ガーリー・エアフォース 翠緑の亡霊   作:幻在

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恭「航空自衛隊一等空尉にして独飛の隊長である泉守恭平は、突如現れたザイの侵攻を食い止めるため、ドーターにしてアニマであるファントムを相棒に、愉快な仲間たちと共に戦っていた!」

慧「ちょぉっとまてぇぇ!?なんだ愉快な仲間ってのは!?」

恭「んん?大食いグリペンに精神子供のイーグル、そして何事にも馬鹿正直な慧、そして強がっているだけで実際は寂しがり屋なファントム、これのどこが愉快じゃないっていうんだよ?」

慧「俺はこの中では一番まともだぁ!」

恭「失礼な!一番まともなのは俺だ!」

慧「一体アンタのどこがまともだっていうんですか・・・」

恭「そんな自称まともと言い張る慧君はさておいて新たなアニマが登場する第十話をどうぞ!」

慧「自称ってなんだ!?そして今回のメインはそれじゃあないだろ!?」


ディターミネイション

八代通の指示に従い、恭平たち独飛のメンバーは、海鳥島からもっとも近い沖縄の那覇基地に帰還していた。

どうにか着陸し、恭平は改めて僚機の惨状を確認した。

地対空クラスター弾の影響で、二機の体はあちこちに小さな損傷が出来ており、あのまま二撃目を喰らっていれば、どうなったか分かったものじゃない。

恭平は、すぐさまファントムから降りるなり、すぐさま慧たちのもとへと向かった。

「慧!グリペン!イーグル!」

丁度、慧が下りてきた所で、恭平は急いで駆け寄る。

慧の顔色は、かなり悪い。

「大丈夫か?」

「ええ・・・まあ・・・・」

声音もどこか弱々しい。それもそうだろう。

(あんな所を見せつけられちゃあなぁ・・・)

頭を掻いて、先ほどの事を思い出す恭平。

 

終末派―――『シェン教』

 

以前にも戦ったことはあるが、やはり、奴らは異常なまでの信仰心を持っている。それ故に、自分の命すら顧みない戦いをする。

仮令、弾丸がなくなろうがミサイルがなくなろうが、己が体を弾丸として敵にぶつけたり、基地に落下して自爆したりとやる事全てが常軌を逸している。

それは、おそらく彼らの信仰心の為せる技なのだろうが、それでも、決して許容できるものじゃない。

己の正義の為に、自らの安全を無視する行為など、決して認められない。

だが・・・

(このままじゃ、いつまで経っても基地を破壊する事は出来ない)

奴らの出現は、思った以上に厄介だった。

ドーター二機の出現、終末派の行動、それを見た慧の心情。

今回の作戦の要は、恭平の乗るファントムであり、ファントムがミサイルを操縦する以上、恭平は下手に得意の高機動を発揮できない。

そうなれば、敵ドーターを相手取るのはイーグルとグリペン。だが相手の連携は想定以上で、一方のこちらはそこまでの連携を取れず、さらにはグリペンは慧という弱点を抱えている。

さらにグリペン自身もそこまでの実力はもっていない。

とてもではないが、

(あの二人を相手にするには荷が重すぎる・・・)

それに、人である慧にとっては、

(人を殺す事と同価値だ・・・)

それは軍人の仕事だ。

人を撃つことも、人を殺す事も、国を守るためにその訓練をしてきた人間がするべきだ。

一般人である慧がするべきことじゃない。

しかし、そうなると・・・

「作戦の遂行は不可能ですね」

ふと、背後から声が聞こえた。振り返れば、そこには自身の半身に背中をもたれているファントムの姿があった。

「ファントム・・・・」

「慧さんがそのような状態では、グリペンとともに飛ばすのは無理・・・さらにドーターが二機も出てくるとなれば、私たちも必然的に戦わざるを得ません。だけどそれではミサイルの誘導に気を回す事も出来ない・・・・」

「だから諦めるのか?」

「必要であるならば」

ファントムは冷静だ。彼女の行動はつねに自分が生き残る事を前提としている。色んな事に何もかもが全力だ。

「だが、海鳥島を取られれば、ザイの行動圏はさらに広がる事になる。そうなれば、人類滅亡が加速する事になるぞ」

「ええ、そうですね・・・・ですが、それが直接的な要因になるとも限りません」

「そりゃそうだけども・・・ああ、っもう!」

ダメだ。これに限っては彼女も譲る気は無いらしい。話は平行線。一向に流れが変わる様子もない。

模擬戦で力付くでミッションに同行させるか?いや、だめだ。ファントムはそもそも勝ち目のない戦いはやらない主義だ。必ず自分が勝てる勝負でないと乗ってはくれないだろう。

