地霊殿の日常    作:Mt.Fuji

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今回はかなり長めです。頑張って読んでくださいw


第十六話

 

お燐side

 

 

あたいは小町の胸の中でしばらく泣いた後、ようやく覚悟を決めた。

 

 

もう地霊殿とはさよならする。

三途の川を渡って死を迎え、この人達と共に暮らすんだ。

 

 

そう心に誓って立ち上がった。

 

 

でもその時、あたいは小町が何処かを真剣な目つきで見つめていることに気づく。

 

 

彼女が見つめる先に振り返ると―――

 

 

 

「よぉ...お燐」

 

 

 

―――あの人がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

当然だが、あたいは驚いた。

 

 

まさか三月樹さんが戻ってくるとは...

さっき追い返したからもう来ないと思っていたのだが。

 

 

あたいは黙ったまま、彼を見つめる。

 

 

その目は真っ直ぐ此方に向けられていた。何しに此処へ来たのか一目瞭然だった。

 

 

彼は落ち着いた口調で話し始める。

 

 

「少しだけお燐と話がしたいんだ、いいか?」

 

 

どうやら映姫さんと小町に向けられた言葉らしかった。

小町が返事に困っていると、映姫さんが鋭い口調で言う。

 

 

「かまいませんが、私たちも同席させてもらいますよ」

 

 

三月樹さんは頷く。そして、再び此方を見た。

 

 

不覚にもあたいはその視線にドキっとしてしまった。

覚悟を決めたはずなのに、どうしてだろう。

 

 

こんなんじゃあ、別れるのが辛いだけなのに...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「元気だったか、お燐」

 

 

彼は優しい表情でそう言った。何も考えずあたいは答える。

 

 

「はい」

 

 

「...」

 

 

それっきり会話が止まった。一向に彼が話そうとしないので、あたいは首をかしげる。

 

 

彼が何か真剣に悩んでいたようだったが、とうとう口を開いた。

 

 

「何で地霊殿を出ていったんだ?」

 

 

「...何も話すことが思いつかないなら単刀直入に言ってくださいよ」

 

 

「バレたか...」

 

 

彼は苦笑いしていた。まあ、三月樹さんらしいかな...

でも、愛想笑いするのはもう終わり。あたいは気持ちを切り替える。

 

 

「地霊殿には、あたいは必要ないからです」

 

 

「どうして?」

 

 

「どうしてって...」

 

 

理由なんてたくさんあった。

あたいがいなくても困ることがないとか、逆にあたいがいたら邪魔なだけとか、一瞬で思いつくだけでも十個くらいあった。

 

 

そのことを思い出しているだけで胸がズキっとする。

 

 

なぜ自分がいらない存在だというのに、その事実に気づかなかったのか。

地霊殿の皆の優しさに甘えていた自分が腹立だしい。

 

 

自然と拳に力が入り、目頭が熱くなってくる。

あたいはなんとか冷静を装って答えた。

 

 

「さっきも言ったでしょう、地霊殿はもうあたいのいるべき場所ではないんです

だから出て行こうと思っただけです」

 

 

思い切り自分の気持ちを叫びたい衝動を何とか押さえ込み、言葉を絞りだした。

ふと横を見ると、小町が不安げな表情で此方を見つめている。あたいは彼女に軽く微笑み、再び視線を戻した。

 

 

「じゃあお燐自身は地霊殿に居たくなかったのか?」

 

 

予想していなかった質問に、声が詰まる。

 

 

「あたい自身...?」

 

 

「そうだ」

 

 

あたいは...当然地霊殿から出て行きたくなんてない。

でも...そんなのは皆の優しさに甘えているだけ。あたいはこの地霊殿には必要ない、それをわかっていながら地霊殿に居続けるなんて、ただ辛いだけだ。

 

 

「...居たいとは思ってますよ。でも、自分は地霊殿にとっていらない存在ですから...」

 

 

「そんなことはないさ。俺はお燐には居てほしいと思ってる。

それにお燐自身も地霊殿に居たいと思ってるんだろ?なら、それでいいじゃないか」

 

 

だから...それじゃあダメなんですよ...

...あたいは地霊殿にとって...いや、彼女にとっていらない存在ですから...

