ガーリー・エアフォース 翠緑の亡霊   作:幻在

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翠緑の鋼鉄の亡霊(エメラルド・フルメタル・ゴースト)

ザイの襲撃。それが走り出したファントムの携帯からもたらされた時には、すでに恭平たちは三沢基地からあと五分の所まで来ていた。

「くそっ!そういや俺のイーグルはまだ配備されてねえんだった!」

「誰かの機体を借りればいいのではないのでしょうか?」

「そう都合よくあるかよ。実はザイが来る前に三沢にあった予備のイーグル片っ端から壊したんだよね!!」

「馬鹿じゃないんですか!?」

「ぐうの音もでないな!」

そんな言い争いをしながら、二人は三沢基地についた。

ふとゲートを素通りしようとしたら、監視員に呼び止められた。

「オイ!泉守一尉!」

「ああ!?なんだ!?今急いでるんだけど!?」

「一旦技本のモニタールームに顔出せって八代通室長が呼んでるぞ!ファントムもだ!」

「私もですか?」

「ああ、なんでも対Gスーツを着用して来いって」

そんなわけで二人は出撃用の服装に着替えて八代通の待つモニタールームに駆け込む。

「オイ!言われた通り来てやったぞ!」

「やっと来たか。他の自衛隊員や米軍はもうとっくに出撃してるぞ」

「そんな事は分かっています。お父様、何故、ここに私たちを?」

恭平の怒鳴り声にも動じず、まるまる太った豚のような体をした男は紫煙を吐きつつ言った。

「時間がないから手短に説明させてもらう。今回襲撃してきたザイは前衛に十機、後衛にさらに十機、そのさらに後ろに未確認の機体が確認された」

映像が映し出される。

「なんだアレ・・・?」

横に長い長方形のフォルムに機関砲のような部分が上下左右に四つ持った異形の機体。

ガラス細工のような体色からザイというのは分かるが、それにしてはあまりにも異常だ。

あんなサイズであの形、一体何の意味があるのか・・・・

「爆撃型でしょうか?」

「まだ分からないが、おそらくそれだろう。コイツが一機に直掩が五機、合計二十六機だ。一方こちらで出た機体は約四十機」

「絶望的じゃねえか・・・」

ただの戦闘型のザイを一機倒すためにもかなりの戦力がいる。

それを、二十五機プラスいかにもやばそうな感じのする巨大な機体がいるのでは、明らかに敗北は必至だ。

しかし、それならその状況を打開できるファントムをここに呼んだのか。そして、先日の戦いでまたイーグルを失った恭平も一緒なのか。

「そこでだ。ファントム。あれをたった一機で対処できるか?」

「できません」

なんの躊躇いもなく告白するファントム。

「いくらなんでも私一人であれほどのザイを落とすのは不可能です。せめてあと二機は欲しい所です」

「だろうな」

「じゃあどうするんだ?ファントムでも対処できなければ、ここが燃やされるのも時間の問題だぞ」

「だからお前を呼んだんだ」

「は?」

八代通の突然の言葉に思わず素っ頓狂な声を出してしまうも、その後に続く言葉でさらに驚愕する事になる。

 

「泉守一尉、お前、ファントムに乗れ」

 

「「・・・・は?」」

八代通の突然の言葉に、絶句してしまう恭平とファントム。

「え、えっと、お父様?それって一体・・・」

「一尉の操縦技術はザイどころかアニマのそれを凌駕する。その操縦技術をもってすれば、ドーターであるファントムの性能をフルにいかせるんじゃないかと。そういう結論の元で出した答えだ」

ものの見事にきっぱりと言い切った八代通にファントムは、絶句どころか何か、底の無い沼にはまったかのような気分になった。

「おい、八代通」

「なんだ?」

「それって、アニマであるファントムはもう用済みって事かよ?」

鋭い視線で八代通を睨む。しかし八代通は動じず紫煙を吐くだけで、すぐにその誤解を解いた。

「いや、アニマも乗せる」

「それは一体どういう意味だ」

「一尉が操縦する事で、ファントムを火器・レーダー管制に集中させ、その性能をブーストする。そうすれば、ドーターのHIMAT性能を殺さずにファントムの力をフルに活かせるって訳だ。幸い、ファントムは複座型だからな」

