ガーリー・エアフォース 翠緑の亡霊   作:幻在

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エアリアル・ファイト

スクランブルの警報が鳴り響き、自衛隊三沢基地は騒然としていた。

整備士たちの怒号や、パイロットたちの駆け足音が静かだった基地内をバーゲンセールをやってるスーパーの店内のような状況を作り出していた。

「泉守!」

「ん?」

対Gスーツを着て、自分のイーグルに乗り込んでいる恭平に古田が声をかけた。

「一応、あんた用に装甲の強度を上げといたけど、それでも子供騙し。ちょっと壊れる時間が遅くなるだけだよ。ざっと見積もって、いつもより一分は長く持つ筈だよ」

「すまない。そこまでしてもらって」

「ふん、必ず帰ってくるんだよ」

「了解」

古田に見送られ、恭平はキャノピーを閉める。

ヘルメットをかぶり、そして酸素供給器を装着する。

そのまま滑走路へと移動する。

「BARBIE01、応答せよ」

『こちらBARBIE01、何の用ですか?』

「いや、無線がちゃんとつながるかどうか確認したかっただけだ」

『そうですか。心配しなくても、こちらから拒絶しない限りは交信は可能ですよ』

「それが聞けただけでも十分」

『BARBIE01、および02、ランウェイ28、クリアード・フォー・テイク・オフ』

そこで、管制からの無線が入る。

「Roger、ファントム」

『ええ、BARBIE01、ランウェイ28、クリアード・フォー・テイク・オフ』

エメラルドグリーンに輝く機体が、紺碧の空へと飛んでいく。

それに続くように、恭平のイーグルも滑走路に並ぶ。

「BARBIE02、クリアード・フォー・テイク・オフ」

そして、滑走路から離陸する。

「BARBIE・・・・人形かい俺らは。まあ、前の名前もそうだったが」

今回、与えられたBARBIEの名・・・これは本来なら、アニマに対して使われる離陸時の呼称なのだが、恭平は僚機だという事で、同じ名を与えられている。

最も、彼自身が人間離れした操縦技術の持ち主であるがゆえに、そもそも人間じゃないアニマと同列に並べられてしまったのだ。

まあ、不思議と悪い感じはしないが。

ふと目の前を見れば、そこには同じF-15の部隊がV字に編隊を組んでいた。

それを見て、恭平は思い出したかのようにファントムへ無線をかけた。

「BARBIE01、応答をしろ」

『こちらBARBIE01、02、どうしました?』

「せっかくだ。俺たちも編隊を組んで戦おう」

『具体的にはどうするので?』

「ロッテ戦術」

『お断りします』

「即答!?」

まさかの返答に思わず瞠目する恭平。

『だって、あなたの機体が私の動きについていって、壊れない保証はないですもの』

「ああ、内容は知ってんのね。そして心配してんのは俺の方なのね」

ロッテ戦術とは、ドイツのジョン・S・サッチ少佐が考案した二機一組の相互支援戦術だ。機織りのように互いに交差するようにS字の旋回を繰り返す事で、敵機に後方を取られても、編隊僚機がその敵機の後ろにつくことができるという戦術である。

これを使えば、たとえ後ろからロックオンされても、ミサイルが発射される前に機銃で倒せるかと思ったのだが。

「やっぱこの機体じゃだめかぁ・・・」

『アイディア自体は悪くはありませんでした。ですが、私が全力で飛行して、あなたがそれについて行って、あなたの機体が壊れてしまっては元も子もありません。ですので、貴方は大人しく自分の戦闘に集中してください』

「へーい・・・でも援護はするからな」

『どうぞお好きに』

そう言った切り、会話が止まる。

 

