ガーリー・エアフォース 翠緑の亡霊   作:幻在

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チャンス・ミーティング

いつかの日、祖父が言っていた。

『鳥は自由だ』と。

なら何故自由なのか。そう聞けば、祖父は笑ってこう言った。

『翼があるからさ』

昔、海兵時代に鍛えられたままの肉体でごつごつとした手で頭をわしゃわしゃと撫で回され、その後に祖父はこう言った。

『お前もこの空を飛んでみろ。きっと新しい世界が広がるはずだ』

 

そして、初めて空を飛んで、祖父の言葉は本当なのだと思い知った。

 

 

 

 

「・・・・ん・・・さん・・・・恭平さん」

「んん・・・?」

だれかに声をかけられ、目を覚ます。隣を見れば、そこには、黒髪のおかっぱ髪の少女がこちらを見上げていた。

「そろそろ小松に着きます。準備をしてください」

「ん?ああ、そうだったな」

それで恭平は、今自分が置かれている状況を再確認した。

「そういや、小松に転属するんだったな」

 

 

 

 

事の発端はほんの数日前。

「異動・・・ですか」

「ああ。そうだ」

三沢基地の司令官からそう告げられ、生返事をする恭平。

ザイの襲撃から二年、恭平はファントムと共に大陸からやってくるザイの襲撃の無い日常を過ごしていた。訓練は当たり前の事、スクランブル待機や陸自基地での訓練などをこなして行っていた。

そんな中で、恭平は一人、司令官の執務室に呼び出されていた。

「それはまた何故に」

「先日、小松で空襲があっただろ?その時の被害から、上で一つの結論が出てな。アニマを一か所に集合させて、独立した部隊を作るってな。それで、お前にはその部隊の部隊長を頼みたい」

「はあ・・・?」

隊長?俺が?

「御冗談を」

「冗談じゃない」

「分かってたよ畜生」

確かに、経験で部隊での行動の経験のある恭平なら、何の問題もないだろう。

ただ、隊長の経験は一度もない。しかも、そんな急造のチームで、果たしてザイに勝てるのだろうか。

 

その上、『終末派』の動向も気になる。

 

「とにかく、すでに上層部で話がついている。嫌でも行かせるからな」

「ええ・・・・」

 

 

 

 

そんなこんなで二人は小松にやってきていた。

そして現在、恭平はトイレに行っていて、ファントムは一人待ちぼうけを喰らっていた。

「もう・・・」

ふくれっ面で恭平を待つファントム。

あまりにも長いのだ。だからこの様な事になっているのだ。

今のファントムの髪は、黒くなっている。目も琥珀から黒に近い色合いになっている。

その理由は目立たないように薬を使って髪の色などを染めているからだ。

あまり目立つのを好まない性格故に、このような処置をとっているのだが。

そして、そんなファントムに近寄る男たちの姿が。

「ちょっとそこのお嬢さん」

「お兄さんたちを遊ばない?」

ちらり、と彼らを一瞥する。

(面倒な)

数は二人・・・かと思えば、近くに何人が控えている。どうやら、相当たちの悪いナンパのようだ。

「い、いえ、お構いなく」

とりあえずここは相手を刺激しないようにか弱い少女を演じる。

トラブルは避けたいのだ。少し屈辱的ではあっても上手く対処しなければ。

「そう言うなって」

しかし、長身の男がファントムの肩に腕を回す。

「君、見ない顔だよね?お困りだったようだったから、少し道案内してあげようと思ってね」

「大丈夫です・・・あの、連れの人がいるので・・・」

「いいっていいって、その連れの奴には、後で言っておくから」

(こいつら・・・)

なんと愚かな。おそらくこの男たちは自分たちが駅に降りた時から狙っていたのだ。

そして、自分の傍に恭平がいた事も知っている。確かに恭平の服装はあまり目立たないようなジャケットと皮ズボン姿だ。若干ぶかぶかしているからか、彼の体格が分からなかったのだろう。

「ほら、行こうぜ?」

「や、やめてください!」

腕を引っ張られる。

これ以上は我慢できない。

そう思い、掴まれていない方の手を利用して、男を投げ飛ばそうとした。その時―――

 

「ああ、ここにいたのか」

 

