地霊殿の日常    作:Mt.Fuji

33 / 35
そろそろまたテストが.....


第二十四話

 

さとりside

 

 

三月樹のことが好き。

 

これは、私が認めなかった感情だった。いや、正しくは認められなかった、なのかもしれない。

こいしが三月樹に恋していると分かったとき、正直、私は嬉しいとは思わなかった。恋敵できてしまった、としか考えられなかった。

 

しかし、その恋はこいしにとって、心を開く絶好の機会でもあった。恋をしているおかげで、彼女の感情は、取り戻されつつあったのは確かだった。

 

だから.....私は自分の気持ちに嘘をついた。むしろ妹の恋を応援する立場となり、彼女のために尽くした。

自分の妹の幸せは、私の幸せだと信じて.....

 

『それは違う、そうでしょ?』

 

そう言って、目の前に立っている私と瓜二つな彼女。彼女はやはり、私の隠していた感情から生み出されたものなのだろうか。

 

「.....いや、正しいわ」

 

だが、たとえ彼女が何と言おうと、私が恋していることを認めるわけにはいかない。全ては、愛する妹のため.....

 

「こいしの幸せは、私の幸せ。そこには私情なんて、必要無いのよ」

 

もう一人の私に、はっきりとそう言った。

 

『.....本当にそうかしら?』

 

ちょっと小悪魔っぽい表情で言ってくる、もう一人の私。こんなの言うのは自虐みたいで少し嫌だけど、かなりイラっとくるわね。

 

「何がいいたいの?」

 

私の口調はかなり冷たいものだったが、それをものともせず彼女は答える。

 

『じゃあ、さっきの胸を突き刺すような痛み、どう言い訳するの?』

 

「それは.....」

 

.....というか、あの痛みの正体って何よ? 私が知りたいわ。こいしの幸せが私の幸せで、そこに私情がいらないのなら、あんな痛みが体に走る理由なんてないはずなのに.....

 

『そこまでいってまだ分からない? あの痛みは、貴方のある感情のせいなのよ』

 

「だから、私にはそんな感情.....」

 

『始めに言ったでしょう。その感情は嫉妬よ』

 

彼女は私の目を真っ直ぐ見つめ、こう言い放った。

 

『もう貴方は、自分の感情を隠しきれていないのよ。彼のことを思う気持ちが強すぎて、貴方の本能が彼を求めている』

 

やはり、目の前にいる彼女は私の感情の全てを知っていた。私がどれだけ彼のことが好きなのかも、自分の気持ちをどれだけ抑え付けてきたのかも。.....でも。

 

「.....例えそうだったとしても、私はその本能を抑制できるわ。それが妹の幸せに繋がるなら、絶対にね。

こいしは今から三月樹のところへ行き、彼に告白して、二人は付き合う。それを私は邪魔しないし、応援して―――」

 

―――ズキッ

 

「っ.....!」

 

再び体に走る激痛。先ほどよりも酷く、胸が張り裂けそうな痛みだった。私は立っていられず、その場にしゃがみこんでしまう。

そんな私を見て自らもしゃがんだ彼女は、私を射殺すような鋭い目つきで言った。

 

『いい加減、自分を理解したらどう? 貴方はね、三月樹が他の女と付き合うぐらいならいっそのこと殺してしまおうと思うぐらい、彼を欲しているの。

.....だから、もう無理をしてはいけないわ。もしこいしと三月樹が付き合ったら、貴方がこいしを殺すことになるのだから』

 

その言葉を言い残し、もう一人の私は消えていった。

 

「.....何なのよ、一体」

 

いきなり私の前に現れて、そして消えた私と瓜二つの彼女。私には彼女がなぜ現れたか、その理由はまったく分からなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜のこと。

 

私は眠っていたのだが、ふと目を覚ましてしまう。窓から外を見てみたが、辺りはまだ真っ暗だった。おそらく他の皆は寝静まっているころだろう。

 

「喉がかわいたわ.....」

 

音が漏れないように、私は扉を開ける。当然、地霊殿の廊下は真っ暗である。幽霊でもでそうなぐらい、その廊下は不気味だった。まあ、怨霊はいるのだけど。

 

「.....こわいわね」

 

さっさと水を飲んで自分の部屋に帰ろうと思い、キッチンへ向かう廊下の角を曲がったときだった。

 

「ん?」

 

私は先にある三月樹の部屋から、かすかに電気が漏れていることに気付く。扉の隙間から漏れていることから、多分部屋の電気が付いているのだろう。

 

(まったく、こんな夜遅い時間まで何してるのよ.....)

 

一つ注意をしてやろうと思い、私は三月樹の部屋に向かって歩いていく。

彼の部屋の前までたどり着くと、私は躊躇なくその扉を開けた。

 

「ちょっと三月樹。こんな時間まで何してる.....」

 

そこで、私の言葉が止まった。なぜなら、三月樹の部屋なのに、彼以外の人物がそこにいたから。

 

その人物は寝ている三月樹の上に跨り、彼と唇を重ね合わせていた。私がいるというのに、その行為を

止める気配はない。

しばらく彼とのキスを堪能した後、彼女はふと此方を向き、こう言った。

 

「三月樹は私の恋人だよ。残念だったね.....お姉ちゃん」

 

.....三月樹の恋人? ああ.....そうだった、私はこいしのために、彼への恋を諦めたんだったわね。

まあ、恋人同士だったら、別にキスすることも普通か。むしろ、キスぐらいしない方が不自然よね。

こいし.....自分の思いが彼に届いてよかったわね。彼とキスできて、よかったわね。

 

幸せに、なりなさい.....ね.....