今回のスクランブルは、敵方は十機のみの編成で真っすぐ、三沢に迫ってきていた。

正確には、その手前にある能代市にだが。

そして、そこの防衛のために、こうして駆り出されている訳だが。

「こちらは駐屯基地からの増援を足しておおよそ三十機。俺たちを加えると三十二機か・・・さらに海自からの支援攻撃もあるだろうが、正直言ってだめだろうな」

『こちら管制より全機、海自からの支援の結果、撃墜は一、他健在』

一機は撃墜できたようだ。しかしそれでも残り九機。はたして三十機のみで倒せるかどうか。

『ご心配なく』

「ん?」

『少なくとも、今は私が守ってあげましょう。九機だけなら、それほど問題はありません』

「今は、ねえ・・・・」

『不満ですか?』

「いや、俺が心配してんのはそこじゃねえよ」

『ではなんですか?』

ファントムから来る、しつこい質問。

それに対して、恭平はしばし逡巡したあと、答える。

「・・・お前の事は誰が守るんだ?」

『はい?』

『マリオ01よりBARBIE隊、これより交戦を開始する』

ファントムが何かを言い返そうとする前に、聞きなれた男の声が聞こえて、ついぞその声は聞けなかった。

「構えろよファントム。油断したらその瞬間に足元をすくわれかねないからな」

『言われなくても分かっています』

目の前で火花が散った。いや、それは火花というにはあまりにも大きい。

それはミサイルが自爆した時に見せる燐光。それは、前にいる編隊がザイと交戦を始めたという事。その先制攻撃だ。

しかしその数秒後。

『ブレイクッ!!』

鋭い怒声。そのさらに数秒後に。

『マリオ04、ダウンッ!!』

撃墜報告、仲間が墜ちた、その報告が無線から響く。

悲鳴が響き、ザイ相手に蹂躙されている事が、手に取るようにわかる。

仲間が撃墜されていく報告がリアルタイムで耳に入ってくるたびに、操縦桿を握る手に力が入る。

『落ち着いてください』

ふと、ファントムの声が聞こえた。

『苛立っていると、肝心な時に視野が狭くなりますよ』

「ああ、そうだな・・・」

ファントムに諭されて、一度深呼吸をする恭平。

「悪い、お陰で落ち着いた」

『どういたしまして。そろそろ私たちも戦闘区域に入ります』

「了解、BARBIE02、これより交戦に入る」

スロットルを上げて、一気に混戦状態の戦場へ突入する。

そこは、やられている側にとってはまさに地獄絵図だろうか。

仲間が一方的に蹂躙され、次々と落とされ、減っていく様は、悪い夢でも見ているかのような気分だった。

だが、そんな現状を目の当たりににしても、敵は無慈悲にも、こちらを落とさんと向かってきていた。

そんな敵機を、恭平は得意のアクロバットで後ろを取り、機銃のみで落としていっていた。

ザイ相手にミサイルは使えない。ならばマニュアル射撃で落としていくしかない。

その結果、多少機体が軋みつつもザイ相手にかなりのスコアを叩き出していた。

敵機撃墜(スプラッシュ・スリー)

三機目のザイを撃ち落とした所で、恭平はファントムの方を見た。

目立つカラーリングなので、すぐに見つける事が出来た。

「すごいな・・・」

アニマは基本的には人間ではないが、それでも人型の誰かが乗ってるとは思えない機動力でザイを追い回し、翼下のミサイルをリリースする。

『FOX2』

囁くような呟きと共に、飛翔する槍がガラス細工の機体を追い回す。

本来なら、近付いた所で自爆するはずなのだが、エメラルドグリーンの亡霊が放ったミサイルは落ちる事なく追尾し、ついにはそのガラスの機体にその一撃を叩き込んだ。

敵機撃墜(スプラッシュ・ツー)

