「合格だよ。まさかあの脳無を再生できないほどに切り刻むとはね。君には興味が尽きないな」
男は満足そうな笑みを口元に浮かべこちらを見てきた。だが、ザップにはどうでもいいことらしく、既につまらなさそうな顔をしている。
「んで、合格したら何とかって言ってたよな?」
「その説明は明日にするとしよう。君も疲れているだろう?休息は大切だからね」
「じゃあさっさとここから出してくんねぇか?」
「ん?」
レオが何かに気づいたようだ。
「あ?どうした?」
「揺れてません?」
レオの言う通り、床が少し揺れているようだ。
「地震ってやつか?別に気にする事ねぇだろ」
すると、男が口を開いた。
「これは…面白くなりそうだ」
ザップがどういう意味か聞き出そうとした瞬間だった。真っ白な天井に亀裂が走った。
「おいおい何だ?」
『デトロイト・スマッッッッシュ!!!』
『117式
天井を突き破り、瓦礫と共に落ちてきたのは二人の男だった。
「オール…マイト」
「旦那!?」
「クラウスさん!!??」
***
数分前。
「スマッッッッシュ!!」
両腕をクロスさせ相手の拳を受け止めるが、その一撃の重さに吹き飛ばされた。
(何故急に襲い掛かってきたのだ…?)
クラウスは状況が呑み込めていない。同僚がどうと言っていたが何のことかさっぱり分からなかった。
「落ち着くのだ!」
「問答無用ッ!!」
どうやら相手は話を聞いてくれないらしい。攻撃されている以上、防衛するのは当然だろう。クラウスが戦闘態勢に入ったことを察したのか、相手が距離を取る。
「貴殿が何者かは分からないが、こうなった以上手加減はしない」
ポケットから十字架の形をしたナックルガードを取り出し、装着した。
「ブレングリード流血闘術、推して参る」
そして、二人の男の拳がぶつかった。
拳のぶつかり合う衝撃で地面が抉れていく。幸いにも周りに建物が少なかったおかげで他への被害はほぼ無いだろう。
『39式
地面から飛び出してきた赤い十字架で相手を拘束しようと試みたが、高くジャンプすることで躱された。
『テキサス・スマッシュ!!』
相手の圧倒的な威力を持つパンチで発生した強風で足元が掬われそうになるが、十字架で体を固定しそれを防いだ。だが、相手もその一瞬を見逃さない。上から落ちるのと同時に拳を構えている。
「観念するんだ!ヴィラン!デトロイト・スマッシュ!!」
「私は断じてヴィランではない!」
数秒の間に何十発もの拳が飛び交っていった。二人を中心にクレーターが出来ている。
(この十字架…硬すぎる…一体どんな個性なのだ…)
全力の拳をもってしても破ることのできないこの十字架を攻略しないとこの男には勝てない。そう考えたオールマイトの耳に声が聞こえてきた。完璧なタイミングだ。
「オールマイト!俺が!“個性”を!!」
「相澤くん!!頼む!」
クラウスの警戒心が強まった。急に現れた黒い服の男と目の前の男の会話を聞くに、何かしらの作戦があるようだ。
一旦退くべきかと考えたが、相手の体勢で分かった。次に飛んでくる一撃は今までと違うと。
相澤が“個性”を発動した。
「今です!」
「これで終わりだ!!」
最大級の一撃が飛んでくる寸前、クラウスは相手の視界を奪うために足元を力任せに殴った。土や石が舞い上がり、互いの視界を塞ぐ。だが、予想していない事態が起きた。地面にヒビが入り、陥没したのだ。
そして、そのまま重力に従い下に落ちたのだが、目の前の問題は解決していない。男の拳が近づいてくる。凄まじい集中力から繰り出されるその拳を受けてしまったら、いくら頑丈なクラウスでも危険だろう。
『デトロイト・スマッッッッシュ!!!』
クラウスもすぐにそれを防ぐために技を使った。
そして今に至る。
***
白い空間に落ちてきたクラウスは、すぐに状況を確認した。
「旦那!」
「クラウスさん!」
「レオナルド君!無事だったのか!」
探していた二人を見つけ、感動の再会と言うわけにもいかないようだ。落ちてきたのはクラウスだけではない。
「ようやく見つけたぞ…!」
殺気立った顔でこちらを睨む大男が一人。レオとザップは思った。
((ヒーローだ!!))
