レオは変装していた。不自然に見えないように、そしてバレないようにコンビニに入店した。ザップは近くで待機している。ザップに買い物をさせたら店員とのケンカが発生する可能性が十分にあるのでレオが行くことになったのだ。
(何で買い物一つでこんなに緊張しなきゃいけないんだよぉ…!)
二人は絶賛指名手配中だ。
店員が不審な目で見ているような気がする。店の外にはすでに警察が待っているかもしれない。そんな不安が頭をよぎるが、どうにか何事もなく買い物を済ませることが出来た。
「買ってきましたよ」
「何買ってきたんだ?」
「驚かないでくださいよ?ほら!」
レオがニコニコしながらそれを見せた。だが、ザップにはそれが何かよくわかっていないようだ。
「なんだよそれ?」
「え?おにぎりですけど?」
「オニギリ?」
「えぇ!?まさかおにぎりをご存じでない?おっくれてるぅ」
「死にてぇのか?」
「すんません…まぁ取りあえず食べてみてみてくださいよ」
微妙な顔をしていたザップだったがこうもレオに煽られたなら食べるしかない。受け取ったおにぎりを頬張った。
「普通にうめぇな」
「でしょ」
すぐに食べ終わったザップはレオとおにぎりの話で盛り上がっていた。コンビニの前で…
「君たち、ちょっといいかな?」
声をかけてきた人はその見た目からも容易に分かる。ヒーローだ。
「あ?」
「あ…」
「え?」
三人は固まった。
「お前たt…ガッ」
「さも当たり前のように気絶させましたね…どうするんスか?それ」
「そこらへんに放置でいいだろ。んな事よりも仲間が来る前に逃げんぞ」
二人が走り出すと背後から悲鳴が聞こえてきたがそれを無視する。そして近くにあった工場に身を隠した。
「ここなら追手も来ねぇだろ」
「はぁはぁはぁ…走るの…速すぎ…ですよ」
「ふっ、軟弱者が…俺に追いつくなんて千年早えよ」
レオは息を整えながら周りを見回したが、どうやらこの工場はもう使われていないようだ。埃をかぶった機械や錆に覆われているものなどが無造作に置かれている。
「廃工場ですね…」
「レオ、下がれ」
「え…?」
ザップの言葉と同時に目の前に黒い霧が現れた。
「どうもこんばんは。我々はヴィラン連合というものです。以後お見知りおきを」
ヴィラン連合と名乗ったその男もやはり奇妙な見た目をしていた。しかし、その後ろに立っている男も気持ち悪い見た目をしている。全身に手がくっついているようだ。
「おうおうそうか。で、何か用か?」
「単刀直入に言います。私たちは貴方たち二人を勧誘しに来ました」
「勧誘?そもそも貴方たちは一体誰ですか?」
レオの言葉に真ん中に立っていた、いかにもリーダーのような雰囲気の男が答えた。
「まさかお前らヴィラン連合知らないのか?」
「知りませんけど…」
「じゃあ何でヒーローを何人も殺ったんだ?」
「(ザップさん!?)」
「(殺してねぇよ!!)」
「これにはちょっと深いわけがありましてぇ…」
(隙あり…)
レオの背後にいつの間にか仮面をかぶったマジシャンのような男が立っていて触れようと手を伸ばしてきた。しかし、
「何やってんだ?あっ、すまん…」
「痛ってぇぇええええぇぇぇぇええ!!」
ザップがその伸びてきた腕をついうっかり切り落としてしまった。
「コンプレス!?」
「お前…!」
「ちょ!ザップさん!?殺しちゃダメですよ!?」
これ以上面倒ごとに巻き込まれたくないレオはザップを睨む。
「殺してねぇからセーフだろ?それにあいつお前になんかしようとしてたぞ」
二人がちょっとした言い争いをしている中、連合のメンバーたちは目の前の二人をどうするかを考えていた。
「死柄木弔、どうしますか?」
「あー、まさか今のに反応するか…映像で見た以上にヤバいかもしれないな…脳無使うか?」
「なぁなぁ死柄木ぃ、褐色の方は方が強いのは分かったけどよ、もう一人はどうなんだ?」
トゥワイスの問いかけにトガが答えた。
「もう一人の方、全く強そうに見えません。興味ないです」
