地霊殿の日常    作:Mt.Fuji

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今回は文字数が多いです。一応2000文字を目指しているのですが、なかなか難しいです。


第七話

 

 

俺が地霊殿に住み始めて一ヶ月が経過した。ほんと、ここの連中は仲がよくてうるさくて手を焼いた。

だが、決して嫌な時間では無かったと思う。この連中と一緒にいられるなら、それでも良いとさえ思った。

 

 

 

 

でも、そんなわけにはいかない。向こうは俺のことを家族だと思っているが、俺はそうとは思ってない。俺は家族という言葉が嫌いだし、家族などにすがって生きるのも嫌だった。だから、彼女らとはあくまでも、「家族ごっこ」をしていたに過ぎなかった。

 

 

 

 

そして今夜、俺は地霊殿を後にすることにした。机に今までの感謝を込めた書置きを残し、部屋を出た。

 

 

 

 

こうして、俺は地霊殿から出てきたわけだが・・・正直、行く宛てが無い。まあ、記憶が無いわけだから自分の家もどこにあるか分からねえしな。

とりあえず、俺は地上に繋がっているという間欠泉を探すことにした。

 

 

 

 

俺は地霊殿に続く一本道を、暗闇の中反対に歩いている。もちろん、こんな夜中に出歩く人間など一人もいない。まあ妖怪なんかは出てきそうだが・・・。

そんな中、俺は地霊殿の連中を思い出していた---

 

 

---お空はいつも核融合使ってぶっぱなすし、お燐はいつもお空をがみがみと叱りながらその後の片付けをするし、こいしは勝手にふらふらとどこかへ行っちゃうし、さとりは彼女らを必死にまとめようとするけどいつもまとまらない。

 

 

この一ヶ月、彼女らは俺に迷惑しか掛けていなかった。

 

 

けれど、そんな彼女らを今でも思い出してしまう自分がいた。

彼女らとは家族ごっこをしていたに過ぎないのに。

短い付き合いだとも分かっていたのに。

それでも、地霊殿に帰ろうと思ってしまう自分がいた。

 

 

果たして俺はこの選択でよかったのか?家族として迎え入れてくれたさとりの優しさを踏みにじってよかったのか?そう感じてならなかった。

 

 

気が付けば、後ろを振り返っていた。やっぱり帰ろうと、そう思った。

 

 

 

 

 

 

 

「おっ、いいところに人間みーっけ」

 

 

突然後ろからおぞましい声がした。振り返ると二本の角が生えた妖怪がいた。人目で鬼だと分かった。

 

 

「今は金欠で腹減ってるんだ。お前には悪いが、喰わせてもらうぜぇぇぇ!」

 

 

話をする間もなく、鬼は俺に襲い掛かる。

俺の話も少しは聞けよ!

と、心底突っ込みをいれたかったがそんな暇は無い。あいにくだが、こいつには俺のスペルカードの犠牲になってもらうしかないか。

 

 

俺は懐からスペカを取り出す。しかし、手が滑りスペカを落としてしまった。

 

 

あっ、ドジった・・・。目の前には鬼の鋭い爪が迫っている。落ちたスペカを拾おうにも間に合わない。

 

 

やっぱり、彼女らと共にいればよかったな・・・俺は死を覚悟し目を瞑った。

 

 

だが、一向に痛みを感じなかった。俺は恐る恐る目を開ける。

 

 

「はあ・・はあ・・」

 

 

そこには鬼ではなく、息を切らしながら此方を見つめるさとりがいた。

そして、つかつかと此方に歩いてくる。

 

 

俺はさとりに掛ける言葉に詰まってしまう。

 

 

「あ、えと・・・さと」

 

 

バシィッ!

