三月樹side
「どうしてお燐を見捨てるんですか!!」
俺は地霊殿に帰ってからも怒鳴りっぱなしだった。
でも、落ち着くことなんかできない。お燐という大切な家族が失われようとしているのだから、気が気ではなかった。
「お燐はそれを望んでいた。なら、それでいいじゃない。
私は彼女の気持ちを尊重しただけ」
さとり様はそう言うと目線を外し、また読書に戻った。先ほどからずっとこの調子である。
まるで俺の話を聞こうとしなかった。
...こんなのさとり様じゃない。
なによりも自分の家族を大切にしていたはずだった。いつの日もいかなる時も、大事に育ててきた彼女らを愛する人だった。
そんな人が今、あっさりと一人の家族を切り捨てようとしているのだ。
納得できるわけがなかった。
「...幻滅しましたよ、さとり様」
俺は彼女のもとから立ち去ろうとする。
「どこに行くの?」
「...俺の勝手です」
「だめよ、あなたのすることぐらい分かっているんだから。この地霊殿にいなさい」
「嫌です」
即答した。心が読まれなくたって、俺のやることはさとり様にバレているだろう。でも、こればかりは彼女に従うわけにはいかない。
「私の命令が聞けないっていうの?」
彼女は俺を見た。さっきお燐を見つめていたときと同じような、醒めた目で。
「...分かりました」
一言返事をし、彼女のもとを去った。
もちろん、その言葉に従う気はなかった。俺は窓を開け、地霊殿を飛び出した。
―――お燐は俺が地霊殿に来るずっと前からそこの一員だったという。だから、さとり様とお燐は長い年月の間一緒に暮らしてきたことになる。
そんな彼女らの絆がこんなところで朽ち果てていいはずがない。
なんとしてもお燐を連れ戻す。地霊殿に帰りたいと言わせてみせる。
俺はあの五人がいる地霊殿が大好きなのだから。
限界まで速度をあげ、俺は三途の川に急ぐ。
三途の川に行くには、妖怪の山を越え、その裏側にある中有の道と呼ばれる道を通らなければならない。
急いだとしても、かなり時間がかかってしまう。
さとり様が言うには、お燐は三途の川を渡って死のうとしているらしい。
もし、俺が着いたときにはお燐がすでに川を渡っていたら―――
―――いや、後ろ向きに考えることはよそう。
お燐はまだ川を渡ることを踏みとどまっているはずだ。それに賭けるしかない。
...くそっ!どうしてこうなったんだよ、お燐...!!
「あら、思った以上に大事なのね」
飛んでいる俺の横に突然誰かが現れ、そんなことを呟いた。
「あー...あんたか。確か、幻想郷を監視している人だったか?」
「私には八雲 紫っていう名前があるの。この幻想郷で私の名前を知らない人はいないのよ、いい加減覚えてくれる?」
現れたのは、金髪が特徴のスキマ妖怪だった。
さっき突然地霊殿に現れ、俺たちを三途の川まで連れていってくれたのはこの人である。
でも、今は暢気に話などしている場合ではない。
「今俺が急いでるってこと知っているだろ、邪魔しないでくれないか」
「冷たいわねぇ...
だからさっきと同じようにスキマで連れて行ってあげようと思ったのに」
俺はすぐその場に止まった。
「素直でよろしい」
紫はニコニコしながら言った。なんか子供扱いされているようで非常に腹がたつが、今は一刻を争っている。真っ先にお燐のところで向かわないと。
「なら早くしてくれ!」
「そうせかさないの」
そうして、目の前が裂けて空間が開いた。さっきも見たが、中から大量の目玉が此方を見ていて気味が悪い。
俺は恐る恐るスキマに近づいていた時、紫が待ったと言った。
「入る前に、一つ聞いてもいい?」
話をする暇はないのだが、紫がいなければ三途の川に着くのはかなり遅くなっていただろう。
仕方なく質問を許した。
「本当にお燐を連れ戻せるの?」
「もちろん」
聞かなくてもそう答えることぐらい分かってるくせにと思い、紫の質問に首をかしげる。
すると彼女は小さく笑った。
「なら、あなたの実力を見せてもらうから。期待しているわ、地霊殿の魔法使いさん?」
「あ、ああ...」
「ほら、さっさと行きなさい」
紫に背中を押され、俺はスキマに落ちていった。
「いたたた...」
いきなりだったから、俺は着地に失敗していた。なんか落とし穴に落ちた気分だな...
一体あのスキマ妖怪は一体何考えているんだか。ま、そんなことは置いといて。
俺は立ち上がり辺りを見渡した。
見覚えのある場所だ。どうやら、三途の川に着いたらしい。
周りを注意深く見ると、さっきいた閻魔と死神の姿があった。そしてその中にはお燐もいた。
...よかった。まだ生きていてくれたみたいだ。
俺は彼女らのもとへ歩き出す。
お燐になんて言葉をかければいいのだろう? こういうのは一言目が肝心だ。
なんで出て行ったんだよ!とか?
帰ってこい、これは命令だ。とか?
お前がいないと俺、寂しくて死んじゃうんだ...とか?
...ま、考えるだけ無駄だよな(笑)
俺はただ、嘘偽りなく本当のことを伝えるだけだ。
自分の気持ち、そしてさとり様の気持ちを。
俺は彼女らのすぐ側まで近づいた。
横にいた閻魔と死神は振り返り、俺を見つめる。
お燐も二人の態度の変化に気づき、此方に目を向けた。
お燐は驚いた様子だった。そんな彼女に俺は一言目の言葉をかけた。
「よっ...お燐」
これから紫さんはちょくちょく出てきます。