予想外な方向から声が聞こえ、ナンパしてきた男ともどもそちらを見た。

そこには、見た目はファントムより若干年上な感じの少年が、こちらに片手をあげてやってきていた。

「着いてたんなら連絡ぐらいよこせよな」

瞬次にファントムは理解する。この少年は、自分を助けようとしてくれているのだ。

しかし、相手が悪すぎる。

「ちょっとごめんねえぼくぅ」

「この子にはちょぉっと先に俺たちと楽しい事する予定なんだ。だから先に帰っててくれないかなぁ?家にはあとで送ってくからさ」

まるで威圧するように、もう一人の、やや体格が丸々している男がその少年に詰め寄る。

このまま、少年が逃げ帰ってくれたなら、どれほど良かった事か。

「ど、どこかって、あんたらソイツをどこに連れていく気だよ?」

「秘密の場所さ。この子も俺たちもたくさん楽しめる良い場所だよ」

「・・・・すみませんが、正直に言って貴方たちは信用できない。彼女は連れていきます」

「チッ、ガキがいきがってんじゃねえよ」

とうとう臨戦態勢に入ってしまうチンピラたち。

一方の少年は喧嘩慣れしていないのかたじろぐ。

(仕方ありませんね・・・あまり目立ちたくはありませんが・・・)

周囲にいる仲間の事にも気を配りつつ、目の前の男を投げ飛ばす準備をする。

その時であった。

「おいお前ら」

背後から、聞き知った声が聞こえた。

「子供相手に、熱くなり過ぎだ」

見れば、そこには明らかにキレている様子の恭平が立っていた。

「貴方は・・・」

「もう、遅いですよ」

「へ?知り合い?」

「悪いな、遅れた」

恭平がファントムの隣に立ち、そして男たちを睨みつける。

「悪いな。アンタらのいう良い所に、こいつは連れていけない」

「ハッ、良い男がいっちょ前に正義の味方きどりかぁ?そういう夢はガキの頃で終わりにしとけっての」

「俺を正義の味方って言うって事は、自分たちが悪い事をしているって自覚はあるのか」

「ああ?」

「いいか、お前ら。こんなつまらない事に時間を割くんじゃねえよ。いくらモテないからと言って、こんな事してれば余計にモテねえぞ?」

恭平のその言い分に、男たちの額に青筋が走る。

「テメェ、いっちょ前に説教かましてくれるじゃねえか・・・」

「たかがどこにでもいる雑魚の分際で、俺たちの前に立ちはだかってんじゃねえよ!お前らァ!!」

片方の男が合図を出すと、周囲に控えていた仲間たちが集まってくる。

その数、十二人。

「おーおーおー、こんな大人数で」

「これは警告。さっさとそのお嬢さん渡せば、怪我はしねえぜ」

「こりゃあダメだな。こいつらは大人になれなかった子供だぜ、全く」

やれやれと諦めた恭平は、しばし焦った様子の少年に目を向けた。

「おい、そこの少年!」

「は、はい!」

「すまないな。うちの連れかばってくれたばかりにこんな事に巻き込んじまって」

「い、いえ!どっちかっていうと俺の方からトラブルに巻き込まれにいったっていうか・・・」

「その心意気だけでも十分だ。悪いが、こいつら軽くのすから、それまでの間、こいつを任せられないか?」

そう言って、ファントムの肩を持つ。

「え、分かりました・・・」

「ならよし。ファントム」

「分かりました。だけど、怪我だけはしないでください」

「分かってるって。お前のパートナーを信じろ」

それを最後に、ファントムは少年の元へ向かう。

「いっちょ前にかっこつけてくれるじゃねえかニイチャン」

ガラの悪い男たちが、恭平に詰め寄る。

「だけどこの人数、ただじゃすまないよぉ?」

「それは、お前たちの方だろ」

ゆらぁり、と恭平が振り向く。

「軍人を相手にして・・・ただで済むと思うなよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

少年、『鳴谷(なるたに)(けい)』は、目の前の光景に茫然としていた。

「ふー、はい。終わり」

ナンパされている少女を助けるだけのつもりが、相手は逆に自分を追い返そうとしてきて、しかしやはりほうっておけないから反発した結果、喧嘩に発展しそうになって、流石に戸惑ったその時、少女の連れであろう男が割って入ってきて、そしてそこから大人数での大喧嘩に発展したのだが・・・・