撃墜報告を聞きつつ、恭平は自機の操縦に戻る。

だが、いくら恭平とファントムが敵機を落とそうとも、それで落とされた仲間が帰ってくる訳でもなければ、仲間が落とされなくなる訳じゃない。

ただ、その速度が落ちるだけだ。

残り五機。

こちらは十五機。

半分落とすまでにこちらも半分落とされている。

これ以上落とされる訳にはいかない。

その思い、スロットルレバーを操作してあげようとした瞬間、突如として、がくんっ、と機体が揺れた。

「なッ!?」

突然の事に被弾したのかと一瞬思ったが、そうではない。

(やべぇ、無理させすぎた)

恭平の機動に、機体が耐えられなくなったのだ。

恭平の操縦でかかるGは10G以上、それもザイの機動を超えるほどだ。

通常の戦闘機が耐えられるGは15G、それを過ぎればすぐさま機体が空中分解を引き起こしてしまう。

「くそっ!こんな時に・・・」

『退がれ恭平!』

「ッ!?狩野・・・・!?」

そこへ狩野のイーグルがやってくる。

「まだ戦え・・・」

『それで機体がバラバラになって海に落下か?ふざけるのも大概にしろ!お前は俺たちの切り札だ!その命をここでみすみす無駄にする気か!?』

「ッ・・・」

流石に黙る恭平。

『マリオ03の言う通りです』

「ファントム!?」

『今すぐ下がってください。機体が壊れかけている以上、貴方は足手まといです』

冷静なファントムの声に、歯をくいしばる恭平。

「・・・分かった。こちらBARBIE02、今より戦闘区域から――――」

そして、絞り出すような声を発して、すぐに戦線離脱の報告をしようとした。その時だった。

敵機撃墜(スプラッシュ・ワン)!』

味方からの歓喜の声が恭平の耳に届いた。

思わず周囲を見渡し、上空を見上げれば、そこで煙を噴いて落ちていくガラス細工の機体が見えた。ザイだ。

その機体は、揚力を失ったのかどんどん海面に向かって落ちていっていた。

だが、その時、そのザイがいきなり落下する軌道を変えた。

 

その先には――――エメラルドグリーンの機影。

 

「――――ッ!!」

瞬間、身体中の毛が総立った。

あのザイは、自らの体を弾頭にファントムに突撃する気なのだ。

「ファントム!逃げろ!」

『え?』

無線越しに怒鳴るが、ファントムはきょとんとするだけ。

(野郎、経験はかなり積んでるだろうがそれが逆に仇になってやがる!)

ファントムは想定外の事態に弱い。

恐らく、百年分の経験の自負があるが故に、その経験に頼り、その経験にない事は一切想定していないのだ。

シミュレーターである事も災いして、敵が自滅覚悟で突っ込んでくるような内容はなかったのだろう。

だから、ファントムは反応が遅れた。

『ッ!?』

無線越しに息を飲むのが分かった。

このままでは激突してしまう。

そう思った瞬間、体は考えるよりも先に動いていた。

『泉守!?どこに行く気だ!?』

狩野が驚きの声をあげる。

だが、今の恭平にはその声どころか、乱戦の騒音や、自らが乗る機体のエンジンの唸り声も、自機の悲鳴すら聞こえなかった。

ただ、目の前で、一人の少女が乗る機体が落とされてしまうという事実を捻じ曲げる為だけに、恭平はスロットルレバーを限界にまで押し倒した。

(しまった・・・・)

ファントムは呆然と迫り来るザイの機影を走馬灯のようにスローとなった景色の中で見ていた。

油断していた。まさか、敵が自爆覚悟で突っ込んで来るとは予想しなかった。

このままでは落とされてしまう。

明確な終わりが――――『死』が迫ってくる。

回避しなければ。いや、もう間に合わない。

直撃する。死。嫌だ。まだ、何もやっていない。何も成し遂げていない。

人類を守らなければ。その為には、ここで死ぬわけにはいかない。どうにかしないと、でもどうやって。

ダメだ。ぶつかる――――!!

