Another Sunshine 〜涙の痕〜 作:果樹 椿姫丸
かくして、私は花丸ちゃんと共に善子ちゃんの家へ直接足を運ぶことに決めた。今日はその約束の日で、見上げた視線の先にある雲ひとつない青空は、私の小さな勇気を歓迎してくれているかのようだった。
「おはよう、花丸ちゃん!」
待ち合わせ場所に決めていたバス停には、一人の栗色の髪の少女が立っていた。私の大切な友達の一人、国木田花丸ちゃんだ。
「おはよう、ルビィちゃん!良い天気だね~」
「ほんとにね」
暖かい潮風と、眩いばかりの太陽と、そして花のように眩しい笑顔の友達。先日までは暗い表情の多かった彼女も、流石に今日ばかりは喜びを隠せないようだ。
「それじゃあ早速行こっか!……って、案内は花丸ちゃんだけど」
「任せて!ここからならそんなに時間掛からないずら」
話によれば、善子ちゃんは私と同じ沼津在住らしい。私が知らないだけで、この町で普通に生活している間にも、彼女とは道端ですれ違ったりしていたのかもしれない。世間は狭いというか……まぁ、田舎あるあるじゃあるけど。
花丸ちゃんの言うとおり、目的地には程なくして辿り着いた。……マンション住まいか。
「部屋、番号知ってるの?」
「大丈夫ずら!」
軽快な足取りの花丸ちゃんは善子ちゃんの借りている部屋らしき場所を見つけると、そのままチャイムを鳴らす。ピンポーンという聞き慣れた呼出音と共に、件の少女が中からひょっこりと顔を出した。
「あっ、勧誘とかウチ間に合ってるんでー……って、ずら丸!?」
「来ちゃった」
見間違うはずもない。この目を丸くした藍色の髪の少女は、クラスで事故紹介(誤字でない)をしてしまったあの堕天使ヨハネもとい津島善子ちゃんその人だ。
こうして近くで見ると、指は細長くて綺麗だし、鼻は高いし、肌はキメが細かいし、まつ毛は長いしで美人さんなんだとよく分かる。……残念美人さんって、ほんとにいるんだね。
「……なんか失礼なこと思ってない?」
「オモッテナイヨ、ルビィウソツカナイヨ」
「なんで片言……部屋、入る?」
善子ちゃんの部屋は、決して広くはないながらもよく片付けられていて、ちょっとアレなセンスを除けば良い部屋だった。
「……で、幼馴染巨乳JKが私になんの用?今日って学校休みよね?」
「おさな……あっ、花丸ちゃんの事か」
「それで通じるのはなんか複雑ずら」
「……で、何の用?」
「えっと……」
「あぁ、花丸ちゃんがずっと善子ちゃんの事心配してたから、来ちゃった」
「ルビィちゃんが言っちゃうずら!?」
し、心配とかじゃないずら……、などと小声で続け、花丸ちゃんは赤面した顔を善子ちゃんの方から背ける。こんな表情の彼女を見るのは初めてだ。
「心配って……大袈裟よ」
「でも善子ちゃん、もう一週間くらい学校来てなかったし、誰だって心配するよ」
「本当かしら……」
「本当に皆心配してるんだよ、善子ちゃ……ヨハネちゃん?」
「あぁ何かもう善子でいいわ。……本当に?誰も私の事馬鹿にしたりしてなかった?」
「う……うん、大丈夫ずら!」
「今の間は何よ!?」
「と……とにかく、善子ちゃんが心配するほど事態は深刻じゃないずら!学校来るずら!」
「うーん……」
「……きっとお母さんとかも心配してるずら!このままじゃ進級が怪しくなっちゃうずら!」
「うっ……返す言葉もない……」
「……花丸ちゃんね、善子ちゃんとはたまたま幼稚園が一緒だっただけの知り合いって言ってたけど、」
「えっひど」
「でも、本当はすっごく善子ちゃんの事心配してたんだよ?いつもなんか暗い顔してる事が多くて……」
「ずら丸……」
「だから、善子ちゃん、」
「分かったわよ。明日からちゃんと学校行く」
「善子ちゃん!それじゃあ……!」
意外に早く折れた様子の善子ちゃんに、花丸ちゃんの顔がほころんでいく。それは、私と教室で取り留めのない話をしていた頃と同じ、花が咲いたように眩しい、満点の笑顔だった。
「ええ、どうせそろそろ行かないといけないとは思っていたし。……とにかくこれからまたよろしくね、ずら丸と、えっと……」
「あっ、黒澤ルビィです!よろしくね、善子ちゃん!」
「……ルビィ。それから……本当に心配させちゃったみたいね、ごめん」
善子ちゃんはクスッと笑い、花丸ちゃんに箱ティッシュを手渡す。見ると、花丸ちゃんの目には大粒の涙が浮かんでいて、今にも大泣きしそうな様相だった。
「……ありがとう、善子ちゃん」
「泣くのか笑うのかどっちかにしなさいよ」
善子ちゃんの方はそれが可笑しいらしく、やんちゃな笑顔で花丸ちゃんの頭を撫でる。花丸ちゃんは「うるさいずら」と小声で言いながらも満更でも無い様子で、そんな二人の姿に、自然と私のほうも破顔した。
「アンタも、ありがとう」
「……え、ルビィ?」
「多分、ずら丸だけだったらここまで来てくれなかったと思うし、だから……ありがとね」
「善子ちゃん……!」
高校生活初の休日、そのお昼頃のこと。
ルビィが何もしなくても、善子ちゃんはまた学校に来てくれるようになっていたのかもしれない。運命は結局、変わらないのかもしれない。
……けれど、件の少女が私にくれたのは感謝の言葉で。
「ううん、ルビィは少し勇気を出しただけだよ」
彼女にとってはその言葉に大きな意味はないのかもしれないけれど、その一言で私は身勝手にも報われた気がして。彼女が再び登校してくれるという事実に安堵してしまうのだった。
「あ……あと学校は明後日からだよ善子ちゃん」
「わ……分かってるわよ!」
「さっきは明日って言ってたずらー」
「人の揚げ足取ってんじゃないわよ!」
やっと三人合流ですね。
話としてもようやく一段落という感じで私自身非常に安堵しています笑
まだまだこれから!ではありますけれどどうか最後までお付き合い下さいませ。