「す、すげぇ・・・」

近くの壁に叩きつけられてきっちりと地面に並べられているナンパ男たちの姿があった。

あまりにも呆気なく終わったのだが、どこぞの蛇男みたく、連続で男たちを薙げたりして地面に叩きつけていったのだ。

その手際のよさは、まさにプロとも言うべき程だった。

そして、隣に立つ黒髪の少女は、まるで分かっていたかのようにぱちぱちと拍手を送っていた。

「流石です」

「おうそりゃどうも」

少女の誉め言葉に軽く返しつつ、男は慧の方を見た。

「君」

「あ、はい」

「改めて、連れを助けてありがとうな。いつか礼をするよ」

「ああ、いえ。結局、自分は何も出来なくて・・・」

「いや、実際あの場でこいつらを引き留めていてくれなかったら間に合わなかったかもしれないからな。ありがとうな」

「ああいえ・・・」

「と、助けてもらったうえで悪いんだが。小松空港にはどういったらいいんだ?」

「え?小松空港ですか?」

「ああ、実はそこに用があって・・・」

「それなら、五番乗り場からバスが出ていたと思いますよ。航空線って奴です」

「航空線・・・それならロータリーの向こう側か」

男はしばしそちらに顔を向けていたが、すぐに視線を戻す。

「ありがとう。それさえわかれば問題なく行ける。いつかこの礼はするよ」

「いえ、お構いなく」

「まあ、明日すぐに会える事になると思うけどな」

「え・・・?」

明日?何を言っているんだ?

「あの・・・」

「っと悪い。こっちの話だ。そろそろ暗くなる。帰った方がいいと思うぞ」

「そうですか・・・それじゃあ、俺はこれで」

その言葉を最後に、慧はその二人組と別れた。

(明日すぐに会えるって、どういう事だ・・・?)

それだけが心残りで、その答えは、明日分かる事となる。

 

 

 

 

 

 

「鳴谷慧さん、ですか・・・」

「なんというか・・・危なっかしいな」

例の資料にあった、一般人の少年。

自分たちとは違うアプローチで、ドーターに乗る少年。

「ブレイカーじゃないパイロットって所か・・・」

「では、私たちもそろそろ参りましょうか。少し、時間を無駄にしてしまいましたし」

「それもそうだな」

ファントムの提案に乗り、恭平は、五番バス停へ向かった。

「明日、改めて会おうぜ」

自転車に乗ってさっていく慧の姿を見送りながら、そう言葉を投げかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、その翌日の事――――

 

家にいる幼馴染と多少のやり取りの後に、鳴谷慧は航空自衛隊小松基地にやってきていた。

いつものように入構届けに書き込みをしながら、隊員が内線を使ってでのやり取りを待っていると、

「今日はサンカクに来てくれだそうだ」

「サンカク?」

「第三格納庫だ」

何故だろうか?いつもは技本の事務所の筈なのに、今日はどうして。

そう疑問に思いつつ、以前、自らのパートナー、『JAS-39グリペン』に案内された、第三格納庫へと向かう。

ふと、扉から中に入った所で、いつもとは違う音が聞こえた。

排気音だ。レシプロ機のものではなく、最近聞き慣れてきた、ジェットエンジンの生み出す、唸り声が。

中に入れば、そこには一機の異様な戦闘機が鎮座していた。

エメラルドグリーンの装甲、低翼配置の主翼に逆Yの字型に構成された水平・垂直尾翼。そして、双発のエンジン付近の空気がゆらゆらと揺らめいており、それが熱の発生源を教えていた。

ややずんぐりむっくりした印象なのは、胴体の凹凸が乏しいせいか。

ただ、その異様なカラーリングを見ればわかる。

これはドーターだ。

ここにいる、JAS-39グリペン、そしてF-15Jイーグルと同じ、オーバーテクノロジーによって生み出された改修機。

しかし、何故ここに?

