深層水と言います。よろしくお願いします。
天才と馬鹿は紙一重、という言葉がある。
意味はその言葉通りなのだが、考えてみるとまあとても面白く、それでいてよく的を射ている言葉である。
新年度も始まり、新しい風が吹き始めた春のこと、若い男がとある住宅街を訪れていた。彼の名は
何故彼は今この場所を訪れているのだろうか。
「暇だ……。」
遡ること2週間ほど前の休日、双原はアパートの一室に横たわり、こう呟いていた。入学した当初は環境の変化、新しい生活で毎日が忙しかったが今となってみれば、
「暇だ……。」
これが彼の最近の口癖になっている。親元を離れて早一年、一人暮らしにもすっかり慣れてしまった。親からは生活に困らない程度の仕送りは送られてくる。
「お金の事は心配しなくていい。」
そう言われてはいる。そして実際心配はしていないのだがこの退屈だけはお金でなんとかなる問題ではなかった。
「バイトか……。」
双原は決心した。
基本は面倒くさがりだが、一旦そうと決まれば行動までは割と早いのが彼の良いところでもある。とりあえずバイト先を探すことにする。職を探す上で重要なのはなんと言っても職種だが、生まれる際にステータスを数学に全振りされた彼の性に合う職を見つけるのは難しいことではなかった。早速その線で検索をかける。インターネットとはつくづく便利なものだ。あぁ、出てきた出てきた。塾講師……。
「却下。」
双原の三大嫌いなもの。それは『人混み』『レバー』『高い所』である。あまり大勢を相手にするのは遠慮したい。さてお次は。家庭教師……。
「ふむ。」
そもそも他人に教えるという経験自体あまりないのだが、相手は一人。塾講師よりはやれそうな気がする。
「やってみるか。」
思い立ったが吉日。早速応募の連絡を入れた。
というわけで彼は今来たこともない住宅街に足を踏み入れている。採用自体は学歴も手伝ってスムーズに進んだのだが、新人研修の際に担当者から、
「うん、まあ頭良いし大丈夫だよ!頑張って!」
とやたら激励されたのが引っかかるところではある。担当の生徒は高3の女子、という話だけ聞いているが果たして……。
「もうすぐ、目的地です。」
目標の家はもうすぐのようだ。最近はスマホが道案内をしてくれるので道に迷うことはない。インターネットとはつくづく便利なものだ。
どこかで感じた事のある思考を辿っているうちに目的地に到着した。御苦労、スマホ。その家の呼び鈴を鳴らすと女性が出てきた。恐らく母親だろう。
「あ、こんにちは。家庭教師で伺いました。双原です。」
とりあえず名乗る。
「あぁ、あなたが双原さんね、伊丹です、よろしくお願いします。」
親切そうな方だ。とりあえず一安心、こちらも礼を返し、家に上がらせてもらう。
「しおりー!降りてきて!」
生徒は二階にいるようだ。ととと、と階段を降りる足音に続き、女子高生が姿を現す。
「娘の栞です。」
しおりさん、か。
「よろしくお願いします。双原です。」
とりあえず名乗る。
「あ、よろしくお願いします。」
ご丁寧にどうも。様子を見る限り至って普通の子のようだ。安心である。
「基本的に私は口を出すこともないと思いますので、娘と相談しつつ先生の自由にやって頂ければと思います。」
割と自由にやれるのは良いが、反面全てを任されるということでもある。務まるのだろうか。
「まあ先生もこれが初めてと聞いていますし、段々慣れていただければ大丈夫ですから、気を楽にしてください。」
とはいえこちらは仕事。無理な話である。気気遣いだけ有難く受け取ろう……。
「栞、自分の部屋でいいのよね?」
「うん。」
「片付けた?」
「それ朝から3回目だよお母さん。」
確かに来客時は部屋の整理整頓が気になる。お母さんの心配はとてもわかる。わかりみが深いとでも言うのだろうか。
馬鹿なことを考えているうちに部屋に通され、双原の家庭教師生活はスタートした。
最後までお付き合い頂きありがとうございました。
今後もそこまでペースは速くありませんが、続きを更新していこうと思うので、是非よろしくお願いします。