そう思い、目をつぶろうと思った、瞬間、

 

『――――ファントム!』

 

声が聞こえて、目を開けた。そこに、ガラス細工の機体の他に、もう一機、機影があった。

それは、翼から煙を吹いているF-15――――恭平のイーグルがそこにあった。

「え・・・」

その時、唐突に出撃前の言葉がフラッシュバックした。

 

――――地上でも空でも、お前の事を守ってやるよ

 

――――お前のことは誰が守るんだ?

 

 

「一尉ッ!!」

叫んだ頃には、全てが手遅れだった。

ファントムに突っ込もうとしていたザイに向かって捨て身のタックルをかました恭平のイーグル。激突されたザイはその軌道を変えてファントムへの直撃は回避された。

その代わり、恭平のイーグルが落ちた。翼を叩きつけるかのような形になった為に、すでに取れかかっていた翼はついに折れて、バランスもとれず、回転しながら海面へと落下した。

「いち・・・い・・・・」

煙を上げ、海面に浮かぶ鈍色の機体を、ファントムはただ呆然と見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――よく聞け、恭平」

長い髭を顎から垂らして、空を見上げながら祖父は言った。

「俺は鳥が羨ましい。何故かって?自由だからだ」

自由?

「そう。自由だ。鳥は好きな時にいつでもこの広い空を飛んでいく事ができる。どこまで飛んで、海さえも渡っちまう。そんな、すげえ奴らなんだよ」

でも雨の日とか飛びにくくないのか?

「バカ野郎、そんなもんで奴らの自由を奪えるか。奴らには、自由に飛ぶ為の翼がある。だけど、俺たち人間にはない。俺はそれがどうしても悔しい!」

だから、パイロットに?

「おうよ。地上なんて目じゃねえくれぇに空は自由で広い。その気になりゃあどこまでも飛んでいける気がするんだ。けどまあ、俺の場合はそんなに自由に飛べなかったけどな」

祖父は、悲しそうな目をした。

「ま、今更だな」

そして悲しそうに笑った。

「恭平、自由に生きろ。でもこれだけは言っておくぞ。初めて空を飛んだなら水平線を見てみろ。そうすりゃ、絶対にこう思うはずだ」

 

世界は、無限なんだ、てな――――

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・じい・・・ちゃん・・・」

思い瞼を持ち上げて、一番始めに目に入ったのは、鉄の天井だった。

「ッ!?意識が戻りました」

ついで、おそらく寝ている自分の横から、救急隊員の服装をした男性が誰かに報告しているのが見えた。

「おい、意識ははっきりしているか?この指は何本に見える?」

そう言って目の前の男は指を二本立ててきた。

意識がはっきりするのと同時に、けたたましい風切り音とプロペラが回転するかのような音が耳に入ってくる。

「・・・・二本」

「よし、意識は安定しています」

「まだ油断するな。どこか負傷しているかもしれん」

おそらく、隊長と思われる男がそう指示をする中で、恭平はどうしてここにいるのかを思い出していた。

確か、ザイと交戦していて、それでファントムに敵機が突っ込んで、そしてその機体に自分は激突してその後は――――

「そうだ・・・・」

全てを思い出した瞬間、恭平はすぐ近くにいた救命隊員の服を掴んでいた。

「うお!?」

「ファントム・・・ファントムはどうなった!?」

「お、落ち着いて!お前が落ちた後の被害はゼロ。あの後ザイは全部撤退したから、みんな先に基地に帰ってるよ」

それを聞いて、体から力が抜けた。そしてそのまま床に寝転がった。

「そうか・・・・よかった・・・」

ひとまず、ファントムが無事ならそれでいい。

こうして生きているのなら、なお良いだろう。

 

そう、その時はそう思っていた。

 

救命ヘリに乗せられて、そのまま基地に戻ることになり、ヘリが基地内に着陸しようとしていた時、何やら人だかりが出来ているのを見つけた。

(なんだ?)

