地霊殿の日常    作:Mt.Fuji

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遅れてしまってすいません。ほんと夏休み忙しすぎぃ


第二十六話

 

 

「ん......」

 

 何かが私に圧し掛かっているような違和感を感じ、私はゆっくりと目を開ける。目の前にあったのは、だらんと私に倒れこんでいる三月樹の姿だった。しばらく私は呆然と、その光景を眺めるしかできない。

 数秒たって、私は小さな声で言った。

 

「......三月樹?」

 

 うそ......三月樹が倒れてる......? なんで......さっきまで私と一緒に寝てたはず...... 

 なぜ彼が倒れているかも分からない私は、視線を彼から周りに移す。そこで、妖力にまみれた彼女の姿を見て、ようやく私が何が起こったのかを理解した。

 三月樹は......こいしの妖力によって吹き飛ばされた私を庇ってくれたのだ。

 

「三月樹!」

 

 彼の肩を持って、精一杯揺らす。だが、体が動く気配はない。

 

「しっかりして! 三月樹」

 

 必死に叫びながら、彼の肩を揺らし続ける。しばらくして、人の安否を確認するのに脈を図るという方法を思い出した私は、咄嗟に彼の手首に触れる。

 トクン、トクンと波打っているのが確かに聞こえた。それが分かって、私はホッと一息つく。衝撃を受けて、気を失っているだけのようだ。

 安堵した私の元に、真っ赤な髪の三つ編みを揺らしてお燐が駆け込んできた。

 

「大丈夫ですかさとり様! 一体何が合ったんですか!?」

 

「それよりまず......三月樹をお願い」

 

 それを聞くと、彼女は心配そうに彼の元へ駆け寄った。彼の髪に優しく触れながら、心配そうにじっと見つめる。そして、不安気な表情で私に振り返る。

 

『三月樹さんは大丈夫なんですか?』

 

 お燐の心は、心配と不安という感情でいっぱいだった。そんな彼女に何かを言うわけでもなく、私はただ黙って頷いた。

 それを確認したお燐は、すみやかにお姫様だっこで三月樹を持ち上げる。(いくら見た目が少女だとはいえ、妖怪である彼女が一人の人間を持ち上げるなんて容易いことだろう)そして、彼女は急いで何処かの部屋に向かって行った。

 具体的にどうしろとは何も言っていないのに、私を意図を読み取り従ってくれるお燐。改めて、私を慕ってくれている彼女存在に感謝した。

 

「さて......そろそろ、立たないとっ」

 

 足に力をぐっと入れて、体を持ち上がらせる。さっきの衝撃のせいか体の節々が痛いが、何とか我慢する。手を壁につきながら、ようやく私は立ち上がることができた。

 ふらつきながらも、私は目線の先にいる彼女を見つめる。だが、彼女は大量の妖力に覆われて黒い球体のようになっていて、本体の姿は見えなかった。多分、彼女を取り巻いている妖力を取り払わないと、まともに話も聞いてくれないだろう。

 どうしようか......と悩んでいるところ、此方に向かっている人影に気付いた。人じゃなくてカラスだったが。

  

「さとりさまー。大丈夫ですかあ」

 

 まるで臨場感が感じられない腑抜けた声で此方を呼びながら、お空は私の隣に降り立った。

 ま、今はまだ深夜だから、寝ぼけているのも無理ないだろう。寝ぼけていなくても、きっとこの状況を理解できるとは思えないけど。

 

「とりあえず、早く起きて」

 

「ふぁい......」

 

 ったく、なんて緊張感がないのこの子は.......。いくら鳥頭だからって、少しくらいは空気を読みなさいよ。

 眠たそうな声を呟きながら、お空は必死に目を擦っている。その仕草は非常に可愛らしいものだったかもしれないが、そんなことを暢気に考えてる余裕はなかった。

 

「よし! もうばっちりです!」

 

 そう言ってお空は目をくわっと見開き、意識がしっかり覚醒したことを此方に示す。私は心を読めるのだから、そんなことをする必要はないのだけど......ま、今はそんなことどうでもいいわね。

 

「お空、あそこに黒い球体が見えるでしょ?」

 

「はい、見えますね」

 

「中に誰かいるか分かる?」

 

「ルーミアですか?」

 

 いや......確かにそう思うのはおかしくないけれど。でも、この地底にあの人食い妖怪が来るとは考えにくいと思うんだけどなあ。......ってか、なんでこの子地上にいる人食い妖怪のこと知ってるのよ。

 

 

「......まあ、いいわ。中にいるのはこいしなの」

 

「えっ? こいし様っていつからルーミアになったんですか?」

 

「理由は後で話すから。それより、貴方に頼みたいことがあるの」

 

 彼女の心にはハテナマークが浮かんでいたが、後で理由を話すと言ったらすぐ消えた。言い方が悪いが、お空は凄く単純だから扱いやすい。

 私は彼女の目を見ながら、用件を伝える。

 

「こいしを取り囲んでいるあれを、取り除いてもらえないかしら?」

 

「えっと......つまり、私は何をすればいいんですか?」

 

