そこで、マレット島に地質調査で上陸した調査員の生き残りと出会う。
無数の鋼の牙を穿たれ、吹き飛んでいくブレイドの群れ。
イタリアの地質学者―ジュリー・フィンレイは、あまりの出来事に魔法詠唱を中断してしまった。
そんな彼女の前に一匹の大きな黒猫が現れる。
「ブフダイン!!」
黒猫とジュリーを取り囲む様にして対峙している悪魔達の足元に巨大な魔法陣が展開。
氷結系上位魔法―ブフダインが発動し、氷の刃が次々とブレイドの群れを刺し貫いていく。
氷の槍に魔力を喰われ、次々と凍てつく棺の中に封じられていく蜥蜴姿の怪物達。
後に残ったのは、ジュリーと黒猫・・・そして彼女を探す為に島に上陸したダンテ達だけであった。
「怪我は無い?エウリュディケー?」
「はい・・・ペルセポネー様のお陰です。」
振り向く黒猫―ペルセポネーに対し、真っ青な顔をしたジュリーが微笑んで見せる。
しかし、唇の端は引き攣り、とても大丈夫な状態ではなかった。
懸命に気丈な態度を見せてはいるが、死の女神がいなければ、失神していたかもしれない。
「おい、アンタ・・・・もしかして国土地理院の職員、ジュリー・フィンレイか?」
巨大な双子の銃―”エボニー&アイボリー”を両脇のガンホルスターに仕舞った銀髪の便利屋が、一人と一匹に問い掛ける。
「貴方は・・・・?」
突然の乱入者にジュリーが警戒心を露わにした。
黒猫も毛を逆立てて、エメラルドグリーンの瞳で睨み付けている。
「俺の名前はダンテ・・・アンタの婚約者に頼まれて此処に来た。」
そう言って、銀髪の魔狩人は、胸ポケットからジュリーと婚約者の若い男性が映る一枚の写真を見せた。
ジュリー・フィンレイは、何処にでもいるごく普通の女性であった。
バイオリンニストのギリシャ人の母と中学の教師をしていたイタリア人の父親の間に生まれ、それ程裕福ではなかったが、特に苦労する事も無く、ミラノ工科大学に入学し、前々から興味があった地質学の勉強を行った。
それが功を奏して、当時の大学教授の推薦もあり、国土地理院に地質学者として就職する事が出来た。
全てが順風満帆。
大学時代の同期であるスティーブと結婚を前提に付き合う事にもなり、今年の夏に籍を入れる約束までしたのに―。
「私を思い出して?エウリュディケー・・・。」
”マレット島”の調査の為に島へと上陸したジュリーと数名の研究員達。
同じ職場の仲間達が悪魔に襲われ、次々と殺されていく中、彼女は一匹の黒猫に救われた。
黒猫の名前は、ペルセポネー。
冥府を統べる死の女王。
「私の生前の名前は、エウリュディケー・・・この城の城主、オルフェウスの妻でした。」
地下水路の一画。
悪魔が居ない事を確認した一同は、そこで暫く休息をとる事にした。
ジュリー、否、エウリュディケーは、石の通路に腰を降ろすとポツリポツリと記憶の中に僅かに残っている前世での出来事を話し始めた。
野苺狩りの為に森に入ったら、誤って毒蛇に噛まれてしまった事。
それが元で命を落としてしまった事。
次の転生を待つ為にエーリュシオンへ渡った事。
そこで夫のオルフェウスと再会し、酷い事を言ってしまった事。
「コイツはびっくりだな・・・普通、転生の循環に魂が同化したら、それまでの記憶は全部消されるって聞いたんだけどさぁ。」
ダンテが背負っている魔具―雷神剣・アラストルが通路に座る紅茶色の髪をした女性を見つめる。
確かに、言われてみればオルフェウスの妻にどことなく面影が似ている。
「リーンカーネーション・・・ライドウから聞いたことがある。極稀に前世の記憶を持つ人間が生まれるって・・・。」
強い霊核を持つ人間が死ぬと、前世の記憶をそっくりそのまま残した状態で転生する事がある。
