれた・・・。」
実父、太陽神・アポロンに恋した水の精・クリュティエが彼への愛慕の余り変じた向日葵の花の様に、眩く美しい可憐な少女―エウリュディケー。
オルフェウスが奏でる竪琴が大好きだと言ってくれたエウリュディケ―。
優しく誠実な自分を好きだと言ってくれたエウリュディケ―。
顔を真っ赤にして必死にプロポーズの言葉を口にしたら、同じ様に顔を赤くして頷いてくれたエウリュディケ―。
「お困りの様だね?旦那・・・。」
若くして死んだ最愛の妻への想いで一杯だったオルフェウスの背に向かって、何者かが声を掛けて来た。
ビックリして飛び上がる魔術師。
慌てて振り向くと、赤色の皮膚を持つ一匹のゴブリンが此方を見ていた。
成人男性よりも華奢で背の低いオルフェウスよりも更に一回り小さいゴブリンは、名前を『チクク』と言った。
「冥府の中でアンタは結構有名人だ・・・あの冷血女に喧嘩を売る生者・・・てね。」
冷血女というのは、勿論この冥府を統べる女王―ペルセポネーの事である。
最愛の妻、エウリュディケーへの面会に足繫く通い、その度に審判の神殿前で追い返されるオルフェウスを冥府に住まう連中は、女王に盾突く愚か者と、映っていたに違いない。
「そんなに死んだ奥方に会いたいのかい?」
「会いたい・・・・彼女が転生の循環に加わる前に、せめて別れの言葉を一言だけでも交わしたい。」
このチククというゴブリンは、不思議な魅力の持ち主で、とても親しみ易く、魔術師は何故かエウリュディケーの馴れ初めと彼女を襲った不幸を話していた。
「なら、あの冷血女を倒せば良い・・・そうすりゃアンタの大好きな奥方と好きなだけ話が出来るぜ?」
「ば、馬鹿な事を言うな!冥府の世界においてペルセポネーの力は絶大・・・僕みたいな一介の魔術師が太刀打ち出来る相手じゃないよ!」
ケタケタと笑いながらとんでもない事を平然とほざくこのゴブリンに対し、オルフェウスは顔を真っ青にして抗議した。
「倒すのが無理なら退かせれば良いだろ・・・・オイラならその方法を知っている。」
「し、退かせる・・・・?一体どうやって?」
チククは、座っていた叢(くさむら)から立ち上がると「ついて来い。」と同じく叢に座る魔術師を手招きした。
一旦、オルフェウス城内の探索は保留にして、マレット島内を調べる事にしたライドウ達。
闘技場へと続く跳ね橋を渡っている最中、悪魔使いの少年は、明らかに不機嫌な従者の顔をちらりと一瞥した。
「まだ怒っているのかよ?いい加減機嫌を直してくれ。」
一度へそを曲げられると後が面倒だ。
番がどうして機嫌が悪いのか、その理由は大体察しが出来ている。
あの糞生意気で厄介な便利屋に魔具―アラストルを渡したのが、相当気に入らないのだ。
「貴方はあの男に甘すぎます。ああいう輩は排除してしまうべきです。」
敵対心を剥き出しにする番に、ライドウは困り果てて溜息を一つ零す。
「俺の”不殺の信条”理解出来てますか?」
「時と場合によります。」
「志郎君、もう少し冷静に考えよう・・・相手は一応人間だ。」
「私には、薄汚いゴブリンにしか見えません・・・それとクー・フーリンです。その名前で呼ぶのは止めて下さい。」
そんな憎まれ口をお互い叩きながら、二人は、闘技場への入場門前広場へと辿り着く。
すると渡り切った跳ね橋が、重い可動音と共に、八の字に跳ね上がってしまう。
これでもう、城へは戻れなくなってしまった。
「成程、オルフェウス公は随分と面白い趣向をお持ちらしい。」
上がり切った跳ね橋を眺め、悪魔使いが大袈裟に肩を竦める。
この城と闘技場を設計したのは、恐らくこの島の持ち主―オルフェウスだ。
女諜報員のトリッシュから渡された資料の中に、彼が宮廷魔術師だった時、建築士と同じ様な仕事をしていた記述があった。
城の増設の際、悪霊や敵国から領主を護る為に、様々な仕掛けや結界を施していたのだろう。
その技術が、この島全体と城に生かされている。
「オルフェウスと言う人物は、相当優れた魔導師だったんだろうな・・・本来なら数人の術者を使う”異界送り”をたった一人でやってたんだからな。」
庭園1階へと続く螺旋階段を降りながら、雷神剣・アラストルが言っていた言葉を思い出していた。
『お・・・俺っちのご主人様は、2000年前に冥界に行ったっきり現世に戻って来てねぇ・・・。』
もしそれが本当なら、オルフェウスは、一人で地獄門を造り冥界に旅立ったという事になる。
神父姿の悪魔は、イカレデブ親父と馬鹿にしていたが、同じ魔導師であるライドウからしたら、相当な魔力と優れた技術を持つ術士にしか思えない。
「2000年以上も冥府を彷徨っていると思いますか?」
「普通ならあり得ないよなぁ・・・でも、アラストルの様子を見ると主のオルフェウスは未だに生きてる。何か理由があって、何処か別の場所で隠れて住んでいるとか・・・・?」
相当な実力の術士ならば、不老長寿の法術で2000年という長い時間を生きながらえる術はある。
しかし、最愛の妻を失った男が、それ程長く生きたいと願うだろうか?
その時、地中から何かの気配を察した悪魔使いが、後方に飛び上がる。
地面を穿ち、先程まで居たその場所に鋭い爪が突き出された。
「どうやら俺達を歓迎してくれる連中のご登場だな?」
地中から這い出て来る巨大な体躯をした悪魔。
節足動物特有の節くれだった6本の脚。
緑色の巨大な一つ目とその両脇には四つの複眼が侵入者2名を見つめている。
先程、オルフェウス城で対峙した悪魔―妖獣・ファントムの眷属、サイクロプスだ。
ライドウとクー・フーリンの退路を完全に断つ様な形で、2体のサイクロプスが現れた。
「コッチは、私が始末します。そちらは任せましたよ?」
背中合わせに立つ白銀の魔槍士が、愛用の魔槍―”ゲイ・ボルグ”をバトンの様に回転させると、目の前に立ちはだかる一つ目の化け物に踊り掛かった。
「了解。」
ライドウも合体剣―”七星村正”を鞘から抜き、土色の怪物に向かって疾走した。
傍から見たら、物凄い才能を持っているのにそれを上手く活用できない不器用な人って何だか好きです。