ただしこちらは七話以降からもう一つの方より更新が滞る、というか完全に遅れる可能性があるので悪しからず。
では本編をどうぞ。
空は無限に広がっている。
それが彼『
かつて陸軍であり、
あの日、ザイが現れてからは――――
『――――こちらマリオ01より管制室、情報の提供を請う』
眼下に広く青い海、上には無限に広がる空の下、泉守恭平三等空尉は、隊長機が送る無線を横流しに聞いていた。
返事はすぐに帰ってきた。
『管制よりマリオ01、敵編隊一、距離30、高度―――――』
「・・・・」
とりあえず聞き流しながら、恭平はキャノピーに移る真っ青な空を見上げた。
『奴ら』が現れてから、人類は負け続けている。
だというのに、空は残酷なまでに青い。
まるで、地上の事なんか知らない、とでもいうかのように。
(いまさらか)
そう結論付けて、恭平は前を向いた。
それと同時に、隊長機から指示が入る。
『マリオ01より各機、交戦準備』
「マリオ02了解」
『マリオ03了解』
自分の後に続く無線に応答する者たちの声を聞き流しつつ、恭平は自身が乗る戦闘機の翼を見た。
彼が乗るのは『F-15J』、通称『イーグル』
航空自衛隊において、それに乗って空を駆る者たちの事を、一言に言って、『イーグルドライバー』と呼ばれている。
「持ってくれよ・・・・」
そんな呟きの中で、ふと無線から隊長機からの声が響いた。
『マリオ01よりマリオ02、応答せよ』
「ん?こちらマリオ02、何か用で?」
『・・・・壊すなよ』
なんとも、我らが隊長ながら念を押してくれる。
しかし、それは無理な相談というものだ。
「了解。
『はあ・・・』
溜息が返ってきた。何故だ。
そう思っている間に、正面にきらめく何かを見つけた。
来た。奴らだ。
『マリオ、これより交戦に入る』
隊長機の言葉と共に、これから始まる戦闘に身を震わせる。
そうして始まる、奴らとの戦闘。
2015年六月――――この日、世界は奴らに蹂躙される事になる。
『マリオ09、ダウンッ!!』
『畜生!またかよ!!』
『ブレイク!ブレイク!』
無線から、九つ、いや、七つの悲鳴が聞こえてくる。
その中で、恭平だけは悲鳴をあげず、ミサイルを放ち、しかし外れても機関砲で叩いていく。
ガラス細工のような機体は、こちらの常識を軽々と超える機動力でこちらを圧倒してくる。それだけじゃあない。数が多い。少なくともこちらの倍の数はいる。
『マリオ03、ダウン』
『なんだよこいつら・・・!?』
『く、隊長!』
無線から轟く悲鳴。その全てを無視して、恭平は、目まぐるしくかわる天地と景色を睨みつけて、目の前の敵機を追い、後ろの敵機を振り切ろうとする。
そこで、ミサイルアラートが鳴り響く。
が――――
「あらよっと」
真正面から迫ってきた敵機の機関砲を掻い潜り、そして、機体を反転させてその
「
それでも戦いは終わらない。
まだ、敵はたくさんいるのだ。
「FOX2」
翼下のミサイルの一本がリリースされる。それが、目の前の敵機に向かって突き進み、しかしミサイルは回避行動に出ている敵機に接近した直後、突然、目標を見失ったかのように勢いを緩め、空中で自爆した。
「くそ!やはりミサイルは効かねえか!!」
吐き捨て、マニュアルに切り替えて、ドッグファイトに切り替えて飛び回る。
気付けば、味方は自分を含めて、残り数機。
敵の数は、たいして減ってはいない。
『撤退だ!撤退するぞ!』
隊長機から、そのような叫び声が無線から放たれた。それに従うように、他の味方機が戦線を離脱していく。
『マリオ02!お前も―――』
「隊長方はそのまま離脱してください。俺はしんがりを務めます」
『な!?無茶だ!いくらお前の機動力があったとしても、数が――――』
「どうせこのまま追撃されれば終わりだ!それに味方のほとんどが落とされた。俺一人失った所で対した事にはなりませんよ」
ミサイルアラート。背中から迫るミサイルから必死に逃げて、他の敵機の目の前に躍り出て、そしてすれ違いざまに敵機にそのミサイルを叩きつける。
無線から、隊長の悲痛そうな叫び声が聞こえた。だが、もはやそれを気にしている余裕はない。
相手は、
ならば、自分はそれ以上の機動で奴らを落として見せよう。
後ろにつけさせない。喰らいついたなら逃がすな。敵は確実に落とせ。