そういう人間は、類稀な霊力を持ち、魔法を使う事が出来るのだという。
「彼女の記憶を呼び覚ましたのは私よ。」
それまで黙って一同のやり取りを聞いていた黒猫―ペルセポネーが口を挟んだ。
彼女は、転生したエウリュディケーの力を借りて、この島の何処かに幽閉されている夫のオルフェウスを探しているのだという。
「しっかし、あの氷の女王様が、猫になっちまうとはなぁ・・・。」
アラストルの侮蔑を多分に含んだ眼差しをペルセポネーが殺気の籠もった緑色の双眸で睨み返す。
「お黙り!アラストール!天ノ津神に喧嘩を売った挙句、そんな情けない姿にされた貴方に言われる筋合いはありません!」
流石は冥府を統べる神といったところか。
ペルセポネー程の強大な神ともなると、現世に実体化するのに様々な影響が周りに出てしまう。
例えば、直下型の地震が起きたり、火山が噴火したり、突然、ハリケーンが発生したりと、自然災害の形で現れてしまうのだ。
それを防ぐ為に、ペルセポネーは、あえて自らの力を抑え、黒猫の肉体を借りてエウリュディケーの転生体であるジュリーを探したのだ。
「喧嘩はそれぐらいにしてくれよ?耳元でぎゃーぎゃー騒がれてコッチはたまったもんじゃねぇ。」
呆れた様子で肩を竦めたダンテは、寄り掛かっていた壁から身を離し、改めて黒猫に向き直った。
「んで?その死の国の女王様がなんだって、前世の記憶を呼び起こしたんだ。」
「四大魔王(カウントフォー)の一人、ムンドゥスを倒すためよ。オルフェウスの力無くては奴の暴走を止められない。」
「ムンドゥス・・・・??」
初めて聞く悪魔の名前。
魔界の情勢など全く知らないが、魔王というからには相当強大な力を持つ悪魔に違いない。
その時、通路に座っていたエウリュディケーが突然立ち上がった。
夢遊病者の様な生気の無い表情で、地下水路の奥を見つめている。
「どうしたの?エウリュディケー・・・。」
「あの人が・・・・私の大事なあの人が、とても苦しんでる。」
ペルセポネーの問い掛けにそう応えると、女性地質学者は、何かを決意したのか、右手の薬指に嵌められている婚約指輪を外した。
「ダンテさん、貴方にお願いがあります。これをスティーブに渡して下さい。そして、私が死んだと伝えて下さい・・・・。」
シルバーの婚約指輪をダンテに渡し、紅茶色の髪をした地質学者は、通路の奥へと走って行ってしまう。
「待ちなさい!エウリュディケー!」
慌ててその後を追う黒猫。
呼び止める暇(いとま)すらもなかった。
「此処に来てかなりスキルの高い悪魔が出る様になったな?」
操り人形の悪魔―ブラッディ・マリーの上位種、フェティッシュの頭部をクナイで叩き割り、背後から襲って来たもう一体を氷結系中位魔法”ブフーラ”で串刺しにする。
「もしかしたら、この付近に地獄門(ヘルズゲート)があるのかもしれませんね。」
真紅の魔槍『ゲイ・ボルグ』でフェティッシュの躰を両断したクー・フーリンが、敵の攻撃を紙一重で躱し、カウンターに強烈な蹴りを操り人形の腹部にお見舞いする。
胴体が真っ二つに割れ、地面に倒れる操り人形の悪魔。
火炎放射を放つも、あっさりと見切られ、代わりに深紅の刃で頭と胴を斬り飛ばされる。
「さて、メインディッシュは、あの羊ちゃんかな?」
「山羊じゃないですか?」
庭園2階の壁をすり抜け、現れたのは禍々しい二本の角を付け、巨大な大鋏をもったデスシザーズであった。
不気味な笑い声を上げながら、ゆらゆらと宙に浮遊し、侵入者である悪魔使いと白銀の魔槍士を観察している。
「来るぞ。」
「了解。」
ライドウの指摘通り、デス・シザーズは、大鋏を前方に構え、物凄い勢いで回転しながらコッチに突進して来た。
