さとりの告白プロジェクト、二日目です。今回こいしには、男をメロメロにしてしまう誘惑の仕方を覚えてもらいましょう。
「こいし、好きな男性がいるときに女性がする動作って何か分かる?」
「んー、抱きつく?」
「それは露骨すぎるでしょ.....髪をかきあげるのよ」
女性は自分が好きな男性がいるとき、髪をかきあげる動作をすることがある。当然それには意味があって、その動作によってその男性を自分に注目させたり、自分の髪の匂いをその男性に匂がせるなどがある。
つまり、いかにこの髪をかきあげる動作を相手に魅力的にみせるか、自分の髪から良い香りがするかによって、その相手を誘惑できるかどうかが変わってくるということだ。
「髪をかきあげるって、こんな感じ?」
そう言って、こいしは両手で前髪を持ち上げた。彼女の髪に隠れていたおでこが存分に曝け出される。
でも、それではただのオールバックにしただけよこいし。まあでも凄く可愛いけどね、そのおでこ。
「そうじゃなくて、こうよ」
私は髪を耳の後ろに隠すようにかきあげてみせた。当然だがいつも髪に隠れている耳がひょこっと外に出てしまう。ちょっと恥ずかしい。
「難しいよー」
私の手本を見ても、こいしは髪をむしゃくしゃと動かしているだけだった。やっぱりこいしには難しいかしら?
「ほら、私がしてあげるから。少しおとなしくなさい」
私はこいしをその場にしゃがませると、自分と同じように彼女の髪をかきあげた。緑色の美しい髪がファサっと揺れる。あれほど自分でくしゃくしゃにしてたにも関わらずこいしの髪はとても綺麗で、感触はしっとりしててとても気持ちいい。
「どう? 私の髪」
「とっても綺麗だわ。きっちり手入れしてるのね、偉いわ」
「えへへー」
それにしても、この子の髪綺麗ね.....もしかしたら私の髪よりか綺麗かも。なんか腹立つし、少しぐらい引っこ抜いてやろうかしら。
ばれないようにこいしの髪を一本つまんだときだった。さっきからとてもいい香りがしていることに気付く。
さっきから触っていたせいだろうか、周囲にこいしの髪の匂いが充満しているみたいだった。
「.....」
ふと、私はさっきまで髪を触っていた自分の手の匂いを嗅いでみた。
想像以上に甘い香りが広がった。まるでお菓子の国にいるような、そんな香り。狂いそうなぐらいの甘い匂いに、私は少し酔ってしまっていた。
――――だめよ.....私、しっかり自我を持たなきゃ.....
ふらふらしながらも、私は自分自身に言い聞かせる。だが、自分の体はもう言うことを聞かなかった。
とうとう我慢できなくなって、私は自分の顔をこいしの頭に密着させてしまった。
彼女の髪から直接広がる、甘すぎる香り。この香りに、私は完全に虜になってしまう。
「いい匂いだわぁ.....」
「ちょ、お姉ちゃん。鼻息が荒くてくすぐったいからやめっ.....」
こいしは私から逃げ出そうとしたが、私は彼女の体をがっちり抱きしめて離れない。
「いいじゃない。姉妹のスキンシップよ、スキンシップ.....」
「やめてえ.....」
「.....はっ!」
ここでようやく私は我に返る。見れば、荒い呼吸をしながら力が抜けたように倒れているこいしがいた。
完全に手遅れだった。
「大丈夫こいし!? どうやら酔っ払っていたみたいなの。私、貴方に勝手に変なこととかしてない!?」
「大丈夫だよ、ちょっと一線の越えたスキンシップって感じだから.....」
い、一線を越えたスキンシップ!? それダメなやつじゃない! 私ってばこいしにどんな恐ろしいことを.....
「ごめんなさいこいし、なんて謝罪をすればいいか.....」
「謝罪なら.....いいよ」
そう言って、こいしはゆっくりと立ち上がる。下を向いているせいか、その彼女の表情は分からなかった。私は直感で危険を悟った。
「お姉ちゃんだけなんてずるいし、お互い様だよね?」
いつのまにか呼吸を整えていたこいしは、いきなり私を押し倒した。そのまま両手を押さえつけられて、たちまち身動きが取れなくなってしまう。
やばい.....こいしのこれはやばいわ!!
「お願いだから、お願いだからそれだけは勘弁して.....」
「ふふっ.....いや」
不気味に笑ったこいしを見て、私は思わず身震いした。
今から私がされること、それはペロペ.....もといくすぐり地獄と呼べることだろう。この前それをされたときは三十分間は笑い続けるはめになり、その後しばらくは笑えなくなってしまったほどだ。
私にとってこれは、軽いトラウマとなっていた。
「ぐっ、離してぇ.....」
「涙目になりながら言うなんて。もしや、今から何されるのか分かってるのかなあ? お姉ちゃん」
この子.....どSだわっ.....!
さすが私の妹とか褒めたいけど、今はそんな場合じゃない! 今までにないくらいの大ピンチなの!
誰でもいいから、お願いだから私を助けてっ!!
「さとり様ー。欲しいって言ってた外の世界の小説、買って来ましたよー」
不意のその声に空気が止まったような気がした。私がゆっくりと視線を上げると、呆然と此方を見つめる三月樹の姿があった。
確かに助けてと私は言った。けれど、三月樹からすればこいしが私の馬乗りになっているこの光景は、どう考えても私が大ピンチな状況には見えないわけで。
「の、ノックをし忘れて本当にごめんなさい! 他意はありませんからっ!」
と言って、慌てて扉を閉めて出て行ってしまった。
「待って、違うのよ三月樹! これは貴方が想像しているようなことなんかじゃ.....」
もうすでに走って行ってしまったらしく、私の声が三月樹に届くことは無かった。
その後、三月樹が気を利かせてくれたのか、しばらくは私の部屋に近づかないよう皆に伝えてくれたらしい。おかげで誰も助けに来ることはなく、私の部屋からはひたすら笑い声だけが響いていた。
「.....昨日の話の続きをするわよ」
私はかなりやつれた声で言った。
「どうしてそんなにテンション低いの?」
「そりゃあ、貴方のせいに決まっているでしょう.....」
笑いすぎたせいなのか、全身が筋肉痛だ。もう、体のそこらじゅうが痛い。しかもそのせいか、おかげで昨日という一日が完全にトラウマになってしまっている。
「あ、そういえばね。私、あの後すみれちゃんに身に着けたテクニックを見せてあげたんだよ!」
あ、そうとしか私は言えなかった。昨日のことはもう思い出したくない。
「んでその時ね、男の堕とすにはやっぱり料理が一番ってすみれちゃん言ってたよ?」
しばらくはぼーっとこいしの話を聞いていた私だが、料理という言葉を聞いてピンときた。
料理.....そう料理よ! 料理を作れるかどうかは女にとってはとても重要なこと。私ともあろうものがそれを失念していたなんて.....これはもうやるしかないわ!
「分かった。料理を作るわよこいし!」
「いきなり元気になったね」
「ええ。もたもたしてる暇なんてないのよ!」
「じゃあとりあえずすみれちゃんが食べたいって言ってた料理があるから、それを作ったらいい?」
「よし、それでいこう!」
無駄にハイテンションになってしまったが、これぐらいでいかないと昨日のことをまた思い出しそうなので仕方無い。
私はダッシュでキッチンに向かっていった。
「いたたたた.....」
やっぱり走ったら足が痛いので、歩いていくことにした。
さあ次はすみれちゃんの出番だ! 頑張ろう!