「あう」

「おい大丈夫か?」

ふとそこで背後で可愛らしい悲鳴が聞こえた。振り返ればはしごから足を滑らせたのかぶらぶらとぶら下がっているグリペンの姿があった。

その表情は若干、脂汗を伴っている。

「アニマはドーターは一心同体だ。ドーターのダメージは痛みとしてフィードバックしてアニマに伝わってくる。一応、リンクレベルを下げて痛みを小さくすることも可能だが」

「なんですかそれ」

「でも、リンクレベルを下げ過ぎると上手く機体をコントロールできなくなって逃げきれなくなると思った」

「それで我慢してた、と・・・」

そう呟いた慧は、口をひくひくと動かしつつグリペンの両頬を挟み込んだ。

「うううう!?」

「お前なぁ、痛いなら痛いっていえよ。逃走中ならともかく、着陸ぐらいは引き受けられたぞ」

そう、着陸ぐらいなら慧でも出来るのだ。彼だって、何もグリペンとただ一緒にいるだけではないのだ。何度かシミュレーションでJAS-39Dグリペンを操縦した事があるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

―――――ん?

 

 

 

 

 

 

 

 

操縦?慧が?グリペンを?

その三単語が揃った瞬間、恭平の脳裏に稲妻が走る。

「これだぁ・・・」

「ん?」

何かを呟いた恭平に気付く慧だったが、それよりも早く恭平はファントムと向き合っていた。

「へいへいファントム、もう少し話ききーや」

「なんですかその喋り方。気持ち悪いですよ?」

「さっきから聞いてれば随分と弱気だな。それでも俺のパートナーかよ」

ぴくり、とファントムの肩が震える。

「生き残らなければならないのは分かるが、ようは死にたくないって事だよな。うん。そりゃそうだ。誰だって死にたくないもんな。でも、お前は結局、戦えなくなった自分を捨ててもらうのが怖いだけなんだろ?違うか?」

ぴくぴくとファントムの耳が動いた。ような気がする。

「兵器として作られたくせに戦場を選ぶ?笑わせてくれるぜ。兵器なら戦場を選んでる余裕なんてない。ただ命令に従って作戦を遂行するだけでいい。それなのにお前は逃げるんだな。失望したよ」

ひきつった笑みを、ファントムが恭平に向ける。

「ずいぶんと好き勝手言ってくれますね。なんですか?私は貴方のパートナーに相応しくない、と。そう言いたいんですか?」

(おいおい最後の方涙声になってるぞ・・・流石に失望は言い過ぎたか)

よく見れば目尻にも涙が浮かんでいる。だが、帝国海軍の軍人の孫として、甘やかす訳にはいかない。

「そう言われたくなけりゃあ、作戦をきっちり完遂させるんだな」

「ふっ、先ほども言いましたが、終末派が出てきた以上はそれは不可能です・・・ぐす」

(おいぃい!?最後、ぐすって聞こえたぞぐすって!?)

さらに目尻に涙が溜まっている。まずい。どうにか取り持たなければ結界する。

「そうか。だったら仕方がない。ここは力づくと行こう」

どうにか動揺を押し殺し、グリペンと慧のそれぞれの肩に手を片方ずつ置いた。

「これからこいつらと模擬戦して、こいつらが勝ったら作戦に参加。逆にお前が勝ったら俺はお前の言う通り、ここを捨てて小松に戻る」

「・・・・・ん?え!?ちょっ、まっ!?」

「ううう!?」

突然の事に当然驚く慧とグリペン。

「その二人が・・・私と・・・?」

「ああ」

「ちょ、ちょっと待ってくださいいきなりなんですむぐ」

「すまない慧。だが拒否権は無い」

「ほんはばはな(そんなバカな)!?」

口を塞がれてもなお暴れる慧。

「ふ、ふふふ・・・・」

その一方でファントムはファントムで暗いオーラを迸らせていた。

「ずいぶんと舐められたものですねぇ。言っておきますけど、そこの二人は私に負けたんですよ?勝ち目なんてあるはずがありません」

「そいつはどうかなぁ。もしかしたら予想外の手段で勝ちに来るかも?」

相も変わらず軽い口調でそう挑発する恭平。

そこで、今まで俯いていたファントムが顔をばっと上げる。

その目は・・・やっぱり泣いていた。

(((泣いたー!?)))

