地霊殿の日常    作:Mt.Fuji

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かなり暑くなってきましたねえ.....


第二十三話

 

 

三月樹side

 

なんだか知らないが、ここ最近俺の周りがかなり騒がしい気がする。

特に一番騒がしいのはこいしだ。

 

俺の前でやたら髪をかきあげたり、何かいきなり魚料理を作ってきて俺にそれの感想を求めてきたり.....最近のこいしは、何か少しおかしい。

そう疑問に思った俺は、さとり様に相談してみたのだが.....

 

「あら? それはどうしてでしょうねえ?」

 

とにやにやしながら誤魔化される始末。これは、どうやらさとり様も関係しているとみて間違いないだろう。

.....彼女らは一体何を企んでいるのだろうか。皆目見当もつかないから、ちょっと不安だな。

 

 

「三月樹さん、入っていいですか?」

 

古明地姉妹に不安を抱くなか、扉の向こうからお燐の声が聞こえた。俺は考えるのを止め、彼女に返答する。

 

「いいよ」

 

「失礼します」

 

礼儀正しくそう言いながら、お燐は俺の部屋に入ってきた。

 

「おお.....珍しいですね。三月樹さんが本を読んでいないなんて。今まで何してたんですか?」

 

「ちょっと考えごとだ」

 

ふーんと言いながら、疑り深い目で此方を見つめるお燐。嘘は言ってないんだが.....

 

「.....ま、二週間に一回くらいは出さないといけないですよね。大丈夫です。このことは誰にも」

 

「考えごとだっつってんだろ」

 

しかも出すときにも本がいるから.....って、何を言ってるんだ俺は。

俺は一つ咳払いをして、話を変える。

 

「で、何しにきたんだ。お燐」

 

「あー.....今日も、可愛がってもらおうと思いまして」

 

そう言うと、お燐は人間から猫の姿へと変わった。猫になったお燐は、ジャンプして俺の膝の上に飛び乗ってくる。

 

「お前って.....ほんと、これ好きだよなあ」

 

「にゃーん♪」

 

どうもお燐は猫モードのときに、俺に頭を撫でられるのがとても好きなようだ。だから、たびたび俺の部屋に来てはこうやって甘えてくる。

まあ、たまにならそれも良いのだが.....ここ最近は、毎日のようにお燐は俺の部屋にやってきている。

確かにお燐は中身は猫ではあるが、人間の姿にもなれるし、しっかりと感情を持っているわけで.....毎回こんなことをしてて良いのか、少し複雑だ。

 

「にゃーん?」

 

俺の手が止まっていることに気付いたのか、お燐は此方に目を向ける。曇り一つない瞳とこの愛らしい顔を見ると、考えていることが全て吹っ飛ぶから不思議だ。

 

「.....反則だよ。お前の可愛さは」

 

「にゃーん♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お燐を十二分に可愛がり、彼女が満足して部屋から帰ったときだった。

 

俺の隣の空間が突然ぐにゃりと歪む。そこから見える大量の目玉は、何度見ても慣れないし少し怖い。そのスキマから一人の女性が現れ、俺の部屋に降り立った。

 

「ごきげんよう。三月樹」

 

大物オーラ全開の彼女は、スキマ妖怪の八雲紫だった。

 

「あんたに名前言ったっけ?」

 

「私が知らないことなんて存在しないわ」

 

嘘くせえ.....。でも、かなりの知識があるのは間違いないだろう。なんせ、この幻想郷を作った人らしいし。

 

すごくめんどうではあるが、何か彼女も用があるみたいなので尋ねてみた。

 

「で、お前もまた何のようだ?」

 

「私もお燐と同じように可愛がってもらおうと思って」

 

「断る」

 

即答は少し酷いじゃない、と彼女は少し落ち込んでしまった。でも仕方ないだろう。俺に可愛がられる紫とか、正直あまり想像したくはな..... 

 

「ごふっ!」

 

思い切り顔面パンチをもらった。

 

「今、とても失礼なことを考えていたでしょう?」

 

くそ.....さとり様でも俺の心は読めないのに、何でお前は読めるんだよ。それに加え、彼女の細い腕からは想像もつかないこの怪力。

やはり、見た目は美しい女性の姿をしていても、中身は化け物.....