「なるほどな」

恭平は、拳と掌をぶつけ合わせる。

「アンタの作ったドーターっていうのは壊れないんだろうな?」

「ああ、そこは保証してやる。実際にお前たちが出かけている間に機体をちょいとばかし強化しておいた」

「なら乗った」

にやりと笑って、恭平はいってのける。

「格の違いを見せてやるよ」

「ちょ、ちょっと待ってください!」

ふとそこでファントムからストップが入る。

「なんだよ?俺に操縦されるのは不満か?」

「い、いえ、そういう訳ではないんですが・・・貴方がいつも乗っていたのはイーグルでしょう?私ではあまりにも操縦系統が違います。それに、使った事もない機体をぶっつけ本番で飛ばすなんて・・・」

「問題ねえよ」

「どうしてそう言えるんですか?」

おもむろにファントムの手を取って、言う。

「言っただろ。地上でも空でもお前を守ってやるってな。だから俺をRF-4EJ-ANMファントムⅡ(おまえ)に乗せてくれ」

強い、真っ直ぐな眼差しに見られ、そしてファントムはその瞳から目を離せず、しかしやがて観念するかのようにうつむいた。

「本当・・・貴方という人は・・・」

そして、また顔をあげたその顔は、困ったように笑っていた。

「仕方がないですね」

 

 

 

 

 

 

 

「一応、前部座席を通常の操縦形態にしてあるよ」

「それはどうも」

ヘルメットをかぶって、古田に感謝を述べつつ、ファントムⅡに乗り込む恭平。

「しっかし、本当に大丈夫なんだろうね」

横目に準備をしているファントムを見る古田。しかし恭平は心配ないと言う。

「大丈夫だ。俺がいるからな」

「そのポジティブ思考が羨ましいよ・・・・いいかい。確かにこの機体ならアンタの操縦に耐えられる。だけど無茶は禁物だよ。必ず、無事に帰ってきな」

「ああ。約束する」

「分かったね」

古田が恭平の座る操縦席から離れる。そして入れ替わるように、ファントムが後部座席に座り込む。

「ファントム、準備は良いか?」

「いつでも」

「よし」

キャノピーが閉じる。視界が真っ暗になるも、しかし後ろにいるファントムのエメラルドグリーンの髪が光り出す。

「ダイレクト・リンク――――」

神経融合インターフェース(N F I)を通して、ファントムの感覚神経とドーターがつながる。

それと同時に、キャノピーに光が入り、外の景色が映し出される。

「これがドーターか・・・」

「準備はいいですか?」

「ああ、いつでもいける」

「では、ユー・ハブ・コントロール」

「アイ・ハブ・コントロール」

ファントムが恭平に操縦を任せ、そして自身は火器・レーダー管制に集中する事の意思表示を互いに確認し合う。

『FARBIE01、ランウェイ28、クリアード・フォー・テイク・オフ』

管制からの許可を受け、恭平は機体を滑走路に立たせる。

「ラジャー、FARBIE01、クリアード・フォー・テイク・オフ!」

スロットルを上げ、十分加速した所で、恭平は機体を上げた。

何の問題もなく機体が浮き、空へと駆け上がる。

「お、おお・・・!」

「何こんな単純な事に感動してるんですか?」

「い、いやあ、正直上手く飛ばせるかどうか不安だったから飛べて安心してるというかなんというか・・・・」

「あ、そうですか・・・」

「・・・あれ?ここは私が操作してましたからっていう所じゃないの?」

「言ってほしいんですか?」

「いや・・・」

何やらぶつぶつ言う恭平を呆れ気味に見つつ、ファントムは恭平にバレないように微笑んで、

「・・・だって、信じてましたから」

「ん?なんか言ったか?」

「いいえ、何も。さ、早く戦闘区域へ行きましょう!」

「OK!飛ばすぞ!」

スロットルを上げて、機体を加速させて、二人は紺碧の空の下を駆け抜ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

