紅魔館は俺が想像している以上の広さだった。俺たちはエントランスホールに入っただけで、その大きさに圧倒されていた。
「広いわね.....」
「はい.....」
それにしても広い。きっと地霊殿よりも大きいだろう。.....困ったな。これじゃあレミリアがどこにいるか分からないじゃないか。
吸血鬼の居場所が分からなくて途方に暮れようとしていたその時、突如俺達の前に一人のメイドが現れた。
「ようこそ地霊殿の皆さん。私はこの紅魔館のメイド長、十六夜咲夜と申します」
そう言って彼女は此方にお辞儀をしてみせる。でも、俺はそれに対して何も反応することができなかった。なぜなら、いきなり現れた彼女に見蕩れてしまっていたからである。
美しい美貌に加え、まったく隙が無い動き。彼女は、この紅魔館の雰囲気にはあまりにも程遠い存在だった。
「出迎えてくれて嬉しいわ。私は地霊殿の主、古明地さとりよ。
こう出迎えてくれたということは、私達を吸血鬼の所へ案内してくれるのでしょうねえ?」
「あら、心を読める貴女に答える必要あるのかしら?」
.....なんだろう。ただ話しているだけなのに、彼女らから凄いプレッシャーを感じる。
彼女らの間では一体どんなやり取りが行われているんだろうか.....
「まあ、私が言いたいことは一つ。ここを通していいのは二人までとお嬢様からご命令を預かっています。ですから、一人はここに残って私の相手をしていただきたいのですが?」
「ってことみたいよ、三月樹」
「え? もしかして俺が残るんですか!?」
なんで俺が残らなきゃいけないのぉ。全然勝てる気しないし.....何か彼女もやる気満々だし。
すでにあのメイドは両手に物騒なナイフを此方に向けて構えていた。もう腹を括るしかない。
「はあー。分かりましたよ。俺が残ります」
これを聞いて、さとり様は笑顔で喜んでくれた。まあ、さとり様の笑っている顔が見れたのならよかったかな。
メイドからレミリアの居場所を教えてもらい、さとり様とすみれは俺を残して先に進んでいった。
「お兄ちゃん!.....この闘いが終わったら、結婚しよう」
「ふざけてないで早く行くわよ」
「ちょ、お姉ちゃん。首根っこ掴んだまま引きずらないでくださいいいぃ」
あの野郎死亡フラグ立てていきやがった。悪ふざけが過ぎるぞ、すみれぇ.....
「一戦交える前に少しいいかしら」
死亡フラグを建てられ、テンションが下がっている俺に向かって彼女が声を掛けてきた。
「なーにー?」
「貴方、名前は何と言うの?それぐらいは知っておきたいわ」
「春夏秋冬三月樹ー」
テンションが低いせいか、俺の返答はかなり雑である。
「そう。さっきも言ったけど、私の名は十六夜咲夜よ。これから私を呼ぶときは咲夜でかまわないから。でもその代わり、私も貴方のことは三月樹と呼ばせてもらうわ」
俺にとって、今言った彼女の言葉は予想外だった。お嬢様に絶対服従で頭が固いイメージがあったのだが、意外にそうでもないらしい。
「貴方の実力、楽しみだわ」
そう言って彼女はニヤりと笑う。どうして、そんなに楽しそうなんだか.....