「おう、来たか」

だがそこへ、白衣の巨漢がやってくる。

「悪いな、暑い中、冷房もきかない所で」

「いえ。あれってファントムですよね?」

機体の形状から、慧はそう推測する。

「うん?ああ、よく知っているな」

自衛隊のイーグルが配備される前の主力戦闘機。そして、アメリカが作ったベストセラー機であり、半世紀以上も前から活躍している、歴戦の戦闘機。

「正確にはファントムⅡだがな。それもRF-4EJ、戦術偵察機への改造型だ。下に増槽のようなものが見えるだろう?あれが偵察ポッドだ」

確かに燃料タンクにしてはあまりにもいかつい。

外装型で色々とモジュールを取り換えるタイプなのだろう。

ふと、そこでエンジンの排気音が途絶える。どうやら、エンジンテストが終わったようだ。

「行くぞ」

スタッフが電源ケーブルを外している所へ、八代通は歩き出し、慧もその後をついていく。

その最中で、キャノピーが駆動し、中から二人の影を見せる。

「あら」

そして、その姿に驚く。

「ごきげんよう、昨日はどうも」

「よっ、昨日ぶりだな」

それは、昨日、駅前でナンパされていた少女と、そのナンパしてきた男たちをまとめてのした男だった。

「なんだ?知り合いか?」

「昨日、道を教えていただきました」

「正確にはナンパされていた所を助けてもらってたんだよな」

「それは言わないでください」

男のからかいに顔を赤くしつつ、機体から降りる少女。

その髪は、昨日とは打って変わって鮮やかな翠緑だった。和人形のような顔立ちにそれはかなりの魅力を引き立てている。

「ご挨拶が遅れました。私はRF-4EJ-ANMファントムⅡと申します。どうぞ気軽にファントムとお呼びください」

「お、おう・・・」

ふと、ファントムの背後に男の方が飛び降りる。パイロットスーツを着込んでおり、外したヘルメットからは、それでも跳ねるくせっ毛のある黒髪が姿を見せる。

「泉守恭平一等空尉だ。よろしくな」

「よ、よろしくお願いします・・・」

しかし、そうなると理解できる。あの昨日の喧嘩で見せた強さ。なるほど軍人ならありえなくもない。

差し出された手を握り返し、その武骨さに改めて感服する。

ごつごつとした固い手は、かなりの訓練をしている事が分かる。

だが、一つ気になったのは、手袋の外された右手にある、操縦桿のものとはまた違うタコ。これは一体なんなのだろうか。

いや、そもそもな話、

「何故、普通の人間がドーターに?」

自分のパートナーであるグリペンと同じように、このファントムという少女も何か不具合を抱えているのだろうか。

「言っておくが、お前とグリペンのような問題は、この二人にはない」

「え?それじゃあなんで・・・」

「それは・・・」

「慧」

「あ、慧だ!」

理由を聞く前に、そこで、二人の少女が乱入してきた。

片方のペールピンクの長い髪をなびかせて、ポンチョブラウスを着込む少女の名はグリペン。ドーター『JAS39-ANMグリペン』を本体とするアニマにして、慧のパートナー。とある理由により、慧と一緒にドーターを駆る少女である。

一方の派手なブロンドの髪を持つのはイーグル。『F-15J-ANMイーグル』を本体とし、天真爛漫でお調子者なトラブルメーカーなやんちゃっこ。だが、アニマとしての実力はグリペン以上の元那覇基地所属のアニマである。

そんな二人の視界に、慧や八代通だけでなく、ファントムや恭平が入り、酷く驚いた様子になる。

おそらく、知り合いの他に誰かがいるこの状況に驚いているのだろう。

だが、イーグルの目が、恭平を確認して、数秒すると・・・

「ん?」

「・・・・・ひっ」

『ひ?』

途端に怯えたようになってなぜか瞬間移動でもしたかのように慧の背後に隠れた。

「え、ええ!?」

これには流石の慧も驚く。

「い、イーグル!?どうしたんだよ!?」

「こ、怖い!その人怖い!」

何故かそんな事を喚きながら恭平を威嚇していた。

「な、なんだなんだ・・・?」

「おそらく、恭平さんのせいでしょうね」

「どういう事だよ?」

「恭平さんにはちょっとした二つ名がありまして。彼女はその二つ名がついた理由で彼女は怖れているのでしょう」

訳が分からない。一体どういった理由でイーグルは恭平を恐れているのか。

「なんか、こういう女の子に警戒されるっていうのは、いささかショックが大きいな・・・」

「あ、アハハ・・・アハハハハ・・・・」

慧は笑うしかなかった。

「まあいい。揃ったな。傾聴」

そこで、八代通が口を挟んだ。

「突然だが一つ発表がある。本日をもってお前たち、小松基地所属のアニマは空自の指揮系統から独立する事になった」

突然の発表に、慧は内心混乱する。何故いきなり自衛隊の指揮下から突然外れる事になったのだろうか。

まさかクーデター?