「今は関係ない。どうにかしてアジトに連れて行く。お前ら死ぬなよ」
「えぇ…マジかよ。任せとけ!!」
「それと黒霧、コンプレスを戻せ」
「分かりました」
黒い霧に吸い込まれていった男を見たレオとザップは、もしかすると自分たちをこっちの世界に連れてきたのはこいつらなのかもしれないと考えていた。しかし、レオはあの時に見た黒い渦と目の前の黒い霧は全然違うものだと気づいた。つまりこの集団は無関係だろう。
(相手は四人…まったく強そうには見えねぇけど“個性”だっけか?少しは用心した方がいいか)
「(ザップさんザップさん!逃げましょう!この人たちヤバそうですよ!?)」
「うっせぇ、お前は下がってろ。俺ぁ最近体動かしてねぇんだよ」
ザップの言葉を聞いたからだろうか、それとも相手がザップの強さを感じ取ったのだろうか。一歩二歩と後ずさる。その様子を見た死柄木はすぐに作戦を変更した。
「トガ、トゥワイス、変更だ、アジトに戻れ。黒霧、脳無を使う」
その言葉を待っていたかのように二人が死柄木の方に戻ってくる。
「先に戻るぜ!」
「あの人コワいです…帰ります」
「本当にいいのですか?」
「早くしろ」
目の前の男は得体のしれない迫力がある。このまま連合全員で仕掛けても勝ち目がないかもしれない。脳無を使うと決めたはいいが、この男を連合に引き入れたら間違いなく期待以上の働きをしてくれる確信もある。
「最後に聞く。連合に入る気は無いか?」
「だから連合って何だよ?俺たちはここに来たばっかりでそんなもん知らねぇよ」
「じゃあお前らの欲しいものを用意する。それでどうだ?」
そんな言葉に簡単に乗るほど馬鹿ではない。レオはすぐに反論しようとした。
「そんな怪しい取引するわけ…「女は用意できるか?とびっきりの美人を」おい!」
ザップが何でも、という言葉にすぐに釣られている。よくもまぁそんな確証性もない口約束に乗れるのか、レオは呆れた顔でザップを見る。
「そんなもんでいいなら簡単に用意できる」
「マジか!?」
「(あんたは何を言ってんだよ!)」
「(この世界の情報を得るための潜入だ。いい考えだろ?)」
(明らかに危険そうな人たちなんだけど…)
(脳無を出す必要は…無さそうですね)
その後、どうにか戦闘に発展することなく話がまとまった。肘から下が無くなった人はいたが…
死柄木と名乗った男と共に黒い霧の中に入ると、喫茶店のような部屋に出た。そこにはさっきの工場にいた、全身黒タイツ男と女子高校生もいる。他にも数人見た目がヤバい奴がいるがなるべく目を合わせないようにした。
「自己紹介がまだでしたね。私は黒霧とお呼びください」
「レオナルドです」
「ザップ・レンフロ、よろしくぅ。ところでお嬢さん、俺と一夜を過ごさないかい?」
開口一番口説き文句が出るあたり本当にこの男が女好きだということが理解できた。
「うーん、嫌です」
「ふっ、諦めねぇぜ、俺は」
(何言ってんだよ…あんたは…)
レオは他の人たちの姿を見直したが、やはり奇抜な見た目の割合が高い。継ぎ接ぎだらけの男、トカゲの顔をした男、その中でも一番凄い見た目をしているのはやはり死柄木だろう。顔や腕に手のオブジェみたいなものが何個も引っ付いている。
「本題に入る前に聞かせろ。お前らの“個性”は何だ?お前の方は見た感じ血液操作系の気もするが…」
死柄木がそう聞いてくるが、自分たちはこの世界の人間じゃないので個性なんてものは持ち合わせていない。
(個性…ってザップさんが言ってた超能力的なやつか…僕たちそんなの持ってないんだけどどうしよう…)
「俺の個性はお前の言う通り血液操作だ。こういう風に太刀を作れる」
そう言っていつもの太刀が手に現れた。
(えー、何でこの人サラッと説明できるんだぁ!ヤバい、どうしよう…)
ザップが用意していたであろう言葉を聞いて、レオは内心かなり焦っていた。
「お前は?」
全員の視線が突き刺さり、冷汗が頬を伝う。
「ぼ、僕は…」
「こいつ個性ねぇんだよ。笑っちまうだろ?」
(えっ?)