「いいでしょう!その勝負受けてあげます!負けてももう一回なんて許しませんからね!!」

そのままずかずかと去っていくファントム。

「・・・・やり過ぎたか」

「それ以前に何するんですかアンタはぁ!?」

「何って模擬戦に強制参加だが?」

「それはそうですけど・・・ああ、もう!わかりましたよやればいいんでしょうやればァ!!」

もはや自暴自棄となっている慧。

一方のグリペンは突然の事に頭がついていっていないのかぐるぐると目を回している。

「ま、お前に勝ち目がないわけじゃあない」

「それは分かってますよ。アイツはどんな事にも全力を注いでるんでしょう?」

「それが分かってんなら問題ねえかな・・・・」

どうやら、慧の方にも勝算はあるようだ。だが、

「と、いきなり話は変わるんだが、お前、さっきの戦闘を見てどう思った?」

「え・・・」

「終末派の連中の行動・・・どう思ったよ?」

「それは・・・・」

それを聞いて、慧は口を閉ざす。

これが、もう一つの課題だ。

慧の覚悟。

終末派と相対して、それでもなお戦い続ける覚悟はあるのか。あるいは、人を撃つ覚悟はあるのか。

それを今、試されている。

「異常だ、と思っただろ?」

「・・・」

恭平の言葉に、慧は肯定するかのように黙り込む。

だが、やがて、吹っ切れたように口を開く。

「可笑しいですよ、あんなの・・・なんで、あんな簡単に自分の命を投げ出せるんだ。どうしてもっと生きようなんて思わないんだ。どうして・・・・誰かが悲しむなんて思わないんだ・・・・!!」

拳は握りしめられ、歯は、これまでにない程食いしばられていた。

「どうして、世界を壊すなんて簡単に言えるんだよ!奪われたものをどうして取り返さないんだ!?奪われたんならどうして取り戻さないんだ!?どうして、あんな簡単に諦めきれるんだよ!訳わかんねえよ・・・!!」

精一杯に、自分の気持ちを吐き出す慧。

慧は、自分の感情を隠せない人間だ。だから、思った顔に出るし、動揺しやすい。

でも、だからこそ自分に正直で、戦いたいと願った。

ザイという存在の恐ろしさを直に体感して、恐怖を刻みつけられた。

だが、彼はそれでも戦う事を選んだ。

自分に正直に。グリペンという少女と共に、空を飛ぶことを選んだ。

「慧。お前は、自分の痛みが十分わかってる」

「え・・・?」

「だからこそ、お前は他人の痛みも理解できる。だからお前は他の誰にもない『強さ』を持っている・・・お前に、この言葉を贈ろう」

慧の肩に手を置いて、恭平は言う。

「自分の痛みが分からない奴に他人の痛みを語る資格はない。俺が尊敬する、かつて帝国海軍だった俺のじいちゃんの言葉だ。他者を理解する前に、まずは自分を理解する。そしてそこから、少しずつ周囲に目を向けるんだ。そうすれば、お前が守りたいものが見えてくる筈だ」

それを言った恭平は踵を返して歩き出す。

「そういう訳だ。八代通には俺から言っておくから、お前らはゆっくりと作戦会議しててくれ」

そう言って、恭平は慧たちの元から去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、いう訳で舟戸さんをプリーズ」