「いくわよ、三月樹!」
もうぐちぐち言ってても仕方ない。俺は魔力を周囲に放出し戦闘体勢に移行した。
開始早々、咲夜は此方に向かって真っ直ぐ突っ込んでくる。俺はそんな彼女に向かって弾幕を叩き込む。しかし彼女の姿は一瞬で消え、弾幕が当たることはなかった。
「後ろよ.....三月樹」
さっきまで俺の前にいた咲夜にいきなり耳元で囁かれ、俺は思わず彼女との距離をとった。
「うわ、びっくりした.....」
「ふふっ」
まったく勝てる気がしない......なぜだろうか。
さとりside
あのメイドの言われた通りに進むと、何やら重々しい雰囲気を放つ扉を見つけた。おそらくここがレミリアの部屋だろう。
こいしは本当に無事なんだろうか。入った瞬間攻撃などされたりしないだろうか。さまざまな不安が頭を過ぎる。意を決して、私は扉を開けた。
「うわあ、この羽おもしろーい!しかもプニプニしてる!」
「いい加減やめなさいこら!羽は敏感だから触るのっ.....くぅ.....」
部屋に入った途端、こいしが誰かさんの羽を弄って遊んでいる光景が目に入った。おそらくその相手は例の吸血鬼だろう。
「はあ.....」
思わずため息をついてしまった。これじゃあ、さっきまで緊張してた私がバカみたいね.....
とりあえず、可哀想だから止めさせましょうか。
「こいしー。相手が嫌がってるでしょー。そろそろ止めてあげなさい」
「あ、お姉ちゃんだ!」
私を見つけると、こいしは此方に向かって走ってきた。そして私の胸に飛び込んでくる。
「遅いよう.....お姉ちゃん」
そう言って、こいしは頬を膨らませながら私を睨む。
まったくこの子ってば.....本当に可愛いのだから。これでようやく一安心できる。無事でよかったわ、こいし。
「.....なんで泣いてるの?お姉ちゃん」
「えっ!」
どうやら感極まりすぎて私は泣いていたみたいだった。素早く涙はふき取ったが、かなり恥ずかしい。
本当、三月樹がこの場に居なくてよかった。あの人に泣いている姿なんて見られたら、もう恥ずかしいどころの騒ぎじゃない。
「姉妹の再会は済んだかしら?」
その声でようやく私はあの吸血鬼に目を向けた。こいしとの再会が嬉しすぎて、ジト目で此方を見つめる彼女の存在をすっかり忘れていたようである。
水色の混じった青髪に真紅の瞳。私よりも少し低い身長に、吸血鬼を象徴する背中の翼。そしてなにより、彼女から放たれる圧倒的なカリスマ。
彼女は紅魔館の主、レミリアスカーレットに間違いなかった。
「妹を誘拐するなんて、なんのつもり?」
私は彼女を睨みながらそう言った。妹を誘拐した犯人に優しく声をかける必要はないだろう。
「まあまあ落ち着きなさいな。貴方は心を読めるんでしょ? 話すのは面倒くさいから読み取ってもらえるかしら」
どうやらこの吸血鬼、妹を誘拐したことをまるで反省していないようね.....まあいいわ。その言い訳とやら、存分に読み取らせてもらおうかしら。
えーとなになに.....
まずこいしを誘拐した理由は.....暇つぶし!? ふざけないでよ! あなたどれだけ私たちがこいしのこと心配したか分かってる!?
しかも食べ物で釣ったらホイホイついて来たとか、こいしがそんな程度で勝手についていくわけ.....それはありえるわね。まったく.....知らない人には勝手について行くなと何度言ったか分かるのかしらあの子は.....
で、その後はこいしが紅魔館の食料を全部平らげたあげく、自分の妹と弾幕ごっこをして地下室を半壊させ、自分の羽で散々遊ばれていたと。だからこいしを誘拐したことを少し後悔している.....と。
「.....どうやら妹が散々迷惑をかけたみたいね。謝るわ」
さすがにレミリアに頭を下げないわけにはいかなかった。ちょっとあの子迷惑かけすぎ。これは帰ったらたっぷりお仕置きしなくちゃいけないわね。
レミリアは少し苦笑いしながら、頭を上げるよう私に言った。
「いいのよ、もう過ぎたことだし。でもそのかわり、私の頼みを一つ聞いてもらえないかしら?」
それがなにか。私にはもうすでに分かっていた。
「弾幕ごっこ.....?」
「そう、貴女と一度弾幕ごっこがしてみたいわ。さとり妖怪」
一言いうと.....お嬢様まじカリスマ。