 

 

「お燐にとって、そこまで地霊殿に居たくない理由でもあるのか?」

 

 

もう我慢の限界だった。あたいはその理由を叫んだ。地霊殿にいる彼女に聞こえるような声で。

 

 

「さとり様に見捨てられたからですよ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あ...言ってしまった。

本当の理由だけは言いたくなかったのに。思わず叫んでしまった。

もう...いいや。口に出してしまったんだし、全て言ってしまおう。

 

 

「あたいは...さとり様に見捨てられたんですよ。

見たでしょう、あの時あたいを見ていたさとり様の冷め切った目を!

彼女は私を見捨てたんですよ!!あたいはずっとさとり様を.....信じて.....いたのに...っ!」

 

 

あたいはさとり様が絶対自分を連れ戻してくれると、そう信じていた。

本当に死ぬ気なんてなかった。

この件で今まで以上にさとり様に愛してもらいたい、地霊殿の皆に大切にしてもらいたい、ただそれだけだった。

 

 

でも...彼女はそうしなかった。あたいの命なんか、何とも思ってなかった。

 

 

「うぅっ...ひっく...」

 

 

目から涙があふれ出てくる。

見捨てられた苦しみなんて、目の前の三月樹さんになんか到底理解なんてできないだろう。あたいがどれだけ傷ついたかなんて...

 

 

「.....だから地霊殿を出て行くんです

もうさとり様に会いたくないから...」

 

 

言い切った。辛かったけど、言いたいことは全て吐き出した。

 

 

もう口惜しさはない。これであたいは迷いなく死ねる、そして小町たちと幸せに暮らすんだ...

 

 

だが、彼はあたいの言葉に納得していなかった。そして、こう言った。

 

 

「...それは検討違いだ、お燐。

お前は気づかなかったかもしれないが、あの時お前を見ていたさとり様の目には...

 

 

...涙が浮かんでいた」

 

 

 

 

「.....え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あたいは彼の一言を聞いて、固まってしまった。

 

 

さとり様が...泣いていた?どうして?

彼女はあたいを傷つけた張本人、泣く必要なんてないはず...

 

 

「さとり様はずっとお前のことを愛していたよ。今回も、お前をなんとか地霊殿に連れ戻そうと試行錯誤してた」

 

 

「嘘だ...」

 

 

「あの人は自分の気持ちを相手に伝えるのが苦手だけど、お前に自分の思いを伝えようとしてた」

 

 

「嘘だ.....」

 

 

あたいは全てを否定する。そうしなければ、今までやってきたことが全て無駄になる。取り返しのつかないことをしてしまったことになる。

 

 

でも、現実は非情だった。

 

 

「そんな彼女にお前は言ってしまったんだよ。さとり様なんて家族じゃないと...

もう分かっただろ?

 

 

お前が傷ついたんじゃない、お前がさとり様を傷つけたんだよ」

 

 

「...っ!」

 

 

 

 

分かっていた。

さとり様がずっとあたいのことを愛していたことぐらい。

 

 

あの時、さとり様はあたいに自分の気持ちを話そうとしていた。あたいを愛していると、だから地霊殿に帰ってきてと。

あたいの求めた答えがそこにあったのだ。

 

 

でも...あたいは言ってしまった。あなたなんか、家族ではないと。

 

 

それを言われたさとり様はどれだけ傷ついたことか。母親が自分の娘に大嫌いと言われたようなものだ。泣かずにはいられなかっただろう。

 

 

あたいの一言が、さとり様の愛を全て否定してしまったのだ。

 

 

「.....」

 

 

あたいは力なく膝をついた。

もう涙が止まらない。あんなことを言ってしまった自分が、悔やんでも悔やんでも悔やみきれない。

 

 

「最後の質問だ、お燐...」

 

 

目線を上げると、三月樹さんはあたいを見下ろしていた。

 

 

涙のせいでうまく声を出すことができなかったあたいは、頷くことしかできなかった。

 

 

「ここに残るか、それとも地霊殿に帰りたいか、どっちだ?」

 

 

そんなの、答えは一つだった。

 

 

「迷惑をかけて本当にごめんなさい、こんなあたいのわがままをどうか許してください...」

 

 

誰にも聞こえないような小さな声で謝罪の言葉を述べる。そして、あたいはなんとか声を出して言った。

 

 

「地霊殿に...帰りたいです...」

 

 

それを聞いた彼は、少し微笑んだ。

 

 




お燐ちょっと泣きすぎな気が...w
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