「無個性ってことか。じゃあ何でこいつはお前と一緒に行動してんだよ」
「いやー、こいつが俺に弟子にしてくださいって鬱陶しくてよぉ。仕方なくってやつ?まぁ俺も優しいから仕方なーく弟子にしちゃった感じかなぁ」
(うわぁ…ぶん殴りてぇ…そのドヤ顔殴り飛ばしてぇ…)
「そうか…」
(やめろぉ、そんな目で見るなぁ!)
ザップの一言で周りから憐みのようなドンマイともいえるような視線を浴びたレオは椅子の上でうなだれていた。とは言っても、ザップの咄嗟の一言でこの場面を切り抜けられたのも事実。少しだけ心の中でで感謝するレオだった。
「じゃあ今日は解散だ。だがお前ら二人は残れ」
次々にメンバーたちが部屋を出ていくが、一人だけ部屋に残った奴がいた。
「俺はまだ認めてねぇよ。お前らの連合加入」
顔中継ぎ接ぎの怖い顔をした男だった。
「誰お前?」
「俺は荼毘。お前、さっきうちのメンバーの腕を切り落としたそうじゃねぇか」
「不意打ちしてきたから仕方なくだぜ?ずいぶん仲間想いなんだな」
「んなわけねぇだろ。これからの計画に支障をきたすようなことをしてもらうと困るんだよ。言いたいことは分かるな?」
「知らねぇよ」
「お前の実力を見る。いいだろ?」
「おう、かかって来いよ」
「「黒霧!!」」
二人から急に睨まれた黒霧だったが、表情を崩すことなく(と言っても表情はあまり読み取れないが)死柄木に問いかけた。
「どうします?死柄木弔」
「やらせてやれ」
「レオナルドさんも行きますか?」
「あっ、僕は遠慮しときます」
当然面倒ごとに巻き込まれたくないレオはここに残ることにした。
急に始まった荼毘VSザップ。その対決場所は先ほどの廃工場だ。観戦しているのは移動手段の黒霧、少し興味を持った死柄木、と無理やり連れてこられたレオの三人。
(遠慮するって言ったのに…)
「手加減しねぇぞ、いいな」
「当たり前だろ」
「相手を殺してはいけませんよ。戦闘不能にするだけです。いいでしょうか?では、どうぞ」
工場の中は静まり返っていた。その中央で二人は向かい合っている。互いに相手の一挙手一投足に注意しているようだ。
先に動いたのは荼毘の方だった。ザップに向けて掌を出した瞬間に青い炎が噴き出した。離れて見ている三人にもその熱量が伝わってくる。
石の床をも溶かすほどの炎が全てを燃やし尽くしたと思ったが、ザップはすでにそこにいなかった。
(速い…どこに行った?)
「こっちだぜ!」
「くっ…!」
ザップの斬撃を辛うじて躱すことが出来た荼毘だが、その頬に赤い線が浮かび上がる。
(へぇ…中々やんじゃねぇか。まぁこれぐらいして貰わねぇと面白くねぇからな)
「これならどうだ?」
荼毘の両腕から噴き出した炎が二人を覆った。ザップに逃げ場はない。だがザップはその程度で怯む男ではない。
「さーて、少し速さ上げていくぞ。見失うなよ…?」
「何っ!?」
荼毘は、気を抜いていたわけでもない。油断もしていない。なのに目の前に立っていた男を見失ってしまった。この炎のドームを抜け出したならすぐに分かるはずだが、それがないということはまだあの男は近くにいるということだ。
「そこかッ!」
気配のした方向に炎で攻撃しても手ごたえがない。
(どこだ…どこに消えた…!)
