Another Sunshine 〜涙の痕〜   作:果樹 椿姫丸

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変化

 スクールアイドルを始めてそろそろ一ヶ月が経とうとしていた。その事は私にすればかなり大きな変化で、しかし今日もこの町は変わらず、仄かな潮の香りと、眩いばかりの日差しでもって私達の暮らしを見守ってくれている。

 ……そう、たかだか小さな高校に通う女子三人が新しい事を始めた程度では、この町は変わらない。けれど、私達のもたらした小さな変化は、確実に周囲の人達との関係を変えていくのだった。

 

 

「えっ、善子ちゃん……今日も用事?」

『悪いわねー、どうしても時間空けられなくて』

「そっか……ごめんね、また学校でね」

『うん……』

 

 最近はこんな会話ばかりで、善子ちゃんとは教室以外の場所で時間を過ごすことが出来なくなってしまっていた。

 勿論、はじめのうちは本当に彼女が忙しいだけなのかもしれないと思っていたのだけれど、彼女だけでなく、花が咲いたように眩しい笑顔が特徴的なあの子とも"距離"が出来ていて、やがて私はそのことを悪い方向に考えるようになっていた。

 

「ルビィのこと、二人とも嫌いになっちゃったのかな……」

 

 二人は、決して簡単に私のことを嫌いになったりする子たちじゃない。……そんなこと、頭では分かっている。

 けれど、『ルビィなんか嫌い』と、そう二人に拒絶されたらどうしよう、という思いは消えず、気が付けば私は楽しい筈の学校の教室内でさえ、彼女達を避けるようになってしまうのだった。

 

 

///

 

「ルビィちゃん、最近なんかあった?」

「はぇ?」

 

 もみもみもみもみ。放課後のいつもの砂浜で私のほっぺを玩具にしながら、千歌ちゃんはそんなことを言ってきた。

 

「別に……なんでもないですよ」

「ほんとに~?」

 

 もみもみもみ。

 

「ふぉんふぉうれぇふぅ」

「そっか」

 

 ようやく飽きたのか、千歌ちゃんはあっさりと手を離し、立ち上がる。未だに自分たちの楽曲はないけれど、それでもやる事は山積みで、時間は一秒も無駄に出来ない状態だった。今日も今日とて曜ちゃんの大好きな体力作りに時間を割くのだろう……。

 

「――なんで、何かあったと思ったんですか?」

「え?」

「ルビィが」

「あー……ほら、ルビィちゃん最近、元気ないみたいだったから。曜ちゃんも心配してるんだよ?」

「そうですか……。ルビィは大丈夫ですから、心配しないで下さい」

 

 ――嗚呼、多分今私、笑えてない。

 

 それを知りながらも今ある不安は表に出さないように、私はどうにか言葉を紡ぐ。

 

「うん……ごめんね、ルビィちゃん」

 

 ……なんで、そんな悲しい笑顔で謝るの。

――千歌ちゃんは何も悪くない。

 だって、悪いのは、善子ちゃん達に対する不安が出てたルビィのほうなのに。

 千歌ちゃん達に気を遣わせたルビィが悪いのに。

 謝らないといけないのは、きっとルビィのほうなのに……。

 

「千歌ちゃ――おぅわっ!?」

 

 と、何とかしてこの気まずい沈黙を破ろうとしたその時。

 

「お待たせー二人とも!早速走ろっか!」

 

 一度は許されたはずの私の頬を揉みしだき、くせっ毛の先輩が颯爽登場したのだった。

 

「ははひへふははい!!」

「ルビィちゃんのほっぺたは最高ですな~!」

「んん~!!」

 

 

 件の先輩、渡辺曜ちゃんは水泳部を肩部していて、このように度々遅れて練習に合流する事がある。……いや、よくよく考えたら水泳にスクールアイドルに衣装作りにって、時間がいくらあっても足りないんじゃ。

 

「ん?ルビィちゃんどうにかした?」

 

 ……あまり深くは考えないことにしよう。

 

 

「……それで?千歌ちゃんの元に謎のCDが送られてきたって聞いたんだけど?」

「あぁ、うん。端末に入れてきたから二人とも聴いてみてよ」

 

 謎の……何……?

 

「ルビィちゃんも」

 

 曜ちゃんが片方のイヤホンを耳に付けたのを確認すると、千歌ちゃんはもう片方のイヤホンを私の耳に直接入れる。程なくして件の音楽が流れ始めた。

 

 

 

 好きで始めたことがいつまでも好きとは限らない。

 そんな当たり前のことを知るのに、私は他の人たちよりも少しばかり時間がかかってしまった。

 始めた頃は、まるで空を飛んでいるみたい、だなんて、我ながらメルヘンな表現をしていた筈のソレは、いつからか、重い枷のようになっていた。

 

 ……話が長くなりそうなので、少し割愛します。

 

 さて、そんな私ですが、心機一転、環境を変えて生活する事に決めました。

 環境の変化は、私の想像以上のものでした。

 消えない過去にいつまでも囚われている私と違い、初めて教室で声をかけてくれたあの子は明るくて、前だけ見てて、元気いっぱいで、少し羨ましいくらいでした。

 やがて、私にとっては大きかった悩みでさえ、彼女たちは解決してしまいました。

 恩返しをしないといけないと思いました。

 私は、言葉で伝えるのはあまり得意じゃありません。

 その〝答え〟は、一晩のうちに出来上がりました。




ひっさびさに書きましたね、はい。
謎のCD……一体誰が届けたんだ(棒

真面目な話をしますと、今回のエピソードは物語の一つの区切りになるものです。次回以降また違った展開になっていきますので、お楽しみに!
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