ガーリー・エアフォース 翠緑の亡霊   作:幻在

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シー・ネーム・イズ・ファントム

恭平は今、非常に憂鬱になっていた。

その理由は、自分の目の前で、上品に食事をする一人の少女にあった。

その少女の名前は『RF-4EJ-ANMファントムⅡ』――――通称ファントム。

エメラルドグリーンのおかっぱ髮にどこかの令嬢とまで思えるほど整った顔立ち。

一見、清楚で礼儀正しそうな彼女ではあるが、ふとこちらの視線気付いてこちらを見るなり、

「あら?私の顔になにかついて?」

「いや何も・・・随分と綺麗に食べるんだな」

「一応、ある程度のマナーは弁えているつもりですよ一尉。それともなんですか?兵器なら兵器らしく、もう少し機械的に振る舞えと言うんですか?」

これだ。この口調だ。

嫌味たっぷりな口調と声音、そしてこちらを嘲るような表情が、その清楚なイメージを一発でぶち壊すのだ。

「いやそういう訳では・・・」

「なら、あまりこちらを見ないようにしてください。貴方は自分の食事に集中していればいいのです」

そう言って、再び食事の手を動かすファントム。

(なんでこんな事に・・・)

事の発端は、昨夜にまで遡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「女の子じゃん!?」

そんな恭平の叫びが、四格内に響く。

「そうだな」

「いやいやいや、そうだな、じゃないですよ!?なんで女の子!?どうして女の子!?というか自動操縦機構ってプログラムとかそういうのじゃないの!?」

喚く恭平を他所に、八代通は紫煙を吐き出す。

「お前、ドーターにチューニングする際、何の部品を使っているか分かるか?」

「え・・・」

しばし考えたのち、

「落としたザイの部品・・・・」

「そうだ。ドーターにはそれを組み込んであり、一方のアニマには、そいつのコアを使っている。ようはそういうことだ」

「いや、コアをドーター自体に組み込む事は出来なかったのか・・・?」

うんざりするようにそんな質問をしてみたが、八代通は答えて見せる。

「そういう案もあったが、何せこいつらには感情がある。そんな中で勝手にコイツを起動させられかねない。だから勝手に操縦できないように頭と体を切り離してるって訳だ」

「なんかゾッとするな・・・」

つまり、ドーターを作る、というよりかはドーターを動かす上でアニマは必要不可欠な存在ではあるものの、勝手に動かれてはたまらないという事で、別々に個体を用意したのだろう。