 

「......」

 

「ん? どうしたのお姉ちゃん?」

 

彼への告白、恋愛、キス.....私がずっと我慢してきたもの。

 

「.....ああっ」

 

そして.....それらを全て実現させたこいし。

 

「.....ああああっっ!!」

 

考えるよりも先に、体が動いていた。

 

私は彼に跨っているこいしを問答無用で殴り飛ばす。こいしはその衝撃でベッドから落ち、床に叩きつけられる。

私はそんなこいしの胸倉を掴んで持ち上げ、壁に押し付けた。

 

「憎い、憎いわ、貴方が! 私がどれだけ三月樹が好きだったかも知らないくせに、彼とキスしてるところを私に見せ付けるなんて!」

 

言葉だけでは足りず、私は思い切りこいしを殴りつける。その衝撃か、凄まじい音と共に壁が凹んだ。

 

「こんなの......あんまりよ......。私だって、彼のことが好きなのに。誰よりも、好きなのに!」

 

こいしは私の叫びに、答えようとする様子はない。ただ、黙り続けていた。

 

「.....貴方が妹だろうと、関係ないわ。もう誰にも三月樹は渡さない。彼は.....私だけのものよ!」

 

右手はさっき思い切り殴ったせいか、血がだらだらと流れていた。だから、今度は左手にありったけの力を込める。

先と同じような爆音と共に、壁に穴があいた。

 

「まだよ.....まだ足りないわ。彼の唇を奪った罪は、こんなものじゃないわ.....」

 

未だ無言を貫くこいしに向かって、もう一度右手を振り上げたときだった。

 

「何してるんですかっ! さとり様!」

 

私は後ろから三月樹に羽交い絞めにされ、両手の動きを封じられる。

 

「離して三月樹! こいしは寝ている貴方の唇を奪ったのよ! 許されない行為だわ!」

 

「こいしなんて、何処にいるんですか!?」

 

「下手な嘘はいいから、私から離れなさい!」

 

私は力ずくで彼の手を振り払うと、右手でもう一度こいしを殴った。その衝撃で、部屋全体が揺れた。

 

「落ち着いてください、さとり様! こいしなんて此処にはいませんし、俺はキスなんてしてませんから!」

 

キス.....してない.....?

 

「はぁ.....はぁ.....」

 

目の前で私が現場を目撃したはずなのに、キスしてないという三月樹の発言はあまりに不自然だった。

そう思った私は目を閉じて、少し息を整えた後、再び辺りの光景を見回した。

 

私の目の前にあるのは、無残にも大きく凹み傷ついた壁、それだけだった。周囲を見ても、こいしの姿はない。私はゆっくりと、後ろにいる三月樹に向かって振り向き、目を合わせた。

 

「こいしなんていませんよ.....さとり様」

 

「.....そう、見たいね」

 

さっきまで目の前にいたはずなのに、実はいなかったという事実が認められなくて、まだ半信半疑だった。

 

(もしかして......夢だったのかしら?)

 

そう気付いたとき、私はほっと安心した反面、自分に恐怖した。

もし、こいしがさっきの夢のようなことをしていたら、私はこいしを殴りつけていたことになる。愛する妹を殴ってしまう状態にある自分が、怖かった。

 

「痛っ」

 

ふと、手に痛みが走る。見てみると、そこにあったのは血で赤く染まった自分の手。こいしだと思って、壁を殴り続けていたせいだろう。

 

(夢の中とはいえ......この手が、妹を殴ってしまった.....)

 

そう思うと、彼女の言葉が脳内に浮かび上がった。

 

『彼のことを思う気持ちが強すぎて、貴方の本能が彼を求めている』

 

『.....だから、もう無理をしてはいけないわ。もしこいしと三月樹が付き合ったら、貴方がこいしを殺すことになるのだから』

 

やっぱり、私はもう自分を抑えられないの? それほどまでに、私は彼のことを好きに.....?

 

 

 

「.....さとり様?」

 

ずっと考え事をしたせいか、此方を覗き込むように見つめていた三月樹に、私は気付かなかった。

 

「ひゃっ!? な、何?」

 

「いや、さとり様がずっと手を見つめているので、どうしたのかと思いまして。さっきまで壁を殴り続けていたんですから、怪我してませんか?」

 

そう言って彼が私の手に目線を移す前に、私は手を背中に隠した。

 

「だ、大丈夫よ。たいしたことないから」

 

ほんとはたいしたことあるけど.....

でも、そうやって心配されたせいで三月樹と一緒にいるのはもう危険だわ。もし今私が欲情なんてしてしまったら、彼に告白しかねないし。

 

「夜遅くに悪かったわね。じ、じゃあ私戻るから!」

 

すみやかに、彼の部屋から立ち去ろうとしたときだった。

 

「待ってください」

 

彼に手を握られて、止められてしまう。これだけで心拍数が上がっている私に、彼は言った。

 

「うわ、やっぱり怪我してるじゃないですか.....やはり、今のさとり様を一人にするのは少し不安です。さとり様.....今日は、俺の部屋で寝てください」

 

「.....え?」

 

 




地霊殿に行きたい(切実)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。