仲間がどんどん落とされていく。

『マリオ05ダウンッ!』

『畜生・・・畜生・・・!』

『ブレイク、ブレイク!!』

『SHIT!』

『FALCON03、Down!』

『Break!Break!』

無線から、自衛隊と米軍の悲鳴のような報告が嵐のように入ってい来る。

中には、後悔を零す者、悪態を吐く者など、様々いた。

すぐ近くで、米軍のF-16が落ちる。

「くそっ・・・!」

その光景に、狩野は舌打ちするも、それで状況が好転する訳もなく、ただ仲間がどんどん落とされていくだけ。

どれほどミサイルを撃とうと、奴らの発するEPCMによって、全て自爆させられ、かといって接近して機関砲で落とそうとしても、近くに接近するだけで五感が狂わせる。

中国にいる恋人を殺され、その仇さえも討てない。これほどまでに悔しい事があるだろうか。

「くそがっ・・・!?」

ロックオンアラート。

後ろを振り返れば、そこにはザイが一機、後ろについていた。

慌ててブレイクしようと必死に機体を動かすが、それでザイの機動から逃れる事なんて出来ず、成す術もなしに接近されていく。

(俺は・・・こんな所で・・・・!!)

もう、完全に機関砲の射程に入った狩野のイーグルに向かって、ザイが、その機関砲を放とうとした、その時―――

 

『FOX2ッ!!』

 

聞き覚えのある声が無線から聞こえたのと同時に、背後のザイが、突如として爆発四散していった。

「な・・・」

そして、その直後、狩野のイーグルの横を、エメラルドグリーンの光を纏った機体が通過していった――――

 

 

 

 

 

敵機撃墜(スプラッシュ・ワン)

背後のファントムがそう呟く。

「おっし、このままガンガン落としてくぜェ!!」

「その前に少し状況を・・・ってきゃぁああ!?」

突然やってきた衝撃に悲鳴をあげ、恭平は機体を急降下させる。

そして、眼下にいたザイ二機を、その二機がすれ違う瞬間を狙って機関砲―――ファントムの固定兵装である『M61A1 20㎜バルカン砲』を叩き込んだ。

そのまま、その二機のザイは墜落していき、一方のファントムⅡはすぐさま態勢を立て直して次の敵へと向かっていく。

「ど、どうやって一撃で・・・・!?」

「ん?すれ違う瞬間を狙ったっていうのなら簡単かもしれないけど、まあ胴体のどこかに弾丸たたきこめば奴らの動力部分を攻撃出来るんじゃないかって思ってな」

「ですがすれ違う所で弾丸を叩き込むなんて、人間業じゃ・・・」

「安心しろ、これからもっと驚く事になるんだからな!」

スロットルを全開にして、恭平の駆るファントムは戦場を駆け抜ける。

水平線が二転、三転し、恭平は空を駆け抜ける。

前にザイが出てきたらすぐさま引き金を引いてバルカン砲を放つ。ロックオンしたらすぐさま空対空ミサイルを放つ。その管制をファントムに投げて、さらに次の敵へと飛んでいく。

そして、その際の機動全てが、ファントムの想像を絶する程、激しく、洗練されたものだと驚愕する。

(な、なんて無茶苦茶な・・・)

明らかに通常のファントムでは壊れる急加速と急旋回。バレルロールで一瞬で敵の後ろにつく。わざとスロットルを最低にして落下しながら機関砲を撃って敵を撃ち落としたりと、やる事全てが常識を外れた行為ばかりだった。

そして、恭平はまさしく別の事で驚いていた。

(すげぇ・・・!)