「怖いですか?」

ふと、そこでアニマの少女が口を開いた。

「ん?」

「無理もありません。私はいわば貴方たちの敵であるザイの部品によって作られた存在・・・しかし貴方たちはそんな私に頼らなければならないのです。皮肉なものですね」

「まあ、そう言われると頷くしかないのだが・・・それよりも、大丈夫なのか?見た目は人間だが、9G以上の飛行に耐えられるのか?」

「ご心配なく。私の体は素体からして人間とは違うので、対Gスーツがなくても問題なく戦闘は可能です」

「そうか・・・」

余裕たっぷりに答えられるので、なんとも複雑な気分である。

「まあ、戦えるなら良い・・・それで、具体的には何をすればいいんだ?」

「単純な話、こいつと行動をともにしてもらう」

「ようは監視って事か・・・」

「上がうるさくてな。一応、テストは重ねたつもりだが、どうにもまだ信じられないらしい」

「監視なら、俺以外にも適任はいると思うんだが・・・」

「そこは気にするな」

いや気にするぞ。気にするなという方が難しいぞ。

「とりあえず、任せたぞ」

「お、おう・・・」

そう言い終えるなり、八代通は恭平にファントムを押し付けてどこかに行ってしまった。

「・・・えっと、まずなんて呼べばいいんだ?」

「どうぞお好きに。この際、名前なんてどうでもいいでしょう?」

「いや、意思疎通に必要だろ」

「それもそうですね。ではファントムとお呼びください」

「了解だ。俺は・・・」

「泉守恭平一等空尉。三ヶ月前のザイとの戦闘で、多大なる功績をあげたそうですね。なんでも、対ザイ戦のエキスパートと呼ばれているとか」

「そうなのか?」

「ちまたでは有名ですよ。今、この日本において、貴方が一番多くのザイを撃墜していると聞き及んでいるので」

「へえ・・・・」

しばし、考え込んだ後、

「それ嘘だよな」

「はい。嘘です。よくわかりましたね」

恭平は思った。

コイツはやばい、と。

「ふふ、まさかこの様な嘘をこんなにも容易く見抜かれるとは思ってもみませんでした」

「あの時の戦いで、俺は墜落して三ヶ月も生死の境を彷徨ってたんだぞ。それでなんで対ザイ戦のエキスパートなんて呼ばれなきゃいけねえんだ。俺のあだ名はいつも決まって――――」

「『イーグルブレイカー』――――イーグルを何度も壊した事で、そのようなあだ名がついたようですね」

「・・・・よく調べてるな」

すっとファントムを睨む。

「ええ。私が所属する基地の事なんですから、よく知っておかないといけませんからね」

なんとも油断できない笑みを浮かべるファントム。

「とりあえず、これからよろしくお願いします。一尉」

「・・・おう」

なんとも、腹痛が響くような事を任されたと、恭平は今更ながらに思った。

 

 

 

 

 

 

 

そんなやりとりのあった翌日。

あまりにも歓迎されていない雰囲気の中で紹介されたファントムは、しばし恭平と一緒に行動をともにする事になったのだ。

「厄日だ・・・・」

ふと、横を同じ自衛隊員が通りぬけたが、その時、ファントムに対して鋭い視線が降り注いだ。

それには、恭平も気付く。

「・・・・歓迎されてねーな」

「仕方がありません。怖いんですよ。私という存在が」

「だろうな」

そう言って、恭平はお茶をのむ。

「・・・・追及しないんですね」

「なんだ?追及されたいのか?今更だよ今更。今更そんな事を話したって今の状況が好転する訳じゃねえんだからよ」

「それもそうですか・・・」

そう言って、最後の一口を口に入れ、「ごちそうさま」とつぶやくファントム。

「では、そろそろ行きましょうか」

「たしか初飛行だったな」

「ええ、よければ見ていきますか?」

「というか、俺はお前についていなくちゃならないから、強制だな」

「別に無理しなくてもいいんですよ?」

「お生憎様、暇を潰そうにも肝心の飛行機がぶっ壊れているからな。だから、お前で暇を潰すしかないんだわ」

おちゃらけて言う恭平を後目に、ファントムは歩き出す。そして恭平はその後ろをついていく。

その最中、背後から突き刺さるような視線を感じながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いくつもあるモニターの一つに、ファントムの姿が映し出されている。

そのファントムの髪は、エメラルドグリーンの光を発しており、琥珀色の目も、心なしか発光しているようにも見える。

『三沢タワー、BARBIE01、レディーフォーディパーチャー』

無線越しから聞こえてくる少女の声を受け、管制が指示を送る。

『BARBIE01、ランウェイ28、クリアードフォーテイクオフ』

『Roger、BARBIE01、ランウェイ28、クリアードフォーテイクオフ』

指示に従い、ファントムが離陸する。

「なるほど、問題はないな」

「ああ、でなければまともに戦えんだろう。何十回にも及ぶシミュレートの結果だ」

隣で八代通が紫煙を吐きながらそう呟いた。

「これでトラブルさえ起きなければ何も問題はないわけなんですよね」

「ああ、そうだ」

「そんなわけです、八代通室長、ちょいと奴について話してくれませんかね」

好奇心をたっぷり含んだ視線を八代通に向けると、彼は面倒くさそうに紫煙を吐いて語りだす。

「何が聞きたい?」

「単純な話、アイツの他にもドーターはあるのか、どんな操縦機構使ってんのか、何故俺を監視役に指名したのか。わかる範囲で全部吐き出してもらいますよ」

「ハア・・・順番に言っておこう。まず、アイツ以外のドーターだが、いる。今はロシアに一機いるだけだが、これからどんどん増えていくだろうな」

「へえ、あの共産主義野郎どもの・・・」

「ザイに接触する機会が多いからな、研究も進んでたんだろう。でなけりゃ俺が露助風情に負けるものか」

「アハハ・・・」

苦笑するしかない。

「次に操縦機構だが、あのパネルみたいなやつだが、あれはNFI―――神経融合インターフェースと言って、ようは、手足を動かす感覚で機体を動かせるようになるっていう寸法だ」