疑問に思い、目を凝らしてみると・・・

「あ、おい!?」

ヘリが着陸したのと同時に恭平は飛び降りて走っていた。

(何があった!?)

あの人混みの中心にいたのは、エメラルドグリーンのおかっぱ髪の少女だった。

その少女に、一人の自衛隊員が掴みかかっていた。

「どう言い訳するつもりだぁ化け物・・・」

ファントムの胸倉を掴み、怒りで歪んだ顔で睨みつける。一方のファントムは、何も言わず、ただなされるがままにしていた。

「テメエのせいで泉守が死んだんだぞ。どう落とし前をつけるつもりだ!ああ!?」

なおも怒鳴るが、ファントムは何も言わない。

「なんとか言えよ、この――――」

男の拳が振り上げられる。そのままファントムの顔面に叩き落される、その寸前。

「対空自飛行士(パイロット)ドロップキック!」

航空自衛隊のパイロットに対して強烈な両足飛び蹴りを食らわす、恭平の必殺技である。

それを食らった自衛官は宙を舞い、アスファルトの上に落ち倒れる。

「やいやいやい、勝手に殺すなバカ野郎」

突然の乱入者に混乱する周囲を置いて、恭平はファントムの方を向く。

「おい、大丈夫か?」

「一尉・・・・?」

「ん?ああ、ほらこの通り生きてるぞ。言っとくが幽霊じゃねえからな」

試しに片手をあげてぐっぱと握ったり開いたりしてみる。

ファントムは、まるで何かにすがるような視線を向けていたが、すぐに俯いてしまった。

その事にとりあえず首を傾げる恭平だったが、しかしまずはこの状況をどうにかするべく説教に入った。

「というかお前ら、一体何やってんだ一人の女の子相手に。恥ずかしくねえのか?たかだか俺が落とされた程度で喚きすぎだ。今までに沢山仲間が落とされてんのに、今更感半端ねえぞ」

どきっぱりと言い切る恭平。しかしそんな言葉に反論する者がいた。

「俺たちが憤っているのは、そういう理由じゃないぞ、泉守」

「ん?」

狩野だ。

「そもそも、その女の悪事を暴いたのはお前だろう?」

「へえ、コイツが一体どんな悪事をして、どうやって俺が暴いたんだ?」

「そいつが、今まで俺たちの不和を招いていたという事だ」

聞かれていたのか。

狩野は、ファントムに鋭い視線を向ける。

「そいつは今まで、俺たちが違いに嫌悪感を抱かせるような噂を流して俺たちを対立させる事で、自分に向けられる悪意をそらしてきた。今の今まで、俺たちはそいつに踊らされてきたんだ」

指をファントムに突きつける。

「人の姿になってもザイはザイ。そいつは俺たちにとって有害な存在だ。だから隔離すべきだ。もう二度とそいつが下手な真似が出来ないように、拘束して、監禁すべきだ」

周囲も、そうだそうだ、自由にのさばってんじゃねえよ、化け物風情が、などとファントムを責め立てる。

彼女に味方はいない。だから彼女は、あの様な手段に出たのだろう。元々の作りからして隔たりのある彼女と彼らでは相容れないと判断して、ただ一人でも大丈夫なように、周囲を分割し、敵対させようとした。自分にその害意が向かないように。

そして、その結果がこれだ。彼女の所業はバレた。このままいけば、彼女は出撃以外はずっと一人で独房で過ごす事になるだろう。

(これが、報いなのでしょうか)

