Another Sunshine 〜涙の痕〜 作:果樹 椿姫丸
部を立ち上げるのに必要な部員の数は五人。あれから千歌ちゃん達と一緒にいる時間が多くなった私は、その厳しい現状のことを知った。
現在の部員は私と曜ちゃん千歌ちゃんの三人。作曲が出来る人もいないしでやる事は山積みだなぁ……と今日も今日とて頭を抱えていたところ。聞き慣れない女の子の声が校内に響き渡り、私達三人は理事長室に呼び出された。
「千歌ちゃん達は何か聞いてた?」
「ううん、全然。曜ちゃんもだよね?」
「うん、この三人ってことはスクールアイドルについて何か話があるんだろうけど……」
などと、オレンジと、ベージュと、赤色のいつもの仲良し三色で理事長室の前で話をしていると、程なくして「入って良いよー」と、軽い調子の女の子の声が部屋の中から聞こえた。
「さっきの放送の女の子の声だね。……誰だろう?」
「まぁここで話してても仕方ないって!……開けるよ」
言うより早く強く部屋のドアノブを握ると、千歌ちゃんはそのまま勢いよく扉を開ける。そんな彼女の姿に、あぁ、千歌ちゃんらしいなぁ、なんて他人事のように思っていると、いかにも座り心地の良さそうな理事長の椅子に腰かけた、金髪金眼の女の子の姿が目に映った。
「いらっしゃい、三人とも。会うのは初めて……だよね?」
そのアヒルのような猫のような、文字に起こすとωのような可愛らしい形の口が特徴的な少女の名前は、小原鞠莉。学年は姉と同じ緑ネクタイの三年生で、ただでさえ「ワオ!」とか「シャイニー!」とか話し方ひとつでさえインパクトがあるというのに、彼女の発した一言は、それ以上の衝撃を私達に与えるのだった。
「あっ、紹介が遅れたねー。私はこの学校の生徒兼理事長を務める事になったの!今日からよろしくねー」
「理事長って……」
苦笑いと共に、曜ちゃんは一歩後ろに下がる。
千歌ちゃんも彼女と同様に苦笑いを浮かべていて、かく言う私も多分二人と同じ表情をしていた。まったくタイプが違う私達三人だけれど、最近はこういった所で妙に息が合うようになっていた。
「あっ、信じてないでしょー?一応許可も貰ってるんだから!」
言って、鞠莉ちゃんはスクールバッグの中から一枚の書類を取り出す。本物……かどうかは分からないけれど、ここまで手のこんだイタズラをするわけもないし、理事長というのは本当のことなのだろうか。と、その一枚の紙を三人揃ってまじまじと見ていると――
「何やら騒々しいと思って来てみれば……理事長というのは本当のようですね」
「お、お姉ちゃん!?」
私の両肩に軽く手を置き、黒髪ロングの三年生もとい私の姉――黒澤ダイヤが現れた。
「まさか千歌さん達のグループにルビィが入ってるとは思いませんでしたわ。……どうりで最近やたら帰りが遅いと思いましたわ」
私の両肩に手を置いたまま、お姉ちゃんはぼそりと呟く。
やっぱり、アイドル活動のことは良く思ってない、よね……。
家に帰ったら厳しい言及をされるのは覚悟しておくべきかもしれない。
「う、うん……。あ、お姉ちゃん、千歌ちゃん達のこと知ってたの?」
「……あぁ、許可も取らずに校門で勧誘のチラシを配っていたので、問いただしましたの」
「いやー、あはは」
「千歌ちゃん、笑ってるけど全然褒められてないからね……」
「おっほん!……放送でこの三人の名前を出せば飛んで来ると思ってたよ、ダイヤ」
「……相変わらずですのね、鞠莉さん。……で、この三人と一緒に私まで誘い出したと言うことは、当然何か要件があるということ……で、間違いないですね?」
少し窮屈な部屋の中で、二人の視線が交差する。この独特の空気を味わうのも、時間的に言うとかなり久しぶりだ。
「……ま、ダイヤの言うとおりだよ。部の承認には、最低五人の部員が必要。……三人ともここまではOK?」
「うゆ……」
私に続き、横の二人も首肯する。
「……そこで私から提案があります!シャイニー!」
勢いよく椅子を降りると、鞠莉ちゃんは部屋のカーテンをこれまた勢いよく開ける。シャー、という心地よい音と共に、眩いばかりの日の光が暗かった室内を照らした。
「今回は特例措置をとります!こちらの怪しい書類にサインして頂くだけでオーケー!三人でも部の設立を認めます!」
「ちょっ……鞠莉さん!?」
「怪しいって自分で言っちゃうんですね……」
じとっ、とした目で書類を見つめると、千歌ちゃんはそのままそれを手に取る。
「なになに……『以下のことに従うこと。一、部に関することは最終決定権を理事長が持つ。ニ、類似する部には同様に例外的な措置をとる。三、生徒会長は口出し無用!』ってなんですかこれ……最後のはただの我が儘なんじゃ」
「こんな事は許されませんわ!鞠莉さん!」
「口出し無用だよ、〝生徒会長〟。……それとも何か、彼女達に活動をさせたくない理由でもあるのかな?」
口元は笑ったまま、鞠莉ちゃんはお姉ちゃんを見つめる。しかし、その目はまっすぐにお姉ちゃんの瞳を見据えていた。
そしてそれは、明らかに〝あの日〟の事を言っていて、その重い空気感にあてられて、室内は一瞬時間が止まったかのように静まり返った。
「……良いです。しかし千歌さん!軽い気持ちでこんな書類にサインはしないように!」
「もう書いちゃいました!」
「ンマアアアッ!?」
「ワオ!千歌っちナイス!!」
言うより早く、鞠莉ちゃんは欧米人的なオーバーな動作で千歌ちゃんに思いっきりハグをする。一瞬にして室内の沈黙は幕を閉じた。
「……さて。というわけだから、色々言いたい事はあるだろうけど、ダイヤは出ていってくれる?」
「職権濫用ですわ……」
「シャラップ!生徒会長はこの事に口出し無用!ハリアップ!!」
「うぅ……」
納得いかないといった表情で、お姉ちゃんはトボトボと出入口のドアのほうへ向かって歩いていく。流石に少し気の毒なような……。
「お姉ちゃん、私達のこと、帰ったら話すね」
小声で耳打ちし、私はその手を握る。相変わらず少し低体温で、けれど安心する感触。大好きな感触だ。
「……ええ、是非」
お姉ちゃんは軽く私を抱き締めると、そのまま理事長室を出ていく。時間にして数秒の出来事だけれど、少しずつ昔の姉妹の関係に戻りつつある気がした。
シャイニーな彼女もいよいよ登場です。怪しい書類にサインはリアルだと完全にアウトですがまぁ良いでしょう。
鞠莉ちゃんの雰囲気出すの滅茶苦茶難しいですね笑