アメリカンヒーローのような男がいる。これほどまでにヒーローらしい見た目の男は見たことがない。まるでコミックの中から飛び出してきたかのようだ。
「旦那、誰ですか?この男?」
「それが分からないのだ。出会った瞬間に攻撃を仕掛けられてしまい…まさか声の掛け方が悪かったのだろうか…」
「日本って物騒なところっスね」
「ザップさん、あんたも十分物騒だよ…」
「あぁ?」
その会話を遮るように、アメリカンヒーローが聞いてきた。
「何故雄英に侵入した?」
「雄英とは?」
「何だ?それ」
クラウスはもちろん知らない。ザップに聞こうが無駄なだけ。そしてレオも知らない。だが予想は出来る。
「たぶん僕たちが最初に飛ばされた森のことかと」
「知らないと言い張るか」
いきなり飛ばされた場所の地名を聞かれても知らないとしか言えない。だが、そう言っても相手は信じてくれないだろう。
「捕えて聞き出すしかなさそうだな」
さっきの黒い男とは違った威圧感がある。その時、レオが気づいた。黒いマスクの男が消えていた。辺りを見回したがどこにもいない。隠れているというわけではなさそうだ。いつの間に消えたのだろうか。
「旦那、逃げましょうぜ」
「いや、それは出来ない。まずは誤解を解かねば」
クラウスの表情は真剣だ。
「話をしたいのです。貴方の名を教えていただけないでしょうか?」
「オールマイトだ」
「ではオールマイトさん。どうして私に攻撃を?」
オールマイトの指がザップとレオを指す。
「私が探していたのは後ろの二人だ。その二人と関わりを持っていると言ったのならお前も同じだ」
「同じ…?」
「あのぉ…クラウスさん。大変言い出しにくいのですが…ザップさん、指名手配されてしまっていて…」
「その少年の言う通りだ」
「ど、どのような罪状でしょうか!?」
オールマイトの口から飛び出す様々な罪にクラウスの顔色が悪くなっていく。最終的に心が耐えられなくなったようだ。死にそうな顔でレオに聞いてきた。
「ほ、本当かね…?」
「えぇ…まぁ…事実です…ハイ」
レオも、ザップがどんな罪で指名手配されているのか初めて聞いたが、まさかここまでとは思わなかった。まぁいつもの事なので驚きはしないが。
「少年、君も指名手配中だぞ」
「レオナルド君!?」
「いや、これには訳が…すみません…」
クラウスの表情を見てつい謝ってしまった。
「申し訳ありませんでした、オールマイトさん。私の部下がこのような事を…」
「お互いに苦労しているようですね」
オールマイトのクラウスに対する誤解だけは解けたようだ。さっきまで地形が変わるほどの戦いをしていたとは思えないほどに穏やかな空気だ。
「(すっげぇ盛り上がってんだけど…)」
「(入りにくいですね…どうします?)」
「(逃げっか?)」
「(クラウスさんが心労で死にますよ…)」
「(死なねぇだろ…)」
「オールマイト!!」
四人が一斉に上を向いた。崩れた天井から男が顔を覗かせている。
「今すぐに上に来てください。緊急事態です。そこの二人は別のヒーローに任せてください」
オールマイトはここまで焦った顔をしている相澤を見たことがない。指名手配の男二人を連れて行くか悩んだが、他のヒーローが近くにいると聞いたのと、相澤の表情を見て、ひとまず別のヒーローに任せることにした。
地下の空間から出たオールマイトは相澤に聞く。
「緊急事態とは?」
『クラウス、緊急事態だ。今すぐに戻れるか?』
スターフェイズから連絡が入った。
「二人とも合流できたのだが、少し問題が発生してしまったのだ…」