無茶な機動。あまりにも乱暴な操縦。しかし、それでも奴らを追い詰めている。
ミサイルを撃ち尽くす。無駄だと分かっていても、下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるという事で撃って、それで落とせたのはたった二機。
しかし機関砲がその銃口から火を噴けば、敵機は確実な数を減らしていく。
どんどん減っていく残弾数のメーター。だが、この際、気にしていられない。
この際、全てを使って敵を出来る限り落とす。
後ろにつかれる。
敵機がその標準を、恭平のイーグルに定める。
しかし、いざミサイルを放とうとした所で、唐突に目の前の機体の姿が掻き消えた。
いきなりの敵機の消失に、その機体はそのイーグルを探した。
しかし、見つける前に、背後から降り注いだ弾丸の雨を喰らい、くしくも落ちていく。
その弾丸の雨を降らせたのは、いつの間にかそのガラス細工の機体の背後を取っていた恭平のイーグルだった。
「残りは――――」
そう、呟きかけた時――――イーグルが悲鳴を上げた。
「やべっ――――」
気付いた時には、イーグルの機体に亀裂が入っていた。
そして、背後からくるミサイルアラート。
ブレイクをしようとする。しかし、それ以前に機体の事が気になって上手くパフォーマンスできない。
フレア、チャフはもう間に合わない。逃げる事も叶わない。
もう一度、全力で機動すれば、間違いなくこの機体は壊れる――――
「―――悪い、皆」
ひきつった笑みを浮かべて、恭平は、呟いた。
「俺、死んだ」
次の瞬間、敵のミサイルが、恭平のイーグルの翼を叩いた。
片翼を失った大鷲は、ぐるぐると回転しながら落ちていき、やがて、海に墜落した。
『泉守ィィイ―――――――――――ッ!!!』
無線から、隊長の叫び声が聞こえた気がした――――。
『ザイ』――――
突如、中央アジアに出現した、謎の飛翔体。
それらは現代の軍用機を軽々と凌駕する機動『
それらの機動は、人間が耐えられる9Gという度合いを軽々と超え、重力や常識すらも無視しており、さらにはミサイルのレーダーなどを狂わせて暴発、さらには人間の五感を狂わせるような電波を発してマニュアル射撃もままならないようにしている。
それらの要因が災いして、世界中の空軍は悉く敗北しているのだ。当然それは自衛隊も同じだ。
その正確な目的は不明。ただ分かっているのは、奴らは人間を襲うという事だけだった。
泉守恭平――――
祖父は海軍所属のパイロットで、父親は航空自衛隊二等空佐。母親も情報管制などを担当する自衛官で妹でさえも航空学校の生徒。
ようは、軍人の家系だ。
そんな家の第一子として生まれ、そして祖父の言葉に魅了されて父親同様に自衛官となった。
その度重なる努力のおかげで航空学校を通して、類まれなる才を示して、三沢の第三航空団に所属する事に成功した―――――が、問題なのは、彼がいままでやっていたのはシミュレーターであって実機を操作した事はなかったという事。そして、彼の持つ操縦技術が常識を超えており、彼の体がその非常識に耐えられる体を持っていたという事。
そのせいで、彼は、F-15―――イーグルというイーグルを、そのとてつもない操縦能力で
その、常識を超えた操縦技術と恐ろしいまでの戦闘技術を持ち合わせていた彼ではあったが、危うく航空団を首にさせられそうになった事がある。
そのおかげでついたあだ名が『
全くもって不名誉である。
「その結果が、三ヶ月の昏睡なんだよなぁ・・・・」
緑の迷彩柄のジャケットを着込んで、そうひとりごちる恭平。
すっかり衰えた筋力を気にしつつ、恭平は自室を出た。
ザイが現れてすでに半年。
三ヶ月前、中国の援護という事で出撃した三沢の航空隊のほとんどを投入して敗北したあの戦い。
その戦いにおいて、恭平は自らの操縦によって悲鳴をあげたイーグルを撃ち落とされ海の上に墜落。
落下の際に意識を失って、そして気付いたらベッドの上。その上でカレンダーを見て驚愕したのが一週間前。
相当な筋力の衰えによってリハビリに時間を取られ、そうしてやっと出た退院許可が昨日。
しかし、その日に顔を出してみた三沢基地は、案外それほど変わってはいなかった。
あの一戦以降、あまりザイのよる襲撃を受けなかったようだが、それでも一度だけ二、三機の襲撃を受ける事があった。