「ああ、勘違いするなよ。別に自衛隊から離れる訳じゃない。所属は引き続き日本国自衛隊のままだ。ただ技本や統幕と同じく防衛大臣の直轄になる。名称は独立混成飛行実験隊、略称『独飛』。要はアニマ・ドーターの集中運営部隊だ」

青天の霹靂とはこのこと。訳が分からない。それは八代通が肝心な部分の説明をしてないからではあるが、こう次々に理解できない事を言われると、学生である慧の処理能力ではいささか理解するのには限界がある。

「つまり、チームで動くという事です」

そこで、恭平の傍らのファントムが補足した。

「これまでバラバラだったアニマを一箇所に集中し、ザイへの対処能力を高める。私達は特殊なメンテナンスを必要としますから、保守、整備の観点からも一つに纏まっていた方が運用しやすいわけです」

なるほどなるほど。さらにドーターの維持管理ができる部局は今の所、この日本においては八代通の特別技術研究室しかなく、さらに各地に分散していた為に保守部材やノウハウの共有も困難であり、さらに言えば通常の戦闘機部隊と自分たちでは性能が違い過ぎる為に共同ミッションも不可能、と。

であるならば。

「じゃあ逆にどうしてこれまで分散してたんだ?今の内容を聞く限り最初からどこか一つの基地に集中させておけばよかっただろ」

「それについては俺から言わせてくれ」

ここで恭平が指を二本立てて見せる。

「まずはこいつらの元々の機体がそれぞれの自衛隊基地のものであった事。ドーター化されてもその基地の装備である事には違いない。だからそのまま固定されたんだ」

中指が折られる。

「だが、そんな理由であるなら、所属なんざ書類通せばいくらでも変更できる。で、肝心なのは次。ようはその基地のお偉方、つまり司令部だとかその辺りが、対ザイ戦の切り札たるアニマを手放したくなかったからだ。鳴谷もドーターに乗る以上は知ってるだろうが、通常の戦闘機ではザイに太刀打ちできない。その最中で生まれた切り札を、誰だって、そう簡単に手放したくはないだろうな」

「はあ・・・」

うんうんと一人勝手に納得している恭平にやや首を傾げる慧。

そんな中でファントムが続けた。

「そんなミクロな部隊単位の問題を先の小松空襲が吹き飛ばしてしまったんです。ザイが大規模襲来した時にアニマを分散してはまずい、戦力の分散が愚策・下策だと遅まきながら気付いた。だから集結の調整が通りやすくなった。そういう事ですよね?お父様」

「うむ。まあ大体そんな感じだ」

全部言われて不満そうな八代通だったが、一方の慧はふむ、と納得していた。

要所要所の説明がされていたために、ある程度の事態は把握できた。

ただ、

「貴方、誰?」

隣のイーグルが不満そうじゃなければ良かったのだが。

「イーグルは今、お父様の話を聞いてたんだけど」

「あら、これは失礼」

「げっ」

その時、恭平の顔が若干ひきつった。

「私は三沢基地より配属されました。RF4-EJ-ANMファントムⅡと―――」

「F-4ぅ?」

イーグルの声がこれまでにない程嫌みったらしい声音になる。

「まだ飛んでたんだ?てっきり全部廃棄済みになってスクラップになってるかと思ってたよ」

完全な挑発。これはまずいと慧が止めに入ろうとした時、ファントムが片手をあげて制して―――

「たかが二十歳そこそこのお子様が大口をたたくものですね。相手の実力も満足に測れないお子様が、随分と図の高い事で。そんなだから先の小松空襲も満足に戦えなかったんでしょう?」

空気が一気に凍りつく。

イーグルが一瞬呆気にとられた後に、その顔を赤く染めて、明らかに怒っている事を態度に示す。

慧は思わず恭平を見た。そんな恭平はまるでこうなる事が分かってたと言わんばかりに頭を抱えていた。

「厄日だ・・・」

さらに何かつぶやいている。

「・・・どっちもおばさん」

そして止めのグリペンの爆弾投下。慧が口を塞ぐももう遅い。

「実力・・・実力って言った?」

幸い、二人には聞こえていなかったみたいだが、完全にイーグルは喧嘩腰だ。

「それって、イーグルより貴方の方が強いって事?」

「さあ、それはどうでしょう?ただまあ・・・」

その時、ファントムの琥珀色の目がきらりと光る。

「この場にいる全員の中で、最も強く、()()()()()()()()()のは、この泉守恭平ただ一人ですけども」

「おいこっちを巻き込むな」

そのファントムの一言で、注目が一気に恭平に集まる。

「貴方も本能的に気付いているのでしょう?彼がどういう存在なのか」

「う・・・」

何故か、イーグルは反論できない。一体どうしたというのだろうか。

「どういう事なんだ?」

大鷲殺し(イーグルブレイカー)

