学校が終わると、ユイは、家に向かわずに〈Dicey Cafe〉で和人と明日奈を待っていた。
本当は和人と明日奈の学校に向かいたかったが、騒ぎになるといけないので〈Dicey Cafe〉を待ち合わせの場所にした。
「ユイ、おまたせ」
しばらく待っていると、帰還者学校に通っている和人と関わりのあったメンバーが〈Dicey Cafe〉に集まった。
ちなみに、メンバーは和人と明日奈、店主であるエギルを除いて篠崎里香と綾野珪子である。
学校が終わってすぐにユイの元へ向かったのだろう。和人達の下校時刻から逆算しても、最短の時間しか経過していない。
「ユイちゃん、初の学校はどうだった?」
さっそく明日奈がユイに学校に行った感想を聞いた。
これは、正直全員が思っていたことでもある。
「学校は意外と広かったです! たくさん人がいて……あ! でもさすがに授業は簡単でした」
「そりゃ、ユイにとって算数や漢字なんて”ままごと”みたいなものだろうな」
「”お勉強”の方はうまくいきそう?」
学校の勉強は将来のための勉強だとよく言うが、ユイに限っては例外である。
そもそも、学年的にも基本の授業内容はユイにとってほとんど役には立たないのだ。
しかし、ここで聞かれているユイの学校での”お勉強”とは、人間の子供のらしい仕草や立ち振る舞いだ。
悪い子の真似して悪影響を受けてしまうことが懸念されるが、和人と明日奈は、「ユイなら善悪の判断ができるだろう」と信頼している。
「はい! とても興味深いです! クラスの中に毎回同じようなグループがあって、休み時間の過ごし方なども様々で!」
ユイは、興奮したように、学校での出来事や今後学校でしたいこと、不思議に思ってることなど次々と語った。
和人と明日奈は、はじめはユイがちゃんと学校生活を送る事ができるかが心配だったが、どうやらうまくやっていけそうなことに安心していた。
ユイが語る姿を微笑ましそうに見る和人と明日奈だが、その和人と明日奈を見ている女子が二人。
「まったく……バカップルだと思ってたらバカップルを超えて親バカだったとは……」
「でも、ユイちゃんみたいな子供なら羨ましいです……」
この二人は、ただユイに会いにきただけなのだが、まさか親子の団欒を見せられるとは思っていなかったのだろう。いや、多少は予想していたのだが、その予想をはるかに超えていたといった方が正しいかもしれない。
里香と珪子は、注文していたアップルパイを食べながら親子の団欒を見ているしかなかった。
しかしここで、ユイが爆弾を投下する。
「パパ。お友達ってどうやって作るんですか?」
「えっ……」
誰が言った「えっ」なのかはわからないが、全員考えてることは同じだろう。
SAOに囚われる前の和人は、家族の本当の血縁関係を知って以降、他人を避けるようになり、友人は少なかったと思われる。
そしてSAO時代、周囲から〈ビーター〉と呼ばれ、一部から忌み嫌われていた和人は、ソロプレイヤーとして活動していたので、友人と呼べるプレイヤーの数は両手に満たないのではないかと思われるほど少ない。
さらに、その中で男性プレイヤーに限定した場合はもっと少なくなるだろう。なぜなら、和人の友人は男性プレイヤーよりも女性プレイヤーの方が多かったからである。
そもそも、積極的に友人を作ろうとしなかった男なのだ。
なので、同性の友人が少なく、長く人を避けていた和人に『友達の作り方』を聞くのは明らかな人選ミスであった。
ユイの父親を頼ろうとする気持ちは間違っていない。ただ、親を頼るとしても、その質問ならば明日奈を頼るべきだったと言えるだろう。
「ユイちゃん……もしかしていじめられたの?」
「明日奈、さすがに初日でいじめは受けないでしょ」
我が子を心配する明日奈に里香が否定した。
「学校で何かあったのか?」
今度は和人がユイに訊ねた。
「いえ、何かあった訳ではありません。ただ、学校ですこしお話してくれた女の子がいるのですが……どう判断したらお友達になったとわかるのでしょうか?」
明日奈は、何もなかったと聞いて一安心した。
しかし、友人関係の基準を求められた和人と明日奈は返答に悩んだ。
友人と知人の境界線。この明確な基準は人それぞれだろう。付き合いの深さや長さ、好感度なども含まれる。
こうなれば友人、と一方的に決めたたころで、相手も同じように友人だと認めてくれなければただの一方通行である。
そして、お互いが合意したからといって、その関係が友人同士の付き合いでないこともある。
曖昧な返事はしたくない。
悩み、考えた末に明日奈が話し始めた。