人を信じなかった。その結果がこれなのか。

吐き出される悪意の言葉を受けながら、ファントムはもうなにもかもを諦めて目を閉じた。

「・・・・いや、お前何言ってんの?」

だが、その時、恭平の言葉が耳に届いた。

「なんだ?隔離する事か?それともそいつはザイである事か?」

「いや、コイツが噂を流したって話。何寝も葉もない事言ってんだお前」

予想外の言葉が恭平の口から吐き出された。

「は?」

「証拠はあんのか証拠は?上層部に提出して、こいつを監禁してくれっていう許可がもらえる証拠は?」

「そ、それは・・・」

「ない?ないの?まさか証拠もねえのにコイツの事犯人呼ばわりしてたのかお前!?マジで?引くわー、マジで引くわー」

大袈裟な態度で次々に言葉が恭平の口から出てくる。

「お前さー、証拠もないのにさー、こいつを追放しようとしたのかー?それってさ、ただ自分の憶測を押し付けているだけじゃん、意味ないじゃん。話の筋は通るかもしれないけど確実性がないじゃん。それじゃあ裁判に負けるぜーお前。いいか。法廷の場で勝ちたかったなら証拠を集めろ、しょ・う・こ、をな」

ここぞとばかりに挑発するかのような言動を叩きつけまくる恭平。

「お前らもだ。たかだか噂如きに踊らされやがって。どんな話を聞いたか知らないが、そんな確証のねえもん信じてどうすんだ?まあ気になったならとことん調べりゃいいが、調べる気もないのにその嘘かも知れねえ情報を信じるお前らの頭の中身を疑うぜ」

さらに、恭平はファントムの方を見て。

「お前もだファントム。こんな奴らに好き勝手言われてんじゃねーよ。もっと堂々としろ。俺たちとお前は結局の所、同じなんだよ同じ」

「待て泉守、そいつと俺たちは違う。そもそも生まれ方からして隔たりが・・・」

「俺から戦闘機乗りという事を取ったら何が残る?」

「は?」

「自衛隊だという事、軍人だという事、誰かの子供である事、それら全て、俺の特徴だ。そう、特徴に過ぎねえんだよ。俺たち個人個人にある特徴を全部抜いたら何になる?『同じ』なんだよ。何の変哲もねえ、当たり前な集団の出来上がりだ。こいつに限ってもそうだ。こいつからアニマだって事を抜けばそれはもうどこにでもいる人間の出来上がりだ。いいか。どんなにすげえ才能もってよーが生まれが違おーが人は人だ。そこに隔たりはなく、皆その点だけは平等なんだよ。ただ違うのはそこに特徴が追加されるってだけだ。それが個性だ。お前らは、ただそんな当たり前なものを貶してるだけなんだよ。無駄なんだよ無・駄。お前らのやってる事は無駄なんだよ」

恭平の説教に、そこは言葉を失っていた。

「いいな。わかったらもうファントムを犯人呼ばわりなんてやめろ」

そう言って、恭平はファントムの手を掴んでそのまま去っていった。

 

 

 

 

 

「あ、あの・・・一尉・・・」

「ん?なんだ?」

基地の廊下で、ファントムが気遣わしげに恭平に話しかけた。

それに恭平は歩くのをやめ、ファントムの方を見た。

「何故、私を庇ったのですか?」

「ん?ああその事ね。出撃前に言っただろ。地上でも空でも俺がお前を守ってやるってな。俺は言ったことはだいたい有言実行するタチなんだよ」

そう言ってのける恭平。それに対して、ファントムは、

「馬鹿じゃないんですか」

「酷!?」

「私は兵器です。例え貴方の理論が正しくても、私はその為だけに生まれてきた存在。どれほど貴方が言葉を並べても、私がそうである事実は変わりません」

「それは当たり前だろ」

「はい?」

予想外の返しに、やはり愕然としてしまうファントム。

「俺には俺の存在意義が、お前にはお前の存在意義がある。そこにとやかくケチつける気なんてねえよ」

「そ、それじゃああの時言った言葉は・・・」

「あれは本当だ。人間や動物、植物から建物、道具にだって特徴なんてものはある。それに、兵器にだって戦う以外の用途があるんだぜ?壁を破壊したり物を運んだり。銃弾から火薬を抜いて工事に役立てるのもいいな。ていうか、兵器から武装をとっちまったらそれこそ置物か車と変わらねえ。戦闘機に関しちゃ、それこそただのどこにでもある飛行機だ。そうなっちまったらお前の存在意義はなくなっちまうか」