イーグルの時は、その機動をするだけで壊れていくだけだったのに、このドーター化されたファントムは、恭平の操縦に見事に耐え切っていた。

まるで、()()()()()()()()()()()かのように

「すげえ・・・すげえよファントム!想像以上だ!やっぱお前は最高だよ!!」

「それ、今言いますか・・・!?一尉!後ろからミサイルが!」

気付けばロックオンされて、かつミサイルが迫って生きていた。

この距離では、フレアもチャフも間に合わない―――

(油断した―――)

()()()()ッ!!」

思わず絶望しかけたファントムの不安をばっさりと断ち切るかのように恭平は言ってのけた。

「一体何を言って・・・!?」

何かを言いかけた直後、突然、水平線が回転した。

恭平がファントムⅡを傾けたのだ。果たしてこの行為に意味はあったのか―――

 

キャノピーの横を、ミサイルが通過した。

 

「・・・・は?」

その通過したザイのミサイルは、そのまま目の前にいた仲間のザイにぶつかって爆発、墜落させる。

ファントムは、一体何が起きたのかわからなかった。

一体、何故、ミサイルは、機体を素通りして、目の前の、ザイを、落としたのか。

「ようは直撃しなけりゃいいんだろ?だったら僅かばかり横にずれて機体を回転させて翼の上を滑らせれば良い。まあ、言って簡単な事じゃないけど」

「当たり前ですッ!!!」

ファントムは理解した。このパイロットには、もはや航空力学や常識は通用しないと。

「ふ、ふふふ・・・」

「ふぁ、ファントム?どうした?」

突然、妖しく笑い始めるファントム。

「ふふ・・・いえ、私はどうやら、とんでもない常識破りのパイロットを乗せてしまったようです・・・・なるほど、伊達にイーグルブレイカーと呼ばれている訳ではないようですね・・・」

「え、えーっと・・・?」

バックミラーに映るファントムの顔は、これまでにないほど笑っていた。

「ええ、ええ。やっと私も心の準備が整いました・・・・一尉、いえ、恭平さん」

「な、なんだ?」

 

「―――ファントム(わたし)を乗りこなしてください。壊れるまで」

 

それはまるで、悪魔の囁きのような言葉だった。

だが、しかし、それは、確かに恭平の最後の壁をぶっ壊すに至ってしまった。

「後悔するなよファントム――――Are you ready!?」

「ええ、絶対に後悔しませんよ、恭平さん――――YES!!!」

「OK、HERE WE GO!!!

 

そこからは、まさしく蹂躙という言葉に相応しい展開となった。

 

緑色の閃光が戦場を駆け抜け、あり得ない機動で翻弄し、次々にザイを落としていく。

『Ho・・・(すげぇ)』

『It is monster?(バケモンかよ)』

『なんて機動だよ・・・・!?』

『こんな戦い・・・一生に一度しかお目にかかれねえぞ・・・』

緑色の閃光が駆け抜けるその様は、その場にいた者たちの目を奪い、そして魅了した。

まるで亡霊に誘われるかのように、激しく、苛烈に、そして鮮やかなその光景は、確かに素晴らしかった。

「恭平・・・」

そして、その機動を知っている狩野は、その光景を生み出している者の名を呼んだ。

 

 

 

 

 

 