『ふざけるな、今すぐやめろ・・・と言いたいが、それしかないだろうな』

「ご理解いただき、ありがとうございます♪」

『やめろ気持ち悪い』

「すみませんでした」

画面の向こうの八代通はげんなりとした表情で額を抑えていた。

『それで、勝算はあるんだろうな?』

「もちろんですよ。慧が俺の予想通りの事をしてくれればね」

『フン、あくまで余裕、か・・・まあいい』

紫煙を吐いて、八代通は続ける。

『終末派が現れたって聞いた。それもドーターが二機も来たらしいな』

「ええ」

八代通の質問に、恭平は先ほど印刷してきたあの二機のネットに乗っていた写真を見せる。

「『YF-23-ANMグレイゴースト』。アメリカ空軍向けに作られた試作ステルス機の二号機で、スーパークルーズ機能搭載。アフターバーナーなんて使わなくても超音速による巡行が可能ないわゆる空飛ぶ巡洋艦・・・世代で言えば第五世代に分類されるいわば最新型・・・確か、アメリカでは第六世代の機体のドーター化がもうすぐできるとかできないとか聞きましたけど・・・・」

『そんな事俺が知るか。それで、もう一機の方は?』

「ああ。『AV-8B-ANM ハリアーⅡ』。第二世代型戦闘機だが、小規模な飛行場といった他の機体の活動が制約される環境下での近接航空支援と戦場航空阻止をこなす事の出来る唯一の機体ですね。この機体ならどうにか出来そうなものですが、問題なのは二機の連携。まだチームとしてまともな連携が取れていない以上、こちらが遅れを取るのは確実です」

『じゃあどうする?』

()()()()()()()なら、の話ですが」

『何・・・?』

恭平が不敵に笑う。

「今回の目的は敵前線基地の破壊・・・・であるなら、下手に落とす必要なんて無いわけです。ただ攻撃を妨害してくれればあとはこっちで勝手にミサイルを操作して基地を破壊します。後はそのままとんずらこけば良いだけ。簡単でしょう?」

『はあ・・・全く、お前という奴は・・・』

「隊長は俺ですから」

わざとらしく胸を張って見せる。

『まあいい。とりあえず舟戸を向かわせる。後はお前たちでどうにかしろ。そんで、あの我儘娘をどうにかしてくれ』

「父親公認とあれば」

その言葉を最後に、通信を終える。

 

 

 

 

 

「さぁて、どうすっかな」

両手を頭の後ろで組んでしばらく基地内を散策する恭平。

ファントムはおそらくいじけて口を聞いてくれそうにないし、イーグルは気付けばどこかに行ってしまっていたし、慧とグリペンには模擬戦に集中してもらいたいから下手に話しかけられない。

はて、そうすると後はどうするべきだろうか。

(そういや、真耶の奴はどうしてっかな)

真耶とは、恭平の妹の事である。

 

泉守真耶(まや)。現在航空自衛隊浜松基地所属のオペレーター(雑用)であり、現在二十一歳。

現在、婚約中の相手アリ。オペレーターとしての実力は母親仕込みで確かであり、特に戦況の把握はずば抜けて速い。

さらに活舌も良い上に彼女が言うとどれほど細かい命令でもなぜか頭に入って、それでいて理解できてしまう為に『人形使いの女王(スキッパークイーン)』なんてあだ名もついていたり。ちなみに本人はこの名前を嫌っている。

 