 分からないか......まあ、そうよね。

 私はお空にも理解できるように、できるだけ単純明快な言葉で言った。

 

「その制御棒でぶっ放せばいいのよ」

 

「ああ、それなら簡単ですね!」

 

 よかった、これで理解できなかったらどうしようかと......。いや、さすがに少しお空をバカにしすぎていたかしら。

 用件を聞いたお空は、早速制御棒を黒い球体、もといこいしの方向に向ける。そして、左手に紙切れを握った。おそらく、スペルカード。

 何も考えずぶっ放そうとしているお空に、私は警告した。

 

「絶対中にいるこいしを傷つけちゃだめよ!」

 

「わかってますって! 非殺傷設定にしてますから」

 

 本当に分かってるのかな......心を見る限り、まるで分かってないような気がするけど。

 非常に不安ではあるのだが、今はお空を頼るしかない。私の力では、こいしを包み込む妖力を取り除くことはできないから。

 余計な神のせいではあるが、お空には核融合を操る能力が備わっている。私が思うに、今の彼女の火力は幻想卿一だろう。それを持ってすれば、きっとこいしを遮る壁を壊すことができるはずだ。

 

「では、撃ちます。下がっててください」

 

 そう言うと、お空の目つきは真剣なものへと変わった。そりゃあ離れないと危ないでしょうと思いながら、私は彼女から距離をとる。

 ......ん、下がっててください? ということは、それ相応の火力が出るってことで......

 

「ま、待ってお空! お願いだから、できるだけ地霊殿への被害は最小限に―――」

 

「爆府『ギガフレア』!!」

 

 彼女が握っていたスペルカードが輝きだした。エネルギーを急速に溜め込んでいるためか、けたたましい騒音が周囲に響き渡る。どうやら、私の忠告は一歩遅かったようだ。

 制御棒から放たれたとてつもない核の光に、私は思わず目を瞑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふう......」

 

 お空のいかにもやりきったような一息を聞いたところで、私はおそるおそる目を開ける。 そして、目の前に広がる景色を見て、思わず言った。

 

「はあ.......」

  

 地霊殿の半分が、消し飛んでいる。

 私のいるところは屋内だが、そこか先は完全に屋外となっていた。 

 

「ほらほら、さとり様の言ったとおりにできましたよ。褒めてください!」

 

 そう言いながら、ずいっと此方に頭を差し出してくるお空。私が頭を撫でてくれるのを期待しているようだが、私からすれば、このカラスには殺意しか沸いていなかった。

 私はにこにこしているこいつの頭を掴み、思い切りグリグリしてやった。

 

「痛い痛い痛い! どうしてですかさとり様! 私悪いことしてないじゃないですか!」

 

「悪いことしてない? 家を半分消し飛ばしたことが悪いことじゃないとでも!?」

 

「そんなあ......。私はさとり様の言うとおりにしただけなのにー!」

 

「加減ってものがあるでしょうが!」

 

 この鳥頭.......! 自分の持つ能力がいかに強力かまるで理解してないようね。これは後で制裁を下してやるわ。

 とりあえず今は怒りを沈め、私はお空を開放してやる。自分の家が半分無くなったことのショックは大きいが、まあ一応お空は目的を果たしてくれたようだ。私は視線を、瓦礫の中に佇む彼女へと移した。

 ただこいしは、じっと此方を見つめていた。その目に光は無い。正気を失っているように思えた。

 

 私は一歩前に踏み出し、彼女に話しかけた。

 

「......こいし」

 

 この場所が吹きっさらしになったせいか、風が私とこいしの間を吹きぬける。髪が揺れて瞳が見え隠れする彼女の顔は少し不気味だった。

 

「......何? お姉ちゃん」

 

 十分間があいた後、こいしは小さな声で呟く。その声はいつものこいしからは想像できないぐらい低く、殺意が篭っているような気がした。

 

「私が悪かったわ、だから――」

 

「聞きたくない」

 

 最後まで言い切る前に、遮られてしまった。無理もないことだった。

 でも......謝ること以外に、私は彼女に一体何をすればいいのだろうか。しばらく考えたが、やはり私には分からなかった。

 

「......私は貴方に何をしてあげれば――」

 

「平和的に解決しようなんて考え、もう止めてくれる?」

 

 こいしは私の質問に答えず、声を少し荒げて言った。

 

「私たちはお兄ちゃんを好きになってしまった。でも、お兄ちゃんと付き合うことができるのは一人だけ。誰でも分かる簡単なことでしょ」

 

「確かにそうだけど......でも!」

 

「なら決めるしかないよ。私かお姉ちゃんか、どちらが彼と付き合うに相応しいか」

 

 淡々とそう述べたこいし。でも、それは私が最も望んでいないことで、それだけは避けたいと思っていた。

 でも、彼女は望んでいたようだった。

 

「勝負しよう......お姉ちゃん」

 

 こいしは不気味な笑みを浮かべてこう言った。

 

「殺し合いをしようよ......私と」

 

 




こうも暑いとパソコンの調子も悪くなるなあ......
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