Another Sunshine 〜涙の痕〜 作:果樹 椿姫丸
「……で、二人は何か部活決めたの?」
手元のスマートフォンの画面を退屈そうに眺めながら、眼前の少女はぼそりと呟く。艷やかな藍色の髪に、真っ白な肌と、美少女と言って差し支えない目鼻立ちをした彼女の名は、津島善子ちゃん。先日の花丸ちゃんと私の説得の甲斐あって学校に顔を出してくれるようになった友達だ。
今は放課後で、掃除当番を任されていた私、花丸ちゃん、善子ちゃんの三人は、一通り教室が綺麗になったところでダラダラとお喋りをしていた。たった三人だけの教室というのは中々新鮮だ。
「まったく決めてないずら〜」
ふわぁ、とあくびをしながら、花丸ちゃんは伸びをする。でん、とそびえ立つ二つのずら丸山(善子ちゃん名)がこれでもかと強調された。……本当に同じ一年生?
「ルビィは?」
「ルビィは……えっと……」
スクールアイドル部……なんて、今の二人に言っても仕方ないよね。
「うん、ルビィも決めてないよ」
「ルビィちゃん嘘へったくそずら」
「えぇっ!?」
「絶対なんか考えてたでしょ、言ってみなさいよ」
じいいっ、と二人の視線が私一人に向けられる。二人とも顔が整っているだけあって、この距離で見つめられると中々迫力があった。……ドラマのワンシーン、みたいな。
「いやぁ、えっと……す……」
「す?」
「スクール……アイドルとか……やってみたいなぁ、って、えへへ……」
///
翌日。
「はぁ……」
これでもかと照りつける朝日に、私は眉間にシワを寄せる。今はいつもの通学路を花丸ちゃんと歩いていて、私の心境とは裏腹に周りの生徒達からは明るい声が木霊していた。
結果から言うと、二人は私がスクールアイドルをする事に賛成してくれたけど、一緒にやる事に関しては猛反対された。花丸ちゃんは「オ、オラなんかには出来ないずらぁっ!」と赤面して断固拒否。……で、善子ちゃんは「リスナーがあぁっ!」とか何とか言ってたけど、なんのことだろうか?
……まぁ、兎に角二人はまったくの脈無しという印象で、今のところの数少ない部員候補だっただけに、私はひどく落ち込んでいたのだった。
「……ま、まぁまぁ!ルビィちゃんならきっとオラ達よりスクールアイドルに向いてる子を見つけられるよ!」
「そうかなぁ……」
――と、慰めにすらなっていない花丸ちゃんの慰めに惨めな気持ちでいっぱいになっていたところ。
「あの!スクールアイドル、やりませんか!?」
私の落ち込んだ気持ちを吹き飛ばすのには十分な一言と共に、オレンジの髪の少女が突然現れた。
「ふわぁ……」
「わっ、ルビィちゃん大きいあくび」
「朝から疲れちゃった」
お昼休みの、クラスメイトのはしゃぎ声が木霊する教室で、私は花丸ちゃん善子ちゃんと共にお弁当を食べていた。
「……で?ルビィはどうすんのよ?スクールアイドル、やりたいのよね?」
「それは、そーなんだけど……」
今朝私達に声をかけてきた女の子の名は、高海千歌ちゃん。学年は私達より一つ上の二年生で、友達の渡辺曜ちゃんと共にスクールアイドル活動を始めようとしているらしい。…とはいえ今のところのメンバーはその二人のみで、本当に色々と〝これから〟な状況のようだけれど。
……まぁ、現状はそんな感じで。私は先輩二人の勧誘に対する返事は先送りにして、とりあえずその場を後にしたのだった。勿論、スクールアイドルを始めたい気持ちは私だって負けないつもりだし、すぐにでも仲間になりたくはある、のだけれど……実は一つの課題があって……。
「いや~……まさかルビィがあそこまで人見知りだったとは」
「オラ達と話すときはどーもないのにね」
「ピギィ……」
……そう。
その課題というのは、私が極度の人見知りであるという事実の事で、私はその事が原因で、せっかく先輩達が声をかけてくれたにも関わらずまともに交流する事もなくあの場を走り去ってしまったのだった。