慧の誰にでもなく放った疑問を、グリペンが答える。

「イーグル・・・なんだって?」

「イーグルブレイカー。自衛隊史上最高の操縦技術を持つパイロット。その機動は並みの戦闘機を片端から壊す程で、初飛行の際に乗っていたイーグルを操縦しただけで破壊したから、それでついたあだ名がイーグルブレイカー。それが彼」

「え、ていう事は・・・・」

慧は恭平を見る。その慧の視線に気付いた恭平は一度慧の方向を向いて溜息をついて、改めで気を付けをすると、敬礼をする。

「泉守恭平一等空尉、昨日付けで三沢からここ小松に配属される事になり、そして、本日をもってこの『独立混成飛行実験隊』略称『独飛』の隊長を務めさせていただく事になった。三沢では毎日のようにイーグルをぶっ壊していた。よろしく頼む」

「ええ・・・・」

そのぶっ飛んだ自己紹介に、慧はげんなりとした表情を隠せない。

イーグルブレイカーで毎日のようにイーグルを壊していた?一体なんの冗談だ。この人、本当に人間なのか?

「言っておくがれっきとした人間だよ鳴谷君」

「わざわざワトソンに説明するホームズのような言い方しないでください。そして何気に俺の心読まないでください」

それはともかく、

「これどうするんですか?」

「ああ、それを今考えていた」

しかしそうしている間にもイーグルとファントムの対立は収まらない。

「私と彼が防空戦に出ていれば、多少は味方の被害も抑えられたと思いますけど?」

「―――ッ!!」

完全な宣戦布告。

「・・・悪い、手遅れだこりゃ」

「はあ!?」

恭平から諦めの声が挙がる。

「勝負しよう!!」

イーグルが、ファントムを指さしてそう宣言する。そのブロンドの髪は、抑えきれない感情を表現するかのように輝いていた。

「実際に飛んでどちらが強いか確かめよう!!そうすればイーグルの実力がちゃんとわかる筈!!」

「あらあら」

どうしましょうと言わんばかりのファントムのあの態度。

慧は知らないが、恭平の話術をもってすればこの場を収める事は容易いだろう。

 

だがそれはイーグルが、見た目相応の精神年齢を持っていたならの話だ。

 

イーグルは見た目に反してかなり子供っぽい性格の持ち主だ。恭平の話術はあくまで話の通る大人に対してしか通用しない上に、理屈が通用しない子供には全く効果をなさない。

何故なら子供は感情で動く生き物だからである。危険を知らなかったり何が悪いのかを理解できていないからだ。

一応、おだてればどうにか出来ない事はないだろうが、すぐにファントムがその火を再点火させる可能性もあるのだ。

だから、この事態はもう避けられない。

もし避けられる可能性を持っている人物がいるとするならば、今、ファントムが視線だけでうかがっている八代通だけだろう。

恭平に不可能なのだ。慧にだって無理だしグリペンも若干やる気だ。

「いいだろう」

と、八代通はあっさり許可してしまった。

「うわぁー、マジかー」

「ちょ!?八代通さん!?」

「せっかくだ。異機種間戦闘訓練(D A C T)といくか。グリペン、お前も出ろ。三機まとめて評価する。ああ、だが一尉は今回は休んでくれ」

「え?なんで?」

「たまにはファントム単体でのデータもとりたい。いいな?」

「私はそれで構いませんよ?」

ファントムはうふ、と笑う。その目を見て、恭平はがっくりと肩を落とす。

そして、恭平は慧に近付いてその肩に手を置いて。

「頑張れ」

「あっはい」

と、嬉しくない声援をするのだった。

「と、そうだ」

が、恭平はすぐに慧の耳に口を寄せて。

「ファントムは必ず反則行為するから大目に見てやってくれ」

「え?」

囁かれたその内容に、慧は聞き返す暇もなく、くるりと恭平が踵を返して全員を見渡す。

「えー、じゃあ隊長として、異機種間戦闘訓練を許可します。皆、()()()()()()()()()()()()

と、なんともやる気なさげに言うので、慧も慧でげんなりとした表情をするしかなかった。




次回『ザ・アザー・アニマ』

すいません。直接的な戦闘はやりません・・・
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