蒼穹を駆ける鋼鉄の亡霊が、空に浮かぶガラス細工共をどんどん駆逐していく。

しかし、それでも問題があった。

「このままでは後ろに控えているザイを倒せなくなります」

「じゃあ無視するかコイツら!?」

「いくらザイでも、中核を潰されれば撤退せざるを得ないでしょう」

「それもそうだな・・・よし」

もう武装もそこまで多くはない。ならば、すぐにでも向かうべきだ。

「こちらFARBIE01、今から後方に控えている敵本体を叩きに行く!それまでコイツらを抑えててくれ!」

『こちらマリオ01、FARBIE01、ここまで減らしてくれて感謝する。気にせず奥の敵に集中してくれ!』

聞き覚えのある声による返事を聞き入れ、恭平たちはすぐさま戦場を抜けて奥へと進む。

しばし真っ直ぐ飛んだ後、それは見えた。

「でけぇ・・・・」

それは、余りにも大きく、要塞と呼んでもおかしくない程の巨大さを誇っていた。

どうやって倒そうかと考えていた時、敵がこちらに気付いたのか、動き出した。

上部の平面から、何かが出っ張った。その何かとは・・・

「ミサイルポッド!?」

ファントムの悲鳴のような叫びがあがった直後、そのミサイルポッドからミサイルが全力発射される。

数えるのも億劫なほどの量だ。

「うおあ!?」

フルスロットルで回避行動に移り、全力で回避する。天地が目まぐるしく回転し、上へ下へと機体は踊る。

あまりにも無茶な機動なのに、その機体は悲鳴を上げず。ただ乗り手の操縦に身を委ねる。

「あっぶねえ・・・」

スロットル全開で全てのミサイルを間一髪で回避したが、それでも次がないとは言い切れない。

「いえ、ミサイルの追尾性能はそれほど高くはありません。問題なのは機銃の方です」

機銃がこちらを撃ち落そうと乱射してくる。それも四門。

ある程度距離を取れば撃ってくることはないが、おそらくミサイルを撃ったとしても撃ち落とされるのがオチだ。

なら、どうする?

あのミサイルの弾幕を避けるまではいい。しかし機銃も同時に避けることは難しい。

せめて、この機体のスピードがもっと高ければ、突破出来ないことはないが。

「恭平さん」

ふと、後ろのファントムが恭平に声をかける。

「どうした!?」

「今からこの機体のリミッターを解除します」

「は!?リミッターってなんだ!?」

「単純な話、フルスロットル以上の動力を発揮させます。レバーでは出せない最高速度を、私が自ら解除してこの機体の本来の性能を出します」

「出来んのかそんな事!?」

「通常の機体は内臓されているコンピュータによって制御されています。ドーターの場合はアニマ、つまり私です。本来は機体を安定させる為に必要な部品も、アニマであるなら自在に操作できます。本当ならこんな事すればエンジンにかなりの負荷をかけてしまいますし、私でも操縦不可能になります」

「大丈夫なのかそれ!?」

「あら、私に八回も勝った貴方に、そんな暴れ馬を操縦できない事なんてないでしょう?」

挑戦的な誘い。普通なら、そんなバカげた博打には乗らないだろう。だが、恭平は、そのスリル満点な誘いに、自ら乗る。

「いいぜ・・・やれ!ファントム!!」

「ふふ、貴方ならそう言ってくれると思いました」

妖艶な笑い声が背後から聞こえる。

機体が、もう一度ボックスのようなザイに向いた時、それと同時に、ファントムのエメラルドグリーンの髪も、さらに、強く、眩く輝きだす。

「エンジンリミッター解除。スロットル上昇まで、3、2、1―――」

次の瞬間、おおよそ、普通の戦闘機ではありえない加速をして、ファントムは一気に巨大爆撃機に接近していく。

敵を察知したザイは、すぐさまミサイルポッドを掃射する。数えるのも億劫なほどのミサイルが、一気にファントムへと殺到する。

しかし、ファントムはそれを意に介さず、ミサイルを、残像が見えるほどの速度でマニューバして、躱していく。掠りもせず、当たりもせず、機体を回転させアクロバットし、ザイでも不可能な機動で全てをミサイルを躱していく。その合間に放たれる機関砲の弾丸さえも、まるで弾丸が避けていくかのように当たらない。

もはや、ファントムⅡの―――恭平とファントムの進撃を止める事は叶わない。

 

 

 

機動が加速を生み、絶妙なタイミングによって行われる減速と加速が全てのミサイルを躱していく。

その操作を、恭平はすさまじい勢いでこなしていく。

不思議と、感覚は冴えていた。

不安を全て置いて行ってしまったかのように、操縦に躊躇いは無く、恐怖なんて初めからなかったかのように、襲い掛かるミサイルにビビる事も無く、ただ己の力を信じて、恭平はただ、ファントムを操縦する。

否、信じているのは、決して自分の操縦技術だけじゃない。

対ザイ戦の為に作り出され、今日という日の為に、辛いシミュレーションを乗り越えて、徹底的に鍛え上げられた、この機体(ファントム)と後ろに座る少女(ファントム)を信じているのだ。

だから、遠慮なく操縦できる。エンジンの悲鳴なんて知った事ではない。この機体の性能をフルに生かさずして、何が操縦者か、何が戦闘機パイロットか、何がファントムのパートナーか!!!