 

 

俺は左頬を思い切り叩かれた。

 

 

 

 

 

 

 

「どれだけ心配したと思っているの!?急にいなくなったりして!お燐もお空もこいしもみんな必死であなたを探しているのよ!」

 

 

俺には返す言葉などなかった。謝ることしかできなかった。

 

 

「ごめん・・・」

 

 

「ごめんで済むことじゃないわ!もう少しであの鬼に殺されるところだったのよ!?」

 

 

「・・・ごめん」

 

 

俺はさとりの気が済むまで、ひたすら謝り続けた。

 

 

 

 

しばらくして、ようやく少し落ち着いたさとりが口を開いた。

 

 

「ごめんなさい。私、少しカッとなりすぎたようね。謝るわ・・・

それで、あの書置きは何?」

 

 

「・・・感謝の気持ちを記そうと思って」

 

 

「あの書置きには、こう書いてあったわ。

たった一ヶ月の間だけでも、俺を家族のように振舞ってくれてありがとう・・・と。

私は一ヶ月で出て行けなんて言ってないわ。それに、私はあなたに家族になりなさいといったはずよ。だから私達はあなたを家族として振舞ったわ。

この言い方だとあなたは私達のこと、家族とは思ってないことになるんだけど?」

 

 

俺は黙り込んでしまった。すべて事実であり、弁解の余地はなかった。

そんな俺の姿を見て、さとりは少し表情を和らげて俺の左頬を撫でながら言う。

 

 

「隠さなくてもいいわ・・・嫌いなんでしょ、家族っていう言葉が」

 

 

「どうして・・・知ってるんだ・・・?」

 

 

「だって三月樹、この言葉を聞くたびに怖い顔するんですもの。みんな知ってるわよ?」

 

 

まさか表情に出ていたとは・・・隠し通せていると思っていたのだが。

 

 

さとりは少し呼吸を整え、再び話し始めた。

 

 

「私がどうしてあなたに家族になりなさいなんていったかわかる?」

 

 

「・・・いや」

 

 

「私にはね、第三の眼で見たものの心を読むことができる能力があるの。そのせいで地上だけでなく旧都の妖怪からも嫌われているわ。

だから、できるだけ外部とは関わらないようにしているの。あなたも例外じゃない。あのとき、傷の手当てが済んだら帰そうと思っていたわ」

 

 

初耳だった。さとりにこんな能力があるなんてまったく気づかなかった。

 

 

「でもね、あなたを見たときにある異変に気づいた。

・・・私はあなたの心を読むことができなかったの」

 

 

「・・・え?それはどういう・・・」

 

 

「心が読めないのよ。私の妹のこいしと同じように。

あの子はね、私と同じ能力を持っていることで周りから嫌われることを恐れ、自らの能力を封印した。それによりあの子は心を閉ざしてしまい、それ以来私はあの子の心を読むことができなくなった。

つまり、私が三月樹の心を読めないのは、こいし同様心を閉ざしているからだと思ったわ」

 

 

さとりは続ける。

 

 

「それで、この地霊殿から帰すわけにはいかなくなった。心を閉ざしていたあなたを野放しにはできなかったから。

こいしだけでなくあなたの心の扉も開いてみせると、そう誓ったわ。だからここに招待したの」

 

 

「もちろん、自分勝手だってことは分かっていたわ。初めの頃は家族になれってことも、この地霊殿に住んでもらう理由でしかなかった。

けれど、あなたとの過ごした時間は、だんだんとかけがえの無いものに変わっていった。そして今では、私達にとってあなたは掛け替えのない存在になってしまった・・・」

 

 

彼女の目からは涙が溢れていた。

 

 

「三月樹、お願いだから地霊殿に戻ってきて」

 

 

「・・・」

 

 

俺はその言葉に返事することができなかった。

 

 

「本当、馬鹿みたい・・・これじゃあまるで、ただの駄々っ子じゃない・・・」

 

 

彼女は手で涙を拭った。

 

 

「私にはあなたを無理やり地霊殿に住ませる権利はないわ。

もう行っていいわよ、三月樹」

 

 

さとりは後ろに振り返り、歩き出した。俺は意を決して叫んだ。

 

 

「さとり様!」

 

 

彼女は歩みを止めた。

 

 

「帰りましょう。一緒に」

 

 

「・・・ありがとう、三月樹」

 

 

こうして、俺はさとり様と共に地霊殿へ帰った。

いきなり丁寧口調になったのは、地霊殿の主で命の恩人なのだから、敬意を払って当然だと思ったから。

これからはさとり様に仕える地霊殿の魔法使いとして、生きていこうと決めた。

 

 

 

 

俺はこの選択に後悔していない。まあ、このまま行ったってまた妖怪に襲われるだけだっただろうし、

そしてなによりも・・・

 

 

 

 

彼女の笑顔を見ることができたのだから。

 

 

 





ちなみに、あの鬼はさとり様により跡形もなく消し飛ばされました。
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