「なるほど、だから操縦桿がなくても問題なく動かせるのか・・・あれ?それって他のアニマが使った場合でも大丈夫なのか?」

「無理だな。アニマにはザイのコアから発される生体電流と特殊な波が常に体内に向かって放出されていて、それが僅かだけでも体外に放出されている。その周波数に合わせて機体をチューニングする為に、他のアニマにはその機体は使えないんだ」

「あー、つまり、鍵と錠の関係って事か」

「まあそうだな。それで、何故お前をアイツの監視役に任命したかだが――――一言で言って保険だ」

「保険?」

「ああ、アイツが暴走した時の為の、な・・・・」

「・・・・」

うすうす勘付いていた。

だって、奴らはザイの部品で作られ、なおかつそのコアを流用し、そしてザイと同じ機動が出来る。

そして、恭平は、そんなザイの機動に対抗できる操縦技術を持つ唯一の人間―――

「つまり、アイツが暴走した時は、俺が落とすという事だな」

「そうだ」

紫煙を吐いて、肯定する八代通。

モニターの向こうでは、ファントムが試験の四分の三までおわらせてしまっていた。

「俺はいらんと言ったんだがな。どうにも上層部はそんな得体のしれんものを野放しにできるかと言う意見が多くてな。それで、元々、あのファントムがあったここ三沢にある人員で適任を探していたら、お前さんがヒットした訳だ」

「・・・・」

確かに、奴ら相手に大破覚悟で戦えば、白兵戦なら確実に勝てる。

しかし、それでも時間が足りない。

奴らを時間内に倒せる可能性が、圧倒的に足りない。

「なるべく急ピッチでお前の機体を呼び寄せている所だが、それでも三日だ。それまでにザイどもがこなければいいんだがな」

「・・・・」

八代通のそんな懸念を聞きながら、恭平は、意気揚々と戻ってくるエメラルドグリーンのファントムを見つめた―――――

 

 

 

 

 

 