だから遠慮なんてしない。仮令、この機体に限界が来ても、この機体なら、その限界を超えてくれると信じている。

だから、恭平の思考は加速する。

全てをかけて、恭平は、今、ファントムを乗りこなす。

 

 

―――恭平さん。

 

 

何かに呼ばれて一気に意識が覚醒する。

気付けば、自分は空を飛んでいた。海を下に、空を上に、飛んでいた。そして、体中を叩きつける風が、今まで経験した事のないほど心地が良い。

 

―――ああ、やはり、この空は自由だ。

 

そう思えるほど素晴らしく、ずっとこのままでいたいと思えるほどだった。

だけど、これは、この景色は、自分だけのものじゃない。

これは、ファントムがいつも見ていた景色だ。

八代通が言っていた。

FNIによってアニマは神経をドーターとつなげる。その時の操作は、人間が手足を動かすのと同じだと、そう言っていた。

そして、ドーターが受ける全ての刺激、感覚さえも、アニマはダイレクトに受け取ると。

そうこれは、ファントムが見て、感じて、自身の力で飛んでいる、彼女だけの景色。

それを、自分も体感している――――一種のトランス状態のように、自分は、どういう訳か、彼女と感覚を繋いでいるのだろう。

ふと、ファントムが、目の前に立っていた。

 

―――私を、乗りこなしてください。壊れるまで。

 

それは、おおよそ彼女の倫理観からは外れている事だ。だけど、不思議と彼女はそれを疑問に思わず、まるで、彼にその身をゆだねてもいいと、そう言っているかのようだった。

だけど、彼女は彼の前に、その手を差し出している。それを手に取れば、彼はもう、本当に止まらないだろう。そして、彼女はその覚悟が出来ているという事なのだろう。

ならば、応えよう。

この、泉守恭平。帝国海軍だった祖父の名にかけて、今、この時、鋼鉄の亡霊を乗りこなして見せよう。

 

そして、恭平はファントムの手を取った。

 

――――ああ、飛ぼうぜ。一緒に。

 

 

返事を聞く前に、機体のエンジンが咆えた。

 

 

 

周囲から見たファントムの機体は、エメラルドグリーンの燐光をまき散らして輝いていた。

 

 

まるで、悠久の時の中で出会えた人に、喜びを感じるかのように。

 

 

7・・・6・・・5・・・

 

巨大なザイの上を駆け抜ける。しかし、ミサイルどころか機関砲を撃たない。

 

4・・・3・・・2・・・

 

故障か?こんな時に?誰もがそう思う。だが、違う。

 

1・・・今ッ!!

 

通過するぎりぎりの所で、まるで全速力で走るジェットスキーがUターンするかのように旋回した。

 

そして、機関砲を、咆哮と共に放った。

 

それと同時に、ザイの上部分からファントムに向けてミサイルポッドが飛び出しそこへファントムの機関砲の弾丸が直撃し、爆発する。

それは連鎖的に爆発を起こし、その閃光はどんどん広がっていく。その上を、狂暴な咆哮を上げる機関砲と、アフターバーナーを全開にして駆け抜ける、翠緑の鋼鉄の亡霊(エメラルドフルメタルゴースト)

爆発が連鎖的に起きる中で、突如として爆撃型のザイの長方形の体の下から半分が離れる。

どうやら、上部がやられた事で、急いで下の方も外したのだろう。そのまま、全速力で前に進もうとするザイであったが、その眼前に、あの翠緑の亡霊がこちらに銃口を向けて現れた。

 

――――FOX2ッ!!!