「……ルビィちゃん、本当は先輩達とやりたいんじゃないの?」
菓子パンを一袋食べ終えたところで、花丸ちゃんが静かに口を開く。優しい彼女の視線が、ゆっくりと私の視線と交差した。
「うん……」
「じゃあ、放課後にでも一緒に先輩達を探してみようよ。きっと放課後も勧誘続けてるだろうし」
「そうかなぁ。……あっ、花丸ちゃん今日は図書委員の仕事大丈夫なの?」
「どーせ放課後に図書室なんて誰も来ないから大丈夫ずら」
「ま……まさか図書室にいるとは……」
放課後。二年生の先輩達を尋ねた(主に花丸ちゃんが)私達は、千歌ちゃんがいるという図書室を訪れていた。なんでも、私やルビィちゃんについて色々な人に聞き回っていたらしく、それで図書室へ突撃する事に決めたようだ。……恐ろしい。
「あ、花丸ちゃんにルビィちゃん!ちょうど探してたんだよ!」
「図書室では静かにするずら」
「ご、ごめんなさい……」
と、図書委員に怒られているこのオレンジ色の髪の女の子は、例の高海千歌ちゃん。少し子どもっぽいもいうか……元気が有り余っている感じで、今回の件でも分かるようにかなり行動力がある女の子みたいだ。
「千歌ちゃん、一日じゅうルビィちゃん達のことばっかり話してたんだよー」
「ちょっ……曜ちゃんそれは言わないで!」
「静かに……って、まぁ、オラ達だけだし良いずら」
なんて、イタズラっぽく笑うのは、ふわっと柔らかそうなグレージュの髪が特徴的な女の子、渡辺曜ちゃんだ。実は水泳部員(この学校の水泳部が活動してるのは見たことないけど)でもある彼女には、つくべきところにしっかり筋肉がついていて、それこそ今すぐにでも踊れるんじゃないかという体つきをしていた。ちなみに千歌ちゃんとは幼馴染らしく、かなり付き合いは長いようだ。
「……って、アレ?ルビィちゃんなんでそんな端っこに?」
「あ、こ、これは」
反射というか、何というか、アレだ。違うんですよ。
「あっほら千歌ちゃん、この子……ちょっと人見知りが」
「あっ、そいえば今朝そんなこと言ってたね」
理解したのかそうでないのか、千歌ちゃんはゆっくりと私のほうへ近づくと、私と同じようにしゃがみ、目線を合わせる。鼻と鼻がくっつきそうな距離まで接近していたけれど、不思議と先程までの緊張は抜けていて、気持ちは少しずつ落ちついていった。
「ルビィちゃん、私のこと、こわい……?」
「あっいえ、そんな……ただ、やっぱり千歌ちゃん達のことあんまり知らないし……うゆ」
「私も、ルビィちゃんのことあんまり知らないよ」
いつの間にか、千歌ちゃんは私の手を握っていた。彼女の手はとても温かくて、その温度に、私はようやくいつもの落ち着きを取り戻したのだった。
「千歌ちゃん、ルビィ……こんなに人見知りするし、いつもオドオドしてるし……」
「うん」
頷き、千歌ちゃんは笑顔のまま私の話に耳を傾けてくれる。その目は真剣そのものだ。
「だから、スクールアイドルなんか向いてないって、そう思われても無理ないと思う。けど……!」
「うん」
「ルビィ、今はとにかく、止まりたくない!前へ進みたい!スクールアイドル、やりたいです!」
私は、もう自分のしたい事に嘘はつきたくない。多分あれからずっと、お姉ちゃんは自分の心に嘘をつき続けている。
――私は、そうなりたくない。
好きな事をして、やりたい事をやって、それが悪いはずがないんだから。姉の件はどうあれ、それはそれ。私は私のやりたいようにやるだけだ。
まぁ善子と花丸は最初お断りするでしょーねー。それがルビィちゃん一人からの頼みでしかないのなら尚更……と少し意地悪っぽい事を考えながら書いていきました。
さて、今回からまたアニメ本編とは物語の進み方が大きく変わってきましたね。この変化が今後どう影響してくるのか……それはまたのお楽しみということで。