「お疲れさん」

降りてきたファントムに対してそう呼びかける。

「あら、一尉、わざわざお出迎えなんてご苦労な事で」

「一応お前に付き添えと言われてるんでな」

「そうですか」

「そういう所で悪いが、ファントム、これから検査に行くぞ」

恭平の後ろから八代通がそう言ってくる。

「分かりました、お父様」

「一尉、今日はもう良い。戻って休め」

「了解、八代通室長殿」

軽い敬礼をしたのち、八代通とファントムは、そろってどこかに行ってしまう。

「・・・・」

「しっかし、いつ見てもふざけたカラーリングだねぇこりゃあ」

背後から、なんとも快活な女の声が聞こえた。

無理むけば、作業着のジッパーを半開きにして、その下にあるシャツを露わにしている焼け肌の女性が目に入った。

整備士の『古田(ふるた)(あん)』だ。沖縄からここに転属してきた女性である。

「八代通のタヌキジジイ、こんなじゃじゃ馬用意しやがって」

その言葉とは裏腹に、彼女の顔は嬉しそうだった。

「整備は大丈夫か?」

「ん?ああ、お前のように毎度毎度壊れて帰ってくるわけじゃないからね。問題ないよ。ほら、さっさと格納庫に運んだ運んだ!」

他の整備士たちを叱咤しつつ、彼女は恭平の元へやってくる。

「それで、アンタ、あの子の事どう思うよ?」

「腹黒い」

「ずいぶんとざっくりとしてるねぇ。まあアタシも同意見だけど」

作業服の上からでは分かりにくいが、実は彼女、結構グラマラスな体つきをしている。

だが恭平はその事にはいつも気付かない。

「ただねえ。何か企んでる気がするんだよねぇ・・・・」

「だけどそれは分からない」

「そう、そこだよ。明後日、八代通がもう一機のドーター化をするために那覇にいっちまうからねぇ、その間の整備をアタシらがしなくちゃいけないんだけど・・・」

ちらり、と古田は恭平を見ると、その首に腕を回して顔に近付ける。

「いいかい、しっかり監視するんだよ。事は起きてからじゃ遅いからね」

「善処する」

「いいね・・・・・正直、アタシもあの子が怖いよ」

そう言って、彼女は持っていかれたドーターを追いかけていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばし、ザイの襲撃はなく、しかし中国が未だにザイの侵攻の被害をもろに受け続けているというニュースを聞き続けて、もう四日が立っていた。

やっとの事で届いた恭平用のイーグルではあるが、それがまさか恭平用のチューニングを施されている訳でもなく、費用のほとんどをドーター化の為に持っていかれているためにイーグルの改造は出来ていない。

そもそも、ドーターの修理と維持に莫大な費用がかかるために、たかが一人の兵の戦闘機を改造するなんて余裕はないのだ。

だが、それでもザイからの襲撃はなく、比較的平和な日々が過ぎていった。

 

そんな平和な日常の中で、航空自衛隊三沢基地には、とある変化が起きていた。

 

 

 

 

「・・・ん?」

それに気付いたのは、食堂にいた時だった。

どうにも、空気というか雰囲気が違っていた。

特定のグループでのみ集まり、他のグループに対しては何か、嫌悪感のようなもの感じる。

(なんだ・・・?)

何かの勘違いだろうか。その時は深く考えずに目の前にいるファントムを眺めた。

 

 

 

疑念が確信に変わるのは、そう短くはなかった。

基地内の外をファントムと一緒にあてもなく歩いていた所、それに出会った。

「野郎ッ!もう一度言ってみやがれッ!」

どこからか怒声が聞こえた。そちらに視線を向けてみれば、何やら二つのグループがいがみ合っていた。

「なんだなんだ・・・?」

「ああ、何度でも言ってやるぜ。お前らは旧式にしか乗れない哀れな戦闘機乗りだってな」

「んだとォ・・・」

なんだ。そんな事で・・・

「悪いファントム、ちょっと待っててくれ」

「別に仲介する必要もないでしょう?それともなんですか?『仲間』が争い合うのは見ていられないとかそういう意識ですか?」

「まあそんな所だ。見てろ」

そう言って、恭平は彼らに歩み寄った。

「おいおいお前ら一体何やってんだ?」

「あ?誰かと思ったらイーグルブレイカーじゃねえか」

(定着してるんですね・・・)

遠目から聞いていたファントムがそのような感想を抱いた。

「そんな事はどうでも良い。それよりも、お前ら一体何やってんだ?」

(気にしないんですか・・・)

「こいつらが俺たちの事を古臭い奴にしかのれない哀れな戦闘機のりと言ってくるんだよ」

「それはそうだろう?F-15、つまりイーグルに乗っている者はその実力が認められ、なおかつ最新鋭の機体に乗る事を認められた誉れあるパイロットだ。お前らのような旧式パイロットと同じにされたくないね」

