どうか最後までお付き合いくださいませ。
「それじゃあ、よろしくお願いします。」
「お願いします。双原先生。というか先生なんだから別に敬語じゃなくていいと思いますけど……」
うーん……。初対面には普通敬語を使うものではなかろうか。しかし、まあ敬語を使わなくていいというのならその方が楽だろう。素直に受け入れることにした。
「ああ、じゃあよろしく。伊丹さん。」
「お願いしますせんせー。」
心なしかそちらまで口調が緩んでいる気がするが……まあ堅苦しくなりすぎても困るし助かるというものである。さて、本題に移ろう。
「数学を教えてほしいんだっけ?」
「そーなんですよー。基本的なとこは分かるんですけど、ちょっと応用が入るともうわけわかんないんで。」
「なるほどねー。」
「せんせーは数学得意なの?」
「一応大学で数学やってるから。まあそれなりに。」
「……」
なんだそのまるで変質者を見るような眼は。
「……ん?何?」
「いや、大学行ってまでやるほど楽しいんだなって思って。」
「まあ楽しくなきゃやらないよね。」
「ですよねー。え、何大学なんですか?」
「一応K大かな」
「うわ、めっちゃ頭良いじゃないですか。あとその『一応』ってやつ、なんか腹立つんでやめてください。」
「す、すまん。」
説明しよう。『一応』というのは我が大学に在籍する者が、所属大学を訊ねられた時95%の確率で付いてくる、言わば枕詞のようなものである。外から見ると腹立つとはよく言われるが、本人達はもはや無意識に発している事が多い。
「まあそんな感じです。よろしくお願いしまーす。」
……どんな感じだ?
「あ、うん、よろしく。」
「早速なんですけど、この問題。」
『a³+b³-ab(a+b)=(a+b)(a-b)²となることを証明せよ。』
……?こんなん……
「簡単やん。」
「簡単ならわざわざ聞いてないです。」
「あ。」
「せんせー勉強以外の方面は割と馬鹿だったりします?」
否定できん……。
「じゃ、じゃあ説明していこう。」
「お願いしまーす。」
「まず、左辺のa³+b³があるよね。」
「はい。」
「これを因数分解する。」
「待った。」
「へ?」
「なんで因数分解するんですか?」
「見たらなんとなくわかるから?」
「わかってたらやってます。」
確かに……。
「うーん……。」
「せんせー頭良すぎて逆に私みたいなパンピーに伝えるの苦労しそうですよね。」
「パ、パンピー?」
「一般ピーポー、略してパンピーです。」
「あ、あぁ……。確かに、言われてみれば。」
「私も理解するように頑張るんで、先生も教え方上手くなりましょーよ。クビになりますよ?」
めちゃめちゃ厳しい。一体どっちが先生なんだ。
「で、なんで因数分解するんです?」
「うーん、1回証明の全体の流れ見てからでいい?」
「なるほど、大丈夫です。」
「因数分解すると(a+b)(a²-ab+b²)だよね。」
「公式ですね。」
「そしたら左辺でなんか出来ない?」
「うーん……。あ!」
「お?」
「(a+b)が一緒だから引けますね!」
「そうそう。結合法則ね。すると?」
「(a+b)(a²-2ab+b²)ですか?」
「そしたら?」
「(a-b)²にまとまるわけですか!」
「そうそう」
「なるほど、こうまとめたかったから因数分解したっていうのはなんとなーくわかりますね。」
「計算自体は簡単だから、思い付くか思い付かないかだよね」
「そう、思い付くのが苦手なんですよね私。」
「まあセンスかな。」
「大体あとで答え見て、言われてみれば!ってなるんですよね。あとそれ何かウザいです。」
「すまん。でもまあ解きなれたら行けると思う。」
「行けますかね?」
「センスは磨くもんだからな」メガネクイッ
「ウザいです。狙ってやってます?」
「すみません。」
「まあ分かったんで良しとしましょう。」
「ありがとうございます。」
「なんで敬語なんですか?」
「……。」
こうして俺達の授業は幕を開けたのだった。
お読みいただき、ありがとうございました。
第3話もペースは安定しないと思いますが、必ず上げますのでお楽しみに。