おどけるように笑う恭平。

「まあなんだ。戦うけど生き残りたいっていうなら、何か楽しい事でも見つけないとな」

「何を言ってるんですか・・・」

「だって、戦いが終わっちまったら、お前はその後どうするんだよ」

「そ、それは・・・貴方には関係のない事でしょう」

「いいや、こうして知り合っちまった以上は心配はするね」

「余計なお世話です」

「じゃあお前が今来てる服はなんだ?」

「え?」

「それってさ、お前の完全な趣味だよな?」

「・・・・」

沈黙するファントム。

「こ、これは技本の方々が用意してくれたものです」

「へえ・・・その割には随分と気に入ってるようだが?」

「気のせいでしょう?」

「毎日来てるのかそれ?ほかの服見た事ないけど」

「これでも他の服も着るんですよ」

「今はないのにか?下着三着に同じような服を三着ぐらい・・・」

「なんで知ってるんですか!?」

「カマだ。ていうか図星かよ!?」

「〜〜〜!!!」

何故だ。何故この男にだけは手玉に取られる!?言ってくることも先読みされるし、どういうわけか自分の事をピンポイントで当ててくる。一体何なのだ。

「な、なんでそんなに・・・」

「単純な話、お前の性格を読み取った。そこから出てくる言葉と行動から、お前がどんな私生活を送ってんのかを想像してるだけなんだけど・・・いやぁここまでぴったりだと逆に怖くなるね」

「それって、私が分かりやすいって事ですか?」

流石にイラついてくる。

「そういう事だな」

隠すことなくそう言い切る。

それでファントムが切れる。

「バカにして!」

「いやしてねーよ!?」

「いいですよ!そんなに私が子供っぽいんですかそうなんですかそうなんですね!だったら良いですよお望み通り子供のように癇癪を起こしてあげますよ!」

「いやなんでそんなに怒ってんの!?論破されたのがそんなに嫌だったの!?」

ぎゃーぎゃーと喚き散らす事数分、どうにか収まった所で、

「まあ、なんだ。つまりだな・・・この戦いが終わったら、どこかに遊びに行ってみないかって事だよ」

「行って、何になるというんですか?」

「さあな。ただ俺は、街の人たちがただそこで暮らしているというだけで、俺がやってきた事は無駄じゃないんだって、そう思えるんだよ。だから、街の中を歩くだけでも結構楽しいんだぜ。お前には分からないかもしれないけど」

「・・・」

ファントムは、しばし恭平の事を見つめた。この、言葉巧みに予想外な事を言ってくる、自分でさえも予想の出来ない人。だけど、自分に向けられるその言葉に、不思議と裏表はないように見えた。

(不思議な人)

「ん?どうした」

ファントム自身は気づかなかったが、ほんの少し、笑っていた。

「いえ、なんでもありません。話はこれで終わりでしょうか?」

「ん、まあそうだな。どうする?このまま帰ってもいいし食堂に行くでもいいが・・・」

「その前に一つ、約束してください」

「約束?」

「明日、私と模擬戦をしてください」

「またそれか」

「貴方、言いましたよね。格の違いを見せてやるって」

「・・・・言ったな」

「ではそういう事です。明日、技本のシミュレータ室で待っていますから」

そう言って、彼女は身を翻した。

「・・・・やれやれ、気の抜けない女だな」

頭をかいて、そうぼやく恭平。

ただ、振り返る時の彼女の顔が、何やらとても楽しそうだった。

(ま、あの笑顔が見れただけでも儲けものか・・・横顔だけど)

その笑顔は、何かを企むようなものではなく、年頃の少女が見せる満面の笑顔だった。




次回『ミサワ・ランデブー』
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