「なんだと!?」

どうやら自意識過剰者が他人をけなしているだけのようだ。

しかし、今までそのような事があったか?なかったはずだ。

というか言われている方もこんなに短気じゃなかったはずだが・・・

「ていうか!家のお陰で融通してもらってる癖にいい気になってんじゃねぇよ!!」

「それが現実というものだ。それでも実力もある。未だにファントムにしか乗せてもらえないお前らに、そんな事を言われる筋合いはないな・・・・」

それに、と彼はつづけた。

「影でくだらない憶測を立ててこちらを貶めようとしているくせに、偉そうな事をいうな」

と、こちらもあり得ない程の眼力で相手を睨みつけた。

「な、何の話だよ・・・」

「とぼけるな。お前たちは影でさんざん、俺らの事をザイ戦で負けた負け犬などと呼んでいるんだろう」

「ハア!?」

「あー、ちょっと待て」

何やら不穏な方向に進み始めた会話をどうにか止める恭平。

「つまりなんだ?そんな噂を耳にしたからわざわざ直接言いがかりをつけに来たのか?」

「その通りだ。影でこそこそやる奴らよりも、よっぽどマシだからな」

「て、テメェ・・・ふざけんのも大概に・・・」

そこで恭平が掴みかかろうとしていた方を手で制した。

「つまりお前は、そんなくだらない事の為にわざわざ出向いたって事か」

「何?」

「お前さぁ、よく考えてみろ。たかが『噂』だろ?わざわざそんな確証もねえ下らねえもんのためにこいつらを貶めようってのか?それはな、馬鹿のすることだ」

「テメェ・・・」

相手の額にあおすじが浮かび上がった。

しかし恭平は構わず話を続ける。

「お前ら何を聞いたか知らねえけどな。影で悪口いうのも正面から悪口言うのもどっちもアホらしいんだよ。無駄な事言って、それで時間を無駄にしている暇があんならザイを落とす為の工夫を少しでも考えろ。それともなんだ?どうせ俺たちじゃザイに勝てないからその苛立ちを他人にぶつけて憂さを晴らそうって、そういう口か?そんな事考えてんなら、今すぐ自衛隊員やめちまえ。俺たちはあくまで()国を護()する為に戦ってんだろうが。それが()()隊だろうが。今目先のくだらねえ事でトラブル起こすな」

シン、と場が静まり返る。だがそれすらお構いなしに恭平は対峙していた二人の手を取るなり、それを無理矢理握手させる。

「分かったら、ハイ、仲直りの握手。今後、誤解のねえように、きちんと話し合うように」

「・・・・なんか、悪かったな」

「いや、こちらこそ・・・」

無理矢理現実に引き戻し、和解させた。

それを確認した後、恭平はファントムの元へ戻る。

「悪い、時間かかった」

「いえ、とても興味深かったです」

ふと、ファントムの目が、恭平を興味深そうに眺めた。

「ん?どうした?」

「いえ、なんでも。では行きましょうか」

そう言って、振り返って歩き出すファントム。その後を恭平は仕方なしについていく。

そして、ファントムが、その口角を吊り上がらせて、何かを企むかのように笑ったのを、恭平はついぞ気付くことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、しばらくの間、トラブルが絶えなかった。

掃除が行き届いていない、アイツはこっちを嘲笑っている、コイツは訓練の時はいつもさぼっている、などなど。

そんなくだらない事で起きる小競り合いを、恭平はすべて論破という形で納めてきた。

実は恭平、かなりの対人スキル持ちなのである。

覚えている言語も英語を初めとしてロシア語、ドイツ語、ポルトガル語、フランス語、中国語などなど、全部で七ヶ国の国の言語をマスターしているのだ。

その上、裁縫も上手いとか。

どんなトラブルが起きようとも、それが対人的な問題である限り、彼はその話術と臨機応変な対応によって全て納めてきた。

イーグルを初めて壊した時も、その話術でどうにか上司を丸め込んだらしい――――

 

それが、これまでにファントムがかき集めた、『泉守恭平』という人物の個人情報の一部。

 

他にも、家族構成が両親と妹、祖父母はすでに他界しているらしく、親戚が何人かいるらしい。

そして、何よりも目を引くのが、そのイーグルを壊した際の彼の機動。

全くもって、異常である。

物理法則を無視するかのような急加速に急旋回を決めてくる。その機動は通常のパイロットどころかザイすらも超えており、その機動によって、彼の操る機体そのものが耐えられず自壊、墜落していってしまう。

