俺の目の前にいたのは、紫色の髪と黒い第三の眼が特徴の少女。
古明地さとりのもう一人の妹である、古明地すみれに間違いなかった。
彼女は此方に背を向けた状態で、三角座りでうずくまっていた。
俺はそんな彼女に恐る恐る声を掛けようとした。
しかし、先に彼女の方が口を開けた。
「なんのようですか?どうやら私の知っている地霊殿の方ではないようですが」
見なくても俺が昔から地霊殿にいた奴じゃないと分かったらしい。
「俺は最近ここに居候することになった、春夏秋冬三月樹だ」
彼女は未だ背を向けたまま言う。
「自己紹介は済みました?なら、さっさと出て行ってください」
どうやら俺と話をする気は無いらしい。だが、ここで引き下がる訳にはいかない。
「俺はさとり様からお前をその部屋から連れ出すよう言われているんだ。ここから出よう、すみれ」
「嫌です。出て行きたくありません。あと、すみれって呼び捨てにしないでください」
じゃあなんて呼ぶんだよ。古明地か?三人もいるから分かりづれえよ。
「とりあえず、行くぞ」
俺はすみれの腕を掴み、むりやり連れ出そうとした。
「私は外になど行きたくありません!」
すみれは此方に振り返り叫んだ。その時、俺の姿を捉えた彼女の第三の眼が光りだした。
俺は今まで感じたことの無いような感覚に包まれる。なんだ・・・頭の中を覗かれているような、この気持ち悪い感覚は・・・。
「ああああぁぁぁぁあああああああ!!」
すると突然、すみれは叫び声をあげながら苦しみだした。いきなりの出来事に、俺は彼女に声を掛けることしかできない。
「どうした!?どうしたんだよすみれ!?」
「あああぁぁぁぁ・・・」
彼女は頭を抑えて、うめき声をあげていた。俺が外にいる奴を呼ぼうとした時、彼女はようやく声を出すのをやめた。
「はあ・・・はあ・・・はあ・・・」
彼女は荒い呼吸をしていた。しばらくして、彼女は落ち着きを取り戻し、再び話始めた。
「・・・記憶を取り戻すために私に会いに来たのですね。わかりました。なら教えてあげます」
「え?あ、ああ・・・」
すみれはあたかも自分は知っていたかのような素振りで言った。もしかして今の光って・・・
そんなことを考えている俺に気遣うことも無く、彼女はどんどん話を進める。
「まず、あなたの能力のことから。
あなたの能力は霊力、魔力、妖力を集める程度の能力です。空気中のこれらの力をすべて、自身の魔力に変換することができます。またこれを利用すれば、強力でない弾幕なら吸収することができます。
あなたが星熊勇儀と闘った時、彼女の弾幕を受けても無傷だったのはそのためです」
霊力、魔力、妖力を集める能力だと・・・まさか自分にそんな能力があったとは。
彼女は続ける。
「あと、あなたの種族は人間ではありません。月人です」
「・・・」
俺は言葉を失ってしまった。
「あなたの目的はこれで達成されました。もういいでしょう。出て行ってください」
俺は何も言えないまま、部屋を追い出された。
「そう、そんなことがあったのね」
俺はさとり様の部屋に戻り、先ほど起こった出来事をすべて話していた。
「すみれが急に苦しみだしたのは、たぶん能力を使ったからだと思うわ。
あの子の第三の眼は、自身の意思に関係なく見たものの記憶をすべて覗いてしまう。その時、あの子の脳には莫大な量の記憶が流れてくるから、とてつもない負担がかかってしまうのよ」
「そう・・・ですか」
俺は話のほとんどを聞き流していた。
「・・・そんなに、自分の種族が人間じゃなかったのがショックだったの?」
そんな俺にさとり様は優しく声を掛けてくれる。
「はい・・・。
いままで俺は自分のことをただの人間だと思っていました。だから、どうせ忘れた記憶なんて大したこと無いだろうって、そう思ってました。」
俺は続ける。
「でも、俺の種族は月人なんです。月人とは、月に住んでいる民のこと。並の存在なんかじゃありません。
そんな存在である俺が、月では無く地上にいるんですよ!もしかしたら、俺は誰かに追われ」
さとり様は俺の口を塞いだ。
「やめなさい。いまさら言っても、どうにもならないでしょう?」
「・・・はい。すみません」
俺は言うのをやめた。
「とりあえず、すみれは生きていたんでしょ?私はそれが聞けただけで満足だわ」
この言葉を聞き、ようやく自分が何のためにすみれに会いにいったのか、思い出した。
「俺、すみれを連れ出せませんでした・・・」
「いいのよ、あの子が独りを望んでいるのなら」
そんな訳がない。彼女は今でも、自分を助け出してくれる誰かを待っているはずだ。
俺の記憶のことは今はどうでもいい。絶対に彼女を助け出さないと。
俺は再び、すみれのもとへ向かった。
三月樹の能力判明しましたー。
まあ、そこまで強力ではありませんよ。
記憶操作のほうがよっぽどです。