 

「げふっ!」

 

今度はみぞおちに蹴りを入れられた。

 

 

 

 

「話がずれたわね。私が来たのは、貴方に少し考えて欲しいことがあるからなの」

 

「考えて.....欲しいこと?」

 

俺はみぞおちを手で押さえながら答える。ちなみに、とても痛い。

 

「ずばり聞いちゃっていい?」

 

俺の顔に近づき、いつになく真剣な表情で尋ねてくる紫。俺の顔付きも、真剣なものへと変わる。

 

「なんだよ.....」

 

「.....貴方は、地霊殿の中で誰が一番好きなの?」

 

「ぶっ!」

 

予想だにしなかった質問に、俺は思わず噴出してしまう。

 

「教えてよ、三月樹」

 

そう言って、間髪いれずに紫は俺に詰め寄ってくる。

いくら妖怪とは言え、見た目は美しい女性である紫に近づかれると、男からすれば色っぽさを感じないわけはない。このままではいろいろとヤバイので、とりあえず俺は待てと声をかける。

 

「待ってくれ! 俺はまだ誰が一番好きだとか考えたことはあまり無いんだ! だから少し考えさせてくれ!」

 

俺が必死に言うと、紫はようやく俺に詰め寄るのを止めてくれた。

 

「.....なら、少し待つわ。早く考えて」

 

なんでそんなに急かすんだよと思いながら、俺は紫に言われたことを考えてみた。

 

地霊殿の中で誰か好きか? お空か、お燐か、こいしか、すみれか.....それともさとり様? 地霊殿の人たちとは皆家族として接しているから、誰が一番好きかなんて考えたこと.....いや、あるな。家族というもの以上に、俺には好意を抱いている人が一人いる。

 

でも.....そのたった一人の人物だけに好意を抱いているとは、断言できない。

最近は地霊殿の全員に会いたいと思うようになっているし、向こうも家族としてではない好意を俺に向けているような気もする。こいしやお燐などの最近の言動がいい例だ。

 

つまり.....この地霊殿で一番好きなのは誰かという質問に、俺は答えを出すことはできない。

 

「.....分からない」

 

正直に、そう言った。

 

「誰か一人、決めなきゃだめよ」

 

きっぱりと、紫はそう言う。

 

「さっき詰め寄ったのも、そのため。貴方には、この答えを早急に出してもらう必要があるの」

 

「なんで.....?」

 

「貴方のその迷いが、いずれ地霊殿の人たちを傷付けることになる」

 

まるで未来が見えているのかのように、彼女は言った。その一言は俺にとって、衝撃だった。

 

「.....ま、私には関係ないことだけどね~」

 

突如、彼女の表情から真剣さが消える。それを見て、俺の緊張の糸も切れた。

いきなり物騒なこと言いやがって.....ほんと、こいつはいつも何企んでいやがる。

 

「地霊殿にいる全員が好きっていう選択肢もあるけど、それはどうかと思うわ。だから、早めに好きな人を一人決めること。分かった?」

 

「あ、ああ.....」

 

別に紫に従う必要はないのだが、一応返事はしておいた。

 

「ん、それじゃ」

 

やることはやった、みたいな顔で紫はスキマの中に消えていく。それを見て、俺は思わずため息をついた。

 

「なんなんだよ、いきなり.....」

 

突然やってきて、言いたいことをいって帰ってしまったあのスキマ妖怪。あいつは、一体何を知っているのだろうか。

そして、彼女が聞いてきた質問の意味。

 

『.....貴方は、地霊殿の中で誰が一番好きなの?』

 

地霊殿で、俺が一番好きな人.....ねぇ。お空か、お燐か、こいしか、すみれか、さとり様か。

もし、この五人の中で好きな人を一人選べと言われたら、俺は――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さとりside

 

 

「はあー」

 

私と一緒に歩きながら、その隣でため息をつくこいし。まあ、仕方ないことか。

 

今まで私がこいしに教えた男を堕とすテクニック、それが三月樹に全く通じていないのだ。一応、こいしなりに頑張っているとは思うのだけど.....何がいけないのかしら?