そのほとんどがイーグルであることから、ついたあだ名が『イーグルブレイカー』なのだろう。

他にも、『金巻き上げ野郎』だとか『費用無駄遣い装置』とも呼ばれているらしい。

だが、いずれにせよ彼が自らの脅威になる事には変わりはない。

どうにかしなくては。

自分の存在意義を、最優先事項を全うする為には、障害をとことん排除しなければならない。

正直、どれほど彼をはぶろうとしても、得意の話術と機転の使い方で全て阻止されてしまう。

ならばどうするべきか―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――俺と模擬戦をしろだぁ?」

「ええ」

突然、そんな事を言われて顔を引きつらせる恭平。

「いやいやいや何言ってんのお前。なんで俺がお前と戦わなきゃならんの?」

「あら、いけませんか?私はただ、一尉の実力を知りたいが故に、もっとも手っ取り早い方法で頼んでいるだけなのですが?」

「映像は見たのか?」

「ええ、しかし、見ただけでは実力を本当に理解できないというもの。実際に体感した方が、効率が良いでしょう?」

「お前・・・俺がなんと呼ばれてるのかわかってるの?」

「ええ、イーグルブレイカーでしょう?」

「分かってんならやらねえ理由を聞くな。大体、俺とお前がやりあうメリットがねえ」

「メリットならありますよ。貴方はアニマの実力を知れる。そして私は貴方の実力を知れる。どうですか?これから作戦をともに遂行していく仲、互いの実力を知っておいた方が損はないでしょう?」

「ここの自衛隊員の個人情報をかき集めといてよく言う」

「・・・・・」

「はい、沈黙は肯定と受け取ります」

突然の質問に、沈黙するファントム。

「・・・いつから気付いて?」

「カマだよカマ。その返答で言質は取ったからな」

ファントムは閉じた口の中でぎりっ、と歯を食いしばった。

どうやら、相手の方が一枚上手のようだ。

「・・・なぜ私だと?」

「まず、アイツらがいがみ合いを始めた時期。お前が早めに実行に移してくれてたからな。その点の特定は簡単だった。二つ目にお前の視線。あの格納庫前で、お前、笑ってたな。まるでああなる事を分かってたみたいに」

「見てたんですか?」

「そりゃあお前から目を離すなと言われてるんでな。それで最後に、単純な俺の勘だ。戦闘機乗りとしての。そして、長年の経験からの、な」

「・・・・」

黙り込むファントム。しかし、その余裕そうな姿勢は崩さず、言い返した。

「それで、どうするつもりですか?それで弱味を握ったと思っているでしょうが、そんなもの、もみ消すのは簡単ですよ?」

「だろうなぁお前はここにいる全ての隊員の情報を掴んでる。それらを操作すれば、瞬く間に俺の掴んだ情報を霞に消える・・・分断して統治せよ。なんとも結構なやり方じゃあないかファントム君。でだ」

そこで、恭平はすっとファントムを睨みつけた。

「何が目的だ。内容によってはここで射殺する」

先ほどまでの陽気な声とは一変して、重みのある声になる。

そして、腰のホルスターから、拳銃を抜き取る。

ここは、人気の無い格納庫の裏。

だから、先ほどの会話は誰にも聞かれていない。

「・・・・」

「だんまりはなしだぞ。10(テン)カウント以内に言わなければ即刻――――」

「人類の救済のためですよ」

「・・・・・おう」

なにか、とんでもなくスケールのでかい話が出てきたな。

「私は、少々面倒な開発過程を踏んでいましてね。肉体をもって、戦闘機に乗って飛ぶ前に、様々なシミュレーションを行ったんです。実際に戦闘配備され、出撃し、帰還し、そしてまた出撃したらどうなるか。それを何十回何千回、条件を変え、状況を変えて・・・体感にして百年は経験しているでしょうか」