荼毘とその様子を見ていた三人の耳にはっきり聞こえた。
『斗流血法・カグツチ 刃身ノ弐・
荼毘の体に次々と赤い糸のようなものが巻き付いていく。最初はもがいていた荼毘も逃れられないと悟り、巻き付いている糸を燃やそうと試みた。
「この程度、燃やして…」
「おいやめろ!お前が燃えるぞ!」
ザップはすぐに荼毘を気絶させた。
「ふー、俺の勝ちだ。ったく面倒な奴だぜ」
(面倒とか言いながらすっごく手ェ抜いてるじゃないっすか…)
レオはそう思っていたが、隣の二人の考えは全くの逆だった。
(一体…何が起きたのでしょうか…)
(こいつは…先生に伝えとくか)
「おいレオ、戻んぞ」
血液で出来た糸を使い、荼毘を引きずりながらザップが戻ってきた。
「あ、はい」
「ではまた私がゲートを…」
「黒霧さん!!危ないです!!」
レオは咄嗟に黒霧を突き飛ばした。それと同時にさっきとは比べ物にならないほどの熱風が工場内を吹き荒れる。入り口付近を見ると、そこに燃える男が立っていた。
「やはり連合と繋がっていたか。だが、お前たちの悪行もここまでだ」
「誰だ、あの燃えてるおっさん…?」
すぐに黒霧からの説明を聞く。どうやら目の前の男はこの日本でナンバー2の実力を持つ、『エンデヴァー』というヒーローらしい。その証拠に死柄木の表情もいつも以上に険しく見える気がする。
「そうだ、お前ら二人に連合に入る為のテストを受けてもらおう。内容は簡単、目の前の男を殺せ。出来るだろ?」
急な死柄木の提案だが、下手に断ったら敵に回すことになる気がする。つまりここは頷くしかない。
「俺は先にアジトに戻る。終わったら連絡しろ。行くぞ黒霧」
そう言い残して死柄木は荼毘を引きずりながらワープゲートに入っていった。
「レオナルドさん、先ほどはありがとうございます。ではご武運を」
工場内には熱気が充満している。そんな中、ザップと炎の男は対峙していた。
「下がっとけ。それと自分の身は自分で守れ、いいな?」
「任せてください…」
「貴様らには聞きたいことが山ほどある。観念しろ」
「おっさん、そんな威勢のいいこと言ってんと燃や…あっぶね!!?」
ザップの煽りを聞くこともなく、右手から放出された炎でこちらをけん制してきた。その眼にはおふざけなど微塵もなく、その男の強さというものが垣間見えた。
「マジ…ってやつか。後悔しても知んねぇぞ」
「来い」
灼熱の炎とザップの太刀がぶつかり合い、地面が揺れていた。周りに放置されていた機械の類も所々溶けている。それほどの熱が工場の中央で炸裂していた。
その光景を遠くから見ていたレオは気づいた。ザップの動きが鈍くなっている。
(まさか…熱…で、あれ…?視界が…)
レオとザップはこっちの世界に来てからろくに水分を取っていなかったことと、高温の炎を使う人間との戦闘で体温が上昇していた。つまり、熱中症の症状が出てきたというわけだ。
そのことによる注意力の低下も相まって、後方から隙を伺っていたもう一人のヒーローの存在に気づかなかった。気づいたら体を蔓のようなもので縛られ身動きが取れなくなってしまった。
「よくやったぞシンリンカムイ!」
「エンデヴァーさんも気をつけてください!」
「次はお前の番だ」
その表情からは絶対に逃がさないという確固たる自信が見える。
「へっ、そう簡単に捕まるかよ…(頭いてぇ…)」
ザップは焦っていた。この体調で目の前の男をどうにか倒し、レオも救出しなければならない。必死に頭を回転させるが上手く思考がまとまらない。
「これで終わりだ!赫灼熱拳ヘルスパイダー!!」
何本もの細長い熱線が自身に向かって伸びてくる。万事休すかと考えた時、灼熱の空間に冷気が吹き込んだ。そして聞こえた声は…
『エスメラルダ式血凍道
『綰』の字にかなり苦戦しました。