さとりside
まだまだ冬が終わらないこの旧地獄。昼間だろうが床暖房は欠かせない、そんないつもの地霊殿です。特に何もなく、平和な地霊殿。三月樹がここに来てからは、なんか少し事件が増えた気がするけれど。
そんなことを言ってる私も、いつものように読書に耽っていた。
なぜ私が毎日読書をしているか.....それは私にとってエキサイティングな行為だからである!
いつも心を読んでコミュニケーションを取っている私からすれば、言葉からしか理解できない読書はとても刺激的なのだ。だから、私が心理描写が豊富な物語をいつも好んで読んでいる。
.....けれど、最近の好みは推理小説では無くなりつつあった。
「恋、かぁ.....」
最近はまってしまった恋愛小説。止めようとは思っているのだけど、どうしても読んでしまうのよね。
今まで興味すらなかったはずなのに、なぜはまってしまったのか.....
.....いや、違うわね。恋愛小説にはまっているわけじゃない。
やっぱり私は.....恋を.....
「お姉ちゃん。入っていい?」
「ふあっ!?」
いきなり扉の向こうから声が聞こえたので驚いてしまった。
なんだ、ただこいしが来ただけじゃない.....私は心を落ち着かせ、こいしに入るよう言った。
「.....」
無言のままこいしは扉を開け、ゆっくりとした動きで私の部屋に入ってくる。そんな彼女の表情は、いつになく真剣だった。
いつもと違う彼女を見て、私は何かあったのではないかと不安になる。
「どうしたの? 何かあった?」
そう聞くとこいしは少し涙を浮かべながら、私に言った。
「私.....病気になっちゃったかもしれない」
「病気!?」
思わず、私は声を荒げてしまう。自分の愛する妹が病気にかかっている。そんなこと、私が見過ごせるわけがない。
「容態は!? 今は大丈夫!?」
「うん.....大丈夫だよ、だから落ち着いて。お姉ちゃん」
「落ち着くなんて無理よ! 貴方は大切な妹なんだから。私、不安で堪らないわ.....」
こいしの言うことはもっともだけど、落ち着くなんてできない。幻想郷には優秀な医者がいるらしいし、最悪そこに診てもらいに行けば良いのだけど.....。でも、今私にできることが何もないわけじゃない。何かこいしにしてあげることぐらいあるはず.....!
「病気だと分かった原因は?」
「.....最近ね、お兄ちゃんと会うと心臓がドキドキするの。それにね、お兄ちゃんと目を合わせるだけでなんか体がカアッと熱くなったりするし.....。やっぱりこれって、普通じゃないよね?」
え? それって.....
私は一安心したような、少し悲しいような、そんな複雑な気持ちになっていた。彼女の言葉は、私の心に何かモヤモヤしたものを作り出した気がした。
どうしても素直に喜べない自分がいる。こいしが無事だと分かった、それは私にとって幸せなことなはず。なのに、何かが邪魔をしていた。
「こいし.....確かにそれは病気よ」
そう私が言うと、やっぱりそうなんだと呟きながらこいしは俯いてしまう。
私はこいしの顎を手で優しく触れてこっちに向かせると、安心させるように笑みを浮かべてこう言った。
「それはね.....恋っていう病気なのよ」
昼食を挟み、もうすぐおやつの時間といったところ。私はその時間にこいしを呼び出していた。
もちろん理由は、彼女の恋についてである。
「はあ.....」
それにしても、私は朝からずっとこんな調子だ。何か気分が晴れない。それに心には何かモヤモヤしたものが住み着いている気がする。
一体どうしたのかしら.....私。
.....まあ、とりあえずその話は置いておこう。それよりも、今はこいしの恋についての方が大事だ。
――――心を閉ざしたときから、彼女には感情と呼ばれるものが存在していなかった。いつも何も考えておらず、ただ自分の無意識に任せて行動していた。
だが、そんな彼女にようやく一つの感情が生まれたのだ。それこそまさに.....恋心だった。
人を好きになるという行為は、無意識ではできないこと。彼女は今になって、ようやく昔のような感情を取り戻そうとしている。
彼女の恋を発展させることができれば、昔のように心を開き、閉じた第三の眼も開くはずだ。
こいしのために.....この恋を成就させないと!