「ひゃく・・・」

「だからこそですよ。私は日本唯一のドーターにしてアニマ。私の判断一つで人類は敗北してしまう。故に、私は生き残らなければならないんです」

「・・・・そうか、だからこその分割統治か。自分に敵意が向かないように、他の人間同士をいがみ合わせて・・・・」

得心がいったという感じで拳銃をしまう恭平。

「だけど、それじゃあ日本はどうなるんだ?その判断一つで日本が滅んでもいいのか?」

「それは人類の終焉ですか?」

「チッ、そういう事か。人類そのものが助かるなら国一つ滅んでもいいと、そういう事かよ」

「はい。理解が早くて助かります」

妖艶な笑みが一瞬浮かび、しかしすぐに引っ込み、真剣な表情で、彼女は語る。

「私は、生き残らなければならないんです。私の判断一つで、人類を滅ぼされる訳にはいかないんです。それが私が生まれた理由であり、存在意義です。これまでも、そしてこれからも」

「なんか、よくわからねえな」

「分からなくてもいいですよ。何せ、その度重なる試験の結果、私から情緒の類はほとんどなくなってしまいましたから」

「それにしては、結構表情豊かだよな」

「そうでしょうか?」

予想外な返答におもわずきょとんとするファントム。

「まあ、別の場所でバカ騒ぎしてる奴らと比べたら、あんまり感情表現は苦手かもしれねえかもだけど、そんな人間はこの世にごまんといるぜ。激情に燃えていても分かりにくい奴もいれば、逆に感情を隠すのが苦手な奴もいる。まああれだ、お前はそんな特別じゃねえって事だ」

「はい?」

思わず瞠目するファントム。

「何を言ってるんですか貴方は」

「じゃあ聞くがお前からアニマという要素を抜き取ったら何がのこる?」

「それは・・・・」

「ようはそういう事だ。俺もイーグルブレイカーなんて呼ばれてるが、俺から戦闘機抜いたら何が残る?ヨーヨーが上手い奴からヨーヨーを取り上げたら?料理出来る奴から料理を抜いたら?『普通』だろ。結局の所、イーグルをぶっ壊す程の操縦技術を持ってる俺であっても、アニマという存在であるお前であっても、結局はそれは単純な長所なだけなんだよ。ついでに言って短所ともいえる。よくいうだろ?長所と短所は紙一重だって。結局はそういう事だ。どれだけお前が人類の救済だー、生き残らなければーと言っても、結局それは当たり前の事で、お前はそんな当たり前の事の中にいるだけなんだよ」

「・・・・それじゃあ、私は何をすれば」

「いやいやいや俺は何もそう思うのはやめろって言ってるわけじゃねえんだぞ?ただな、その思いの為に他人を貶めるような真似はやめろって言ってるんだよ」

「・・・・それでも、私は、一人です・・・一人だけの私は、一体何で身を守ればいいんですか?」

そこで恭平は理解する。

(そこで拗らせてんのか)

「俺が守ってやるよ」

答えはすぐに出た。

「はい?」

「地上でも空でも、俺がお前を守ってやる。他の奴らにお前を殴らせねえし落とさせねえ。それでいいだろ?」

「・・・・・」

「もし、それでも信じられねえっていうなら、望み通りにやってやるよ」

恭平は、今日初めてにやりと笑った。

「――――模擬戦だ。格の違いを見せてやる」

「・・・・いいので?」

「今更だな。こんな事言った手前、お前との信頼を勝ち取るにはこの方法が一番手っ取り早いんだ。わかったらさっさと行くぞ。ただし実機じゃなくシミュレーターでだ。いいな」

しばし、考える素振りを見せたファントム。だが、やがて、納得するようにうなずいた後、顔を上げて恭平を見て、

「分かりました。では今から――――」

 

 

 

その時、けたたましいサイレンの音が鳴り響いた。

 

 

 

「・・・おいおいおい。いくらなんでもタイミングが良すぎるんじゃないのか?」

言わずもがな、

 

―――非常事態(スクランブル)だ。

 

 

 




次回『エアリアル・ファイト』




何故、ファントム及び恭平がBARBIEなのか。


だってグリペンまだ作られてないし、完全に作者の想像上の設定です。

ですから突っ込まれても困るだけですので悪しからず。
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