ハローミシェーラ、元気ですか?兄ちゃんは元気です。今、ちょっとした面倒なことに巻き込まれています。すぐに戻れるといいのですが…
***
「あんたのせいだよっ!!」
「うっせぇ陰毛頭!!テメェにも原因あんだろが!!」
二人は周りの視線が突き刺さるのも気にせず道の真ん中で言い争っていた。
一人はレオナルド・ウォッチ。見た目はいたって普通の少年だが、その能力を見込まれある組織に所属している。その能力は『神々の義眼』と呼ばれる眼を使ったものだ。とにかく『眼』に関することなら何でも出来る。
そしてもう一人、褐色の肌をした男。ザップ・レンフロ。チンピラのような見た目をしているが、戦闘力は高く、後輩の面倒見も良い。しかし、度し難い人間のクズでもある。
レオとザップはある組織の一員だ。その組織の名は『秘密結社ライブラ』。
三年前、ニューヨークのあった場所に一夜で構築された都市、『ヘルサレムズ・ロット』。空想上のものであった異世界を繋げた街は、未だにその全貌を把握することも出来ぬまま今に至る。霧けぶるその街に蠢く裏科学、超常生体、魔道犯罪。一歩間違えば現世は浸食、不可逆の混沌に呑まれてしまう。そしてライブラは世界の均衡を守る為に暗躍する組織だ。
何故この二人が言い争うことになっているのかというと、話は数時間前に遡る。
数時間前。
「ザップさーん。昼飯食いに行きましょー」
レオの誘いに乗ったザップは、二人で昼食を食べるために移動していたのだが、その途中で事は起きた。
「オラオラ、もっとスピード出せや」
「ちょ!蹴るな!…って…」
後ろから容赦なく蹴ってくるザップにイライラしていたレオは何かを見つけた。
「あ?どうした」
レオは運転していたバイクを止め、ザップに聞いた。
「ザップさん…あれ、見えます?」
「どれだよ?」
バイクから降りた二人は、ビルとビルの間を進み壁に突き当たった。
「ここにあるんですけど」
そう言ってレオは壁を指差すが、ザップにはただの壁を指しているようにしか見えない。しかし、視えないがそこに何かがあるのは理解できた。
「その眼で何が見えんだ?」
「黒い渦…ですかね?ザップさんにも見えるようにします」
レオは義眼を使い、自分の視界をザップに見せた。すると、レオの言う通り確かにそこに黒い渦のようなものが存在していた。
「一応連絡すっか」
そう言ってポケットから連絡用の携帯電話を出した。
「もしもーし。あ、スターフェイズさん。俺っすけど、レオがやべーもんを見つけちまったみたいで…」
そんな話も耳に入らないほど、レオはその黒い渦を凝視していた。今までに見たことのないほどの漆黒の渦。この街に存在するものがどれほど危険な物ばかりか理解しているレオは不用意に近づくことは全くなかったが、その渦から目を離すことが出来なかった。
「…つーことで、俺らはこいつを見張っときます。あと俺ら昼まだなんで急いでくれると…って切れた。おい、今からここにスターフェイズさんたちが来るからこいつが何か分かんねぇが見張っとくぞ」
「見張っとくんスか…ところでザップさんはこれ、何に見えましたか?」
「大方どこぞの誰かの魔術じゃねぇのか?失敗したか、消すことが出来なかったか」
「そうですかね…」
「そういうお前は何に見えんだ?」
「黒い渦としか…」
「あぁ?もっとねぇのかよ?」
「僕も初めて見るんスよ、こんなに…って蹴んな!!」
ザップに蹴られたレオは体制を崩してしまい、足元に転がっていた缶を蹴ってしまった。すると、蹴られた缶は一直線に渦に吸い込まれていく。そして、その缶は黒い渦に吸いこまれ目の前から完全に消えてしまった。
「「・・・・・」」
何となく二人は危険を感じた。
「す、少し…離れましょうか」
「お、おう、そうすっか」
「それより、あの…ザップさん。僕たち…引っ張られてません?渦に」
「引っ張られてんな」
「「・・・・・」」
「ヤバくね?」
「ヤバくね?じゃないっスよ!血法でどうにか出来ないんですか!?」
レオがそう提案したが、すぐに言葉が返ってきた。
「出そうとすると血が渦に吸われて無理なんだよ!俺らを固定するので限界だ!テメェも踏ん張りやがれ!!」
その場で必死に踏ん張るが、それでも徐々に渦に引っ張られている。
(一か八かやるしかねぇ!)
