今回は文字少なめです。
とある寝室。私はそのベッドで横たわっていた。もちろん、眠るためである。
ちなみに、覚妖怪である私が持つ第三の眼は、たとえ私が眠っていても閉じることはない。閉じようとするには、そのことを強く意識しなければいけないのだ。だから、眼を閉じていられる時間は一瞬で、気を抜けばすぐ開いてしまう。人間が瞬きすることを我慢するのが大変なのと同じく、私にとっては第三の眼を閉じることは非常に大変なことなのだ。
そのため、私はたとえ目を瞑っていても、周りの様子がしっかりと見えている。自分が眠っている最中、咄嗟に危険を察するときなどには非常に役に立つのだが......
「......なんか、じっと見られている気がします」
今回ばかりは、これほど第三の眼が閉じろと思ったことはない。なぜなら、目の前に一人の男性の姿が気になって気になって眠れないからだった。
「仕方ないのよ......この瞳は自分の意思でも閉じられないから」
そう言うと、三月樹は興味深そうに私の第三の眼を見つめる。向こうはどう思っているかは知らないが、私からすれば目を合わせてるのと一緒なのでちょっと恥ずかしい。
あれから、手の怪我の治療までしてもらった私は、結局彼の提案を断りきれず一緒に寝ることとなってしまった。だから、冷静そうに振舞ってはいるものの、実際は心拍数が上がりまくり。まあ、自分が好きな人と一緒に寝ているのだから、無理もなかった。
私は目を瞑るのを止め、三月樹と目を合わせる。突然目を開けた私に驚き、彼は咄嗟に私から視線を逸らす。そんな彼を一瞬は可愛いと思ったが、直後、再び私はあることについて悩みだすこととなった。
私が読んできた外の世界の小説の一つに、『こころ』という題名の小説がある。
ある一人の女性を好きになってしまった二人の男性、主人公とその友人。ある日、その友人は主人公にその女性に好意を抱いていることを告白してしまう。そのことで、主人公は友情をとるか、恋愛をとるか葛藤するという内容の小説だ。
初めてそれを読んだときは面白いと暢気に感じただけであったが、まさか私がその立場になるとは、思いもしなかったことであった。
三月樹を目の前にして、私はこの主人公と同じように葛藤していた。妹のため、三月樹を彼女に譲るか。それとも、彼女を裏切り自分の恋を成就させるか。妹ではあるものの、友人か恋人か、どちらかを選ぶことには変わりなかった。
「どうかしました? 難しい顔してますけど......」
ずっと考え込んでいた私は、三月樹に覗きこまれるように見つめられ、咄嗟に飛び退いた。
「いやっ! べ、別にっ、何でもないからっ!」
そう言って、私は真っ赤に染まった自分の顔を隠すため、布団に潜り込む。
まあ、この仕草で自分の顔が赤くなっていることはバレバレだったのだが、それに気付いたのは私が再び布団から顔を出したときだった。
その後は何の会話もなく、ただ時間を過ごしていた。寝たいとは思っているのだが、目の前で彼が寝ていると考えるだけで、胸がドキドキして落ち着かない。
そんな自分を見ていると、自身が憎む感情が沸々と沸き上がってくる。
私が三月樹に好意を抱いていることは、自身でも分かっていた。なのに私はそれを否定し、妹のためと言い訳を作り、恋愛作戦なんかを実行した。
今思えば、それは妹のためなんかではなく、自分のためだったのだろう。妹を通じて、彼を私に振り向かせるために。
......つまり、始めから私は妹を裏切るつもりだったのだ。自分を憎むのも、仕方なかった。
「......さとり様」
「なに? 三月樹」
後ろから、此方に話かけてくる三月樹。私の心はいろんな感情が渦巻いているままだが、優しげな声で誤魔化した。
「ちょっと、話したいことがあるんです」
今まで考えていたことが全て吹っ飛ぶようなその一言に、私は思わず目を見開いた。
なぜなら、今は私と彼は二人きり。そして、この部屋に連れ込んだのは彼。 たとえ心を読めなくても、彼の次の一言は予想できた。
「私、ちょっとトイレに......」
絶対に彼の言葉を聞いてはいけない。もしかしたら、私は断ることができないかもしれないから。
すみやかに、彼から離れようとしたときだった。
「待って!」
突如、私は後ろから抱き止められてしまう。心臓が今までにないくらい、バクバクしているのが分かる。
「待ってください......」
今すぐ彼から離れたいと思う心と、振り返りたいと思う心が混ざりあい、ピクリとも動けなくなってしまう。そんな私に、彼はこう言った。
「俺、さとり様のことが好きです。だから......付き合ってもらえませんか」
予想通りの言葉だった。
「......」
私の答えるべきことは決まっている。このために、私はこいしを助け、自分に嘘を続けてきた。妹を裏切るなんて、絶対にできない。だから......こう言った。
「......はい」
最低だった。両思いだと分かった途端、私は友情より恋愛を選んでしまった。妹を助けておきながら、結局は妹を裏切ってしまった。背中に彼の温もりを感じ微笑みながらそう言った私は、最低と呼ぶにふさわしかった。
「......こいし?」
ふと三月樹が呟いた言葉。それを聞いて、私は咄嗟に振り返る。後ろにあったのは、呆然と此方を見つめるこいしの姿だった。
......どうして、気付かなかったのだろうか。さっきあれほど大きな音がこの部屋から聞こえていれば、誰かがこの部屋に来るに違いないのに。もしこいしがこの状況を目にしたのならば、きっと無意識を操ってずっと私たちを見ているということに。
「どうして.......お姉ちゃん」
「違うのよこいし、これは......」
小刻みに震えながら、小さな声で呟くこいし。そんな彼女に私がかける言葉など、無駄でしかなかった。
「裏切ったの......? お姉ちゃん」
「違うわ、そんなわけない。そんなつもりじゃ......」
いつもはもやもやして心が読めないはずのこいしから、どす黒い感情が湧き出ているのが分かる。そんな彼女を落ち着かせるため、私は彼女に向かって手を伸ばす。だが、その手が彼女に届くことはなかった。
「お姉ちゃんの......うそつきっっ!!」
そう叫んだ瞬間、彼女の体から妖力が溢れ出し、部屋ごと私を吹き飛ばす。
妖力に包まれた彼女の心には、嫉妬と憎しみだけが浮かんでいた。
なんかパソコンの調子が悪い......やはりXPはもう限界か。