「今何してんのかな~」

なんて思いながら那覇基地を歩いていると、ふと目の前を黒髪のショートカットのゴスロリ姿の少女が通り過ぎた。

「よお真耶、お前その恰好も結構似合うんだな」

そう言って恭平はその少女の横を素通りする。

「――――ってちょっとまてぇぇえ!?」

寸での所で異常に気付いた恭平は思わず自分の妹そっくりな少女に理不尽なツッコミを叩きつける。

「ちょ!?真耶!?お前真耶か!?なんでゴスロリになってんのお前!?ていうかお前所属ここだっけか!?浜松だよなお前の所属!?どうしてここにいんの!?」

と、マシンガンの如き言葉の嵐を真耶(仮)にぶつける。

だが真耶(仮)は首を傾げるばかりだった。

「・・・あー、一つ聞くぞ。お前、真耶か?」

間。そののちに真耶(仮)はスマホを取り出すなり何か文字を打ち、そしてその画面を向けてきた。

『泉守恭平一等空尉』

それは、間違いなく恭平の名前だ。しかも階級まで丁寧に書かれている。

そう、そこまではいい。とにかく、そんな言い方は自分の妹は絶対にしない。

兄として、そこは絶対だ。

「オーケー。確かに俺は泉守恭平一等空尉だ。だからちょっと待て。いいか?そこで待つんだぞ?ステイ、ステイだ。勝手にどこか行くなよ?いいな?」

それを聞いて、真耶(仮)は。

『何故そこまで念を押す必要が?』

「いいから絶対に動くんじゃねえぞ!分かったな!?」

思わず怒鳴ってしまったがすぐに恭平はある人物に電話をかけた。

数回のコールの後、

『もしもし、お兄ちゃん?どうしたの?』

随分と聞き慣れた声が電話越しに聞こえた。

「ああ、真耶か。お前今どこにいる?」

『え?雄也君とデートだけど・・・って何言わせるか!?』

「ああ、うん。お前と雄也が仲良くしてるってのは良ーくわかった。そしてお前が今絶賛ラブラブしてるって事も」

『ラブラブ言うな!で?なんでいきなりそんな事を聞いてきたの?今任務中の筈だよね?』

「いや、ちょいと俺の目の前で、現在進行形であり得ない事が起きてるから電話を掛けただけだ。気にするな。それじゃあデート楽しめよ。親父が許してなくても俺は歓迎してるって伝えておいてくれ」

『うん分かった。それじゃあねお兄ちゃん、任務頑張ってね』

「おう」

妹との電話を終え、恭平は通話を切って、改めて目の前の真耶(仮)を見る。

「・・・お前、名前は?」

その問いに、彼女は、

『F-2A-ANMバイパーゼロ』

バイパーゼロ、噂に聞いていた、那覇基地のイーグルの元同僚。なるほど、それなら納得がいく。

彼女のこのふざけた服装もその容姿も、おそらく偶然の産物なのだろう。

それを理解した瞬間、恭平は緊張の糸が切れたかのようにハァーっと息を吐き出した。

「あー良かった。どにかくお前がどういう存在だったのか理解できて安心した」

『それは良かったです』

何やら労ってくる真耶(仮)改めバイパーゼロ。

「改めて、俺は泉守恭平。特別混成飛行実験隊の隊長を任されている。一応、お前の上司という事になるのか?」

『独飛は那覇基地所属のアニマ限定と聞いてますので厳密には違うと思います。ですがその点は曖昧なので、一応そうなるのでしょう』

「おおう、ファントムとはまた一風変わったまともな返し・・・まあいい。それで、お前はどうしてここに?」

その質問に、バイパーゼロはしばし逡巡した後に、

『逃げてきました』

「は?」

『少し、驚いてしまって』

「・・・一応聞くが、誰からだ?」

『鳴谷慧からです』

意外に早い切り返し。

「よし、この際何があったかなんて聞かない。だからとりあえず少し話をしよう」

『具体的には何をでしょうか?』

「うーむ・・・そうだ。お前、この基地に一人だけだけど、大丈夫なのか?」

『ここの防衛は私一人でも成立しています。守るだけなら問題ありません。攻めるとなると話は変わってきますが』

「なるほどな・・・」

それなりの実力はあるのだろう。

『それに、今回の作戦には私も参加する事になっています』

「え?マジか?」

『貴方は隊長ですので、教えておく必要があるでしょう』

そのままバイパーゼロから彼女の作戦における動きを聞きだした所、

「任せた」

割と本気で恭平はバイパーゼロに頼んだ。

「しかし、一人ってのも退屈じゃないのか?」

『私は人間との直接接触は可能な限り避けるよう指示されている』

「え?そうなの?」

なんだそれは。

「もっと他の人と話そうとは思わないのか?」

『イーグルたちと話しています』

「そうじゃなくてだな・・・なんか、こう、基地の人とかにさ」

『それは私の性質上、あまりよろしくありません』

「え?性質上?なんだそれは――――」

さらに聞こうと思った直前でスマホが鳴る。

すぐさま恭平はスマホ取り出して耳に押し当てる。

「はい泉守」

『おう一尉。こっちの調整終わったんだが、見に来ないか?』

舟戸だった。

「それはご苦労様です。そこに慧はいますか?」

『いんや、まだ来てないな。でもま、アンタも面白い事考えるよな』

「それはちゃんとした勝算があるからですよ。もし慧が俺の予想通りに動いてくれればきっと勝てます」

『そりゃ頼もしい。で?一応当事者であるアンタに一応報告しといたが、どうする?』

「もちろん見に行きますよ。そんじゃ、後はよろしくお願いします」

『あいよ』

そこで通話が切れる。

「よし、バイパーゼロ・・・」

そしてバイパーゼロの方を向いたが・・・

「あれ?」

そこには誰もいなかった。

「・・・・逃げられた」

そう呟くも、それに答えてくれる人はいないわけで、ただそこに立っている時間が無駄に過ぎていくだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