「おい!今から固定を外す!覚悟は出来てるか!?」
ザップが大声でレオに言う。
「何するつもりですか!!?」
レオはザップの言葉の意図が分からなかったが、その顔は覚悟を決めたという顔だった。
「たたっ切る!」
「出来るんスか!?」
切れるかどうかも分からないモノを切ると言い出したザップに思わず聞き返す。どう見ても切れそうなものではないがきっとザップには出来るのだろう。
「出来る出来ねぇじゃねぇ!!やるんだよ!!行くぞッ!」
その言葉と同時にレオの体はまるでブラックホールにでも吸われているかのように渦に引っ張られた。
『
ザップの手に血液で出来た真っ赤な太刀が握られていた。
「真っ二つになりやがれ!!」
ザップはそう叫びながら太刀を振りぬいた。
スカッ
「「えっ…?」」
カッコいいセリフを聞いた後のこれは予想外。てっきり、スパッと切れて問題解決!と思っていたザップとレオは動きが止まってしまった。つまり…
「「ぎゃああああああああ!!!!??」」
吸い込まれてしまった…
***
長い暗闇を抜けると、そこは森の中だった。
「痛っ…」
上に覆いかぶさるように一緒に倒れているザップをどけて、周りを見回したレオはある光景に目を奪われていた。少しして、ザップも頭をさすりながら起き上がる。
「痛ってぇ…つうかここどこだよ…」
そう言いながら立ち上がったザップもある光景に目を奪われた。
それは青空だった。
レオやザップが行動していたヘルサレムズ・ロットは年がら年中霧に覆われた場所だ。そんな場所でずっと活動していた二人にこの青空はより一層綺麗なものに見えた。
「久々に…」
ビー!ビー!ビー!
二人の感動をかき消すようにけたたましいサイレンが鳴り響いた。
「うわっ!?なんスか?この音」
「警報機かなんかじゃねぇのか」
「って何でそんなに落ち着いてんだよ!?」
「いや、久々に空気の綺麗な場所に来たなーと」
「ちょ!早く移動しましょうよ!」
早く別の場所に移動しようと考えていたが遅かった。
「ソウハサセナイ」
「「・・・・・」」
珍妙な男が立っていた。体を覆うほどのマントに身を包み、顔にはよくわからない形をしたヘルメット。声は機械っぽい。
「ぷっ…」
ザップが吹き出した。
「おうおうコスプレ野郎が何か用かぁ?こちとら立て込んでんだよ。あっち行け」
(すーぐ煽る…)
「・・・オ前タチヲ逃ガスワケニハイカナイ。ドウヤッテココニ侵入デキタ?」
「あっ、そういえば渦…「んなことどうでもいいだろ?ここはどこだ?あぁ?」
レオの言葉を遮り、ザップが煽るように聞き返す。
「答エタクナイトイウワケカ。ナラ、聞キ出スノミ」
そう言いながらその男は大きく口を開き、霧のようなものを吐き出した。その霧のようなものは段々と形を作っていき、吐き出した本人と同じになった。それが5体。
「ほう、おもしれぇじゃねぇか!」
「何でノリノリなんだよ!こんなことするよりここがどこかしっかり聞けよ!」
「先手必勝…」
分身した五体の内、二体がザップに攻撃を仕掛けてきた。
『刃身ノ壱・焔丸』
「オラッ!」
ザップの一太刀は相手を確実に捉えた。しかし、その刃が当たると同時に相手の体は霧散した。そして相手の数は先ほどよりも増えている。ざっと数えて三十体ほどだろうか。
(チッ、やっぱ分身か…めんどくせぇ)
「おい、視えてんか?さっさと終わらせんぞ」
「バッチリです。送りますよ」
レオの義眼の前に分身など無意味だ。その眼にはどれが本体かしっかりと映し出されている。
「遊びは終わりだ」
次々に分身たちが攻撃を仕掛けてくるが、そのすべてを紙一重で躱す。そして…
「ナニッ!?」
***
「ほんとに良かったんですかねぇ…」
「おいおいどう見ても正当防衛だろ?それに殺してねぇしセーフ」
先ほど襲い掛かってきた男はしっかり仕留めたが、命を奪うまではしていない。まぁいつ目が覚めるかは分からないが…