『指名手配のことなら後回しにしてくれ。早く戻ってきてくれよ?全力だぞ。全力』
「了解した」
「どうかしましたか?」
「レオナルド君、今すぐ私の背に掴まってくれ」
「えっ、あ、はい」
すぐに言われた通り、クラウスの背に掴まった。
どうやらレオとザップがいた空間は地下にあったようだ。地上に出ると、何故か爆心地のような光景が広がっているが今は気にしないでおこうと決めた。
そして、地下から出てきた三人を待ち構えるようにヒーローたちが現れた。
「おうおう邪魔だぞテメェら。切られたくなければさっさとそこどけ」
ザップの一言でヒーローたちが狼狽えている。
「何かおかしくねぇか?」
「僕が言うのもなんですが皆弱そうですね」
「まぁ間違いなくお前が一番弱いけどな。けどこいつら、さっきの男とか工場にいた燃えるおっさんに比べりゃ全然だな」
「緊急事態って言ってましたね。それと関係あるのでしょうか?」
クラウスがヒーローたちに向かって言った。
「今は急いでいる。申し訳ないが通してくれないか」
「と、通すわけないだろ!」
指名手配犯二人が後ろにいるのだ。そして目の前の男たちはヒーロー。通してくれるはずがない。
「旦那、俺が話し合ってみるぜ」
「おお、それはありがたい」
レオは何となく嫌な予感がした。ザップがまともに話し合いなどするのか?いや、絶対にしないだろう。
「旦那、五秒だけ目ぇ瞑ってくれませんか?話し合いの仕方は俺だけの秘密なんで」
「分かった」
硬く目を瞑ったクラウスと対照的に、レオは何とも言えない表情で、路地裏のチンピラのような卑しい笑みを浮かべているザップを見た。
五秒後、クラウスが目を開けるとヒーローたちはいなくなっていた。
「いいやつらだったみたいで説明したら帰ってくれましたよ」
「おお、流石はザップだ」
(クラウスさん…純粋すぎる…)
話し合いという名の暴力で蹂躙されたヒーローたちは、ザップの手によって遥か遠くに投げ飛ばされた。残念なことにクラウスはそれに気づかない。
「レオナルド君は落ちないようにしっかり掴まってくれ。ザップは私の後をついて来てくれ」
「分かりました」
「了解っス」
***
三人が到着したのは大きめのビルだった。
中に入るとスターフェイズが待ち構えている。そしてその背後には…
「それって!」
「そう、君たち二人が飛ばされた転送装置のようなものだ。今は向こう側で他のメンバーが固定作業を頑張ってくれている。が、その話は後だ。三人ともこれを見てくれ」
スターフェイズが指す先にはテレビがある。そこに映っていたのは瓦礫で覆われた大地だった。
「どこですか?」
「ここから8キロほど離れた場所だ」
「えっ…」
「そして緊急事態の原因は…」
テレビに映ったリポーターの声が聞こえてくる。
『街が一瞬で壊滅しました!危険なのですがそれを承知で報道しています。30分前までは何も変わらない街並みだったのが一瞬で瓦礫の大地と化してしまいました。これほどの破壊を行ったヴィランは現在、瓦礫で作られた山の上で一切動きを見せていません。見てください!あの男が事件の主犯と思われるヴィランです!』
カメラが瓦礫の山の頂上へズームアップした。
「まさか…でもそんなはず…」
「マジなんスか?」
ザップの見る映像には人など映っていない。あるのは瓦礫の山とその頂上に浮かぶ謎の空き缶だけだ。そして、鏡や映像に映らず、街一つを簡単に破壊できるほどの力を持つ生物をザップ達は知っている。
「ああ、間違いない。
血界戦線は敵側があまりにも強すぎるような気がします。