ある兵器の目線   作:ヒジキの木

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鷲のエンブレム

飛行機に乗りたい。

 

空を飛ぶ複葉機を見てあの時の私はそう思った。

無邪気だったなあといえばそうかもしれないし子供の時の特権といえばまあ…それで許されたかもしれない。

飛行場の端でずっとそれを見ていた。私もいつか飛べる日が来るのだろうと。

 

ただ成長するにつれ空を飛ぶ気持ちは無邪気な好奇心から防衛の使命に変わっていった。

ただその使命が実際に行使されるかどうかといえば疑問だけれど。

 

 

 

 

日差しが照りつける中コンクリートの硬い感触を全身で感じながら寝ていると、ふと隣に影が落ちた。

「先輩おはようございます‼︎」

 

目を開ければ私の顔を覗き込むように元気な後輩が立っていた。

 

「おはよ…貴女は元気ね」

 

「いつもと同じようにしてくれって言ったのは先輩ですよ」

そうだったかしら。歳のせいか物覚えが悪くなってきたわねえなんて言ってみたくなる。だけれど頭はしっかりとおぼているからただど忘れしただけだった。

「ああ、そういえば送別会の時に言っていたね」

 

「ですから私も最後まで笑顔で見送ります!」

我ながらいい後輩を持ったなあ……

 

 

 

 

F-4EJ改

日本の空を守るため作られた私の体は機体の寿命延長を超えてもなお飛び続けた。最新のコンピューターを積み込んだF-35が入ってきたのにもかかわらずしばらくの合間は空を飛び続けた。

私はF-4の中でも最後に作られた機体。そして今日、後任のF-35と置き換えられる形で任務から外れることとなる。

 

「そういえば今聞いておきたいこととかある?」

 

並ぶように百里基地の格納庫前に止められた私達の合間を何人もの整備員が駆け回る。

これがもしかしたら彼女との最後の会話になるのかもしれない。

「じゃあ一つだけ……先輩達って現役の任を解かれたらどうなるんですか?」

 

「機体が解体される時が私達の最後。人で言う死のようなものよ。ちなみに墜落して機体が壊れても同じね…」

 

「そっか……でもまた会えますよね?」

 

「多分会えるんじゃないかしら?体の形は変わらないわけだしごく稀に前の機体の記憶を持っている子もいるから。確かあれはレーガン所属のF/A-18Eだったんだけど前はF2Aでフィンランド軍所属機だったそうよ」

 

「そうなんだ…じゃあまた会えたらその時はよろしくお願いします!」

オレンジ色のツインテールが太陽の光を反射して煌めいている。私より幾分か小さく、子供と見間違えそうな姿の彼女は私のそばに腰を下ろす。

「その時は私は後輩よ」

 

「でも先輩は先輩ですから!」

 

 

パイロットとオペレーターがやってきた。もうすぐ機体を飛ばす用意が終わる。

最後の飛行だからか、2人は念入りに機体の各所を点検して回っていた。

F-35の方も少し遅れてパイロットが来た。

 

最後によろしくなとノーズを撫でられた。

体の方も頭を撫でられた感覚がする。

 

2人がコクピットに収まりしばらくして電源車からの電源でエンジンが回り出す。

甲高い音がまるで鷲の鳴き声のよう…なんて思ってしまうのはロマンチストだからか。

よく先輩にも言われていた。ロマンチストだって…今になってはまったくもってそうですと言いたい。ただ先輩だってそうですからね。

本人は現実主義者って言っていたけれど結局そのあと民間旅客機になったじゃないですか。思いっきり夢運んでいるとか言ってたじゃん。

 

ああ…なんか懐かしいもの思い出しちゃったなあ。

黒色の髪の毛が風でなびく。みんなはコクピットの中とかに入りこむけれど私は翼の上がいい。飛んでいるって感覚を肌で感じられるから。

 

 

 

 

機体が動き出し滑走路の手前まで移動する。右斜め後ろにはF-35がぴったり追従する。

空を飛べるのもこれで最後かあ…まあ恵まれた方だったんじゃないかな?

もう十分飛んだ気がする。

 

いつものように空を飛び、帰ってくる。それだけ。

機体を撃ち相手を効率よく破壊する私は、その本来の性能を唯の一度も使用することはなかった。惜しいなあって思ってしまう。

 

 

「やっぱり先輩そこなんですね」

 

エンジンの轟音を通り越して透き通った声が聞こえる。

となりを飛ぶF-35からだ。

彼女はどうやらコクピットの中にいるらしい。

計器を見るのはあまり好きでは無い私はコクピットの中は好きじゃない。

 

下を見下ろせば白い綿菓子の合間から青色のアクリル板が見える。

 

 

 

「うん?レーダーに感あり」

飛行行程の半分を過ぎたあたりでF-35が何かを見つけたらしい。

その情報は即座に私の機体にも送られる。パイロットがその情報を見て機体を旋回させる。

「IFF反応は?」

 

「無し……あーまたかなあ」

珍しいことでは無い。不明機なんて一日二、三回現れるのが普通なのだ。

 

「仕方がないなあ……」

 

しばらくして不明機の姿が見えるようになってくる。やっぱりベテランパイロットだから対応が早いね。

直ぐに渡すが真後ろ。F-35が真横の位置につく。

まあ…彼も私の引退に合わせてパイロットをやめるみたいだけれど。

娘さん達との時間を大事にしたいってこの前ぼやいていたね。

 

 

相手は黒色の細く大きなデルタ翼をした戦闘機だった。確か最新のステルス機だったね。

パイロット達が警告を放つ。ステルス機なのに全然レーダーに見えている。まさか間違えたのだろうか…

「……⁈レーダー照射‼︎」

いきなりコクピットが騒がしくなった。

まさか別の機体が⁈翼から尾翼の方に駆け出す。遠くに何かが光った。

 

「背後ね!」

F-35が飛び出した。

「待って!」

静止したけれどどうにもできない。反転した機体が急速に離れていく。

だけれどすぐに悲鳴が聞こえてきた。

 

「嘘⁈撃ってきた!」

振り返ればまた反転している彼女の背後に四つの光が見えた。

「振り切って‼︎」

 

「振り切れない‼︎」

 

チャフもフレアも効かない…いや、チャフのタイミングが早すぎる!

 

「このっ‼︎」

パイロットと私の意思が重なる。

機体が旋回し、アフターバーナーを展開。素早くF-35の背後に回る。

「先輩⁈何して……」

 

彼女の声を聞く前に離脱。全てのミサイルはレーダー反射の大きい私についてきた。

半ロールして急降下。

激しい衝撃が体を襲う。

ミサイルの方が早い。

 

回避不能。仕方がないなあ……コクピットが破壊される。

 

インジェクトシート誤作動…2人ともグッドラック‼︎

コントロールを失った体が真っ逆さまに落ちていく。

ミサイルのシーカーが作動する前に私の機体は海面に叩きつけられた。

 

 

 

 

 

 

ランディングギアが地面を掴む。振動が体全体を揺さぶる。

タッチダウン。やっぱり双発機と違って軽いなあ……

「……引退できなかった」

死んだ感覚ってどんなものかと思ってたら……何にも感じず次の体だったのね。参ったわ…黄泉とかあるのかと思ってたのに。

「おかえりなさい先輩‼︎」

ハンガーに戻ると少女が飛び込んできた。

「もう後輩よ」

 

「でも先輩は先輩です‼︎」

まあ…それでもいいか。

 

「でも実戦経験は貴女が上でしょ」

 

「それとこれとは別です!」

 

格納庫に響く声は誰にも知られず記録にも残らない。

 

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