「来たよー、お姉ちゃんー」
丁度いいタイミングでこいしが来たようだ。私は扉を開け、彼女を中に入れた。
「で、お姉ちゃん。話って何?」
「決まっているでしょう.....貴方の恋についてよ」
「ああぁ.....やっぱりそうなんだ」
こいしは嬉しいような照れくさいような、そんな複雑な表情をしていた。
やっぱり恋をしたおかげかしら? 少しずつ感情を取り戻しつつあるみたい。こんなこいしの表情、今まで見たことがなかったもの。
「貴方には、もう一歩踏み出してもらうわ」
「どういうこと?」
「つまり.....三月樹に告白するってこと」
今度は頬を少し赤く染めるこいし。恋とか告白とか、意外にも意味分かってる.....ふふっ。
まったく、恋って凄いわね。
「まあ、いきなりそう言われてもできないと思うわ」
「その通りだよ.....」
「だから、ある一つの作戦を実行してもらうわ」
彼女の恋を応援するため、そして彼女に感情を取り戻してもらうため、私が編み出した大作戦。
その名も.....
「名付けて、さとりの告白プロジェクト!」
と、いうわけで来ました。さとりの告白プロジェクト、第一弾です。今回行われるの場所は、地霊殿の廊下。そこをお空が歩いています。
さて、まずはこいしのお手並み拝見としましょうか。
「そこにいるお空に告白してみてちょうだい」
「いいの? そんなことしてお空に悪くない?」
「いいのいいの、どうせお空だし」
これじゃあ余りにもお空が可哀想だって? それは心外ね。私にとってはこれも立派な愛情よ? 飴と鞭、というやつかしらね。まあどっちかと言えば、これは飴に分類されるけど。
「じゃあ.....行ってくるよ、お姉ちゃん」
そう言って、こいしはお空に向かってゆっくりと歩いていった。
そういえば、こいしはいつも私に絡んでばかりだからお空と二人きりなのは見たことないわ。
一体どうやって話しかけるのか、楽しみね。
私は少しうきうきしながら、影から彼女たちを見守っていた。
「や、やっほー。うにゅほー......」
こいしは辛うじて聞こえるぐらいの小さな声で、そう言った。
緊張しすぎでしょあの子.....それにうにゅほって.....。普段からお空って呼んでいるのだから、わざわざ呼び方を返る必要はなかったと思う。
「.....」
なるほど。確かに今のこいしは不自然だったわ、それは分かる。
でも、まさか妹の頑張りを全スルーするとはね。お空、これは私への宣戦布告ということでいいかしら。
「あ、さとり様。一体どうしたんです、そんな怖い顔をし....」
お空はそれ以上何も言わなかった。ま、腹に一発かましてやったのだから仕方ないでしょうね。
私はずるずるとお空を自分の部屋まで連れていってベッドに放り込み(後で説教するため)、再びこいしの所に戻ってきた。
「ごめんなさい.....少し緊張しちゃった」
「まったく、もう少しリラックスしなさい。まあでも、いきなり告白しろと言われてもやっぱり無理な話よね.....」
私だって、告白とか恥ずかしくてできないだろうし。とりあえず告白の練習は置いといて、別の練習をしましょうか。
「じゃあ告白の練習は後にして、告白の成功率を上げる特訓をしましょう」
「告白の成功率って?」
「つまりね.....片思いじゃなくて、両思いにしちゃうってこと」
私が身につけた男を誘惑するテクニック。(まあ、本で知っただけだけど)これを使って、こいしには三月樹を存分に誘惑してもらいましょうか。
なぜだかは知らないが、私の気合は十分だった。
今回、三月樹は仕事を放棄してしまいました。主人公なのにこれでいいのだろうか.....