その結果、かなりの数の仲間が減ったとも言っていた。
ザイとの最前線ではないのが唯一の救いだろうか・・・
(なんて・・・楽観的になっている場合じゃねえんだよな)
食堂の一席に座って、恭平は手をあわせて「いただきます」と呟いて、Bセットの揚げ物を口に放り投げる。
「起きて早々、随分とのうのうとしているな、泉守」
「ん?ああ、狩野か。どうした?」
そんな恭平の向かいの席に、彼の同期である『
「聞いているか。今日、なんでも新戦力がここ三沢に投入されるらしい」
「ああ、昨日隊長から聞いたよ。なんでも、ザイの部品を流用したみたいだな」
「お前の救出次いでに拾ってきたもので作ったらしい・・・忌々しい」
祐司の箸を持つ手に力が入る。
その眼光も、これまでにないほど鋭くなっている。
「そうかっかすんなよ。そいつでアイツら落とせるなら万々歳じゃねえか」
「貴様はどこまで能天気なんだ。奴らのコアとやらを利用してつくったものだぞ。信用どころか信頼する要素はどこにもない」
「でも技本の奴らが試行錯誤を重ねた結果で出来上がったもんだろ?仲良しこよしとはいかんでも、協力する価値はあるぞ」
「貴様は・・・まあいい」
祐司はもくもくと自分の食事を食べていく。
「どちらにしろ・・・ザイは皆殺しにする・・・」
「・・・変わったな、お前」
その理由は聞いている。
中国にいる恋人がザイによって殺された。
ただそれだけのシンプルな理由だ。
しかし、そんなシンプルな理由だからこそ、祐司はザイをこれまでにないほど憎んでいるのだ。
そして、周りも。いや、彼らの場合は、恐怖という感情の方が正しいだろう。
ザイという、未知の戦力に、その技術に、そして、それによって作られた、新兵器に。
ならば恭平はどうかといわれると、そうでもない。
自分の力が、すくなからず通用する。
その事実があるだけで、彼のザイに対する恐怖心はそれほどなかった。
(まあ対話は不可能だろうけどな)
なんて結論付けて、恭平は最後の揚げ物を口の中に入れた。
「どっちにしろ、俺には乗る機体がないんだ」
「確か再配備まで数日かかると言っていたな」
「ま、それまでに衰えた筋力を取り戻していくさ。それじゃあ俺はこれで」
盆と食器を返して、恭平は食堂を後にする。
ザイの出現。それによって蹂躙される中国。
現代の航空技術では太刀打ちできない敵の力は、まさしく化け物以外の何物でもない。
なら、それに対抗できる技術を持っている自分は一体―――?
廊下を歩きながら、そう考えていると、ふと、放送が入った。
『――――泉守一等空尉、ただちに第三打ち合わせ室にきてください。繰り返します――――』
この間の戦闘で、二尉から一尉に昇格したために呼び方が変わっている。まあ気にすることではない。
だが、このタイミングでこの放送とは、一体何の用だろうか。それに、司令からの呼び出しではなく、どこかの誰かからの呼び出しとは。一体なんの用なのだろうか。
やはり検討がつかない。
とりあえず、行ってみるとしよう。
そうして向かってみた第三打ち合わせ室にて、その人はいた。
丸々と太った体に、丸い縁の眼鏡をかけた男だった。
「お前が、泉守一尉か?」
突然、そう言われたから、少し慌て気味に返事をした。
「え、ええ・・・泉守一等空尉です。それで、貴方は・・・」
「申し遅れた。俺は防衛省技術研究本部、特別技術研究室室長の八代通だ」
「ああ、技本の・・・それで、そんなお偉方がどうして俺のような一兵卒に用があるので?」
それを聞いた八代通はくわえていた煙草を手に取るなり煙を吐き出した後、語り出した。
「よく言う。泉守恭平、二十三歳。航空学校を首席で卒業。志望理由は空を飛びたいというなんとも子供らしい理由らしいな。非凡なる才を発揮して筆記、実技ともにダントツの成績を修めて期待の新星としてここ三沢基地に配属になった。そして、そこでの初飛行において、自分が乗っていたF-15を操縦しただけで破壊、それを二、三度繰り返した結果、『イーグルブレイカー』などという不名誉極まりないあだなをつけさせられた」
「よくお調べになったことで」
恭平のこめかみには青筋が浮かんでいる。
「それで、まさかそんな嫌味を言うために俺を呼んだんじゃないでしょうね?」