左右に跳んで躱す悪魔使いとその下僕。
獲物を失ったデス・シザーズは2階の地面を抉り再び宙へと舞う。
大きく穿たれたその跡は、さながら巨大な掘削機を思わせた。
「弱点はあの仮面・・・俺が奴の動きを止めるから、一撃で破壊しろ。」
「御意。」
主の命令に魔槍『ゲイ・ボルグ』を構えるクー・フーリン。
そんな二人のやり取りを他所に、デス・シザーズは狙いをライドウに決めると大鋏を左右に振り回しながら、襲い掛かって来る。
「ジオンガ!」
電撃系中位魔法を発動。
大鋏を振り回す死神の左右に魔法陣が展開し、そこから電雷の鞭が現れ、デス・シザーズを拘束してしまう。
数千ボルトの電流を浴び、身体の自由を奪われる漆黒の死神。
その額に魔槍『ゲイ・ボルグ』の切っ先が突き刺さる。
あっさりと砕け散る仮面。
真紅の槍は、宙で回転しつつ、投擲した持ち主―クー・フーリンの手の中へと戻って行った。
「気に入らないな・・・。」
塵へと還っていく悪魔を眺めながら、ライドウはぽつりと呟く。
「どうかしたのですか?マスター。」
手に戻って来た半身を構え直し、白銀の魔槍士が訝し気に主を見つめる。
「これだけ上位種の悪魔が実体化してるって事は、地獄門もそれなりにデカイって事だ。そうなると前から現世への影響が出ていても不思議じゃない。なのに、何故今になって地震という形で出る様になったんだ?」
ライドウの言う通り、次元の穴が大きければ大きい程、シナジー効果として現世に自然災害が起きやすくなる。
原因不明の地震がイタリア近辺で度々起きているのがその証拠なのだが、それが起き始めたのは、数か月前からであった。
「この島の建築物は軽く見積もっても、1000年以上前のシロモノだ。それにオルフェウス程の魔導士なら、地獄門を開ければどうなるかぐらい知っていてもおかしくない。」
もし仮に悪魔の研究をしていたならば、何かしらの防衛策ぐらいは行っている筈だ。
その証拠に、今までこの島が人々に余り知られてはいなかった。
それは、人間が寄り付かない様に何かしらの呪いをかけていたのではないのか?
「もう少し調べる必要がありますね。」
「だな・・・考え過ぎかもしれないが、俺にはこの事件が人為的な災害に思えてならない。」
悪魔使いとしての長年の経験がこう訴えている。
この”マレット島”で行われている悪魔による自然災害は、とてつもない悪意を持つ人間が起こしていると・・・。
「・・・・!!」
不意に先程の悪魔達とは比べ物にならない魔力の波動を感じた。
頭上を見上げる二人。
すると上空の空間がまるで台風の目の様に渦を巻いて歪んでいく。
「な・・・ナナシ・・・。」
「ああ・・・全く、まさかこんな大物が絡んでいたとはな。」
いつも冷静で表情を滅多に変えない魔槍士。
その顔に僅かな畏怖の色が見て取れる。
ビリビリと肌を突き刺す魔力の波動に、ライドウも内心引き攣っていた。
「久し振りだな?人修羅よ・・・。」
渦を巻く空間の中心に浮かぶ三つの目。
炯々と光る深紅の瞳は、西洋に伝わる鬼火―ウィルオウィスプにも見えた。
「お前に会うのは20数年振りか?ユリゼンの飼い犬。」
「何だ?ティフェレトの地(アンタのシマ)を荒らし回ったのが、そんなに気に障ったのかい?ムンドゥスさんよぉ。」
上空に浮かぶ三つの目・・・それは、魔界の地を統べる四大魔王の一人、魔帝・ムンドゥスであった。
主に魔界の西側(ティフェレト)の地を支配しており、東側(イェソド)を支配している同じ四大魔王のユリゼンとは、お互いの思想の違いから仲が悪く、数百年に渡って、血で血を争う抗争を続けていた。