 

同時に叫び、残りのミサイル全てを、その下部分に叩き込んだ。そして、ダメ押しで機銃の全ての弾丸を吐き出しまくる。

咆哮をあげ、全ての弾丸を撃ち尽くすまで、その引き金を引き絞り続けて、そして、目の前でガラス細工が爆発と共に砕け散っていく様を、その双眸で見届けた。

赤火と黒煙を巻き上げ、下部分も落ちていく。そして、中の爆薬に引火したのか、大きな爆発音を立てて、ガラス細工のデカブツは、消し飛んだ。

その様子は、遠くで見ていた自衛隊と米軍にも見えていて、そして、敵が撤退していく様を見て、彼らは―――これまでにないほどの大歓声を上げた。

誰もが、勝利に喜び、泣き声交じりの歓喜を震わせて、叫んでいた。

その最中で、狩野は、ザイが巻き上げた黒煙の中を、翠緑の流星が空を駆け上っていくのを見た。

 

 

 

 

雲の上へと駆け上がった所で、不思議な感覚は、全て元に戻り、まるで叩きつけられるように視界が元に戻った。

「ぷっはぁ!?」

そしてそれまで止めていた息を、思い出したかのように再開する。

「ぜはーっ!ぜはーっ!・・・し、死ぬかと思った!?」

まるで精神が融合していたかのような錯覚に酔いつつも、恭平はどうにか、ある方向にある景色を確認して、ファントムに声をかけた。

「ファントム」

「ん?なんですか・・・?」

「見てみろよ」

言われるがままに、ファントムも、恭平が見る先を見た。

そこには、今、沈んでいく夕日に、水平線が重なり、その光を海が反射して、煌めくような景色がそこに広がっていた。

「わぁ・・・」

その光景に、思わずファントムは魅入ってしまう。

なんと儚く、美しい景色だろうか。

こんな景色を、ファントムは見た事がなかった。

シミュレーターでも、こんな景色を見る事はなかった。現実で、こういう時だからこそ見れる、奇跡の一時なのだ。

しばらく魅入っていた所で、恭平が声をかけた。

「よく、この天気でこの時間はこうして海を見てるんだ。じいちゃんが見たっていう、海の奇跡って奴だよ」

「貴方のおじい様が?」

「おう。俺も、こうして初めて見た時はしばらく魅入ってて隊長に思いっきり怒られたから、いい思い出だぜ」

そう言って笑う恭平。

その彼に呆れつつも、ファントムは、もう一度その景色を見た。

確かに、綺麗だ。

でも、きっと長くは続かない。

夕日は沈む。雲も動く。この、最高のシチュエーションの時でしか、見れない景色だ。だから、もうすぐ、この時間も終わってしまう。

それが、とても名残惜しくなってしまう。

しかし、その終わりの時は意外と早くにやってきた。

『FARBIE01!応答せよ!FARBIE01!』

聞き覚えのある声。八代通だ。

「こちらFARBIE01、なんか用ですか?」

『なんかじゃない!お前ら一体何をした!?いきなり常識を超えた動きをしやがって・・・』

珍しく慌てている様子の八代通に思わず二人して笑ってしまう。

「さて、小うるさいお父様が急かしている事だし、帰りますか」

「そうですね、恭平さん」

「あ、そういえばお前、呼び方変わったな」

ふと指摘されて、しばし何のことかと首を傾げていたファントムだったが、気付いたのか少し顔を赤らめる。

「な、何か不満でも・・・?」

「いいや、むしろずっとその方が心地いいね」

「そ、そうですか・・・」

「ん?どうした?なんか歯切れ悪いが・・・」

「気にしないでください!」

「お、おう・・・」

ファントムに怒鳴られ、それっきり追及するのをやめる恭平。

一方のファントムは、口に手を当てて、やがて少し微笑んで、恭平に聞こえないように呟いた。

「お疲れ様です、恭平さん」

そのまま、彼らは、三沢基地へと帰還した――――




次回『ファントム・イズ・マイバディ』

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