「当然だ。でなければお前をここに呼んだ意味がないからな。ついて来い」
八代通に言われるがまま、ついていく恭平。
「お前さん、どうして俺たち人間は奴らに負け続けていると思う?」
そんな中、突然そんな事を言われた。
「えーっと、数が膨大なのと、奴らの常識を超えた機動力。そしてミサイルのセンサーが狂わされる電磁波ってところか?」
「まあ八十点といったところか」
なんとも嫌味な口調で言われた。
「それを正式になんと呼ぶか知っているか?」
「さあ?」
「HIMATとEPCMだ」
「HIMATは分かるが、EPCMってなんだ?」
「HIMATは高機動航空技術の略だな。有人では実現不可能な機動性のことだ。一方のEPCMは、お前の言うミサイルのセンサーを狂わせる電波の事だ。ただ、これの厄介な所はもう一つあってな。それが人間の五感にも作用しちまうって事だ」
「え?そうなの?」
ふと、八代通が立ち止まった。なんだ、と訝しんでいると、こちらを振り返って若干驚いているような視線を向けていた。
「まさか・・・効かなかったのか?」
「それ以前に、俺、そんなのあったなんて聞いてませんよ。まあ、聞かなかった俺の自業自得ですが・・・」
「・・・まあいい。それについては後で議論する事にしよう」
また歩き出す八代通。
「それでだ。奴らの超技術に、なにも手をこまねいていた訳じゃあない」
「技本っていうぐらいだから、何か、新型の兵器の開発に成功したんですか?」
この半年間で?これは早いと言えるのか?
「その通りだ」
気付けば、恭平たちは夜の基地の中、この三沢基地にある第四格納庫にやって来ていた。
「既存の戦闘機をHIMAT化して奴らの機動力に対応出来るようにチューニングし、対EPCM性能の付与、専用の自動操縦機構『アニマ』を装備させたのがこの――――」
中に入れば、そこには、一機の戦闘機が置いてあった。
「『ドーター』だ」
しかし、真っ先に疑問に思ったのはそのカラーリング。
全身を緑の塗装で塗り固めたその機体は、他とは違う何かを放っていた。
そして、色は違えど、その機体の名前を知っていた。
「・・・・RF-4EJ・・・ファントムⅡ・・・」
「それでだ、泉守一尉」
その謎の機体、ファントムのボディに触れる八代通は恭平を見てこう言った。
「お前にこいつの管理を頼みたい」
「・・・・は?」
一瞬、何を言っているのか分からなかった。
「えーっと、それってつまり、俺がこいつを使うって事ですか?」
「ああ、これじゃあ語弊があったな。お前が管理するのは
「え?じゃあ何を・・・」
「室長、来ましたよ」
そこでスタッフの一人から、そのような声があがった。
「やっと来たか。やれやれ・・・紹介しよう、泉守一尉」
八代通が視線を向けた先、そこには、一人のお嬢様然とした少女が、なんとも上品な歩き方でこちらに歩み寄ってきていた。
緑色のおかっぱ髮、どこかの令嬢と思わせる整った顔立ちと雰囲気、服装もさることながら、その立ち振る舞いも一つ一つが丁寧だった。
そして、八代通の隣に立つと、その琥珀色の目でじっと恭平に向けていた。
「RF-4EJ-ANMファントムⅡ、その自動操縦装置『アニマ』だ」
「はあ・・・自動操縦装置・・・って・・・」
あまりにも、少女が可憐だったので見惚れていたが、八代通の野太い声によって現実に引き戻され、そして、ここ一番の絶叫をあげた。
「女の子じゃん!?」
後に、二人は同じ機体に乗るパートナーとなるのだが、それはまだ先の話である。
次回『シー・ネーム・イズ・ファントム』
キャラ解説
泉守恭平
年齢 二十三
階級 一等空尉
軍人の家系に生まれた男。
9G以上の飛行に耐えうる体を持ち、ザイのEPCMを無効化する体質を持っている。
操縦技術が他者を凌駕しているがゆえに、何度もF-15を破壊していたという理由で『イーグルブレイカー』などという不名誉なあだ名をつけられた。
本人、その気になれば機体を壊さずにいられるのだが、その場合は
ファントムをパートナーとし、ドーターのファントムを駆る。
搭乗機
F-15イーグル→RF-4EJ-ANMファントムⅡ
戦闘の際における彼の特化能力は『回避』。
仮令、ロックオンされてもフレア無しで回避できる。
ただし、その機動が滅茶苦茶なため、機体が耐えられない。