「貴様のせいで大事な配下が何人も死んだ・・・あの時の屈辱と怒りは今も忘れん。」
魔帝の憤怒の声と共に地中から突如、火柱が噴き出す。
ライドウ達の目の前に立ち上る巨大な火柱は、獣の如き咆哮を発し、中から燃える髪を振り乱した巨大な二本角を持つ、魔神が姿を現した。
「我が錬金術により生み出した魔神”イフリート”だ。コイツを倒す事が出来たら誉めてやろう。」
「相変わらず手先が器用な事で・・・。」
この魔神は、魔帝の手で造り出されたホムンクルスだ。
魔王クラスにもなると自ら錬金術を駆使して、強力な人造の生物兵器を生み出す輩がいる。
かつての番―ユリゼンとこのムンドゥスがその代表格で、彼等は幾万の造魔兵を生み出し、自らの勢力としているのだ。
オルフェウス城、地下水路。
夫の苦しむ声を聞いたと言って通路の奥へと走って行ってしまったジュリーこと、オルフェウスの妻―エウリュディケー。
彼女を追って黒猫の肉体に憑依したペルセポネーを追って、ダンテ達も通路奥へと進んだが、途中で黒猫と女性地質学者の姿を完全に見失ってしまった。
「駄目・・・気配が完全に消えちゃった・・・多分、転送魔法(トラポート)を使って、別のエリアに飛んだみたい。」
二人の魔力の波動を感知していたマベルが、探知外に移動した事を告げた。
「ちっ、何処に行ったか分からねぇのか?」
「・・・・・気配を完全に消してる・・・エウリュディケーって人は相当な術者みたい。私の精神感応力から逃れる何て流石だわ。」
ペルセポネー程ではないが、エウリュディケーもそれなりに術は使えるらしい。
ブレイドの群れと大立ち回りをして、その一体を衝撃系中位魔法―ザンマで倒しているのだ。
その上、死の国の女王が護衛として護っているのだから、例え上位悪魔に襲われても十分対処は出来るだろう。
「んで、これからどうするの?アンタの目的は一応達成出来たんでしょ?」
先程、エウリュディケーから渡された婚約指輪を見ているダンテに向かって、小さい妖精が言った。
「ふざけんな!こんな中途半端なまんまで終わりに何か出来ねぇだろ。」
妖精の言う通り、このまま指輪を持って帰って彼女が死んだと依頼主の婚約者に報告して渡せば無事依頼達成にはなるだろう。
だが、彼女は現に生きてこの城の何処かにいるのだ。
それにこの島には、自分が探し求めていた悪魔使いが居る。
悪魔を狩り続ければ、あの愛しい悪魔使いの少年と回り逢う事が出来るかもしれない。
そのチャンスがやっと来たのだ。
此処で逃す訳にはいかない。
「お取込み中のとこ申し訳ないんだけどさぁ、なぁーんかヤバそうな雰囲気だぜ?」
雷神剣・アラストルが言うのと、銀髪の魔狩人の周囲を取り囲む様にして結界が張られたのはほぼ同時であった。
地下水路の石の煉瓦で出来た壁から、禍々しい魔力を放つ巨大な悪魔が這い出して来る。
二本の角を生やした一つ目の仮面。
ボロボロになった漆黒のローブ。
手には所々、血で錆びついた巨大な大鎌を二本、両手に持ち、ユラユラと上空を飛び回っている。
「コイツは、デス・サイズだな・・・城内に居る悪魔の中では上位種に入る奴だ。」
獲物を自ら造り出した結界で閉じ込め、その中でゆっくりと痛ぶりながら殺すのだという。
「早速、働いて貰うぞ?アラストル。」
「ち、人修羅様の命令だからな?俺っちがしっかりお守りしてやるよ。」
本当ならこんな未熟者に使われるのは真っ平御免だか、ライドウの指示なのだから仕方が無い。
雷神剣・アラストルを構えるダンテ。
そんな銀髪の魔狩人に向かって、二本の大鎌を振り回しながら、デス・サイズが襲い掛かった。
またまた中途半端。
ゲーム設定では、ユリゼンはバージルの悪魔の部分でした。