 

「.....ねえ、お姉ちゃん」

 

「なに? こいし」

 

こいしは私のほうに振り向くと、真剣な顔つきでこう言った。

 

「お姉ちゃんが私に協力してくれたこと、とても感謝してる。でも、やっぱり三月樹には直接伝えるべきだと思うの」

 

その言葉に、迷いはないように思えた。

 

(.....ま、結果オーライってことかしら。確かに三月樹がこいしに堕ちなかったのは残念だけど、こいしが告白の決意をすることができたのなら、それだけで私のやってきたことには十分意味があったしね。)

 

「そう.....もう私のすることはないわ。だから、思い切って三月樹に自分の思いを伝えてきなさい」

 

こいしは私の言葉を聞き、明るい表情に変わる。

 

「うん.....分かった!」

 

そう言うと、こいしは三月樹の部屋に向かって走っていく。私はそんな彼女を、笑顔で見送った。

 

.....まあ、もうすでに三月樹の部屋を通り過ぎているのだけど。

 

「はあ.....まったくあの子は」

 

いい加減部屋の場所ぐらい覚えなさいよ、とそう思った。

 

私は苦笑いしながら、後ろに向きを変える。もう私の役割は終わりだ。あることといったら、今後三月樹とこいしの恋を見守っていくことぐらい。あ、でも三月樹がこいしの告白を受け入れる保証は無いのか。

.....まあ、受け入れるでしょ三月樹なら。それに、あんな可愛い子と付き合えるのだから、断る必要はないだろうしね。

 

自分の妹思いさに少し飽きれながら、私は三月樹の部屋から遠ざかるように歩いていく。

お幸せにね.....と心の中で呟いた、そのときだった。

 

――――ズキッ。

 

「っ!!」

 

胸に突き刺さるような激痛が走った。今まで感じたことのないくらい、強烈な痛み。あまりの激痛に、私は思わずその場に跪いてしまう。

 

「なに.....これ?」

 

まさか.....何か発作でも起こった? でも、今までこんな激痛が突然走ったことは無いし.....この痛みは一体.....?

 

『嫉妬に決まっているじゃない、こんなの』 

 

「っ!?」

 

咄嗟に、私は顔を上げた。目の前に立っていたのは、紛れも無く私だった。髪の色や、着ている服まで、何一つ私と変わらない。違いと言えば、彼女からは黒いオーラのようなものが溢れていることだった。

 

「あなた.....誰?」

 

『私は、本当の私よ』

 

本当の私.....? 言っている意味が分からないわ。そもそも、本当の私ってどういうこと?

 

『まあ分かりやすく言うと、古明地さとりの心かしらね』

 

「心.....だって?」

 

『そう。心の奥深くに閉じ込められていた貴方の感情が作り出したのが、この私よ』

 

目の前のいる彼女はそう言っているが、そんなことが信じられるわけがない。 

そもそも、私に奥深くに閉じ込めていた感情なんてものはないわ。何を言っているのこいつは.....

 

『嘘をついたって無駄よ。それとも、わざわざ言葉にしてほしいのかしら?』

 

全てを知っているかのように、彼女の第三の眼が此方を見つめていた。ようやく痛みが少しひいてきた私は、その眼を睨みながらゆっくりと立ち上がる。

 

「.....ないわよ、私に隠している感情なんて。そんなつまらないことを言うぐらいなら、さっさと消え失せて欲しいのだけど?」

 

好き勝手に言うもう一人の私に腹が立ち、少し強めにそう言った。

 

『ふふふ、貴方も強がりねぇ.....。なら、お望み通り言葉にしてあげるわ』

 

彼女はぐっと私に顔を近づけると、手を私の顎に触れながらこう言った。

 

 

 

『貴方、春夏秋冬三月樹のことが大好きなんでしょう?』

 

 

 




そろそろほのぼのパートは終わります。
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