「明確にお友達なったって基準を言うのは難しいわ。例え、お互いの合意の上だったとしても、「友達ならやってくれるよね?」とか言ってくる人や、相手を扱き使ったりする人もいるの。正直、そういうのは友人とは呼べない。心理的や性格的、年齢的に友人同士で上下関係が発生しちゃうのは仕方ないとしても、相手を部下のように扱ったり、扱われたりするのは違うの」
明日奈は、間違った友人関係を例にあげ、ユイ言いきかせた。
そして、人それぞれに違った友人関係がる例として、一般的な(同い年)友人関係の明日奈と里香、先輩後輩の関係で友人同士の明日奈と珪子、年齢的に差があるクラインやエギルとの関係など、さまざまな形の友人がいると教える。
「だからね、ユイちゃんに確実に言えるのは、『お互いが対等であること』『お互いに友人と認識していること』。この二つが最低限満たされている友人を作ってほしい」
「お互いが対等であること、お互いに友人と認識していること……」
ユイは善悪の判断がしっかりとできているので、ユイ自身が悪い事をすることはないだろう。
ただ、ユイにかぎって他人を手下や道具のように扱うことはないが、純粋すぎるため逆に手下のように扱われてることに気がつかない可能性がある。
明日奈はユイに、ダメなことは面と向かってダメと言い合えるような関係の友人を持ってほしいと思った。
「そう。ユイちゃんが友達を作る時は、その二つを必ず守ってほしい」
「はい! わかりましたママ!」
ユイの元気な返事に明日奈は笑顔を見せ、ユイの頭を撫でる。
一方、本来の回答者であった和人はというと、黙ってジンジャエール飲みながらその様子を見ていた。
「まぁ、こういう話はキリトじゃなくアスナが適任だな」
「分かりきってるだろ、そんなこと」
和人は、エギルのひとことに不貞腐れながらも、自分が適任でない事を自覚しているので反論もできない。
「フレンドの少ないキリトでも女を釣るのは優秀だから、ユイちゃんはキリトとは逆に男子ばかりお友達ができたりしてね」
親子の会話から漏れた和人を里香がいじりだす。
そして、和人は里香の発言に顔を顰めた。
「人聞きの悪いこと言うな」
「でも、ユイちゃん可愛いですからね。十分にありえますよ!」
里香に言われるより珪子に言われた方が現実味があり説得力があると感じた。
今更だが、ユイの容姿は贔屓目なしで控えめに言っても美少女である。
男子個人の好みの関係で例外はあるとおもうが、基本的に万人にウケる容姿であり、嫌悪を抱く男子はごくわずかだろう。
そして同時に、女子の嫉妬の対象になる可能性は高い。
それは容姿への嫉妬というよりは、男子の視線を集めてしまうがゆえの嫉妬だ。
ユイの話を聞く限りでは、仲良くしてくれそうな女子がちゃんといるみたいなので、友達ができないという心配はないだろう。
しかし、女子の嫉妬は怖いって言うくらいだ。女子の嫉妬の対象になったときにどうなるかはわからない。
今は転校生という珍しさで興味の部分が勝っているが、それが落ち着けば今度は注目を集めていることをよく思わない人たちが出るのは間違いない。
「ユイちゃん、男子達がたくさん話しかけてきた?」
和人の不安をよそに、里香がユイに聞いた。
「いえ、あんまり話しませんでした」
その言葉にホッとする和人。そして、「俺の娘は渡さん!」と心の中で密かに謎の闘志を燃やすのであった。
その一方で、明日奈は和人がどう思っているのかをお見通しであり、苦笑いしながらも微笑ましく見ていた。
ただ、ユイにとって何よりも大切なのは和人と明日奈であり、その想いは果てしなく深いため、和人の不安は杞憂だったりする。
とはいえ、まだ初日であるため、問題が起こるとしたらこれからだろう。
また、ユイが男子に特別な興味をもたないとしても、男子達がユイに興味を示しているのは事実であるため、いずれはユイに告白してくる男子が出てくる可能性は十分にある。
和人にとっては不安の種だが、明日奈にとっては興味あることだったので、それも含め何かあれば必ず相談するようにとユイに言った。
その後も、ユイの学校でのことや、和人と明日奈の学校での出来事などで会話を楽しんだ。
そして、帰宅の時間になり、店を出て帰ろうとした時、明日奈が「あ!」と何かを思い出したように手を叩いた。
「ユイちゃん、今日はウチに来ない?」
それは明日奈の家へのお誘いだった。
オチがうまく思いつかなくて終わり方が微妙でした。
学校でのユイの服装
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ロストソングで登場したお嬢様風のブレザー
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メモデフで登場したセーラー服
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私服