二人が彷徨うこと二時間。周りにも多少の聞き込みもした。そして理解。どうやら自分たちは日本にいたようだ。
「何で日本にいるんだよ!」
「やっぱりあの渦は転送装置みたいなものだったんスかね?」
「その可能性が高い……な」
日本にいるということは分かったのだが、一つ気になっていたことがあった。たった今二人の横を通り過ぎた人、顔がライオンだ。
「・・・・・」
「マジで日本か?ヘルサレムズ・ロットじゃなくて?」
それはレオも疑問に思っていたことだった。自分たちの周りを歩いている人は奇妙な見た目をしている割合が高い。ヘルサレムズ・ロットではそのような見た目の生き物に込まれていたので気づくのに遅れたが、ここは日本もはずだ。ヘルサレムズ・ロット、もといニューヨークでもない限りこんな見た目の生き物がいるはずがない。
「もしかして幻術の可能性も…」
「んなもんお前の眼で分かんだろ」
「・・・そうですね。じゃあ二手に分かれてさらに情報集めしましょうよ。それぐらい出来るでしょう?」
「あぁ?バカにしてんのか?パパッと集めてきてやんよ」
「じゃあ一時間後にここに来てください」
そして二人は情報を集めるべく別れた。
とは言っても、一時間で何ができるのか。そう考えた時にレオの頭にいいアイデアが浮かんだ。そしてすぐに“それ”を探すために駆け出した。
レオが探していた物、それはテレビだった。テレビさえ見つけることが出来るなら何かしらこの地域の情報を得ることが出来るだろう。つまり、家電製品の置いてある店を探すだけでいい。
「やっと見つけた…」と呼吸を整えながら店に入った。そこには予想通りテレビが何台も置いてある。
「何か分かるといいけ…ど」
『緊急ニュースです。あの日本でも屈指のヒーロー養成学校で有名である雄英高校に二人組の男が侵入しました。その際にプロヒーローであり、雄英で教鞭を執っているエクトプラズムが交戦し意識不明の重体ということです。雄英高校はすぐに会見を行い、犯人の顔を公開しました。この顔に見覚えのある人はすぐに警察またはプロヒーローに連絡をしてください』
「・・・・・え?」
テレビに映し出された二人の顔写真は間違いなくレオとザップだ。いつの間に写真を撮られたのか分からないが、一つだけはっきりと分かることがある。
異国の地で自分たちは指名手配されてる。
極力周りに顔を見られないようにザップとの合流地点まで走った。そして、誰にも気づかれることなく集合地点まで来ることが出来たが、時間になってもザップの姿は見当たらない。最悪の事態が脳裏をよぎるがザップの強さを知っているレオは、大丈夫だろうと待ち続けた。
待つこと十分、ザップが戻ってきた。しかし、顔中血だらけだ。
「だ、大丈夫ですか!?」
「大丈夫だ、俺の血じゃねぇ。それにしてもよ、この街の住民物騒だぜ?コスプレした連中が次々に襲いかかってきやがった。返り討ちにしたけどよ」
「・・・あのー、よく聞いてください。僕たちどうやら指名手配中みたいです…」
「はっはっは!おいおい!お前面白い冗談言うようになったな!」
「いやマジで…」
「ちょっと待てよ。指名手配されるようなことしたか?」
「森の中でザップさんが切った人、結構有名な人だったのかもしれないです。けど、さっきテレビを見て来たんスけど、ヒーローって呼ばれてる人たちがいるらしいですよ?」
「ヒーロー?ごっこ遊びか?」
「もしかしてザップさんを襲ったっていう人たちはヒーローかもしれないです。あっ、それと何か情報得られました?」
「とびっきりの情報を得られたぜ。聞いて驚くなよ!この国の女、レベルが高ぇ」
少しでも期待したのが駄目だった。やっぱりこの男、こういうことには使えない。
「はぁ、ひとまずどこかに隠れましょうよ。それに早く元の場所に戻らないと、皆心配しますよ」
「んじゃ適当に空き家でも探すか。行くぞ」
空き家を探すために、周りに気づかれないように移動を始めた。
続く?