那覇基地の屋上にて、慧は頭を抱えて悩んでいた。

(どうすればいいんだ・・・)

その理由は単純、終末派の事についてだ。

これからやるファントムとの模擬戦は良い。問題なのはその先、あの基地を破壊する作戦を実行する際に、奴らは必ず現れるという事だった。

そうなったのなら、自分は一体どうすればいいのだろうか。

『いつか、お前の手の中の引き金に、敵の命がかけられる時が来る』

いつか、恭平の言った言葉が脳裏によみがえる。

 

自分の手の中の引き金・・・・

 

「ッ・・・」

もし、もし自分が撃たなければ、仲間が撃ち落とされる可能性がある。そうなったら、もう、何もかもが手遅れだ。だけど、それでも相手は人間。ザイではない。

命ある、存在だ。

「慧」

ふと、そこで後ろから声をかけられる。

振り返れば、そこには、見知った顔の少女がいた。グリペンだ。

「大丈夫?慧」

「ああ・・・いや、そうとも言えない、かな・・・」

握った拳に自然と力が入る。

「・・・なあ、グリペン」

「何?」

「俺は、どうするべきなんだろうな・・・」

慧は、自分の想いを、最も信頼するパートナーに吐露する。

「終末派の奴らを見るまで、俺は、大丈夫だって思い込んでた。だけど実際に対峙して、アイツらのあんな行動を見せられて、俺、なんか怖くなったんだ。あんな人間がいるなんて思いもよらなかった。皆、ザイの事を許せないと思ってた。あるいは、悲しんでると思った。だけど、アイツらは違った。世界の滅亡を望むなんて、そんな事、思わなかったんだ・・・」

同じ人間として、命を投げ捨てられる奴らが心底怖かった。

命を、簡単に投げ捨てられる、奴らの考えが、堪らなく分からなかった。

分からないからこそ、怖かった。

「俺、アイツらと戦える自信がない」

「慧・・・・」

今度対峙すれば、確実に遅れを取る自信がある。こんな後ろ向きな自信なんて本当の所いらないが、それでも、そう思わずにはいられない。

異常だからこそ、慧は、戦う事を躊躇ってしまう。

そんな慧を、グリペンは心配そうに見上げて、しばし考え込んだ後、グリペンは口を開いた。

「慧、正直、私は終末派の行動が理解できない」

「・・・・」

「理解できないからこそ、許せないって思う」

「許せない?」

一体、何が。

「どうして、そんな簡単に命を投げ出す事が出来るんだろうって。命は、たった一つしかないのに、どうしてそう簡単に捨てる事が出来るんだろうって。どうして、もっと生きようとしないんだろうって。そんなの、結局逃げてるだけ。空を飛ぶ力を、人を守れる力があるのに、どうして戦おうとしないのかって、そう思う」

抑揚のない声に、僅かな怒気が感じられた。

「あんなの、ただ逃げてるだけ。周りの人に比べたら恵まれている状況で、簡単に命を諦めるなんて、私は許せない。贅沢過ぎる」

「贅沢・・・」

「贅沢は敵」

何やらずれた所で燃えているグリペン。

そうか、贅沢か。

であるならば、自分のこの弱音も、贅沢の内の一つになる。

命を投げ出す事。それは決して、勇気なんかじゃない。

(それは、逃げる事・・・・)

奴らは、逃げている。自分の持つ力の責任から逃げているだけの、ただの狂信者。

生きる事を諦めた、臆病者たち。

自然と、怒りが湧き上がってくる。

「慧?」

ふと、グリペンの心配そうな声に、慧はハッと我に返る。

「ああ、すまん。ちょっとぼーっとしてた」

「疲れてるなら、休んだ方がいい」

「だな。でも、大丈夫だ」

グリペンを、じっと見る。

 

そうだ。自分は、こんな所でうじうじしていられない。

あんな奴らに、構っている暇なんてない。

 

ただ今は、目の前の課題を達成する事から始めよう。

 

慧は、そう心に決め、空を見上げた。




次回 第十一話『プロテクト・エヴリデイ』

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